ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

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40話:秘密の共有

さて、夕食後、教室爆破事件の後に約束した通り、ルイズは才人に自らの打ち明け話をすることにした。もちろん、自分の部屋で、入り口のカギも窓も完全に閉め切って、カーテンをかけてから。

 

ルイズが話し出す前に、才人が謝ってきた。

「その、今日はごめん。勝手に決闘を起こして……」

ギーシュとの発端となった事件では、あまり自分が悪いとは思っていない才人だが、しかし、結果としてずいぶんと優しく接してくれたルイズを、危険な目にさらしかけたことは、申し訳なく思っていた。

 

本当にギーシュよりも危うい奴だったら、ルイズが自分の身代わりに、ボコボコにされていたかもしれないのだ。その罪悪感は大きかった。

 

しかし、ルイズは返事をしなかった。制服のスカートの中をもぞもぞと動かして、フルートを取り出した。

 

何をするつもりだろう、と才人が思っていると、ルイズは、フルートを口に当てて、軽くピュッと演奏した。

 

すると、部屋の中央部に金色のリングと星々がたくさん煌めいて、動き出した。金属性の魔法オーラドゥームである。

 

才人は、金色でピカピカしていて、とてもきれいだと見とれた。フルートを吹いたから、生み出された魔法だと、この世界に来て二日目の才人でもわかった。

 

しかし、その演奏者が、何とあだ名されていたのかに、思い至ると、途端に驚愕した。

 

「お、お前……魔法……」

すぐさまルイズは、フルートから口を離して、鋭い叫び声を上げる。

「喋らないで! これは秘密なんだから!」

才人はすぐさま両手を口に当てた。

目の丸さがとても目立った。

 

ルイズは、語り出す。

「そう、わたしは、一応魔法を使えるの。一応、ね」

ここは自嘲気味であった。

「でも、これはこの世界、ハルケギニアの魔法じゃない。異世界ファ・ディールの魔法よ」

才人は、また、大きく目を見開く。

「異世界、ファ・ディール?」

 

「ええ。不思議に思わなかった? どうしてあなたが異世界からやって来たことを、わたしがあっさり信じたのか。少なくとも、この世界ハルケギニアじゃあり得ないことよーーわたしはね、異世界を冒険して、帰ってきたの」

「ええー!! ……むぅ」

今度は、才人は叫び声を抑えきれなかったが大慌てで口を両手で覆った。本当に、目玉が飛び出そうなほど、驚愕の事実だったのである。

 

ルイズは、話し出す。

「だから、あなたがこの世界に召喚されたとき、どれだけパニックになったか、どれほど絶望したか、そして、どれほどわたしを憎んだか、すべてよくわかるの」

「………………」

才人は、もはや言葉が出なかった。すぐには呑み込めないが、目の前にいる少女は、異世界を冒険していたのだ。自分と同じような感情を、味わってきたのだ。

 

「あなたも聞いたでしょうけどね、わたしはあなたを召喚する前の日に、使い魔召喚用のゲートに、不思議な声に導かれて、入ってしまったの。今思えば、マナの女神の声だったけれどね。そして、その世界ファ・ディールで、本当にたくさん冒険して、色々な人たちと会って、数えきれないほど戦って、わたしは帰ることができた。

何度死ぬような目を見たかわからないし、どれほどの人に救われてきたかわからない。わたしは、ただ帰りたかっただけなのに、本当に、本当に、たくさんの想いをしてきたわ!」

ルイズの感情が凄まじく昂ぶる。

才人の混乱はまだ抜けきっていないが、これだけは、訊きたかった。

 

「どうやって、帰ってきたんだよ?」

「最後のマナの聖域っていうところを踏破したら、召喚ゲートが現れてそれに入ったの。でも、そこに至るまでは、本当に大変だったわ」

 

ルイズは、ポケットから、本当に何の変哲もない小さなふくろを机の上に置いて、たくさんのハープとフルート、少ないながらもマリンバとドラムを次々取り出していった。まるで四次元ポケットみたいだな、と才人は思った。

 

「現地で買ったり、作ったりした魔法楽器よ。作ったのが大半だけどね。これらの魔法楽器をフル活用して、わたしは、何とか生き延びることができた。それだけじゃない。わたしのために敵の攻撃を肩代わりして受けてくれた、たくさんの仲間たちに守られてね」

 

ルイズは笑いながら、両腕を広げた。マントもついでに広がった。

「ねぇ、見て。わたしって、どこからどう見ても普通の女の子でしょ?背も低くて、やせっぽちだし。剣で斬られたり、巨人に踏み潰されたり、巨大なハンマーで叩きつけられたら、すぐに死んじゃう女の子なの。そういう恐ろしい敵たちと、わたしたちは何度も戦ってきた。正直言って、わたしが帰還できたのは奇跡的なことだと思う」

 

才人は、口を閉じることができなかった。本当にこの小さな女の子は……。

 

ルイズは、続ける。

「だから、今さら、ゼロのルイズとからかわれたところで、ほとんど何とも思わない。こっちは何度死線をさまよってきたと思っているの? 言葉だけじゃ、わたしは倒れないわ。それと、ギーシュのゴーレムなんて、全然大したものじゃなかった。本気を出せれば、楽に倒せたでしょうね。本気を出せれば」

「どうして、本気を出せなかったんだよ?」

 

「この世界ハルケギニアには、こんな魔法楽器は存在しないからよ。間違いなく異端視される。それはいいんだけど、こんなに、演奏ないし詠唱時間が短くて、術者問わず何度でも使えて、強力な攻撃を出せる魔法楽器は、あまりにも危険だからよ。

これを巡って災厄を招きかねないほどにね。具体的には、よこしまな心を持った連中が奪いにくる可能性が、高いと思ったからよ。アカデミー、王立魔法研究所に没収されてバラバラにされるくらいなら、まだいい。けど、魔法楽器が殺傷兵器として、善良な人を傷つけることになるのは、わたしはごめんだわ。

はっきり言うけどね、わたしはたくさん戦ってきたけど、戦いが好きになったことなんて、ただの一度もない。本当に、いつだって、仕方なく、怖い思いをしながら、戦っていたのよ。ーーだから、才人!」

 

「は、はい!」

ルイズの突然の叫びと睨みつけに、才人は思わず気をつけの姿勢となる。

 

「わたしに魔法楽器を使わせる状況をつくらないでちょうだい。緊急事態が起こったなら仕方ないけど、そういう時以外、わたしは魔法楽器を使うわけにはいかないの。今日のあなたとギーシュの決闘だって、わたしはけっこう悩んだのよ。ギーシュがあんなにゴーレムを作れるなんて知らなかったし、あなたに怪我をさせたくないのに、ギーシュはあなたを狙ってくるし、しかも魔法楽器を使えば凄く目立つから、大観衆たちに絶対にバレていたし、使うか使わないか、もの凄く迷ったわ。使えば、あんなの、あっという間に倒せる。ついでにゼロのルイズのあだ名も消えるでしょうけど、魔法楽器のウワサが広まって、厄介なことが生じる可能性が、出てくるんだから。

わたしは、必要なときは、戦う。困っている人がいたら、助ける。でも、不必要な戦いは、ごめんだわ。今日、あなたたちが、どうして戦ったのか、ハッキリ言って、二人の話を聞いても、真実はよくわからなかったけど、すごく下らないことに思えたわ。こんなことで、命をかけたり、魔法楽器の存在が知れわたるのかしら、と思ったくらいよ」

 

才人は、ルイズの言葉に圧倒される。そして、心が後悔の念に包まれた。目の前の少女は、世界のことを思っているのに、自分ときたら何なんだ。

 

ルイズ自身が気にしていないと言っていた、ゼロのルイズとギーシュが言ったことで、自分は怒りを爆発させて、挑発してしまった。

 

ギーシュが付き合っていた一人の女の子からもらった小ビンを落として、俺がそれを拾ったことで、女の子たちの二股がバレたのは、俺のせいだと、ギーシュは言いがかりをつけてきた。だが、才人がそれに反論した段階では、決闘なんて言わなかった。

 

その後のギーシュが言った「ゼロのルイズ」という言葉に、自分が逆上してしまい、結果として、ルイズを相当悩ませてしまった。

 

いや、それだけではなくて、あんな些細な出来事から、もっと、見るもおぞましい災厄がもたらされていたかもしれないのだ。

そう考えるとーー普段は下げたくない頭を、下げざるをえなかった。

 

「悪かった。本当に」

才人は、誠心誠意ルイズに頭を下げた。

「まったく。もう自分から危ないことに首突っ込むんじゃないわよ」

「ああ、反省している」

才人は、この少女のためなら、些細なプライドを捨てても構わないように思えた。

 

ついで、疑問に思っていたことを聞く。

「なあ、俺が最初にギーシュのゴーレムに殴られそうになった時、助けてくれたのって」

「わたしのフルートよ。ほらこれ」

ルイズは、ポンポンと一つのフルートを叩く。才人には、大量の似たような魔法楽器が並べられていて、どれがどれだかわからなかった。

 

「地響きと共に地面を隆起させる魔法、ロックスパイクよ。わたしのいた図書館にまで決闘騒動の話が広まって、渡り廊下に誰もいなくなったから、演奏できたの」

「やっぱり、お前ってすげぇんだな」

さらりと、まるで人助けなんて大したことじゃないと言わんばかりのルイズの口調に、才人はうなだれる他なかった。

 

しかし、

「こっそり戦わないといけないのは、窮屈だよな」

「そうよ。音が出るし、ハープにしたって、フルートにしたって目立つからね」

目立つ上に戦いづらいときたら、それは厄介だろう。

 

「もう一つ聞いていいか?」

「なに?」

「お前って、ファ・ディールとかいう異世界に行く前、貴族と平民とで差別してた?」

すると、ルイズは、遠い目となった。

 

「……していたわ。それが普通だって、そう教えられてきたし、周りもそうだったから。けど、向こうの世界じゃ、貴族も平民もない。それどころか、タマネギ人間がいたり、全身毛むくじゃらな人がいたり、エルフみたいに耳の尖った子供たちがいたり、宝石を心臓代わりにしている人たちがいたり……純粋な人間の方が少ないんだから、貴族だ平民だなんて、言ってられなかったわよ」

 

才人は、納得する。それほどまでの多種多様な人に揉まれれば、由緒正しき名家の貴族のご令嬢でも、丸くならざるを得ないのだろう。

 

ルイズは、でも、と言って、桃色の髪を掻きむしる。

「一つだけ、どうしてもわからないのは、わたしの魔法なのよ」

「ルイズの魔法?」

 

「そう。いくらマナの女神の言葉が頭に響いたって、サモン・サーヴァントの呪文を唱えたのは、わたしなの。それで異世界にわたしは行ってしまった。そして、帰ってきた翌日に、今度は別の異世界から、あなたを召喚した。わたしは、向こうで、とてつもない魔力の持ち主だって言われたことがある。みんなからバカにされている、この爆発魔法だって、これが無ければわたしは死んでいた。けど、これらが何なのかが、わたしには、さっぱりわからないのよ。とある子供から、わたしなら世界を飛び越える魔力があるって言われたから、是非とも研究して、今度は、偶発的にではなく、きちんと自分の手で制御して使えるようになりたいんだけど。またファ・ディールであの子たちと会いたいし、あなたも元の世界、地球に戻してあげたいんだけど……それがいっこうにわからないのよ。だから、図書館通いを始めたってわけ」

「そういうことか……」

才人は、うんうんと納得する。

 

そして、ルイズは言う。

「あ、そうそう、サイト。特に使い魔の仕事をしなくていいとは言ったけど、一つだけお願いしていいかしら?」

「なんだ? できる限りのことはやるぜ」

才人は意気揚々言った。

 

「いや、そんなに張り切るほどのものじゃないんだけど、わたしのファ・ディールでの冒険を明日から毎晩、聞いて欲しいの。今みたいな大ざっぱな話じゃなくて、もっと一つ一つのお話を。ひょっとしたら、あなたが帰る手がかりがあるかもしれないし」

「ああ、もちろんいいぜ」

 

特に才人に断る理由はなかった。ルイズには、恐らく、自分以外の話し相手はいないだろうし、才人自身も旅物語を聞くのは嫌いじゃなかった。

「ありがとう。話せる人がいると、こっちも楽になるわ」

ルイズは、ぜひともこの少年に異世界での話を聞かせたかった。

 

「まあ、今日はこれくらいにしましょうか。さて……」

ルイズは、才人の方へとにじり寄る。笑顔いっぱいで。

「な、なんだよ」

突然のルイズの接近に才人は、戸惑うも逃げようとしない。

 

ルイズは、そんな動かない才人のほっぺを軽くつねる。

「まったく、罰ゲームだよ、罰ゲーム!」

ルイズの頬つねりは、ちっとも痛くない。遠慮しているのが丸わかりであった。

 

才人は、可愛くて甘ったるい匂いのするルイズのされるがまま、まったく無抵抗に頬をつねられていた。

なんでこんなことをしたがるのか、その理由がわかるには、かなり長くルイズのファ・ディールの話を聞かなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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