ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

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42話:キュルケがルイズに反撃

キュルケのプライドはズタボロであった。理由は言うまでもなく、ラ・ヴァリエール家の三女こと、ルイズ・フランソワーズにある。

 

毎朝、こちらを見かけると、抱きついてくる。というか、自らの胸に飛び込んで、顔を埋めてくる。とても気持ちよさそうに。

 

男を引きつけるために有るものが無い奴に、自分の胸は弄ばれ、ペースを掻き乱され、毎回一矢報いるのが精いっぱいという状態であった。これまでは、からかえば簡単にムキになって『ゼロのルイズ』でとどめを刺して全戦全勝だったのに!

 

あの性格の変貌は何なのかは、当然、非常に気になるところだが、まずはたまりにたまった敗北の溜飲を下げることが必要である。何としても、あのルイズのプライドをへし折ってやりたい、そう思っていた。

 

では、そのターゲットは何か? やはりあの使い魔を自分のものにすることである。そうすれば、あのルイズが悔しそうな顔をしたり、そうではなくとも、使い魔を奪ったということで勝利の優越感に浸ることができる。

 

キュルケは、さっそく化粧をしてから、ルイズの部屋に向かい、ドアをノックした。ルイズが出てきた場合と才人が出てきた場合の両方を考えていていた。才人が出てきたら、いきなり唇を奪えばいい。ルイズが出てきたら、これまた厄介だが、引っ付いてくるのを無視して、サイトに何とか迫ってみよう。

 

そう思っていたが、しばらく待ってもどちらも出てこない。ドアにはカギが掛かっている。すると、キュルケは、『アンロック』の呪文をかけて、強引に解錠した。重大な校則違反もなんのその、というやつである。

 

しかし、部屋には2人ともいなかった。ついで、ルイズのカバンがなくて、窓からは馬に乗って走って行く、2人の姿を発見した。お出かけのようである。

 

すると、キュルケは少し考えてから、タバサの部屋へと向かった。

 

タバサは、海のような色の髪と瞳を持つ女の子である。いつものように、読書に集中していた。

すると、ドアが激しくノックされる。無視したり、『サイレンス』の魔法をかけたりしたが、結局友人のキュルケが入ってきて、本を取り上げた。特に感情を宿さぬ表情で、タバサはキュルケを見上げた。『サイレンス』の呪文も解除した。

 

それからキュルケが、説明する。

「タバサ、出かけるわよ! あたし、恋をしたの! それで、その人が今、あの最近やたらと変わったヴァリエールと出かけたの!

あたしは、あの二人を追いかけなきゃいけないの! あなたの使い魔を貸してちょうだい!」

 

タバサは頷いた。友人がここまで頼むから仕方ないと思ったのだ。

 

ついでにヴァリエール、という単語も引っかかった。あの桃色の髪の少女、最近やたらとあたしの胸に飛び込んでくるというキュルケの弁はどうでもいいが、タバサがあの決闘騒ぎの中で観衆に加わることなく廊下を歩いていた時に、ルイズとその使い魔が言い争っていた時に、ルイズの発言が耳に引っかかったのだ。

 

ーー「ちょっと! なに相手から目を逸らしているのよ! 戦っている最中は、相手から目を逸らすんじゃないわよ!」

 

ごくごく当たり前のように最初は聞こえたが、しかしあの戦いの場面で瞬時にこんなことを言えるだろうか? まるで戦い慣れているかのような口ぶりであった。

 

だからといって深く探ろうとは思わなかったが、少しルイズに興味が出てきたのは確かである。

 

タバサは、窓を開けて口笛を吹く。それから窓から飛び降りてウィンドドラゴンの幼生、シルフィードに飛び乗った。キュルケも続く。

そして、ルイズと才人を追い掛けてゆく。

空中で、シルフィードの背びれに捕まりながら、キュルケはタバサに警告する。

 

「気をつけなさいよ。ルイズの奴、性格が一変してるんだから。あなたも抱きつかれるかもしれないわよ」

タバサは無言だった。それから、キュルケのひったくった本を奪い返して、また読書を再開する。

 

トリステインの城下町を、才人とルイズは歩いていた。しかし、才人は、腰をさすりながら歩いていた。

「腰がいてぇよ」

「大丈夫? 才人の世界に馬はいないの?」

ルイズは心配そうに訊く。

「いや、いるけどさ。もう馬じゃなくて、車とか自転車とかで移動してるからさ」

「クルマ? ジテンシャ?」

ルイズは、首をかしげる。

 

才人は、説明しようとしたが、車とか自転車をどう説明すればいいのやらと思った。ガソリンだの、アクセルだの、ペダルだのを、逐一細かく説明するとキリがないし、詳しくは才人だって知らないことがあるし、何よりも、これらは百聞は一見にしかずの分野で、実物を見た方が手っ取り早いものであるのだから。

 

才人は、「とにかく、速い乗り物なんだよ。馬よりも」と言って誤魔化すことにした。

 

すると、ルイズは微笑んだ。

「見てみたいものね、そういうのも」

「あ、ああ! ルイズが元の世界に来たら、いくらでも見せてやるよ!」

「そうね。わたし、頑張るわ」

ルイズは、そういう楽しみができて面白かった。

 

とりあえず才人は、こっちの世界の景色の方を堪能することにした。

あちこちに露店がある。食料品や雑貨類、あるいは珍品まで売られていたが、ルイズから立ち止まらないように言われた。魔法を使われたスリが多いとのこと。

 

才人は首をかしげる。貴族がスリをするの? ルイズ曰く、色んな事情で家から離れた次男や三男たちがいるの、とのこと。

才人はついでに、貴族と平民の見分け方もわかった。貴族はやたらともったいぶった歩き方をするのである。

 

それからルイズたちは、汚い路地裏に入る。ゴミや汚物があったが、ルイズはさほど気にも留めず、進んでゆく。こんなのは、不快なモンスターでいっぱいだったジャングルだの、ずっと臭い蛇の死骸の中をうろつき回ったルシェイメアと比べたら大したことはない。ついでにティアマットには食べられたし。短期的な汚い所など、今さら、動じないのである。

 

それから剣の形の看板を見つけて、入っていった。

店内には、壁や棚に、あちこちと剣や槍があって、鎧も飾られていた。

ルイズは、ロアとかジオに行って、武器屋に入っても、楽器しか見なかったが、才人の方は、店内の剣や槍に夢中である。

 

パイプをくわえて胡乱な目つきの店の主人に、ルイズは、笑顔で愛想良く、「こんにちは!」と声を張り上げた。

しかし、主人は、ルイズのマントのボタンの五芒星に気がつき、

「貴族様が、何のご用で?」

と訝しげに訊いた。

 

「この人に剣を買いに来たんです」

「へへぇ、さては、さては、『土くれ』のフーケ対策ですか?」

「え? 誰のことですか?」

ルイズは首をかしげる。

「メイジの盗賊が貴族のお宝を盗みまくっているから、下僕に剣を持たせるのが流行ってるんですよ」

盗賊といえば、ニキータと共に行って、道を塞いでいたモンスターが金を要求してきて、そのボスに吹き飛ばされたことがあったが、それよりかは大したことはありそうだな、とルイズは思う。

 

しかし、この主人は盗賊退治を依頼してくることなく、才人の剣を見つくろった。とはいえ、ルイズは剣については何も知らなかったので、2人に任せるしかなかった。

 

レイピアは、才人が却下し、この店一番という、宝石の散りばめられた、鏡のように両刃輝く、シュペー卿なる高名な錬金術師が鍛えたという剣は、才人が一目で気に入ったが、高すぎて買えなかった。

 

ルイズは、宝石の散りばめられたその剣を見て、やめなさいよそんな剣は、と言った。どうしても珠魅を思い出してしまうし、何か品がないように思えた。普通の剣で十分だと思っていたのだ。

 

とはいえ、まだ珠魅について、才人に話していなかった。ルーベンスがルビーの核を抜き取られて殺されるところまでルイズの話は至っていなかった。さらに、もっと奥深く、珠魅の秘密を伝えるまでには……。

 

すると、えー、と言った才人に、突然男の声が響いた。

「おい、坊主、嬢ちゃんの言うとおりだ。もっと身の丈にあった剣にしろよ! 木刀とか!」

「なんだと!」

才人は急な悪口に怒りの目を声のした方へと向けた。しかし、剣が乱雑に積み上がっているだけで、人の気配はなかった。

 

才人は、眉をひそめて、近づいた。

「誰だよ!」

「アホ! よく見てみろ!」

すると、一本の剣が喋っていることに才人は気がついた。サビの浮いたボロボロの剣であったが。

「剣がしゃべってるのか!」

と才人が驚嘆の声を上げると、

店の主人が怒鳴りつける。

「おい、デル公! 口を慎め!」

才人は、喋る剣は先ほどの豪華な剣と長さは変わらなかったが、刀身は細い。明らかにサビが目立ち、きれいとは到底言えなかった。

 

ルイズも警戒しながら近づく。

「インテリジェンスソード? あなた、浮いて斬りつけてきたりはしないでしょうね」

ファ・ディールでそんなモンスターと会っていたので警戒するルイズだが、そのインテリジェンスソードは呆れた。

 

「んなことができるか……あれ、できたかな? できたかもしれねぇ!」

なんかはしゃぐインテリジェンスソードに、店の主人はグチを言う。

「どこの魔術師がやったのやら、口は悪いし、客と口論するしで」

 

しかし、才人は感心する。

「でも、喋る剣なんて面白ぇじゃん! デル公!」

「違うわ! 俺はデルフリンガー様だ! 覚えておけ!」

「俺は平賀才人って言うんだ」

すると、剣は押し黙る。それからまじまじと才人を見つめるかのように黙った。

「ほう、おでれーた。おめぇ、『使い手』か」

「『使い手』?」

才人は首をかしげる。

 

「ふん、自分の実力も知らねぇのか。でも、まあいい。俺を買え」

「いいぜ。どうだ、ルイズ?」

「……まあ、さっきの剣よりは良いけど……」

使えるのかしら、こんなサビ付いてて、と思った。

 

まあ、才人が気に入ったようなので、良しとしよう。たぶんこの世界なら、なまくらでも剣を持っているだけで、余計ないざこざは防げそうだし、剣を振り回しても相手の怪我の程度は軽くなるだろう。

 

これが、戦闘が日常的だったファ・ディールなら、何が何でも綺麗な刀身の剣を買わせただろうが。

 

ルイズは、店の主人に向き直る。

「いくらですか?」

「新金貨で100で十分でさあ」

「安いですね」

「引き取ってくださるだけ、ありがてぇですよ」

ルイズが支払うと、主人はデルフリンガーを鞘に収めて才人に渡す。

「うるさけりゃ、鞘に入れておけば大人しくなりますわぁ」

才人が頷いて、デルフリンガーを受け取る。

 

武器屋から出たルイズと才人を、追いかけてきたキュルケとタバサが見つめた。キュルケは、地団駄を踏む。

 

「アイツ、あたしが狙っているのがわかったから、サイトを手懐けにきたわね」

その横で、タバサはのんびり本を読んでいた。

 

それから、キュルケは、2人の姿が見えなくなったのを確認してから、武器屋へと入る。

そして、キュルケは、店の主人を悩殺して、あのシュペー卿が鍛えたという、宝石の散りばめられた豪華な剣を、たった1000エキューで買った。

 

 

 

その夜。キュルケとタバサが、ルイズの部屋を訪れて、出迎えたルイズは、わあ、と歓声を上げる。

「ようこそ、2人とも! さあ、上がって上がって!」

ルイズは、楽しそうに2人を招いた。ちなみに、ルイズは、図書館から借りた本を読んでいて、まだ毎晩の異世界に話をサイトにしていなかった。

 

ルイズの歓迎の声に、キュルケは露骨に顔をしかめる。しかし、努めていそいそとイスを準備しようとしているルイズの方は見ないようにして、サイトの方に熱い目を向けた。

 

「サイト。あなたが欲しがっていた剣を買ってきたわよ」

すると、才人より先にルイズの方が駆け寄ってくる。

「わあ、ありがとう! サイト、よかったね!」

と、ルイズは才人に花咲くような笑顔を向けて、彼を赤面させた。

それを見逃すキュルケではない。この2人、いや、才人の方がだいぶルイズに参っている。早く攻略しないと。

「その剣を受け取ったら、サイトは毎晩、あたしの部屋に来なさい」

すると、ルイズと才人は、同時に首を振る。

「え~、それはちょっと」

「だめだ! ダメダメ!」

2人の反応に、キュルケはニヤリとする。

 

「あら、2人とも、夜のお楽しみがあるのかしら? 出会って早々に」

才人が、そんなわけねぇだろ、だいたいルイズが俺なんかのことを、と言おうとした瞬間、ルイズは、

 

「そうよ!」

と、顔を赤くして叫んだ。

 

「え?」

才人が目をパチクリさせる中、ルイズは、赤面しながらも続ける。

「わたしは、才人と毎晩楽しい時間を過ごしてるの。でも、2人だけの時間なんだから、あんたなんかが、邪魔しちゃだめ!!」

ルイズが、大声で叫ぶと、キュルケの笑みは三日月のごとく深まる。

 

なるほど、私の得意分野が、この子の弱点か。このウブな子め。ようやくしっぽを捕まえたわよ、ミス・ヴァリエール!

 

「へぇ、そう。そこまで言うんだったら、お邪魔するのは、悪いわね~。けど、どうしようかしら、あたしも才人に惚れちゃったのよ。だから、ぜひともサイトと一緒にいたいわ」

「だから、ダメに決まってるでしょ! サイトは……」

そこで、恥ずかしさが限界になって、ルイズは、真っ赤になった顔を伏せる。

 

しかし、キュルケは、今までお返しとばかりに、ルイズのあごをくいと上げた。

 

「ん? どうしたの? 最後まで言わないとわからないわよ? サイトは、どうしたの?」

「何でもないの! とにかく、そんな剣は要らないから、早く2人とも部屋に帰りなさい!」

ハー、ハー、と息を切らしながら、キュルケから逃げて叫ぶルイズ。

 

キュルケは、先ほどまで無邪気なルイズを崩すことができ、あわてふためくルイズにご満悦であったが、やはり引き下がってはくれない。

 

「う~ん、困ったわね~。それなら、どっちがサイトを夜に独占できるか勝負しましょうよ。貴族らしく、魔法でね」

「え?」

ルイズの顔が一気に青ざめる。

「勝った方が、サイトを独占できるってことで、どう?」

「わ、わかったわよ! 勝負でも何でもしてあげる!」

 

ルイズの叫びに、今度は才人が慌てる。

「お、おい、ルイズ! お前は……」

才人の制止に、ルイズは睨みつけて返す。

「なに! これは貴族同士の対決なの! 背中を向けるわけにはいかないの!」

 

キュルケは、大いに満足する。

「ご立派な姿勢ね、ミス・ヴァリエール。中庭にいらっしゃい。そこで、ゲームをしましょう」

そうして、キュルケは、タバサの背中を押して、ルイズの部屋から去って行った。

 

ルイズが学院のマントを羽織っているときに、才人は、叫んだ。

「おい、ルイズ。大丈夫なのかよ!」

「……大丈夫じゃないわ」

ルイズは、とても不安そうに首を振る。

「いや、それなら、ルイズが負けても俺はこの部屋にいるよ。キュルケの部屋なんかには行かない!」

 

と才人は、叫ぶ。なお、彼は「お楽しみの時間」だのを、ルイズの赤くなった顔を見て、一瞬淡い期待を抱いたが、あくまで、ルイズが夜の異世界の話し相手として自分を求めていると思っていた。今までのファ・ディールの話を聞いて、この女の子が、地球でぬくぬく暮らしていた自分なんかに惚れるわけがない、と信じ込んでいた。

 

一方、ルイズは、首を振る。

「いいわよ。わたしが負けたら、キュルケの所へ行きなさい。勝負だから、仕方ないのよ」

才人は、首を激しく振る。

「いいや。ルイズには山ほど恩があるけど、キュルケには全然恩はない。だから、お前の元を離れるもんか! それにキュルケの部屋に行くったって、入ってすぐ帰ってきてやるよ。一歩でも入ったら、それで十分だろ」

「サイト……」

ルイズは、潤んだ瞳で才人を見上げる。

「だから、しょげた顔するなよ。ほら、ルイズがいつも言ってる……えっと、あれは、そうだな、俺が言っても似合わないな……へへっ、とにかく、笑えよ。笑顔が一番お前には似合うんだから……」

 

才人は、ルイズの両頬を、ルイズが自分にしてくれたように上げようとしたが、さすがに男の子が、女の子の頬をみだりに触るのは、ためらわれた。あれも、ルイズがやるからハマるのであって、自分がやっても合わないだろう。

 

「ありがとう」

それでも、ルイズは、少しぎこちないながらも、笑顔を浮かべてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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