ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

7 / 26
43話:フーケのゴーレム 前編

トリステイン魔法学院の夜の中庭にて。本塔の上からわら人形がロープで吊されていた。

 

なお、当初はルイズとキュルケの決闘の予定であったが、才人が制止し、タバサがそれならばと、才人をロープで吊して塔からぶら下げて、才人を吊すロープを切り裂いた方が勝利、という予定であった。

 

が、ルイズが猛反対したために、吊されるのは、わら人形となったのだ。そのわら人形を屋上でタバサがゆらゆらと揺らすというものであった。

 

キュルケは、もちろんそんな反発したルイズをからかうのを忘れない。

「そうよね。夜の相手に傷ついて欲しくないもんねー、ミス・ヴァリエール」

ケタケタと笑うキュルケに、何も言い返せず、うつむき赤面するルイズ。本当は、才人には怪我なく元の世界に帰って欲しいだけなのであるが、そう言うわけにもいかないルイズであった。庇われた才人は、そろそろキュルケに、鋭い視線を向け始めた。

 

キュルケは、そんな視線にルイズをからかうのに夢中で気付かなかった。

そして、ルイズにルール説明をする。

 

「いい? ミス・ヴァリエール。あのロープを切った方が勝ちだからね。ロープを切った方が、サイトを抱いて、夜の相手を独占できるということで」

「なんで俺を抱くんだよ!」

まだそんなことは、ルイズにされていない才人であった。

 

キュルケは、キョトンとする。

「や~ね~、サイト。あなたのことが、大好きな女の子が抱くのよ。嬉しくないの?」

本音では、ルイズに抱きつかれたらどれほど気持ちいいかと思うし、キュルケの柔らかそうなお胸が飛び込んでくれば、とっても気持ちいいかとは思う。

しかし、どっちが勝っても気持ちよさそうなのに、才人は、何だか気に食わなかった。

 

キュルケは、続ける。

「あなたが先攻でいいわよ、ミス・ヴァリエール」

ルイズは、うなずく。

成功するとは思っていないキュルケの口ぶりに腹が立ったが、しかし、実際そうである。

 

ゲーム開始前からすでに、ルイズは、青ざめた顔をしていた。

ハッキリ言って、杖で使う魔法は絶対に失敗する。あの爆発魔法となる。火も土も風も水も関係ない。

 

これが、魔法楽器なら、火属性のブレイズホイールという火炎の車輪でロープを焼き切ればよいだけである。しかし、キュルケとタバサが見ている以上、そんな魔法楽器の演奏はできない。

 

しかも、ここで負けたら才人をキュルケに奪われてしまう。本当はどうにかできるのに、全力を出せない今の状況がルイズにはもどかしかった。

 

ルイズは、ため息をついたあと、詠唱を開始する。それは、『ファイヤーボール』という魔法であった。

詠唱も杖の振りも、教わったとおり完璧であった。しかし、いつもの通り、わら人形の後ろの壁が爆発しただけであった。ロープは切れなかった。本塔の壁にヒビが入っただけである。

 

その結果にキュルケは爆笑した。

「ゼロ! ゼロのルイズ! ロープじゃなくて、壁を爆発させるなんてね! あっはっはっは!」

キュルケの大爆笑中に、ルイズは、しょんぼりとうつむいた。

 

それから、キュルケの出番である。キュルケは、杖から大きなスイカほどの火球を飛ばし、揺れているわら人形のロープに当てた。わら人形はバサッと地面に落ちる。ルイズの敗北が確定した。ルイズは、ガックリと、地面に膝をつけた。

 

完璧である。完璧なる仕返しの成功である。相手の弱点を発見してそこを突き、公平なゲームのもと、相手を破ったのだから。

 

「あたしの勝利ね! ミス・ヴァリエール! サイトはあたしのものよ!」

ここで、才人はキュルケを睨みつけて、怒鳴り散らそうとした。ルイズの秘密を知る者として、こんなゲームでルイズをここまで落ち込ませたキュルケに、やり過ぎだ、と怒ろうとしたのである。

 

しかし、

「……?」

落ち込んで地面に両手両足を着けていたルイズが、真っ先に違和感に気がつく。ーー地面が震動している。

 

そこで振り返ってみると、巨大なゴーレムが、ズシン、ズシンと近づいているのが見えた。

即座に立ち上がり、ルイズは鋭い声を飛ばす。

「みんな、後ろ!」

 

全員がルイズの指差す方向を見るとーー

「きゃああああ!」

とキュルケが真っ先に悲鳴を上げて逃げていった。屋上のタバサもすぐに中へと入ってゆく。

 

ルイズは、巨大なゴーレムに固まる才人の手を握って逃走した。巨大な存在を見ても、一切悲鳴を上げることなく、自分のように固まることなく、落ち着いて瞬時に行動できるルイズに、やっぱり話通り本当に異世界で巨大な敵と戦ってきたんだな、と才人は手を握られながら思う。

 

ルイズが少なくとも巨大なゴーレムとが襲ってきたとしても、即座に対処できる位置まで距離をとると、体をゴーレムの方に向けた。

才人は問う。

「戦うのか?」

「誰かを襲うならね」と、落ち着いて答えるルイズ。

 

しかし、ゴーレムは人を襲う様子はなく、先ほどルイズがヒビを入れた壁に巨大な拳を叩きつけた。すると、壁が盛大な音を立てて崩れた。

 

「どこを狙ってるんだ」

「宝物庫のようね」

ルイズは、黒い影がスルスルと、ゴーレムの肩から腕をつたってスルスルと宝物庫に入っていく光景を見た。

 

ルイズは迷う。どうしよう。これは『緊急事態』かしら。戦えなくもないが、人命に関わるならいざ知らず、盗っ人を見逃すかどうかは悩ましかった。あの宝石泥棒でもあるまいし。

 

今は近くに才人しかいないし。どうしようかと思っていると、わりとすぐにタバサのウィンドドラゴンが迎えに来てくれた。

 

助けに来てくれたのはありがたいが、これでは魔法楽器を使えなくなってしまった。まあ、ゴーレムが危険な攻撃をしてくる可能性もあるし、今ハデなことをすると、起き出した他の生徒や教師たちに見つかって、結局知れ渡る可能性がある。

 

人に危害を及ぼさないなら致し方ないと思い、ルイズは才人を促してウィンドドラゴンの上に乗った。

 

それから、ゴーレムは盗っ人のメイジを肩に乗せて、再び歩き出し、魔法学院の城壁を軽く乗り越えて、去って行った。タバサのウィンドドラゴンで追いかけていたが、草原の真ん中で突然崩れ落ち、巨大な土の山となった。三人が地面に降り立っても、肩の上に乗っていた盗っ人のメイジはいなくなっていた。

 

 

 

翌朝、破壊された宝物庫の側で、『破壊の杖』がフーケに盗まれた責任を巡り、教師たちが責任の押し付け合いをして、校長のオールド・オスマンが、油断していた我々全員に責任があると、場を収める。

それから、ルイズたちに、目撃したゴーレムと盗っ人について、説明を求めた。

 

その際、小さなことではあるが、コルベールが「目撃者は三人」と述べたことに、ルイズはかなり強く腹を立てた。つまり、使い魔の才人を数に入れていないのである。これほど純粋な、同じ種族の人間であるにも関わらず。しかも、それに対して周りも当たり前のものとしてしか受け取っていないのだ。

 

ルイズは、強く思う。あなたたち全員が、ファ・ディールに行けば良い! そこで、獣人や昆虫人、果てはパズル人間と話せば良い! みんな同じ人なのよ! 数か月もいれば、絶対にそんな差別意識吹き飛ぶわよ!

 

そうルイズは、思ったので、

「ミスタ・コルベール、事件の目撃者は“4人”です」

と怒りを滲ませて言った。

ミスタ・コルベールは、肩をビクッと動かしてから、言った。

「使い魔を数に入れるわけにはいかん」

「ミスタ・コルベール、あなたの目は節穴ですか? 才人は、どこからどう見ても、純粋な人間でしょう」

ルイズの発言に、ミスタ・コルベールを中心に教師たちはうろたえた。

 

あまりにも唐突な、教師に対する侮辱発言だったので、誰もがとっさに反応できなかったのである。キュルケや、タバサ、果てはイラッとしていた才人までもが驚愕し、ルイズを見つめた。

 

しばらくしてから、ミスタ・ギトーは、口角泡を飛ばす。

「ミス・ヴァリエール! 教師に対して、何という無礼な発言! ミスタ・コルベールに謝罪しなさい!」

「わたしたちを教え導くのが教師というのなら、その言動もそれにふさわしいものにしていただけませんか? 貴族なんか、人口の1割もいないのですよ」

 

「貴様ッ!」

ここで、コルベールがギトーを止めるように、手を掲げる。

「待ちなさい、ミスタ・ギトー。今のは私の失言だった。この事件の目撃者は“4人”だと認めよう。ミス・ヴァリエール、発言を撤回する」

コルベールは、軽く頭を下げた。

ルイズは、

「ミスタ・コルベール、ありがとうございます」

と礼を述べる。しかし、コルベールは撤回しても、差別意識の強い教師たちの険しい目つきは、ルイズに向けられっぱなしであった。今は、フーケ事件があるので口をつぐむが。

 

それから、目撃者“4人”が事件を説明し始める。まあ、その内のタバサは、何も言わなかったが。

大きなゴーレムが現れたこと、肩に乗っていた黒いローブのメイジが、宝物庫に出入りしたこと、ゴーレムは、城壁を超えて、最後には土しか残らず、黒いローブのメイジは、いなくなっていたことを話した。

才人の発言はわずかなものであったが、しかし少しだけでも言えて、聞いてもらえるだけで、嬉しかった。

 

4人の説明を聞いた校長のオールド・オスマンは、「結局、手がかりはない、ということか。……おや、ミス・ロングビルはどうしたのかね?」

「そういえば、朝から姿が見えませんな」

「こんな非常時に、どこへ行ったのじゃ」

そう教師陣が話していると、くだんのミス・ロングビルがやって来た。

コルベールが咎めの声を上げる。

「ミス・ロングビル、どこに行っていたんですか!」

 

だが、ミス・ロングビルは、落ち着いてオスマンに報告する。

「申し訳ございません。朝からフーケ事件の調査をしておりました。宝物庫にフーケのサインがありましたので」

「それで結果は?」

「フーケの居所を突き止めました」

「なんと!」

「誰に聞いたのかね、ミス・ロングビル?」

「近くの農民に聞き込みをしたところ、近くの森の廃屋に黒ローブの男を見たそうです彼がフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

全くあいまいな情報ではないか、とルイズは思った。

 

オスマンは訊く。

「そこは近くかね?」

「徒歩で半日、馬で4時間だそうです」

ルイズの違和感はますます強くなる。今朝ミス・ロングビルはフーケ事件について知ったばかりで、そんな、全然近くではない、遠いところにいることを突き止めたと言うの? いくらなんでも速すぎない? しかも、徒歩と馬で行ける時間を即答して、まるで用意していたみたいではないか。

 

ルイズのミス・ロングビルへの疑念は強まり、だからこそ、今は口をつぐんだ。たぶん、何かを仕掛けてくるだろうと思えたのだ。しかし、疑惑だけでは証拠にならない。尻尾を出してきたところを捕まえるのが重要なのだ。

 

コルベールは叫ぶ。

「すぐさま王室に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵士を派遣してもらいましょう!」

オスマンは、怒鳴りつける。

「馬鹿者! そんな報告をしとる間にフーケは逃げてしまうわ! それに魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 我らで解決すべきことじゃ!」

 

ルイズは、訊ねる。

「その破壊の杖は、どれほど危険なものなんですか?」

「ワイバーンを吹き飛ばすほどじゃ」

オスマンの言葉に、周囲はどよめく。そんな破壊力のあるものが盗まれたなんて。

 

オスマンは、皆に向かって訊ねる。

「捜索隊を編成する。我こそはフーケを捕まえて、破壊の杖を取り戻そうとする者は杖を掲げよ」

 

すると、間髪入れずにルイズは、杖を掲げた。

ミス・シュヴルーズが、大きく目を見開く。

ルイズは、堂々と慣れたように宣言する。

「わたしが行きます」

特に強い使命感を帯びることもなく、言葉に力がこもっているわけでもなくて、本当に行くのが当たり前とばかりに、宣言した。

「何を言っているのです、ミス・ヴァリエール! あなたは学生でしょう!」

「だから何ですか?」

キョトンとするルイズに、周囲はまるで化け物でも見るかのような眼差しを向ける。

 

すると、才人も杖はないが、挙手をした。

「お、俺も行きます!」

しかし、瞬時にルイズが咎める。

「サイト、たぶん、あなたの剣とあのゴーレムとは相性が悪いと思うわ」

「じゃあ、走っておとり役でもなんでもやってやるよ!」

「でも……」

ルイズとしては、1人で十分、いや、1人の方が望ましいと思っていた。才人にあまり怪我をしてもらいたくないので。

 

「いつかお前言ってたろ。人助けがどうのこうのって」

ああ、なるほど。才人は、そのことを思っていたのか、とルイズは納得する。まあ、何が元の世界に戻る手がかりになるかわからないし、そう言ったのは自分ではないか。

ルイズは、ため息をつきつつ、仕方ないわね、と言った。

 

しかし、さらにキュルケもゆっくりと杖を掲げた。

「ヴァリエールに負けられませんわ」

ルイズは、苦々しい表情となる。才人以外が来ると、魔法楽器が使えなくなるではないか。

 

ルイズは、慌てて警告する。

「ツェルプストー! あんたはあのゴーレムと相性が悪いでしょう!」

「なら、あなたはどうなのよ、ミス・ヴァリエール?」

 

ルイズは、モゴモゴと目をそらしながら言う。

「わたしは、その、爆発魔法があるし」

「ロープすら切れなかったあの魔法が役に立つって言うの?」

うっ、とルイズは言葉を詰まらせる。

 

でも、ゴーレム相手には役立ちそうじゃない、と言おうとしたルイズは、さらにもう一本杖が掲げられた。タバサである。

 

今度はキュルケが、「あなたはいいのよ」と止める。

しかし、

「心配」

の一言で押し切った。

 

ルイズは、強く唇をかむ。ますます魔法楽器が使えなくなるではないか。才人とだけならともかく、それ以外に来られると……しかし善意な分だけ断りにくい。ファ・ディールでは、仲間が増えるのは大歓迎であったが、ここでは魔法楽器が異端視される可能性から、才人以外、来てもらいたくないのだが。

 

しかし、オスマンが決してしまった。

「では、この4人に頼むことにしよう」

ちゃんと才人も数に入れてくれたが、ルイズとしては、どうやって魔法楽器の存在をキュルケとタバサに隠しながら戦うかを、杖を掲げたまま、大慌てで熟考していた。この2人が来るとは、夢にも思わなかった。わたし1人で放っておいて、学院でのんびりしていればいいのに、まったく。

 

オスマンが言う。

「ミス・ヴァリエールたちは、敵を目撃している。とりわけミス・タバサは、シュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いている」

これには、教師もキュルケも驚愕した。驚かなかったのは、言った本人のオスマンと、シュヴァリエを知らない才人と、たかがシュヴァリエが何なのよ、こっちは無数の戦闘を異世界で経験してきたわよ、と思っているルイズである。

 

ちなみにシュヴァリエとは、王室から与えられる爵位としては最も下であるが、タバサの年齢で与えられるのは驚くべきことである。他の爵位とは異なり、金では買えない、純粋に功績に対して与えられる爵位なのだから。しかし、ルイズは、異世界で世界を征服せんとするドラゴンと、世界を滅ぼそうとした悪魔を破ってきたので、さしたる関心はなかった。

 

オスマンは、4人に告げる。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。