ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後) 作:hobby32
さて、フーケ捕縛後の1週間後の夜のこと。
才人は、ベッドで目を覚ました。窓の外から、2つの月明かりが室内を照らしている。
才人は、ベッドから起き上がると、ルイズがスヤスヤ眠っているベッドを見つめた。才人とのベッドの距離は30センチあるかないか。
桃色の髪に、穏やかな眉に、目鼻が綺麗に整った可愛らしい顔つき。異世界を踏破したとはとても思えないほど、本当に華奢な体つき。でも、なんだか、その体は、月に照らされているからではなくて、ずっと輝いているように見える。
才人は、思う。いっぱいキスしたい。ハグしたい。それからそれから……。
しかし、少女のこれまでの優しさや苦労が才人を押さえつける。
この女の子は本当に今の今まで、自分に優しかった。飯も寝るところも、そして、周りからの差別からも身を呈して自分を守ってくれて、肉体的にも精神的にも幸せをもたらしてきてくれた。
さらに異世界からまだ帰ってきたばかりである。それから間もなく、自分が起こした決闘事件と、フーケの事件を解決した。いや、直接的にやったのは俺だが、この世界では魔法楽器を使いづらいのに、その禁を一度破り、二度目も破ろうとして解決しようとした。あんまり力は見せずとも、ルイズの存在はいつだって心強かった。
とはいえ、本人が何度も異世界の話をする時に言うように、魔法楽器がなければ、ただの女の子である。このギャップが才人には、とっても面白いものとして映った。
理不尽と苦労にまみれながら、何度も戦いを生き延びて、恐ろしいモンスターといっぱい戦いながらも、せいぜいモンスターから距離を取るための脚力しか鍛えられていないらしい。その足も大して太いようには見えず、腕にも全然筋肉は付いてなさそうである。
それでも、毎晩区切りの良いところまで語られる冒険譚は、才人の心を驚かせ続けた。ジャングルの大きな虫とかゾンビがいて怖がりながら工夫してゴリラ型のモンスターを倒したとか。砂漠で熱い砂まみれになりながら、鳥型のモンスターをやっつけたとか。暗くて足場の悪い鉱山の中を泣きそうになりながら歩いたとか。どうにもこうにも、あちこちで苦労しながらも、元の世界に戻るために必死になっていたことがよく伝わった。本当に信じられないくらい頑張ったんだなあ、と頭を撫でてあげたかった。
しかしまあ。
釣り合わないよなー、どう考えても。
戦闘回数、俺はたった2回。ルイズは、もう話を聞いた時点で100回は届いていそうだ。何しろデカいモンスターだけじゃなくて、小さなモンスターも含めると戦う回数が膨れ上がるのだ。色んな迷宮の往復でどうしても戦う回数は増えてしまうのである。
そんな環境にいくら仲間と一緒だって言ったって、こんなちっちゃな体で戦い続けて、何とか帰還を果たした人間と、地球でのほほんと暮らしていた俺とでは、到底釣り合うはずがない。
どれだけ可愛くても、優しくても、自分なんかでは合わないのだ。元の世界に俺を戻したら、それでおしまい。俺のことなんか、あっという間に忘れてしまうだろう。
そう思うと、才人は、ガックリうなだれる。ここで強引にギューッとして、ルイズにバレて嫌われたら、その時点で俺おしまい。野垂れ死に確定。
というかそもそも。
こんなに親切に接してくれるのに、ガオーって襲いかかるのは、どう考えてもいけないことだろう。どんだけ恩を仇で返す犬だよ。
ああ、ルイズ。君はあまりにも遠すぎるのだよ。そして、あまりにも近すぎるのだよ。どうして、俺なんかを召喚したんだい? もっとふさわしい相手がいただろうに。君の魔法は、実に罪深いよ。どう考えても、俺なんか間違っているだろう。
「相棒、どうしたんだよ」
この時、インテリジェンスソード、まあ、ひとことで言って喋る剣がベッドの上で座ったままじっとしているように見える才人に声をかける。
才人は、慌てて振り返り、静かにベッドから飛び降りて、自らの剣に駆け寄る。
「俺の至福の時間を邪魔してくれるなよ、デルフ!」
「何が至福の時間なんだよ」
すると、才人は顔を赤くして、静かに叫ぶ。
「ルイズの、寝顔を見るのが!」
「あの貴族の娘っ子の顔を見るのが? そんなに楽しいかね」
「デルフよ。お前は人間じゃないから、わかんねぇんだよ」
「まあ、確かにそうだけどよ。そんなに好きってんなら、告白しちゃえばいいじゃねーか」
「バカッ! そんなことしたって断られるに決まってるだろ!」
「どうしてだね?」
「ルイズと俺とじゃ、雲泥の差があるの!」
そう言い切ると、自分の心をも抉られたのか、才人は、デルフリンガーの前で突っ伏した。
「なあ、デルフよ! どうすれば、アイツが俺のこと好きになると思う?」
「知らねぇよ、人間の心なんか」
「絶対的な経験値の差をどうやって埋められる?」
「まあ、相棒がやたらめったら活躍するしかねえんじゃねぇか? 1000人の兵士を止めるとか」
「無茶言うなよ。くそっ! もっと普通の女の子なら……いや、普通の女の子でも俺は無理だったけどさ」
才人の悲哀の夜は長かった。
2つの月の代わりに朝日が窓から射し込んでくると、ルイズは、パッチリと目が覚めた。うーん、と伸びをする。
「1週間も戦いが無いって凄いなぁ。感覚おかしくなりそう……あれ? サイト?」
いつも起きたら隣でグッスリ眠っている使い魔がベッドにいなくて、ルイズは首をかしげる。
しかし、少し目線を上げれば、何だか剣の近くで、毛布で丸まっている才人の姿を発見した。
一晩中、どうやったら「ルイズに俺は好かれるか」で、議論していたのである。寒かったので、毛布は持ってきたが。まあ、相談相手が剣だしなんだりで、全然結論は出なかったが。
ルイズは、首の傾きを大きくする。
「どうして、サイトはそんな所で丸まっているの?」
デルフリンガーは答える。
「男には、たまにこうしたい時もあるらしいんだとよ」
「うん?」
ルイズにはよくわからなかった。
その後、才人はいつものようにルイズに引っ剥がされて起こされ、目の下に隈ができたまま、食堂に向かう。あまりにも、ショボンとしているものだから、途中でルイズからイタズラを受けてしまう。
「ほら、サイト。落ちこんでないで笑顔笑顔♪」
「うっ……」
才人は、ルイズの無邪気過ぎる笑顔に、いつも通り赤面してしまう。それと同時に、この少女を夜の内に襲おうかと考えた罪悪感が募る。
どうしてコイツは、いつもこんな感じなんだよと、才人はまぶしすぎる少女の笑顔にクラクラしながら、ほっぺ上げ上げのイタズラを受け続けた。
心の中の膨れ上がってくる欲望と、才人はずっと格闘しないといけなかった。