機動戦士ガンダムSEED 虹の向こうから来てしまった男 作:サンバガラス
格納庫に着いたサイは、アストレイの周囲を見回し、人影が無いのを確認し、アストレイのコックピットに足を踏み入れ、ハッチを閉める。
(・・・ゴロウが動かせたんだ。俺も出来る・・・俺が戦えたらフレイはもう一度俺に振り向いてくれるはずだ!!)
その思考にサイは暗い笑みを浮かべ、OSを立ち上げる。モニターに光が入り、計器類の表示が次々と表れた。
(・・・やれる)
サイは内側から湧き上がる高揚と不安を感じながら、レバーを握り、ペダルを踏む。丁度格納庫にいたマードックがアストレイの目の灯が入り、エンジンの駆動音が聞こえて、近くにいた同僚を呼び止める。
「・・・なあ、いつの間に坊主は帰って来たんだ?」
「いや。まだですよ。それに艦橋から行方不明って話なんですけど」
「行方不明?・・・・じゃあ誰が動かしているんだよ!?」
アストレイはゆっくりと動き出す。ぎこちなく左腕を上げ、機体正面に伸びた可動式キャットウォークを乱暴に押し出しよろりと足を踏み出した。
「皆避けろ!!」
マードック達はその場から離れる。アストレイは鈍い動きであり、ゴロウの操縦とは明らかに異なる。異常に気付いたムウ達が格納庫にやって来る。
「誰だ!!アストレイを操しているのは!?」
「何!?どういうこと!?」
ムウとミリアリアが困惑の声を出す。一方でコックピットの中にいるサイは思う様に動かせずに焦っている。
「クソ!!何で!?」
アストレイは不吉な感じで左右によろめく。コックピットの外ではマードックが怒号を上げた。
「こんな時に!!おい!!やめろ馬鹿!!誰だ!!」
その言葉に近くにいた整備士が答える。
「さっき、サイって奴がウロウロしてはいたんですけど」
「「え!?」」
ムウ達はサイの名前を聞き、目を見開いた。アストレイはギクシャクと動き、前へ踏み出そうとして完全にバランスを崩す。アストレイはガックリと手を突き、四つん這いに倒れ、金属がぶつかり合う凄まじい音が、格納庫内に響き渡る。
「あちゃぁーーっ!!」
マードックが顔を覆い、怒りを露わにする。幸い押し潰された者はいないが、戦闘以外で損傷されたのでは、整備士として堪らない。そしてコックピットの中では、サイは呆然とコンソールを見つめていた。モニターには格納庫の床が映し出されている。
(・・・こんなに何にも出来ないなんて・・・)
サイの胸にジワジワと失望が侵食していく。ゴロウやキラの代わりに皆を守って戦うどころか、ほんの数歩も歩く事が出来ないなんて。
「ぅ・・・ぅ・・・」
サイの口から微かな嗚咽が漏れる。分かっていた。こんな事をしてもフレイは振り向かない。そもそもゴロウはフレイの事を何とも思ってない事を。分かっていた。分かっていたのに。勝手にゴロウを憎み、妬んで・・・そんな気持ちを抱えた汚れた自分・・・あまりにも惨めだ。
「うわぁぁぁ・・・ぅぅっ・・・」
サイは狭い空間に閉じ込められたまま、密かに咽び泣く。
一方でゴロウ達はバルトフェルドの車に乗せられて豪勢なホテルの前に連れられた。
「さあ、どうぞ」
「あ、あの僕達は本当に大丈夫なので」
キラは冷や汗をかいている。それはホテルの前に並んだザフトの警備員や中庭に立つモビルスーツの姿を目にしたからだ。
「いやいや、お茶を台無しにされた上に助けて貰って、君達なんて服がグチョグチョじゃないの?そのまま帰す訳にはいかないね」
バルトフェルドはキラとカガリの焦りにも気付かぬ様子だ。ゴロウ達はホテル内に案内され、そこで艶やかな黒髪を肩に流した、美しい女性がいた。
「おかえりなさい、アンディ。この子達ですの?」
「ただいま、アイシャ。彼女達をどうにかしてやってくれ。チリソースとヨーグルトとお茶を被ってしまってね」
「あらあら、ケバブね。さあ、いらっしゃい」
そう言ってキラとカガリの肩に手を掛けて連れて行く。ゴロウは警戒した目をするが、
「心配しなくても大丈夫よ。すぐに済むわ。アンディと一緒に待ってて」
アイシャはゴロウに甘く叱る調子で言い、楽しそうにキラとカガリを連れ去った。
「おい、君はこっちだ」
ゴロウのはバルトフェルドに呼ばれて、執務室に入る。
「僕は珈琲にはいささか自身があってね。まあ、くつろいでくれ」
「・・・はぁ」
ゴロウは軽く頷き、部屋を見回し、暖炉の上にあった奇妙な化石のレプリカが目に入った。
「これはEvidence01」
「へーぇ、それを知ってるか・・・実物を見た事は?」
バルトフェルドが声を掛けてゴロウに珈琲を渡す。
「いんや、無いな。どうも」
ゴロウは珈琲を受け取る。
「何でこれをクジラ石と言うのかね?これ鯨に見える?」
「見えるっちゃあ、見えるけど・・・鯨っぽく見えるからクジラ石って言うんじゃないか?」
バルトフェルドの質問にゴロウはありのまま感じた事で返す。
「でも、これどう見ても羽じゃない?普通、鯨に羽は無いだろ?」
「まあ、宇宙で見つかった地球外生命体だから。こういう進化があったんじゃないか?」
その答えにバルトフェルドは少し笑う。
「違う、違う。そうじゃなくてさ、僕が言いたいのは、何でこれが鯨なんだって事だよ」
「さっきも言ったが鯨っぽく見えるからじゃね?それとも何ならいいんだ?」
ゴロウそう切り返しながら珈琲を飲む。するとバルトフェルドも首を捻る。
「うーん・・・・・何ならと言われても困るが・・・所で珈琲の方は?」
「美味しいですよ。なんかこだわった感じがするな」
その言葉にバルトフェルドは機嫌が良くなる。
「そうかい!!そうかい!!やはり味が分かるかい!?これは僕の中でも1番の出来なんだ!!」
「お、おお」
声のトーンが上がり少し困惑するゴロウ。バルトフェルドはどっさりとソファに腰を下ろし、ゴロウもその向かいに座る。
「まあ、楽しくも厄介な存在だよね。これも」
「厄介?」
バルトフェルドがEvidence01を見て呟き、ゴロウは聞き返す。
「そりゃあそうでしょ?こんな物、見つけちゃったから希望って言うか、可能性が出て来ちゃった訳だし・・・人はもっと先に行ける・・・この戦争の1番の根っこさ」
お気楽そうだった男の目に物騒な何が光る。ゴロウは呟く。
「確かに戦争の根っこの部分だな・・・だが、最初のコーディネイター・・・ジョージ・グレンは希望と言う名の可能性を示したと思う」
その言葉をバルトフェルドは静かに聞く。
「彼は人類はもっと進歩する事が出来る事を伝えただけだ。それは人類に向けた祈りだ」
「祈りね・・・じゃあ今のコーディネイターは彼の祈りによって生まれた存在なのかね?」
バルトフェルドは皮肉を込めて聞き返した。
「彼も人類が良い方に進化すると思っていたんだろう。まあ、コーディネイターにしたから助かった命もあるが・・・そこに人としてのよくない欲望やエゴによって本来のコーディネイターとしての姿が歪んでいった。結果、今の戦争や差別になった訳だ。これは呪いだね」
「・・・呪いか・・・初めてだな、そんな答えを聞いたのは」
バルトフェルドは少し悲しげな目になってゴロウを見ていた。
「まぁ、人類は人類だ・・・どんなに頑張っても祈りが呪いに変わるのはよくある事・・・結局、人類に希望を見せた所で少数の人間しかその意味を理解しない」
ゴロウは遠い目になりながら答える。ゴロウの脳裏には宇宙世紀での戦いが浮かぶ。スペースノイドとアースノイドの対立。同じ人類だと言うのにいる場所が違うだけで争いが起こる。ニュータイプを戦争の道具にされた事。ゴロウは過去を思いふける。
次回 誰が悪魔じゃい!!