ただ煌々と   作:一般擬人化天然痘

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中編2

 

 

 

 互いに武器を構え、ほんの僅かな睨み合いの末に張った弦が弾かれる音が仕合開始の合図となった。

 

「視えています」

 

 加護で形造られた鏃は第四隊長に届くことはなく、表面で弾ける音と共に熾った火によって燃え上がり搔き消されたのだ。

 

「はぁ、出力不足ですね、その弓一つでは私の皮膚はおろかこの外套を貫くのも難しいでしょう」

 

「これはあんたの方がおかしいんじゃねーですか!?」

 

「いえまぁ、これは私自身の出力もそうですがズルをしているので。特段目も凝らさなければいけませんから参考にはなりませんよ」

 

 ため息を吐きながらも第四隊長は語る。

 ズル、というのは蓋を開ければそう大したことではない。

 第四隊長の扱う日炎祓術と呼ばれるそれは霊的なものを燃焼させることに適している、しかしそうであっても高速で飛んでくる加護の矢を焼失させるのはなんの繋がりもない状態では難しい。

 だから作ったのだ、()()という形で()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もっともこれは彼が持つ”加護”ありきのもの、他人には容易に真似できない。

 ズルをしているというのはつまりそういうことだった。

 

「こういうことをしていると鈍ることもあります、”加護”に頼り過ぎるのは……健全ではない、とでも言いましょうか」

 

「余裕そうに講釈垂れられるのは気に入らねーです、ね!」

 

 可能な限り後退しつつ矢を連射しながらも、実際圧倒的な優位に立っているのは相手方であることも追い詰められているのが自身であることも八尋には理解できていた。

 ここから状況を打開するのであれば味方の誰かと合流するのが最善だろう、だがその場合はその味方と交戦している二人目以降の第四隊長とも戦わなければならない。

 それは目の前の強者が単純に倍以上に膨れることになる、そうなったときに果たして勝てるのだろうか?

 何より、矢の雨を意にも介さずゆっくりと前進しているそれが易々と合流を許すようには思えない。

 

「(それでも、勝たないと)」

 

 この男に捕まり、攫われでもしたら何をされるかわかったものではない。

 何より気に入らないのだ、その天狗面の奥からこちらを覗き込む憐れむような見下した視線が。

 市倉八尋という人間は反骨精神の具現のような女である、雨夜に浮かんだかの星(界異が模造した鵠別供花)を前にした時ほどでなくとも……敵を前にして膝を屈するなんてことはまっぴらごめんなのは変わらない。

 

「ほう?」

 

 威圧はほどほどにして、そろそろ踏み込むかと思考を回しつつ飛んでくる矢を焼き払おうとして、その中の一本に筒状の何かが括りつけられているのを第四隊長は見てしまう。

 何か異物があれば惹かれて注視してしまうのが人の性というもの、無意識レベルで行使されていた日炎祓術は当然それにも点火する。

 次に広がったのは炎ではなく、穢れを含んだ爆風だった。

 矢に注連鋼縄(ワイヤー)で括りつけられていたのは呪瘤檀、対界異用攻撃兵装の一種であるそれは内部に詰めた贄体に瞬間的な負荷を与えることで呪詛作用を発生させて周囲一帯を攻撃するグレネードのような攻性祭具である。

 当然術により着火したそれは八尋の狙い通りに起爆した。

 

「なるほど、これは知能のある相手には濫用するべきではありませんでしたね」

 

 その爆風の中から火の粉を纏って現れた天狗には傷の一つも存在していない。

 避けられたのならまだわかる、多少穢れが染み付いているならまだ納得できる。

 よく見れば外套が消えているが現実はそれだけ、とても至近距離で爆破を叩き込まれたようには思えない姿でいる。

 正面には恐らく爆発に飲まれている間に展開されたであろう疑似穢による煙幕があり、それに遮られて目的の少女の姿を見失ってしまった。

 この場からの離脱を優先したのか、或いは。

 僅かに存在した思考を阻害するかの如く、間髪入れずに第四隊長の顔面目掛けて矢が飛来する。

 しかし頭を傾けて間一髪、鏃は第四隊長の脳を貫くことなく天狗面に傷を残すも逸れてあらぬ方向へ墜ちてゆく。

 第四隊長はその手の中の剣を振り上げ……

 

「その誤魔化し方は悪くありませんが相手が悪い」

 

 自身の左側面で名伏によって存在を隠して背後へ通り抜けようとしていた八尋の左足へと振り下ろされ、直後に燕返しのような軌跡で彼女の頭部を引き裂いた。

 足も頭も形代で再生したもののその小さな身体は硬い地面に倒れ、そうなるのをただ彼は眺めていた。

 

「四枚目。ですが弓矢の扱いは非常に良い、ミワシ部隊にもこのような芸当が出来る者は知る限りではいません。私も教わりたいほどですよ」

 

「どうやって……?」

 

「何かを犠牲にして生き残ってしまうことなんて珍しくもないでしょう、私は現に今外套を駄目にしてしまいましたし……」

 

 改めて八尋の正面に立つように歩きながら外套だった燃え滓を手で払うような軽さで放たれたその言葉を聞いた途端、意識しているかは定かではないが倒れてもなお弓を握る手から強く擦れるような音がする。

 

「不用意な発言でしたね、申し訳ありません。貴方()そうやって生き延びた側であることを失念していました」

 

「どこまで、知ってるんですか」

 

「調べられる範囲のことまでは、貴方にとても素晴らしい御両親がいらっしゃったことも勿論存じています。私にもそのような人達がいました」

 

 出来うる限りの力で上げられた顔を見ずに剣に込められた炎を覗き込みながら彼は答える。

 その眼には追慕の情が焼きついて、離れない……いいや、何があっても離すことはできない。

 

「今の私は彼ら彼女らに与えられたものによって存在できている、それがなければとうの昔に死んで立ち上がれなくなっていたでしょう」

 

 何故ならば遺されたのはそれだけだから、それこそが存在することを許すたった一つの言い訳だったから。

 

「それでも私は……彼らに報いるような生き方は御世辞にも出来ているとは言い難いですね、努力はしていますが結局のところ生きる者が死んだ者に報いることは難しい」

 

 だからこそ日向直毘人は問わずにはいられない、同意を求めずにいることなどできない。

 

「貴方もそうは思いませんか、八尋さん」

 

 そこに、もう現れることなどないと思っていた真の同朋がいるのだから。

 でも。

 

「どんな理由であたしにストーカー紛いのことをしてたとか、誘拐しようとしてるとかもうどうでもいいです」

 

 

「ただ、あんたには負けられない!」

 

 だからこそそれは、決して無視できない相違点だった。

 

「それならば、貴方を徹底的に打ち負かしましょう」

 

 どうしても欲しいものを前にして駄々をこねる子供のようなみっともなさがあっても、どうしても彼女を手に入れなければならなかった。

 欲望は膨れ上がって、それを抑え込むことなど出来ない。

 

「我らの尊き”日向う神”よ」

 

 その身に秘めた願望と共に地面の八尋に狙いを定めた剣先から炎が吹き荒れる。

 炎は熱線となって、眼前にあるもの全てを融解させた。

 




期間が空かないとか言いつつ一年近く作品放置してたってマジ?
本当に申し訳ございませんでした……

スペシャルサンクス
クサリさん(市倉八尋)

本当にありがとうございます、そしてすみませんでした!!
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