ただ煌々と   作:一般擬人化天然痘

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後編

 

 

 

「率直に言いますが、貴方に勝ち目はない筈です」

 

 一直線に赤熱し、融解した路地先にいる者に対して彼は何度でも語りかけるだろう。

 

「肉体機能、加護出力、眼の性能。何で比較しても私を上回ってなどいない」

 

 それは傲慢な性能の誇示ではなくの覆らぬ事実の提示、今までの経過を見れば誰にも理解できることだった。

 

「それでも、貴方は諦めることはないのですね」

 

 熱線により何メートルも吹き飛ばされ地面に叩きつけられても尚、市倉八尋の眼からは戦意が褪せることはない。

 日向直毘人はそのような眼の色を、鮮血のような真っ赤な瞳を知っているような気がした。

 

「気のせいですね、彼女はアレには似ていない」

 

 少なくとも記憶の中にあるあの昏い色を纏ったそれには似ても似つかない、血ではなく炎のようにあの明るい色は従妹のそれではない、どちらかといえばあれは。

 

「続けましょう、まだ終わっていません」

 

 それらを不要な思考であると断じて、完全に立ち上がった彼女へ向けて二重の軍靴の音を鳴らして飛びあがった。

 市倉八尋と初めて相対した時の走法の応用、狼猿跳法と呼ばれるそれは彼が愛用していた動きの一つである。

 もっとも剣と術を中心とした戦い方に切り替えてからは滅多に使わなくなった、炎の噴射飛行ではなくそれを選んだのは……彼に巻き付いた記憶がそうさせたのかもしれない。

 

 一方、市倉八尋の心中には焦りがあった。

 熱線の過剰火力により形代が二枚同時に失われた、残り一枚の形代でこちらに跳んでくる呪詛犯罪者をどうにかできるのか?

 性能で劣り後がない、正に絶体絶命の状況である。

 

「(考えろ、考えろ)」

 

 舞い散る神の浄炎、一番可能性があるのはそれだ。

 当たりさえすれば、確実に撃退できるだろう。

 

「(でも、どうやって?)」

 

 そこでふと思い出すのはいつかの班長の言葉。

 

『焦った時ほど、自分の持っているものを見落としちゃダメっすよ。八尋ちゃんは、他人の長所にはよく気づくのに自分はおざなりにしがちっすから』

 

「……これなら」

 

 もしかしたら今思いついたそれも通用しないかもしれない、それでも今できる最善の行動はそれだ。

 後ろ手に二つの小型祭具を取り出し、こちらへ飛び込んでくる敵を迎え撃つ。

 

「”地に満ちし繁栄の根源よ、刹那に咲く華の香の君よ”────」

 

 天狗を撃ち落とす為の矢が飛翔したことは第四隊長の眼にも鮮明に映った。

 

「(擲弾擬きと”舞い散る神”の植物、複合で来ましたか)」

 

 悪くない、だが組み合わせたとて既に見た手であることに変わりはない。

 空中で体を捩り、矢本体を避ければ注連鋼縄の代わりに呪瘤檀を縛り付けていた植物が大きく広がり、彼方へと飛んでいく矢の代わりに第四隊長に巻き付き縛り上げる。

 前回と同じように息を吸って吐くような自然さで浄炎より先に火をつけ焼き払い、僅かな煙を引き裂いて着地する。

 なんてことはない一連の動作。

 

 しかし後方からの爆音と共に不注意の代償が訪れる。

 

「ごほッ!ごッ、がッ!」

 

 突如として天狗が咳き込む。

 

「(毒、か!)」

 

 ……夾竹桃、という植物がある。

 低木あるいは中高木に分類されるその植物は美しい色の花を咲かせ、防火樹としても知られている。

 だが、それよりも特筆すべきなのはその毒性。

 強い毒性があり、吐き気や眩暈なども引き起こすそれは当然のように燃えた結果生まれる煙にも含まれている。

 他人より優れているとはいえ人間の範疇の肉体にとっては致命的な症状を引き起こしかねない。

 

「提案があります」

 

「ハーッ、ハァーッ……なん、でしょう」

 

 目の前で必死に息を整える呪詛犯罪者に対して祓魔師は続く一手を打ち出す。

 

「今ので一射であたしの形代は使い切りました、もうありません。でもこれはあんたが削ったことにはならなくねーですか?」

 

「……なるほど、確か、に」

 

「そして、あたしの全力を受け止めてくれたらあんたと一緒に行くのも考えてやります」

 

「……」

 

 その提案を前に第四隊長は顎に手を当て思案する。

 確実に殺せたのは五回、順当に考えるならばあと二枚の形代が残っている筈。

一枚は一度に複数焼き飛ばしたとしてもおかしくはない、浄火の炎を用いるのに消耗したのだろうか、いやしかし………

 

「(……ブラフ、でしょう 一撃での勝負なら確かに彼女に分がある)」

 

 浄炎、五号級すら燃やし祓ってしまうそれを通してしまえば無事では済まない

 この勝負には乗らず、ここから最後の一枚を削るのが……そこまで考えてようやく、それが愚かな思索であったことに気が付いた。

 

「ええ、他ならぬ貴方が誘ってくださるのなら、それも良い」

 

 今ここにある仕合は、勝利の為に相手の命を奪うことを理由に行われている訳ではない。

 これは目の前にいる一人の少女を自らの手元に置く為の我侭であるのだから、彼女の提案も受け入れなければ不公平だろう。

 いずれにせよ、彼女を手放すことはあり得ない、その為に全霊を尽くせば負けるはずがないのだ。

 八尋は少し後方に下がり弓を力の限り引き絞り、直毘人はそれに答えるように剣を前に突き出す。

 

「地に満ちし繁栄の根源よ、刹那に咲く華の香の君よ、燃え盛るが如き烈火の情よ」

 

「畏み畏み申し上げます、掛けまくも尊き、日向う御方よ、我らを見下ろす煌々たる御方よ」

 

 ここから始まるのは正に神事。御前にて最善を尽くし、その裁定を神という立会者に委ねるモノ。

 剣は振り上げられ、それはより強い火柱となって立ち昇る。

 

「願わくば、この矢に御名の如き生命の躍動を与えたまえ。我が手に華の香の護りを与えたまえ。不浄に裁定の浄火を与えたまえ」

 

「これよりは我が霊を賭した息吹、我が全てを焼べるが故の咆哮なればこそ我、強く請い願う」

 

 お互いの全霊が込められた熱は焔へと姿を変え、嵐の如く吹き荒ぶ。

 

「我が行いに瑕疵あらば、浄火に燃え灰となり人に二度と面を向かうべからず」

 

「皮は不要らず、肉は不要らず、骨は不要らず、臓腑は不要らず」

 

 矢には浄炎、剣には忌火がまとわりついてとめどなく溢れ。

 

「我が意、我が理に沿うならば─────この矢、外させたまうな!」

 

 不浄を許さぬ、遥か彼方の星にも届く火矢が解き放たれ。

 

「ただ、我らの尊き日向う御方よ──────我が焔を御照覧あれ!」

 

 激情のまま燃え滾る、日輪にも似た輝きを放つ火剣がそれを迎え撃つ為に振り下ろされる。

 両者が衝突し、強烈な火花と光が辺りを包んだ。

 






スペシャルサンクス
クサリさん(市倉八尋)
マキアンさん(第八班長)

ありがとうございます、完結までもうちょっと!
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