あの強欲の幼馴染になったのだが、どうにか生き残りたい 作:ウカンムリ
「...あのさぁ、君、こんな木造の軽い扉を開けるまでにどれだけ時間をかけてるの? ノックをされたら例えすぐに出れなくとも返事くらいはするべきだし、何より待たせてしまっている相手に失礼だと思う気持ちがあってしかるべきだよね。勘違いしないでほしいんだけど、別に僕だってドアの前で待たされたくらいで怒ってる訳じゃない。それを許容するくらいの器も僕にはあるさ。 でもさぁ、これだけの時間無視されてたら相手が傷つく可能性がある事くらい君の年頃にもなれば分かると思うし、それをしないっていうのは相手への配慮が足りなさすぎると思うんだけど。君はどう考えてる訳? まともに人と関わる生活をしていたらそれくらい察せて当たり前だし、これってある種の察するべき義務であって、皆がその義務を当たり前のように守るからこそお互いに気を遣わなくていい心地よい世界が作られるのだと僕は思うんだけど。それをしないというのは君が僕の優しさによる利益だけを享受して、その上で好き勝手に僕の優しさを踏み躙ってるって事だよねぇ。いや、まぁ、君が偶々お手洗いや何かの用事で僕のノックが聞こえてなかった可能性も僕はきちんと考えているよ? 僕はどこぞの眼の前に居る誰かと違ってきちんと他人の事情も鑑みれる人間だからね。 でもさぁ? もしそうならそれでせめてドアを開けた瞬間に謝罪の一言でも発するべきだよね。君がその行為すらも放棄して、今ここで僕の眼の前に平然とした顔で居るのは僕の存在に対する軽視であって、僕の権利に対する重篤な侵害だ」
「....」
はいでました。ドアを開けた瞬間これだよ。
何を言ったか分からん。全然分からん。文面で見てたらまだ文章の脈絡くらいはつかめるんだけど、リアルでこうやってまくしたてられるとほんとに分からん。初見でスバルが謝っていたのもこう聞くと改めて納得がいく。
まぁ、とりあえず分かったのは、最後の権利の侵害うんたらでこいつがリゼロのレグルス確定である事。そしてやっぱりこいつはあたおかだって事!!
「....で、君はここまで僕の権利を侵害したのに、この期に及んでまだだんまりを決め込むつもりじゃないだろうねぇ?」
「....なんでも聞きます」
こんなのこう答えるしかないじゃんか。他にどうすれば良いのよ。
...とは言え、恐らくだが、こいつはまだ強欲の権能を取得していない。確か原作でこいつは権能を取得するとすぐに村を滅ぼした筈。その村が今残っているという事は、これはそのイベントが起こる前。であれば今の所こいつに殺される可能性はまだ無い。
...というかもし権能取得済みだったらさっきのように「僕、権利、侵害」の三つを揃って捲し立てられた時点でアウトだったと思う。扉を開けただけでゲームオーバーとかどんなクソゲーですかそれ。
「...ふん、そうさ。謝罪の意志として、「なんでも」と相手に一度権利を委ねるのは今の君がするべき事として最もふさわしい行為の一つだ。そして同時に人の権利を尊重するこの場において何より大切な言葉でもある。自分が相手を傷つけた分、それを繕おうのは人として当たり前の為すべき事。君がそれを分かってくれていて何よりだよ。であればこちらも一度寛容な態度を持って先程の君の無礼を許すとしよう。人とは互いに許し合い、理解を深めていく物。こんな当たり前の事を分かっていない連中がこの世になんと多い事やら....」
よし、なんか知らんけどいけてる。
ほんとに一方通行にしか喋らないよなこいつは。
そして今回はなんとか3行分くらい聞き取れた。私ってば天才!!
「....さて、君の望み通り、僕はささやかな当然の権利を実行する訳だけど」
――ぞくり。と全身の身の毛がよだつ感覚がした。
さっきは少し強がってみたものの、状況は依然芳しくない事は自分が一番頭の中で自覚している。こいつに「なんでも」と言った以上、どんなイカれた要求が飛んでくるか分かったものではないからだ。
「....じゃあ――」
――ごくり
と唾を吞み込ませる。気づけば私の心臓はどくんどくんと鼓動を加速させていた。
何を要求するのだろうか? 俗に言う、あんな事だろうか? それともこんな事だろうか?
そんな事を考えている私に、彼が出した答えは――
「あそこの湖までの散歩に付きあってもらうよ」
「....」
――ん?
私の中での時間が止まる。理由は簡単、普通過ぎたから。
そんな肩透かしを喰らっていると、またもや彼からあれが飛んできた。
「あのさぁ、君。僕が君を散歩にわざわざ誘ってあげてるのに、それに対する返事が沈黙って、ほんとどーゆー神経してる訳? 分かるよ? 一カ月ぶりに外に出て、緊張するって気持ちもさ。久しぶりに慣れないことをすると、僕だって多少は躊躇するさ。だけどさ、僕がそれに気を遣ってわざわざ優しく話し掛けてあげてるのに、無視は無いでしょ、無視は。君って家でも普段からお母さんやお父さんの事を無視してるのかな? してないよね? してないでしょ。 してる訳がない。 つまりこれは君が僕を軽視している証拠であって、僕という存在に対する権利の侵害だ」
あぁあ、スイッチ入っちゃった....油断した。
ちょっとでも油断するとこうだよと、私は無自覚に溜め息をつく。
これも地雷になるかもしれないけど、もうどうでも良くなってきた。どうせ彼と付き合わなければならない時点で機嫌損ねないとか無理。番号で呼ばれて無表情で生きていくくらいなら死んでやるっつーの。
と、段々と諦めに向かっている私に、彼は案の定言葉を投げかけてくる。
――ただ、その話し方はさっきまでと違い、怒りもあるが、それ以上に困惑といえる感情の方が強くなっている気がした。
「....というか、僕は同じような事をさっきも言ったはずなんだけど、君ってそんな娘だったかなぁ? 勿論君の全てを理解しているなんて上っ面な綺麗事を吐くつもりは無いさ。ただ仮にも幼馴染として、君の事は長い間見て来たと謙虚な僕なりに自負してる訳。その上で言わせて貰うけどさぁ、僕の中の君は、僕の言った事を10秒で忘れるような猿だった記憶は無いんだけど?」
....なんか、もう黙っててもどうせ埒が開かないな。
という事で私は自分の言いたい事を正直に話す事にした。
これで機嫌損ねて好感度爆下がりして権能授かりイベントの時に真っ先に殺されてももう知りません。彼の機嫌を損ねないようあれこれ考える方が生き地獄ですよっと。
「――あぁ、いや、すみません。つい普通すぎる要求だったもので」
「....はぁ?」
私がそれを口に出すと、彼は目を見開きながら突然親に勘当を言い渡されたガキのような声で返事をした。
――こいつの間抜け面やっぱりちょっと面白いな
なんて思っていると、彼は突然私の前髪を払いながらおでこに手の平を当てて来る。
「....ちょっ」
困惑した私は後ろに一歩下がり、眉をひそめながら彼の顔をじっと見つめる。
ほっぺたは赤らめていないです。本当です。こんなよくある恋愛物みたいな展開をtsのおっさんとノミ以下でやらせないでください。
「...熱は無い。どうやら病に頭がやられた訳では無いようだ」
さっきの激情的だった彼とは打って変わり、今の彼の喋りは、かなり落ち着いた、まるで賢者のような音色であった。実際原作でも機嫌が良い時などはこうやって落ち着いて話す時もあった。だから特段驚くことでは無い。あくまでレグルス比の話だが。
「君さぁ、自覚が無いようだから言っとくけど、今の君の性格は前と比べて人そのものが変わったみたいだよ。まるで月とすっぽんさ。全く、幼馴染の僕に一言もかけず、勝手に人格を変えるなんて。君と付き合うという行為をする僕に対する権利の侵害だよ」
....こいつ、中々核心ついてきたわね。
と私は、人としてはかなり骨の髄まぜ見下していた彼を少しだけ見直す。最後の方はいつもどおり良く分からないとして。
「....じゃあ、絶交?」
返す言葉に迷った私は取り敢えず適当に言葉を選ぶ事にした。これで万が一実現出来たら万々歳である。
「馬鹿な事を言うね、君は。中身は確かに変わったし、前の方が好きだったのは事実さ。だけど、そんなものは些細な問題だ。君にはそれに代えられない素晴らしい物がある。――顔だよ。女の子で一番大切なのは処女と首より上だ。それが変わらない限り、君は僕の幼馴染。僕の女であり続けるさ」
あーごめん。こいつこういう奴でした。
私は原作を思い出しながらそのくだりが脳にするりと入り込む。
私はすかさず正直に思った事を彼に対して口に出した。
「うわー、最低。女の敵。死んだ方が良いよ」
「....きんみぃ。そろそろ僕に殺されたいのかい?」
「マジゴメン」
てへぺろっ。と舌を小さく出しながら右手でめんごめんごと手を降る。
少し切れかけてはいたが、彼はそれで一応許してくれたのか、若干口調を荒ませながらも「もういいからさっさとついてこいよ」と言ってくれた。
めでたしめでたし。
――――ん?
(....今のってよく考え直してみたら、流石に「下手に出てやってればいい気になるなよぉぉぉ!? 女がぁぁぁ!!」案件だったと思うんだけど....)
少し許された事を不思議に思いながら、私は彼の背中について行く事にしたのであった。
主人公は基本性格は元のままですが、少し元の精神にも自我を侵されています。一応そういう設定...。
レグルスの鬼畜度は?
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原作通りノミ以下、幼馴染にも容赦しない
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基本原作通りだが、幼馴染にだけ少し甘い