藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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20.藤真とVS.神奈川選抜

第1回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会。関東八県が招集され、二日間で三試合を戦い抜く特殊なトーナメント――敗戦即終了ではなく、敗者同士の順位決定戦によって全チームが等しく三試合を消化するという形式は、育成と評価を両立させる意図が明確だった。

 

東京都体育館にはすでに全チームが到着し、ストレッチや可動域を意識したジョグ、軽いスキルワークを終え、観客席に割り当てられたチームシートへと戻る流れが生まれていた。埼玉県選抜の藤真を含む数名は、ロビーに掲げられたトーナメント表で自分たちのゲームスケジュールを確認していた。その背後から、沈んだ空気を揺らす重量感のある声が届く。

 

「意外と早く再会できたな」

 

振り返れば、揃いのジャージに身を包む牧と魚住。藤真は、どこかぎこちない笑みを浮かべた。

 

「親善試合ぶりだね。牧……くん、魚住……くん」

 

「牧でいい。他人行儀だと逆にくすぐったい。……どうした、緊張でもしてんのか?」

 

「いや、何か前会った時より……二人とも身体デカくなってない?」

 

「そうか? この前測ったら176だ。魚住、お前は?」

 

「……191」

 

「ほう。大台突破か」

 

――確かに身長だけじゃない。身体密度が増えている。特に牧のフィジカルは冬の間に別物へ進化した気配がある。

 

藤真自身は、学習塾帰りに花形のバッシュ選びに付き添った際、店で測った170センチ。花形は185センチ。差は歴然だが、数字より大事なのは“どう使うか”だった。

 

「ともかく、初戦で負けるなよ」

 

「そっちこそ、足元すくわれないように」

 

視線が正面衝突し、目に見えぬ火花が走る。短い沈黙のあと、双方は無言で背を向け歩き去った。互いが初戦を突破する未来を疑っていなかった。

 

一方、二番目の長身を誇るはずの魚住は、ふと自分の存在が空気のように扱われた気がして、胸中に複雑な靄を生んでいた。

 

――俺って、眼中にないのか……?

 

◆◆◆

 

同時刻に始まったAコート(神奈川vs千葉)とBコート(埼玉vs栃木)は、全く異なる展開を示した。

 

Aコートの神奈川は序盤から1-2-1-1ゾーンプレスを仕掛け、前半だけで20点差。ターンオーバー製造マシンのように機能するフロントラインと、牧のフェイスガードから始まるショートトラップが千葉の判断を大きく狂わせた。後半は主力温存、最終スコア66-46。危なげない勝利だった。

 

一方、埼玉は栃木の外角精度に翻弄され、開始直後に3連続3Pを被弾。前半を10点ビハインドで折り返すという予想外の苦戦。だが後半、藤真が「ゾーンに入った」。6本連続成功を含む3Pの雨は、会場全体の空気を一変させた。結果は63-60。埼玉は薄氷の勝利を掴んだ。

 

牧は、神奈川のベンチに下がりながらも一貫して隣コート――正確には藤真を凝視していた。

 

――圧巻だったな。外角の連続成功に対し、マークが強まった瞬間にドライブとアシストへ切り替える判断速度。以前はフィジカル不足が弱点だったが、下半身の強度が明らかに上がっている。奴め、冬の間に相当“バランスの土台”を鍛えたな。

 

さらに埼玉県選抜全体の構造も観察する。

 

――全員が上手い。だが突出点はない。つまりチームを全国レベルにしているのは、藤真一人の存在。藤真が指揮棒を握れば彼らは強豪に化ける。そうでなければ普通の好チームでしかない。やはり、恐れるのは唯一人、藤真。あの男に他ならない。

 

シュート力、アシストの質、ディフェンスセンス、そしてファウルをもらう技術。“PGとして欲しい能力”を網羅している。牧は藤真を、純粋な技術値では自分よりも遥か高みにいる存在とみなしていた。

 

――だが、こっちも何もせずにいるわけじゃない。次に当たれば勝つ。

 

他方、藤真も神奈川の試合を分析していた。

 

――あの猫背のセンターは怪我か。代わりに入っていたのが魚住。……分かってはいたが、やはりデカい。1-3-1の中央で手を挙げるだけでも立派な“壁”だ。しかも猫背じゃない分、視覚的圧迫が倍増している。まだ動きはぎこちないが、サイズは既に脅威だ。

 

続いて牧の攻略法について思考を巡らせる。

 

――牧のプレーは、原作通りになってきたな。前とは違って3Pのバスケットカウントまで狙ってくるようになった。あの“当たり負けしない接触処理”に3Pプレイが加わったら、止める手段が限られるな。

 

そして、神奈川はアップテンポ志向で、フリースロー獲得率の高さを基盤にした“効率のかたまり”のようなチームであると藤真は分析していた。魚住の仕上がり次第では、埼玉も大きく揺さぶられる――藤真の読みはどこまでも客観的で現実的な視点の上での解析であった。

 

◆◆◆

 

次戦、いよいよ神奈川対埼玉。因縁の両チームがコートに整列すると、牧は燃えるような眼差しで、藤真は深い静寂の中で集中を研ぎ澄ませていた。

 

ジャンプボールは魚住が制した。だが埼玉のフォワードが巧みなフロントカットで奪い取る。埼玉県選抜の攻撃となり、藤真が早速ボールを受けようと前へ出た瞬間、牧がジャージを掴むのではないかと思うほどの密度で張り付いてきた。

 

同時に、他の4人がペイントを基点にゾーンを形成する。

 

――なるほど、今度はボックスワンって訳ね。流石は強豪ひしめく神奈川選抜。色々やってくれるじゃない。

 

牧がマンツーマンで徹底的に“ボールすら触れさせない”ディナイを敢行する。他の4人はゾーンでペイントを固め、ボール保持後はすぐ複数ヘルプに入る構造であった。

 

――確かに合理的だ。エース潰しの基本形にして、最も導入しやすいシステムだしね。

 

ボックスワンは練習量が少なくとも形になりやすく、また外角主体のPGには精神的負荷が大きい。ディナイを剥がすための無駄走りが増え、ボール保持後のヘルプの速さも脅威になる。

 

だが藤真は、戦術が提示されればされるほど血が熱くなる性質の選手だった。

 

「全く、味な真似をしてくれるじゃないの。良いね、こういう展開。凄い燃えるよ。……行くぜ、牧!」

 

「来いよ、藤真ァ!」

 

二度目となる“怪物”対“神童”の激突。会場の空気が張り詰め、観客ですら呼吸を浅くする。そして、コート端では魚住が静かに視線を落とした。

 

――“呼び捨てでいい”って、あの時言ってたら……俺のこと、もっと覚えてくれたんだろうか。

 

背が伸びても、スタメンに名を連ねても、埋まらない距離がある。だがその距離こそが、彼を次のステージに向かわせる燃料でもあった。物語は、戦術と意地と成長が絡み合う本戦へ突入していく。

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