藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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25.藤真と三井

都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会。第2回となる今大会は、昨年に続き東京を舞台としたが、今年は秋田・新潟など四県が新たに参戦し、出場チームは12。群雄割拠の色合いを一段濃くした大会となった。

 

ミーティングルームに貼り出された対戦表がめくられた瞬間、埼玉県選抜の面々から小さくない唸りが漏れた。

 

「……マジかよ」

「初戦で、これかよ」

 

埼玉の一回戦――そこには、忌までもあり宿命でもある文字が刻まれていた。

 

神奈川県選抜。

 

藤真にとっては“三度目”の邂逅。これまで二戦二勝。しかし、内容はどれも紙一重だった。むしろ勝ったからこそ分かる――次こそ、奴らは牙を研ぎ澄ませてくる。

 

藤真は心の奥で静かに息を整える。

 

―――牧と魚住は、今年も選ばれているはずだ。特に牧。この一年間の“進化”は、想像を遥かに超えている。

 

牧の所属校は神奈川県代表として関東・全国に名を刻み、牧はエースとして堂々と全国区の扱いを受けていた。月バスの誌面に“日本中学界期待のホープ”と紹介された記事を

藤真は忘れていない。

 

対して自分は――県予選で足踏みを強いられ続けた。その差は、数字以上に精神を侵す。

 

◆◆◆

 

牧のプレーを生で見た最後は、昨夏の全中。秋田まで叔父と二人で出向き、藤真は“怪物”が全国の檜舞台で跳ねる姿を眼に焼きつけた。

 

牧の身体は一回り大きくなり、フィジカルとスタミナは既に完成形の域。ドライブは止まらず、DFも圧迫し続ける。ベスト4は逃したものの、その存在感は群を抜いていた。

 

―――将来の神奈川No.1。いや、全国でもトップエリートだ。

 

あれをどう止める。どう勝つ。自分なら、どの策で封じる。

 

藤真の脳内は既に“次の一戦”へ回っていた。選抜合宿の初日、藤真は総監督へ神奈川対策の“戦術パッケージ”を三つ提出した。

 

牧を止めるには、単に徹底マークでは足りない。牧のドライブを“誘導”し、アウトサイドの三井に“射程外から打たせない角度”を作り、魚住のスクリーンに対しては“ハードショウからのリトリート”で誤差を削る。

 

短い準備期間など関係なかった。藤真は異常な集中で、3月の冷たい空気を切り裂くように動いた。

 

◆◆◆

 

大会当日。ロビーの掲示板前。

 

「久しぶりだな、藤真」

 

牧の声は以前と変わらぬ低音だが、その奥に潜む圧力は格段に増していた。隣には巨大な影が佇んでいた。

 

――魚住。去年よりさらに伸びている。195……いや、196か。

 

藤真はわずかに息を呑む。

 

「今日もよろしく。……それと」

 

牧が頷き、横の少年を示した。

 

「紹介しておく。うちの点取り屋――三井だ」

 

「よろしくな。前大会のMVP」

 

手を差し出した三井の目は、静かでありながら熾火のように燃えていた。

 

―――三井寿。“諦めない男”。元中学MVP。いや、今は取る前か。

 

この“神奈川”が、本気で埼玉を叩きに来ているのが分かる。藤真は落ち着いた声で返す。

 

「強力な3Pシューターが加わって、ますます厄介になったね」

 

牧は薄く笑った。

 

「油断してる余裕はないぜ。今回は勝ちに来た」

 

その空気を切り裂くように、低い声が背後から降ってきた。

 

「去年の借り、今回で返すべ」

 

深津が茨城県選抜を率いてこちらへ歩み寄る。その存在感は静かで、だが日本刀のように研ぎ澄まされている。

 

「決勝で待つ……べ」

 

牧が冷ややかに返す。

 

「そもそも、勝ち残れるのか?」

 

藤真も淡々と重ねる。

 

「俺たちが負けると、そう言いたいのかな?」

 

深津は一切表情を変えず答えた。

 

「……んだべ」

 

わずか一言で、空気は一気に緊張を帯びる。その刹那、別の声が割って入る。

 

「藤真さんですよね。俺、沢北っていいます。今日、楽しみにしてますよ」

 

東京選抜のジャージ。その名前に、藤真の思考は瞬時に加速する。

 

―――……!“あの”沢北か!

 

なぜここまで一堂に会する――そう思う暇もなく、三井がわずかに苛立ちを覗かせた。

 

「つまりよー、俺たちが負けるって言いてぇのか?」

 

沢北は微動だにせず答えた。

 

「……ですけど?」

 

静寂が鋭く張りつめる。藤真と牧が間に入り、空気が爆ぜる直前に大会運営が駆け込んでくる。

 

「お前ら!集まって何してる!」

 

選手たちは一斉に散る。藤真は深く息を吐き、胸の奥に熱が宿るのを感じた。これが“今年の本気”なのだ。

 

◆◆◆

 

神奈川県選抜のスターティングメンバー。PGに牧、SGは三井、C魚住の出し惜しみゼロのラインナップであった。最大戦力で序盤からフルスロットルの布陣だ。

 

―――初手から仕掛ける気か。いいだろう。受けて立つよ神奈川選抜。

 

ジャンプボールは魚住が難なく制す。埼玉のディフェンスはマンツーマンであった。藤真は牧をストロングサイドへ“誘導”するように構える。

 

―――完封は無理だ。だが、走らせる方向はこちらが決める。

 

藤真はドライブ・ラインを“ミドルライン方向へ”絞る。牧の突破力を“コントロールする”ためのディレクションであった。

 

予定どおり牧は藤真を割り、埼玉は即座に二枚のヘルプをつけて包囲網を形成――だが、牧の判断はさらに速い。センターサークル近くまで下がった三井へキックアウト。

 

三井は一瞬のセットで――放った。弧は高く、長く、美しかった。10メートル超のロング3Pシュートは理屈を超えた“精度”で、リングを正確に射抜く。

 

観客が一拍の沈黙のあと爆発する。藤真は、口角だけをわずかに上げた。

 

―――派手に来たね、神奈川は。去年の魚住のアリウープに続いて、今年は三井の超長距離。面白い。なら、こっちも用意してきた“答え”をぶつけるだけだ。

 

一年間くすぶり続けていた執念が、胸の底で静かに火を噴いた。

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