藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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29.藤真と試合観戦(前半)

一回戦が終わり、勝ち上がったチームがそれぞれシード校と当たる午後。体育館の照明はわずかに熱を帯び、観客のざわめきがコートの木床に震えとして伝わっていた。

 

藤真は観客席の最前列で大会パンフレットを手に、静かにページをめくっていた。藤真の視線は、単なるファンのそれではない。“コートに立つ側の視線”で、陣形、ローテーション、選手の癖――すべてを読み取っていた。

 

■ 神奈川県選抜 男子

№04 牧 紳一 2年 178cm/PG

№05 魚住 純 2年 195cm/C

№07 三井 寿 2年 174cm/SG

 

――負けたから言うわけじゃないが、神奈川はやはり強い。牧、魚住、三井。あの“三本柱”の存在は大きい。しかも一回戦の勝利でチームのリズムも良い。

 

だが、一日二試合。中学生の身体には確かに負荷が来る。強豪の自覚があれば、当然その先も計算して準備しているはずだが…。

 

藤真はページを閉じ、コートの選手たちを見る。体格、歩幅、視野、足の運び――微細な情報を積み重ね、頭の中で戦力図を描く。

 

神奈川の強さはスター三人に収束しない。牧の“ペイントタッチ”の頻度、三井のキャッチ&シュートに至るセットの精度、魚住のディープドロップの安定感。どれも、県選抜として恥じないレベルにある。

 

一方で――藤真の視線は別のパンフレットページへと滑る。

 

■ 東京都選抜 男子

№07 花形 透 2年 190cm/C

№14 沢北 栄治 1年 173cm/SG

 

――花形は柔のセンター。身体をぶつけて制圧する魚住とは真逆のタイプ。ステップワーク、ファンダメンタルの正確さ、空間認識力……そこに沢北の爆発的な1on1が加わる。

 

そしてもう一人。練習中にもかかわらず、全く緊張を見せず欠伸をしている一年。藤真は思わず小さく笑う。

 

№15 仙道 彰 1年 177cm/SF

 

――敵であれ、味方であれ、仙道は試合の空気を変えられる稀有な選手だ。原作ファンとしても、プレイヤーとしても、この対戦はたまらないね。

 

藤真は鞄からノートを取り出し、無意識に正確な円を描いていた。そこへ、スクリーンの角度、ヘッジの深さ、ミスマッチの誘導位置などを書き足していく。

 

◆◆◆

 

試合開始。最初に空気を変えたのは沢北であった。

 

フロントコートに入るや否や、ディフェンスの三井との距離をわずかに測り――ハンギングドリブルを一拍ため、重心を誘った瞬間、クロスオーバーで切り裂いた。

三井の足がわずかに流れ、次の瞬間には尻もちをついている。

 

――すげぇな。あれは“ズラし”の質が違う。

 

沢北はパスという選択肢をほとんど消し、ペイントに侵入してからの ワンハンド・プルアップ を連発。牧のヘルプが届く前に撃ち切っていく。

 

逆サイドでは仙道がゆったりとリズムを取りながら1on1。ストレートラインを切られても、すぐにスピンバックで逆へ。まるで相手の重心移動を先読みしているかのような動きだった。

 

――一年が二人、ここまでオフェンスの核を握るとはな。

 

藤真は感心しつつも、視線をインサイドへ移す。技術と質量の衝突。ペイント内では、花形と魚住がぶつかっていた。だが“ぶつかる”と言っても、花形は真正面から当たらない。

 

魚住がポジションを取りにくるたび、花形はレッグワークで半歩外し、胸を正面にさせない。真正面の接触を避けることで、魚住のパワーを殺している。

 

魚住のエントリーパスに対しては、花形は前に出すぎず――後ろに下がりすぎず――“フロント→3/4→真後ろ”

の三段階で位置を調整していた。

 

これは、ポストディフェンスの基本でありながら難度の高い技術だ。さらに花形はオフェンスになると、魚住を外に引きずり出す。ハイポストからのフェイスアップ。そこから首のフェイント一つで間合いをズラす。

 

三井からのパスを受けた瞬間、魚住の重心が内へ寄ったのを読み、花形は ワイドスタンスのキャッチ&シュート に移行した。C(センター)の位置からの3P。魚住の手は届かず、放物線は静かにリングへ落ちた。

 

スコアは19-8。神奈川がたまらずタイムアウトを取る。

 

――花形、上手くなったな。

 

藤真はわずかに目を細める。花形は、藤真が冬に伝えた「現代センター論」を地道に飲み込み、ストレッチ能力を磨き上げてきた。ビッグマンが外に出ることでスペーシングが生まれ、沢北・仙道という点取り屋はペイントへ容易にアクセスできる。この構造が、今の東京都選抜を支えていた。

 

◆◆◆

 

――感謝してる、藤真。お前の言葉がなければ、ここまで来れなかった。

 

花形にとって藤真は、“塾の同級生”ではない。バスケットの未来を提示してくれた、数少ない理解者だった。

 

いつか同じコートに立てる日を――花形はひそかに望んでいた。

 

前半が終了し、東京都選抜が10点のリードを保ったままベンチへ戻る。その間、牧は精彩を欠いていた。一回戦での決着の仕方が心に残り、どこか集中が切れていたのだ。だが――ハーフタイム、ふと観客席の一角を見た瞬間。藤真が、静かにノートを取りながら戦況を分析する姿が目に入る。牧の胸に、何かが戻ってくる。

 

――見ているのか、藤真。ならば、勝者としてそれに相応しい姿を見せなくてはな。

 

怪物と称される男の瞳が、音もなく鋭さを取り戻した。後半。牧はようやく、闘志のスイッチを深く押し込む。空気が変わる。体育館に、静かで重い“圧”が満ちていく。

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