藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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32.藤真と進路

東京都選抜は準決勝、秋田県選抜のハーフコートマンツーマン+強烈なドロップカバーに手を焼きながらも、30分にわたるフィジカルゲームを制した。しかし、その代償は大きい。主力陣の疲労度は高く、特に花形は終盤のリムプロテクトで何度も激しい接触を受けていた。

 

そして迎えた決勝。相手は、司令塔・深津を中心としてセットオフェンスと試合管理の両方が高校レベルを超えた完成度を誇る茨城県選抜だった。

 

試合冒頭―――茨城は深津のコールで「Horns Flare(ホーンズ・フレア)」を展開。トップに立つ深津が2枚のハイポストスクリーンを使い、左右に揺さぶってくる。東京都選抜はここをスイッチで対処したが、スイッチ後のミスマッチを深津は逃さなかった。

 

深津はディフェンスのズレを読み、「スプリット・カット」→「ダイブ」→「ショートロール」と連動した2ndアクションを即座に指示。東京都はローテーションが半拍遅れ、簡単にゴール下を割られる。

 

―――ゲームメイクの差。序盤からその差は歴然だった。

 

観客席で見つめていた藤真には、東京都選抜の構造的な弱点が痛いほど見えていた。

 

“オフェンス偏重”―――。東京都選抜は「5アウトの星型配置」からの1on1に頼りすぎていた。ボールは止まる。オフボールのスクリーンは少なく、ハンドオフも形だけ。2ndアクションへの移行が遅い。

 

―――単発攻撃。セットじゃなくて個人の読みと瞬発だけ。これじゃ“強度の高い相手”には通用しない。

 

ディフェンスも同様だった。東京都は強めのプレッシャー・マンツーを採用していたが、ローテーションの基準が曖昧で、カバーの大半は花形頼り。ヘルプの読み、ポジション取り、ペイントの守り―――花形が1人で支えているような状態だ。

 

“チームより大きい選手はいない”。その言葉の意味が、藤真には痛いほど突き刺さる。

 

◆◆◆

 

茨城は、その弱点を徹底して突いた。序盤から花形に対して意図的にペイントアタックを連発。ドロップカバーの裏を取り、わざと体をぶつける形でフィニッシュに持ち込む。

 

―――「判定の境界」を狙ったアタックだ。

 

そして思惑通り、花形は開始10分で3ファウルに到達する。

 

そこから東京都の守備は崩壊した。花形が下がれば、東京都のインサイドはスカスカだ。茨城は即座に「フレックス・オフェンス」へ移行し、連続でバックカットを決める。ローテーションは遅れ、リムプロテクトは皆無。オフェンスも花形のアウトレットパスがなくなり、トランジションのテンポが完全に死んだ。

 

中盤以降、仙道と沢北が1on1から連続得点を奪い、点差を一桁に戻す場面はあった。だが―――

 

深津はその直後にゲーム全体のテンポを“スローダウン”させる。わざとゆっくり運び、東京都の勢いを断ち切る。ハーフコートでは時間を使い、終盤はハイピックからの「サイド・スリップ」で確実に得点を積み上げた。

 

テンポコントロール、弱点の突き方、ファウルマネジメント、クラッチ局面での判断。

どれをとっても深津は一枚も二枚も上だった。

 

―――さすが“将来日本一のPG”と評されるだけはある。去年よりもディフェンスのスライドが速い。パスの角度の作り方も、判断も、全部レベルが上がってる……。牧も深津も、本当に……。No.1 PG争い、面白くなってきたじゃないか。

 

藤真は小さく笑って立ち上がった。

 

表彰式では沢北が得点王、深津がMVP。結果は茨城優勝、東京二位。控え室に戻る選手たちの背には、敗北の重さと課題がくっきりと刻まれていた。

 

◆◆◆

 

表彰式後、ロビー。花形が藤真を見つけ、まっすぐに歩み寄ってきた。

 

「藤真……ベスト5に入れた。お前とストリートで練習したおかげだ。本当に……ありがとな」

 

不器用なほど真面目な言葉。その誠実さに、藤真の胸がじんわりと熱を帯びる。

 

―――君って奴は、本当に……まっすぐすぎる。

 

だが、花形はその表情に翳りを落とした。

 

「藤真……塾辞めるって聞いたが……本当か?」

 

花形の声音は震えていた。その“不安”を前にして、藤真は逃げることをやめる。

 

「そうなんだ。実は4月から―――アメリカに行く」

 

周囲がどよめく中、花形だけが―――藤真の目をまっすぐ見ていた。言葉を待っている。逃がさない瞳だった。

 

「帰ってくるよ。二年後にね。進学先も決めてる。神奈川の高校に転入するつもりなんだ」

 

それだけ告げ、続きは「塾の最後の日に話す」と約束した。

 

◆◆◆

 

その夜。月明かりの下、塾の前の植込みに並んで座る二人。

 

「単刀直入に言う。藤真……俺はお前と同じ高校でバスケがしたい。だから―――」

 

花形の声は強張っていた。だが、その奥にある“決意”も藤真には分かった。藤真は静かに答える。

 

「僕も、花形と同じチームでやりたいと思ってたよ。けど……いいの?翔陽に行くつもりだったんじゃないの?」

 

花形の肩が揺れる。まだ誰にも言っていないはずの進学先―――なのに藤真は知っていた。

 

「実はね。僕の所にも翔陽から特待の話が来てる」

 

花形は息を呑む。藤真はゆっくりと続けた。

 

「NBAで優勝できないスター選手はたくさんいる。その理由は色々だけど……“チーム”を選べなかった選手もいる。僕は同じ道を歩きたくない。NBAへ行くために、アメリカで力をつける。でも―――高校で全国制覇したい気持ちは、それに負けないぐらい強いんだ。チームを勝たせるプレーヤーになりたい。だから……仲間が必要なんだ」

 

花形の胸に熱い何かが込み上げる。息が震えるほどに。

 

「だから手を貸してほしい。花形……君が必要なんだ。独りは……もう辛い」

 

言われた瞬間、花形の喉が詰まった。藤真の“苦しさ”と“覚悟”が、真正面からぶつかってきたからだ。

 

―――ああ、そうか。お前はいつだって……俺を“1人の選手”として見てくれるんだな。

 

「……分かった。俺はそこで……お前を待つ」

 

藤真は左手を差し出した。利き手ではないその手を、花形は強く握り返す。二人の未来への誓いが、掌の熱に変わって伝わった。

 

◆◆◆

 

数日後、藤真はアメリカへ旅立つ。

 

そして―――1991年4月。約束を違えることなく帰国した藤真は、神奈川県の高校へ転入する。藤真健司、高校2年の春。サウスポーの美少年は身長184cm。

 

―――その眼には、二年前とは違う“覚悟”と“未来を切り開く力”が宿っていた。

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