藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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34.藤真と魚住

―――あれが“藤真”か。中学時代、あの“牧”と競り合っていたという噂は聞いていたが……。

 

部員の自己紹介が終わり、帰国子女の新入部員へ視線を向けた高砂は、静かにその動きを観察していた。中学時代の評価などあてにならない──そう思っていた部員たちも、初日から全国トップクラスと言われる海南の練習に余裕の表情でついてくる藤真の姿を前に、噂の信憑性を徐々に認めざるを得なくなっていった。

 

藤真は表情を変えず、淡々とメニューをこなす。初見のドリルでも飲み込みが早く、配置理解・判断・処理速度のいずれも落ち度がない。バスケIQの高さを示す瞬間が随所にあり、部員たちの“疑い”はすぐに“警戒”へと変わっていった。

 

その日の仕上げに、監督は前半のみの紅白戦を指示。藤真と高砂は同じBチームに入った。部員達は、アメリカ帰りの新入生がどれほどのものかと半ば好奇の目を向けるが、藤真はその視線をいなすように静かに「ミニゲームは、右手だけでプレーする」と告げた。

 

“利き手”しか使えないのか――誰もがそう誤解した。しかし、その真意を理解できる者はまだいなかった。

 

ミニゲームが始まると、藤真のパフォーマンスは一気にその誤解を覆した。

右手のみでのハンドリングは驚くほど滑らかで、ノールックパスは読みの深さを示し、アウトサイドは正確にリングを射抜く。184㎝というPGとしては恵まれた体格を活かし、高い視点からアシストを量産した。

 

―――まるで、盤上の駒を動かすように最適解を選び続けている。

 

ベンチから見つめる高頭監督は、藤真の判断精度の高さに舌を巻いていた。海南が長年探し求めてきた“ゲームを設計する”タイプの司令塔──その完成形の片鱗が、そこにあった。

 

藤真はほぼ“右手オンリー”のまま20得点4アシスト2スティール。ゲームはBチームがAチームを35–26で下した。

 

―――「海南に天才はいない」そう言い続けてきたが……どうやら訂正する時が来たようだ。

 

ミニゲーム後、牧・花形・藤真・高砂の同学年組はコート整備をしながら、動きの意図を言語化し合う“感想戦”を自然と始めていた。互いに刺激し合い、競い合う関係が、さらにチーム全体を引き上げていく。

 

牧と藤真。コートでは爛々と火花を散らすが、一歩離れれば幼なじみのように気の置けない会話に戻る。海南史上最高のライバル関係と語られる二人の物語は、この日から幕を開けるのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

フロアに集合の声がかかる。キャプテンから一週間後の練習試合の相手を伝えられた瞬間、藤真はわずかに目を細めた。

 

「……陵南か」

 

練習後、藤真は1年生のセンターを誘い、静かに3Pの自主練を続けていた。牧・花形・高砂から聞いていた“ビッグ・純”こと魚住の成長ぶりは、藤真にとって格好の情報だった。精神的な弱さは消え、守備の要としてチームを支える存在になっている──そう彼らは評価していた。

 

その横でシュートを打つ1年生センター。線は細いが、フォームは綺麗だ。藤真は静かに言葉をかけた。

 

「毎日500本。継続できるなら、来年にはスタメンを狙えるよ」

 

自分自身も、アメリカで磨いた3Pをさらに研ぎ澄ますように、黙々とリングに向かう。

 

―――新チームの実力が試される最初の一戦。勝利してインターハイ予選に弾みをつける。そして陵南には……“あの問題児たち”も加わったんだよね。

 

藤真は胸の奥に微かな高揚感を覚えていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「チューーッス!」

 

元気な挨拶とともに陵南が体育館へ入ってくる。

 

「来たか……陵南だ」

 

「魚住、本当にでかくなったな……」

 

海南の選手達がひそひそと小声で話している中、旧知の仲である監督同士が二三言葉を交わした後に固く握手を交わす。互いに因縁深い二人は、言葉少なに火花を散らしていた。

 

スタメン発表。陵南はCに魚住、SFに仙道。海南はPG牧、SG藤真、C花形。

 

「久しぶりだね、魚住」

 

藤真が手を差し出すが、魚住は黙って目を合わせるだけでセンターサークルへ入る。

 

「……今日はウチが勝つ」

 

「ほう、言うようになったね」

 

―――“俺“じゃなくて“ウチ”。中学の時とは違う、チームの柱としての視点……成長したって訳ね。

 

藤真は静かに気持ちを整えた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ティップオフ。陵南ボールで始まる。牧が前線から激しくプレッシャーをかける。その強度は“守備しながら攻めている”と言われるほどだ。

 

藤真もセカンドガードに対し、間合いを詰めたタイトなディフェンスを仕掛けた。

二人の守備強度は、ボール運びを困難にする。牧がスティール。そのまま速攻で先制点。

 

―――さすが。あの強度に耐えられる高校生なんて全国でも片手で数えるほどだよ。

 

続く守備では藤真がパスコースを読み切り、連続スティールからトランジション3P。海南の両ガードが試合の主導権を握る。

 

たまらず陵南がタイムアウト。

 

その後、仙道が組み立て役を担い、魚住とのホットラインからアリウープが決まる。

会場がどよめいた。藤真は思わず小さく笑った。

 

「いい連携だね。二人とも、見違えたよ」

 

すでに牧は走り出している。藤真は池上とマッチアップ。池上の守備意識の高さは評価できるが、藤真はその上を行く。

 

前傾姿勢から上体を起こすわずかな“間”。そこにシュートフェイクを混ぜた“シュートベジテーション”。引っかかった池上を一歩で置き去りにし、カバーに跳んだ魚住の裏へバウンドパス。花形のダンクへと繋がった。

 

次のポゼッションでは、ドライブの圧力を逆手に取り、ステップバックから3P。

池上は反応し切れない。

 

―――抜く圧力と、動きの緩急。それを“相手に感じさせる能力”が化け物じみてる。

 

花形はかつての経験を思い出しながら、小さくため息をついた。ブザーが鳴り、ハーフタイム。海南は15点リードで折り返した。

 

―――これが“全国区”か。けど……それでこそだ。

 

陵南1年・福田の瞳には、闘志の炎が宿っていた。

 

後半、陵南は仙道をPGへスライドし、福田を投入。海南は牧を下げ、藤真をPGに置き、高砂をPFへ。新チームを見据えた布陣に切り替える。交代したばかりの福田が、藤真の前に立つ。

 

「……オレが倒す」

 

「言うねぇ。でもまずはウチの高砂を越えてからにしようか?」

 

挑発でも驕りでもない。ただ、事実を述べただけの静かな声音だった。藤真は“神奈川の神童”としての実力を隠すつもりはなかった。

 

ここからが、本当のゲームだった。

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