藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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35.藤真と田岡茂一

福田とマッチアップした高砂へボールが入る。背中でディフェンスの押し出す力を感じ取りながら、軸足を中心に鋭く回転するスピンムーブ。福田はその変化に反応しきれず、あっさりとかわされた。

 

しかし、その先には魚住がいた。タイミングを見切った完璧なヘルプ。高砂の放ったレイアップは、豪快なブロックによって弾き飛ばされる。海南ボールにはなったが、魚住の守護範囲の広さとカバーリングの早さを改めて印象づけるプレーだった。

 

―――福田の個人守備はまだ粗い。だが、問題は“奥の番人”だ。

 

魚住は、もはや“高校トップクラスのリムプロテクター”と言って差し支えない存在になりつつあった。前半、海南がつくったリードは速攻とアウトサイド中心。インサイドからの得点は藤真のスクープシュートと花形のダンクのみ。それ以外のペイントは、ほぼ魚住のブロックと威圧で封鎖されていた。

 

―――2メートル級でこの機動力。日本じゃ稀有だよ。アメリカなら同タイプはいるけど、ここまで動けるセンターはそうはいない。

 

花形は魚住を避けるようにフェイダウェイを放つが、わずかにリングに弾かれる。リバウンドを仙道が確保して速攻へ持ち込んだ瞬間、藤真が戻りのラインに入る。

 

全力で止めに行くのではなく、仙道のスピードを“遅らせる”ための位置取り。トランジションディフェンスの基本を徹底し、その数秒で味方が戻る時間を作る。

 

―――ああいう地味な芸当を徹底できるのが藤真さんなんだ。

 

神はスコアボード越しに感心を深める。仙道と藤真、初対決。藤真は仙道に対し、初手からかなり厳しいタイトディフェンスを敷いた。

 

「いいディフェンスをする……」

 

陵南ベンチで田岡が思わず漏らす。“埼玉の神童”と呼ばれた藤真の存在は、田岡にとっても忘れがたい。中学時代からスカウト最上位リストに載せていた逸材だった。

 

しかし、接触した頃にはすでに留学が決まっており――魚住や三井に確認を取ると、高校2年になったら帰国すること、そして二人には“餞別のノート”を渡していたという。

 

田岡は魚住からそのノートを見せてもらった瞬間、言葉を失った。

 

センターの動きの基礎、ポジショニング、トレーニング理論、練習ドリル。さらに、課題構造と改善要因を3×3のマトリクスで整理した“マンダラチャート”の活用方法まで書き込まれている。一介の中学生が作ったとは到底思えないほどの完成度。田岡は何度も確認した。

 

―――本当に……これを“藤真”が?

 

以降、田岡はそのメニューを陵南でも導入。魚住のみならず、選手一人ひとりの思考や習慣、課題に合わせた指導が可能になり、チーム全体の底上げに繋がった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

コートでは藤真が、牧をも上回る支配力を見せていた。

 

神は藤真の3Pに目を奪われる。「外が入る司令塔」が相手にもたらす脅威を、彼はまだ1年ながら直感的に理解していた。ディフェンスを引きつけ、仲間が楽に得点できる状況を作る。まさに“ゲーム全体を押し広げる存在”。

 

仙道は藤真のパスに圧倒されていた。視野、タイミング、パスレンジ、判断速度。どれを取っても今の自分よりワンランク上。試合中、仙道はひたすら盗もうと食らいつく。敗色は濃い。だが、仙道の表情には陰がない。むしろ、胸中には新しい火が灯っていた。

 

―――オフェンスは1on1だけじゃねぇ。パスって……こんなに奥深いんだな。

 

その日の夜から仙道は、藤真が実戦で見せたビハインドパスやレーザービームの再現に没頭するようになった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

一方、福田は高砂に徹底的に叩きのめされていた。それでも田岡は交代させない。

 

福田が下を向く必要はない――そう感じていた。試合後、田岡は叱るのではなく、福田の“攻める気持ち”を評価し、前を向かせた。その日からの福田の上達は、誰の目にも分かるほど急激だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

練習試合が終わり、帰路につく陵南。話題の中心は当然、藤真だ。

 

トリプルダブル。仙道と池上を翻弄し続けた1on1の技術。異質なアジリティと持久力。そして、凡人では到底できない創造的なプレー。彼はまさに“天才”の定義そのものだった。

 

その輪から離れ、駅のベンチで暗く沈む池上に、魚住が声をかける。

 

「……池上。言わなかったが――藤真は“左利き”だ」

 

池上は目を見開いた。

 

「今日のシュート、全部“右手”で打ってた。3Pも、スクープもだ」

 

池上は愕然とし、沈み込む。仙道はその言葉を聞き、ふと中学時代に観た藤真の左手プレーを思い出した。

 

―――越えるべき存在が、また一人増えたってことね。

 

電車がホームに滑り込み、初夏の光が差し込む。まもなくインターハイ予選が始まろうとしていた。

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