藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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36.藤真とvs.三浦台高校

インターハイ予選大会5日目。4つのシード校がついに姿を現すとあって、スタンドは既に人波で膨れ上がっていた。A〜D各ブロックを勝ち抜いた4校が最後に激突する決勝リーグ。激戦区・神奈川からインターハイに進めるのは、最終的にたった2校―――昨年その権利を掴んだのは第1シード海南大附属、そして第2シード翔陽である。

 

「ちゃんと汗かいたか?お前ら」

 

控室に現れた高頭監督が、開口一番そう声を落とす。牧はタオルを頭にかぶり、深く呼吸を整えながら精神を一点に集中させていた。上半身には既に“仕上がり”の証明となる蒸気が立つ。

 

「……試合はまだですか、監督」

 

その目を見て、高頭は満足げに頷く。

 

「フハハ、慌てるな牧。まだ時間はある」

 

―――頂点にいながら、誰より飢えている。お前のいいところは“エリートの慢心”が微塵もないことだ。……いや、最近はその地位を脅かす奴が同じチームにいるがな。

 

視線の先には、壁にもたれる二人の二年生。ひとりは静かに腕を組み、もうひとりは真剣な眼差しでノートを閉じ、こちらへ顔を向ける。

 

―――日本での初公式戦だというのに、いい目をしている。さて、今日はどんなプレーを見せてくれる?

 

高頭は短く口を開く。

 

「今日の相手、三浦台高校。問題ない。いつも通り“海南のバスケ”で押し切れ!」

 

「「「おおッ‼」」」

 

雷鳴のような返事が控室を揺らし、海南の選手たちは監督を先頭にフロアへ歩み出す。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

「来たーーっ‼」「海南だ‼」「牧だ!花形だ!」

 

会場は既に熱狂の坩堝。しかしその歓声の層に、藤真は嫌な“気配”を感じて顔を上げた。

 

次の瞬間。藤真がコートに姿を見せた途端、黄色い悲鳴のような歓声が体育館を揺らす。

 

「キャーーッ‼」「藤真くーん‼」「こっち見てぇぇ‼」

 

―――嘘だろ……ファンクラブ、解散したはずじゃ…?いや、増えてる。確実に増えてる。横断幕まで!? なんなんだこのフラッシュの量は。

 

まるで囲み会見。観念したように手を振るとさらに爆発的な発光が襲い、一瞬視界と鼓膜が死んだ。

 

小さく「Jesus……」と呟き、タオルを置き練習へ移る藤真。海南の仲間たちが「すげえ人気だな」と声をかけても、藤真は苦笑しつつ「どうも……」と疲れ気味に返すだけだった。

 

一方三浦台。彼らは牧や花形を倒す気合いでいたのだが、もっと“危険な敵”が目の前にいた。男子校の彼らにとって、女子の視線を独占する美形プレイヤーほど憎い存在はいない。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

第1シード海南。その中心に立つのはもちろん二年の三本柱。神奈川No.1、“帝王”牧。柔のセンター、花形。そして、2年間の空白を経て帰国した“アメリカ帰りの神童”藤真。淡々とアップをこなすその姿には、既に王者の風格すら漂っていた。

 

「では、海南大附属対三浦台高校――試合開始!」

 

「おし!」「行くぞ!」

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

ジャンプボールを制した花形が牧に落とし、初手は海南。藤真がボールを受けると、最初の一歩でディフェンスの間合いを切り裂き、流れるようなレイアップをねじ込んだ。

 

「ナイッシュー藤真‼」「キャーーッ‼」

 

その後も藤真はスティールからトランジション・スリー。体育館はほぼすべて女性の歓声で揺れていた。

 

「なんだあの速さっ!?」「もうスリーだと!?」

 

三浦台の村雨は、耳障りな歓声の発生源を完全に敵認定する。スクリーンからスイッチでマッチアップを取り、威嚇の肘を振り上げる。

 

―――ビビれやぁぁッ‼

 

だが藤真はそれを読んだかのようにわずかに体をずらして回避。同時にボールへ指をかけ、二本目のスティールを奪う。

 

村雨は苛立ちのまま藤真の脚へ手を伸ばし転ばせにかかるが、それすら予測されていた。

藤真は軽やかなジャンプで回避し、前走する牧に正確なリードパス。

 

直後――インテンショナルファウル。藤真はフリースローを二本沈め、さらに海南ボール。

 

再開後、藤真は広いスペースを受け取ると、村雨へ鋭いクロスオーバー。体重移動を逆方向に完全に持っていかれた村雨は、為す術なく転倒。いわゆるアンクルブレイク。藤真はそのまま“右手”で3Pを突き刺す。

 

―――サウスポーだろ⁉なんで右でも入るんだアイツ!

 

村雨は苛立ちのまま、ボールを藤真の顔に当てるフェイクを仕掛けるが、藤真の動体視力は段違い。わずかに横へスライドしながらボールを叩き落とし、逆に村雨の顔へ跳ね返してしまう。

 

尻もちをつく村雨。藤真は涼しい顔でフロントコートへ進み、今度は“左手”でトランジション・スリー。

 

序盤で20点差。終わってみれば海南は登録選手全員を出し、完全なトリプルスコアでの圧勝となった。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

決勝リーグ一番乗りを果たした海南は、同リーグを争う他校を偵察するため別会場へ向かう。Cブロックのシード校は陵南高校――しかし勝ち上がってきたのは、誰もが予想だにしなかった公立校。

 

去年、注目の新人が加入して一気に化けた“伏兵”―――湘北高校。

 

ベスト4の椅子をかけた、運命の一戦が始まろうとしていた。

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