藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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37.藤真と湘北

決勝リーグ進出をかけた大一番―――湘北高校 vs 陵南高校。試合開始まで残り1分。

 

「集合っ‼」「集合っ‼」

 

両チームのキャプテンが声を張り上げ、選手たちを呼び寄せる。神奈川最強の二強――海南大附属と翔陽高校。その牙城に食い込む“第三勢力”として台頭著しい陵南高校。対するは、元・全日本の安西監督が率いる、かつて“万年一回戦負け”だった湘北高校。この、あまりに対照的な二校の激突を見ようとスタンドはぎっしりと埋まり、熱気で空気が揺らいでいる。

 

無名の公立校である湘北は、誰も予想しなかった快進撃で、あと一勝でベスト4という位置まで辿り着いた。最前列で観戦する海南の選手たち。その中央で藤真は淡々とノートを広げ、両校の戦力分析に目を走らせる。

 

―――湘北と陵南。どちらが勝つ、と聞かれれば……まぁ、十人中十人がそっちだよね。

 

「なぁ藤真、どっちが勝つと思う?」

 

どうやら海南のメンバーが“ジュース賭け”を始めたらしく、藤真に順番が回ってきた。

しかし賭けはほぼ成立しない。票はすべて陵南。もはや「何点差で陵南が勝つか」あるいは「何分で陵南が100点到達するか」に話がシフトしていた。

 

「で?藤真はどっち?当然陵南だよな。他の連中なんて、“何分で100点か”で盛り上がってるぞ」

 

「“はらたいらさんに3000点”…と言いたいところだけど冗談だよ。皆が陵南に賭けるなら、僕は湘北に一票」

 

「マジか⁉ “やっぱ無し”は通じねぇぞ?本当にいいんだな?」

 

「血筋だろうね。僕もギャンブル好きなんだ――専ら大穴狙いで」

 

胴元役の部員が藤真の予想を手帳に書き込む。藤真はふと、ベガスで豪運を発揮した叔父の話を思い出していた。5分で100ドルが消えるスロット。叔父が最後にポケットに残した10ドルが、カジノ史上最高額のジャックポットを引き当て――なんと45万ドル*1を一瞬で生み出したのだ。

 

―――分の悪い賭けは嫌いじゃない。

 

藤真の視線はコート上。陵南は仙道、福田、魚住――強力すぎるフロントコートを擁し、そのオフェンス力は県内でも屈指。

 

―――陵南の軸は間違いなく仙道。190に近いサイズでオールレンジ対応の万能型。あれからどこまで伸びたんだろう。そして……やっと“あの男”もスタメンか。

 

列に並ぶ陵南の選手。その中に福田の姿がある。練習試合では不完全燃焼だったが、この1年で殻を破り、ついに攻撃の“主軸”へ。さらに――陵南のゴール下を支配するビッグマン。2mの巨体に似合わぬ俊敏さ、ハードなインサイドディフェンス、跳躍力によるブロック。魚住純。二年にして、既に全国級のセンター。

 

―――じゃあ湘北はどこまで食らいつける?いやしかし、彼ら本当にここまでよく勝ち進んだよ……。雛鳥の成長を見てる親鳥の気分だよ。

 

藤真がそんな気分で目頭を押さえていると、花形がにこりと話しかけてきた。

 

「三井に注目しろよ。こういう舞台でこそ、奴は燃える。二年前の県対抗戦以上のインパクト―――ひょっとしたら、お前に負けないくらいの化け物シューターになってるかもしれん」

 

藤真は目元を拭いながら、感極まったように小さく頷いた。

 

―――湘北のメンバー……なんでだろう、懐かしさすら感じる。もうダメだ、目頭が熱い。

 

パンフレットを開きメンバー表を見ると、湘北は1・2年のみ。三年はゼロ。

 

―――やる気のない部員を追い出したのか、三井と赤木の練習がキツすぎたのか……。 2年が3人、1年が7人。 この人数でベスト4目前って……本当に信じられない。そりゃ三井が主将も納得。

 

そして、スターティングラインナップが発表された。

2年:三井、赤木、小暮

1年:宮城、角田

 

下馬評では陵南の大勝――のはずだったが、試合は開始直後から想像を裏切る展開となる。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

―――これは……まるで“殴り合い”の応酬だよ。

 

立ち上がりから点の取り合い。陵南では仙道と並び、福田が躍動。鋭いドライブ、飛び込みリバウンド、赤木にぶつかってもブレないフィジカル。

完全に“二枚看板”として機能していた。

 

湘北はインサイドで押し込まれ、流れが傾きかける―――が。赤木の豪快な“ゴリラダンク”が魚住の上から炸裂。2mの巨体が後方に弾き飛ばされる光景に、会場は騒然。

 

「スゲェーーーッ‼」

 

「あの魚住が吹っ飛んだぁぁぁ‼」

 

「出たぁっ‼ ゴリラダーーンク‼」

 

「後で怒られてもいい!叫べぇっ‼」

 

一気に勢いづいた湘北は、三井の連続3Pで逆転。

 

―――陵南のフロントコートは確かに脅威だけど、湘北のバックコートは……正直、陵南より上だ。

 

藤真の視線が、小柄な1年生PGに向く。宮城リョータ。最も背が低く――最も速い。

 

「スティールっ⁉」

 

「うおっ、速っ‼」

 

―――圧倒的なスピードだな。コート上で一番速い。スタミナもあって、パスも捌ける。原作でも分かっていたけど、良いガードだね。

 

宮城の高速展開が湘北オフェンスの火力を底上げし、田岡監督を苦悶させる。魚住と互角に渡り合う赤木の急成長も、湘北躍進の大きな要因だった。

 

「神奈川にあんなCがいたとはな……」

 

花形が呟き、牧が補足する。

 

「去年、三井を観に行った試合で見た。パスもドリブルも下手だったのに……よくここまで伸びたよ」

 

牧の言葉に藤真はまた目頭を押さえ、高砂は“同学年No.1C争いに加わる”と密かに闘志を燃やした。

 

試合は激しいリードチェンジの末、前半終了。三井の爆発――24得点。陵南は6点ビハインドで折り返す。

 

◆◆◆

 

後半開始。陵南が重たい空気を破ったのは、仙道のパスカットからの速攻。福田のレイアップ、魚住のダンク、仙道→福田のアリウープで一気に逆転。

 

湘北も赤木が魚住からバスケットカウントを奪い返すが、痛恨のフリースロー失敗。そのミスから魚住がリバウンド→仙道が3Pで再び同点。61-61。残り3分。

 

試合は完全なシーソーゲームに。陵南が重苦しいターンオーバーを犯し、田岡監督は最後のタイムアウトで立て直しを図る。

 

しかし、重圧を破ったのは湘北。赤木のスクリーン――宮城の高速パス――フリーになった三井の3P。

 

―――残り1分26秒 湘北64-61陵南。

 

客席が揺れた。

 

だが―――最後に試合を動かしたのは“天才”仙道だった。冷静無比の3P。続いて福田のフローターがAND1。終盤のファウルゲームも制し、陵南高校が執念の逆転勝利をつかむ。

 

試合後。挨拶までは気丈に振る舞っていた三井だが、ベンチに戻り安西監督に労われた瞬間、堪えていた想いが溢れ出す。涙で顔を歪め、「全国に連れていけなかった」と謝る三井。

 

その姿を見て、赤木も悔しさを押し殺せなくなった。外したフリースロー。犯したトラベリング。自分の未熟さが、胸を刺し続ける。

 

安西監督はそんな選手たちに、優しく、あたたかく、静かに――「君たちは強くなる」と告げた。

 

敗戦。しかし――湘北は確かに、試合を通じて大きな何かを掴んだ。

 

翌日の練習前ミーティング。湘北の選手たちは、チームとしての目標をもう一度掲げ直す。体育館の壁に、新たに貼り出される一枚の書。

 

―――『全国制覇』

 

その言葉を胸に、湘北は再び走り始める。

*1
日本円で約6500万円という馬鹿げた大金

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