藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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38.藤真と翔陽

―――もし、“翔陽”に入っていたら。

 

試合を終え、藤真たち海南の選手が控室で汗を拭い、次のカードを観戦しようとスタンドへ向かっていた。その途中、ガラス越しに外のベンチが見える。

 

―――あれが、もし自分の未来だったとしたら。

 

翔陽の選手たちがユニフォームのまま横一列に並び、顧問が前に立っている。次の瞬間、乾いた破裂音。部員が壁を作るように周囲を囲み、“その後”を隠しているのが逆に状況を露骨にしていた。

 

―――なるほど。試合中ベンチに監督がいなかった理由が、ようやく分かった。

 

勝利至上主義の強豪校。個を伸ばす技術指導より、主従関係で縛りつける統率を選んだ組織。指導とは名ばかりで、単に“支配”しているだけの場所。

 

―――正直、見るだけで“不快”だ。

 

試合中も顧問はコートサイドで怒声を飛ばしていた。

 

「何やってんだ!」「てめぇのせいで崩れてんだぞ!」

 

名指しでキャプテンを追い詰め、極めつけは懲罰交代―――#4の責任だけを過剰に負わせ、意図的に彼を“晒し続ける”采配。

 

戦術以前の問題だった。

 

◆◆◆

 

海南大附属vs翔陽。

 

本来なら神奈川を代表する強豪同士の、意地と技術がぶつかる名勝負になるはずだった。

だが実際の内容は、海南が一度も主導権を手放さない一方的なゲーム。

 

海南は三浦台戦と同様に、牧(PG)・藤真(SG)・花形(C)の“三軸ハイブリッド”を中心としたスターター。翔陽はサイズに乏しく、インサイドの高さ不足を控えで補おうとする変則ローテーションで臨んだ。

 

試合は開始直後から海南の“ゲームモデル”が完全に機能する。

 

まず花形がディープドロップ相手へのショートロールでスペースを制し、リバウンドで圧倒したところから藤真が3連続ジャンパー。翔陽はオンボール守備のスクリーナー処理が甘く、牧に対するアイス(サイド制限)も機能しない。牧がボールを奪っては速攻、あっという間に点差が開く。

 

翔陽がようやくインサイドで初得点を挙げた時には、すでに15点差。流れを変えるべきタイムアウトも、顧問の叱責ばかりで戦術修正は皆無。海南のペースは崩れなかった。

 

さらに牧がリバースレイアップ+AND1で勢いを加速。藤真は前の試合の3P成功率63.6%を上回る精度で沈めていく。そして―――

 

花形までもが連続で外から決める。

 

翔陽はようやくFが3P、PFがミドルで返すが、海南はすぐにハイ・ロー逆サイドシールから花形のダンク、牧の3Pプレイで突き放し前半を47-20で折り返した。

 

◆◆◆

 

後半、翔陽は苦し紛れのスモールラインナップで外角に活路を求める。

 

キャプテンが3Pを決めると会場が少しざわめくが、その直後、藤真がロゴレンジ級のディープスリーを沈め、一瞬で流れを上書きした。海南はハイサイド・ピック&ロールからズレを作り、藤真と花形が外から次々と追加点。66-33、ダブルスコア。

 

高頭監督は余裕のタイムアウトで5人交代を告げるが―――藤真は静かに首を振った。

 

「まだ動けます。それに4月からの加入ということで連携不足を痛感しているので、もう少し出たいです」

 

結局4人だけが交代し、藤真だけが残る。その直後、またも藤真のディープスリー。高砂がフックを決め、神がフリーの3Pで続く。差はついに40点。

 

その後も海南は試合の全レーンを掌握し、最終スコアは107-56。藤真は得点・リバウンド・アシストでトリプルダブルを達成した。左利き特有のリズムで刻むドライブ、変則ステップ、トリッキーなスキップパス。海南の“攻撃の心臓”として、大観衆の前で圧倒的な存在感を放った。

 

◆◆◆

 

続く決勝リーグ第2戦も、海南の支配は揺るがない。牧と藤真の“ダブルガード・コントロール”は試合を完全に掌握し、花形が外内でバランスよく加点。後半には神のディープスリー、高砂のリバウンド支配が冴え、112-52。海南は16年連続インターハイを決めた。残すは―――神奈川No.1を決する陵南戦。

 

◆◆◆

 

その日、館内は満員だった。海南と陵南がともに2勝で全国を決めた今、観客の視線はただ一つ。

 

―――神奈川最強はどちらか。

 

「牧ーーーっ‼」「陵南!!」「海南っ!!」「仙道ォ!!」

 

そして、最も大きな声援は―――

 

「藤真くーーーんっ‼」「キャーー!!」「こっち見てーーっ!!」

 

春に加入した新戦力は、今や海南の象徴となるほどの人気と実力を備えていた。牧・花形と並ぶ“海南三大エース”。その存在が、観客の期待をさらに膨らませていた。

 

そこへ陵南のウォームアップの最後、仙道からのパスを福田が叩き込む。館内が揺れた。田岡監督は選手たちを集め、目を閉じさせる。

 

「今までの練習を思い出せ」

 

海南との練習試合後、地獄のような日々を積み上げてきた陵南。田岡が高頭を一瞥し、静かに告げる。

 

「練習量なら、ウチが一番だ。翔陽よりも、海南よりも―――今年の陵南が一番キツかった」

 

そして、静かに笑った。

 

「そろそろウチが“王者”になっていい頃だ」

 

選手たちが立ち上がる。

 

「さあ―――行こうか」

 

いよいよ始まる。神奈川No.1の座を懸けた戦い。“天才”仙道の挑戦が、コート中央で息を潜めていた。

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