「海南大附属高校対陵南高校の試合を始めます!」
「しゃす‼」
陵南のスターターは、仙道をPGに配置した“ビッグラインナップ”。SG池上、PF福田、C魚住――高さを活かしつつ、攻守のトランジションでも破綻しない、田岡の意図が明確に見える布陣だ。観客席の声援が、空気を震わせ始める。
「陵ーー南!」「陵南!」「海南!」「海南!」「陵南!」「海南!」
迎え撃つ王者・海南は、牧、藤真、花形――盤石のメンバーで挑戦者を正面から受け止める。
「湘北のセンターに大分苦戦したみたいだな」
センターサークルで花形が魚住に声をかける。挑発というより、覇者の余裕を漂わせる笑み。
「俺達、海南なら100点取ってたぜ。神奈川No.1センター争いから、もう脱落か?」
「ぬかせよ、藤真の“腰巾着”が……。インサイドで勝負できない臆病者が」
両者の視線が至近距離で火花を散らす。視線同士が衝突する音が聞こえるほどの圧。
「そこ、私語は慎みたまえっ!!」
主審の一喝で口を閉じるが、その眼光に宿る怒気は消えない。神奈川最強の座を賭けた、静かで激烈な第一幕。互いの闘争心が極限まで高まった瞬間――ボールがトスアップされる。
ジャンプボールは魚住が指先で制する。だが、そのボールを掻っ攫ったのは、黒い疾風――牧だ。
そのままリングへ一直線。福田が身体を張って止めに入るが、牧は正面衝突を物ともせず、手首を素早く返して放り込む。笛が鋭く鳴り、観客の声を切り裂く。
「バスケットカウント! ワンスロー!」
「うわあああっ!!」「ダンプカーみてぇだ!」「牧が早くもフルスロットルだ!!」
一呼吸置いた牧は冷静にフリースローを沈め、完璧な3点プレイ。“帝王”牧が、試合の空気を一瞬で支配する。
仙道がゆっくりとボールを運ぶ。その前に牧が腰を落とし、重心を極限まで低くしたディフェンスで迎え撃つ。“天才”対“怪物”。練習試合から数ヶ月、再び公式戦の舞台で両雄が相まみえる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―――何故、陵南に行った」
花形の問いに、魚住は微笑を浮かべる。
「フッ……一番熱心に誘ってくれた。それだけだ」
「それが海南を選ばなかった理由か。……選択を誤ったな」
花形の声は氷のように冷たい。だが言葉に集中しすぎたのか、背後から池上が鋭い角度でかけたスクリーンに反応が遅れる。その隙を逃さず魚住が花形を引き離す。
花形と池上の肉体――質量同士がぶつかり合う激しいコンタクト。池上の献身的なスクリーンで魚住がフリーになる。仙道からすぐにボールが入ると、魚住は一気に跳躍。
「させるかっ!」
花形がロングアームで魚住のダンクを辛うじて阻止する。ボールがバックボードに跳ね返った瞬間、福田が完璧なポジションでリバウンドを取り、そのまま再ジャンプ――だが、ゴール下へ飛び込んだ牧が強烈なブロックを福田に御見舞いする。
―――そうやすやすとダンクなど許すかッ!。
再びボールはボードに弾かれ、仙道が拾う。だが、わずかにボールを下げた瞬間を藤真が狙い撃つ。見事なスティールが決まり、その息づく暇を与えない強豪同士の攻防に場内が歓声で揺れる。
「キャーーッ!!」「うめぇっ!!」「さすが藤真だっ!!」
加速した藤真は一気に3Pラインへ到達し、プルアップモーションへ移る。しかし、その意図を完全に読み切った仙道が、タイミングを合わせてブロックを放つ。
「うおおおおーーっ!!」「仙道っ!!」「止めたーー!!」
攻防の応酬に会場の熱がさらに増す。牧は短く呟く。
「……仙道」
海南最速を誇る藤真のスピードについてくる脚力。自身のファーストシュートを速攻での得意の3Pで決めるという藤真の意図を読み切る戦術眼。さらに、ファウルを避けつつサウスポーのシューターであり、独特なタイミングで放つ藤真のシュートを完璧に押さえ込むブロック技術。そして、この試合の主導権は決して“譲らない”という闘争心。
―――なるほど。一年にして仙道は、既に“全国区”の実力者って訳ね。
藤真が仙道に視線を送ると、陵南の一年生エースが一息をつく。
「ふぅ……こりゃ、しんどい」
仙道の額を汗が伝う。言葉とは裏腹にシュートを止められても微動だにしない藤真の眼差しが、静かに仙道の闘志を刺激する。スコアは、海南3-0陵南。まだ開始1分――しかし、既に試合は異常な強度へ突入していた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
藤真の切れ味鋭いドライブが、陵南の守備を次々と揺さぶる。ペイントに切れ込む瞬間、魚住の股下へ滑り込むバウンドパス。花形が受けてダンクに行くが――池上が身体を投げ出し、オフェンスチャージを獲得。
「ナイス池上!!」「よくやった!!」「完璧だ!!」
仲間に手を差し伸べられ、池上はゆっくり立ち上がる。
―――正にチームの“陰の支柱”。ルーズボール、合わせ、ボックスアウト、ヘルプ……地味に見えるが、勝利に最も近い仕事を一つも怠らない男だ。
田岡は、練習試合後の池上を思い返していた。牧や藤真と比べて挫けそうになりながらも、己の役割を貫くことでチームを救う存在へと成長した選手。それが今、陵南を全国へ導いた“仕事人”だ。
「流石ディフェンス職人」
「へっ、俺は俺の仕事をする。ゲームメイクは任せたぜ、仙道」
仙道の意識も変わっていた。点を取るだけの1on1プレイヤーから、チーム全体を動かす創造者へと進化しつつある。池上はその変化を誰より近くで見ていた。
仙道からボールを受けた福田が、高い身体能力で鋭くアタック。花形のブロックをかわすフローターで初得点。乗り始めたら止められない、危険なスコアラーが火を噴く。
「いいぞ福田!! 攻めまくれ!!」
池上が声を張り上げる。
―――福田の成長こそ、陵南の未来を押し上げる鍵だ。
「まずはディフェンスからだ!!」
厳しい練習を誰よりやり抜いてきた池上が、チームを鼓舞する。多様な相手を守り切れる万能DFが、試合をロースコアに押し込み、陵南の望む展開へ持ち込んでいく。
序盤、拮抗する守備戦。海南の花形がコーナー3Pを狙うも、魚住のロングブロックが炸裂。福田の二本目のフローターで崩れかけた流れを引き戻すが、牧のペネトレイト→藤真の3Pという“王者の連携”で再び試合の流れは海南へ。
藤真は仙道のブロック以降、キャッチ後にボールを下げない“クイックリリース”へシフト。連続で3Pを沈め、主導権を掌握する。
海南は堅守速攻+藤真のオールラウンドオフェンスで試合を支配。だが前半残り5秒、花形の1on1を魚住が気迫のディフェンスでターンオーバーに誘導。福田が走り抜けて豪快なダンク。この一連の流れで膠着した空気を切り裂く。
前半終了。海南31−25陵南。
激烈なディフェンス合戦は、熱を増したまま後半へ突入する。