藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

4 / 74
4.藤真とディレイオフェンス

原作の藤真が翔陽高校3年時の身長178cmは体重66kgであった。日本人男性の平均身長は約170cm。数字だけ見れば“平均よりは高い”。だが、バスケットボールの世界では話が違う。

 

―――178cm。一般的には十分高い。でも、バスケでは……全然ちっちゃい。

 

アメリカのNBA選手の平均身長は約200cm。2mの巨人たちがゴール下――ペイントエリアを支配し、跳躍して、走り、ぶつかり合う。五つのポジションのうち一番小柄なPGですら“平均191cm”だ。

 

日本では十分デカい身長が、NBAでは「背の低い選手」に分類されるという現実。

 

PGはスピードとパスが生命線の役割ゆえ、昔は小柄な選手も多かった。しかし、レイカーズのマジック・ジョンソンはPGでありながら206cm。さらに現代は198cmのルカ・ドンチッチ、211cmのヤニス・アデトクンボら“超大型PG”が当たり前にのさばる時代。

 

―――身長は、できるなら1cmでも伸ばしたい。

 

NBAに行く夢を叶えるためなら、細かいことも全部拾っていく。“練習・食事・睡眠”――スポーツ選手の三大要素を徹底する。

 

―――今日の努力が、明日の俺を作る。信じてやるしかない。

 

後悔だらけだった前の人生。だからこそ、藤真は夜9時には布団に入り、成長に全振りした生活を続けていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ヘルプ、ヘルプ!」「ディナイ!コース消せ!」「スクリーン! スイッチ!」

 

バッシュの音と掛け声が体育館に反響する。インタビューのあと、監督のご好意で練習見学を続けさせてもらえることになった。

 

整列して挨拶。素早い準備。テキパキと始まるアップ。中盤になるとボール練習になり、活気が一気に上がる。

 

その中で――タブレットを構えたコーチが、リプレイ映像をスローで見せながら説明していた。

 

―――アンビリーバブルね。ここまでやるの、ミニバスよ?

 

「あのタブレットも、彼が一昨年寄贈してくれましてね」と監督。

 

「NBAのオフェンスを0.5倍速で研究したり、選手個々のデータを数値化したり……。まあ、使うのは選手と若いコーチが主ですが。私はいまだにホワイトボード派でして」

 

―――全国制覇するチームは、やっぱりやることが違うわね。

 

ふと、体育館の壁に掲げられた横断幕が目に入る。

 

「あれは?」と思わず質問すると、監督は少し懐かしそうに笑った。

 

「ああ、あれは“彼”がキャプテンになった時に作った横断幕ですよ。今もチームスローガンとして掲げているんです」

 

文字はこう記されていた。

 

『誠心誠意』

 

―――バスケの横断幕としては珍しい。でも……“彼”なら分かる気がする。

 

迷いなく、真摯に、真っすぐに。

彼のバスケに向き合う姿勢そのものを象徴する言葉。

 

―――なるほど。ますます彼の活躍から目が離せないわね。

 

「要チェックやわ」

 

週刊バスケットボール記者・相田弥生は、取材に来て正解だったと心から思った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

チームに所属して一年が経った頃。藤真は上級生に混ざり、ゲーム形式の練習でスタメンを任されるまでに成長していた。

 

コーチの方針で、小学4年までは公式戦には出さない。それでも彼はすでに“チームの中心”だった。

 

同学年の子たちが基礎練習を続ける横で、藤真はPGとしてゲームメイクを担当するようになる。

 

―――ようやく、“遅いバスケ”が浸透してきたか。

 

日本では速攻こそ正義。走って、走って、走って勝つ。だが藤真は、あえて“ゆっくり攻める”ディレイオフェンスを提案した。

 

最初は当然、理解されない。だがコーチの「面白いな」の一言で風向きが変わり、少しずつチーム全体が受け入れていった。

 

―――速攻が強い? それは“選択肢のひとつ”でしかない。

 

その考えは、サッカーのポゼッションにも似ている――と藤真は感じていた。

 

細かいパスでボールを保持し、相手の陣形を崩して得点する。FCバルセロナやスペイン代表が世界を魅了した“美しいサッカー”。だがその戦術は哲学が伴ってこそで、真似だけしても失敗する。

 

―――流行りだけ真似して中身がないと、タピオカや白いたい焼きみたいにすぐ消える。

 

ゆっくり攻めるディレイオフェンスは、相手の速攻を封じ、身体能力差を消すための“戦略”だ。勝つための論理がある。

 

最初こそ半信半疑だったチームメイトも、藤真のいるチームだけが勝ち続けると――次第に理解し、信じるようになった。

 

その頃にはもう藤真は――地元で“神童”と呼ばれる存在になっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。