藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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5.藤真と将来

「藤真くん――キャプテンをやってくれませんか?」

 

練習前の円陣。その一言で、空気が一瞬“止まった”。

 

「おぉ……!」

「やっぱ藤真だよな」

「実質ゲームキャプテンみたいなもんだし」

 

下級生のどよめき。同学年の納得の声。

 

しかし当の藤真は――

 

「あ、あの……僕が?4年生で?上の学年の立場は……?」

 

控えめだが、明らかに戸惑っていた。だが、上級生が口を開く。

 

「いや、実際お前の方が試合を作れてる」

「去年から“試合の流れ”読んでるの、お前だけだぞ?」

「スクリーンの指示とか、走りながら出すのあれ普通じゃねーから」

 

藤真はそこを強調されると、言葉に詰まった。コーチも続ける。

 

「今年からメンバーの選考基準を“実力主義”でいきたいと思います。学年ではなく“テクニック”や“メンタル”、そして“戦術理解度”などを総合的に判断した上でレギュラーを決めたいと思います。そして、現状このチームでそれら全てを兼ね備えた選手は唯一人。藤真君、君だけです。だから、君にこそこのチームのキャプテンを任せたいんです」

 

藤真はコーチからの熱い眼差しを真っ直ぐに受け止めると、短く息を吸った。

 

「……わかりました。ただし、条件があります」

 

指を二本立てる。

 

「二つ。キャプテン就任の条件です」

 

「ええ、仰って下さい。可能な限りではありますが、出来る範囲で応えてみましょう」

 

「まずは一つは、ユニフォームの刷新」

 

ごくりと周囲が喉を鳴らす。

 

「今のユニフォームは大分と使い古していて、デザインもダサい。そして、大きかったり、小さかったりしてサイズに合わない選手もいる。さらに、このユニフォームは肩の可動域を殺してます。袖ぐりが狭いから、シュート時に肩が上がりきらない。僕たちのプレースタイル――“速い判断からのキックアウト”と“外の精度”を伸ばすためには、射角を妨げない形が必要です」

 

上級生たちは顔を見合わせる。

 

(……そこまで考えてたのか)

 

「もう一つは、チームジャージとウィンドブレーカーの作成です。移動時の統一感は、対外試合での“心理的優位”につながる。――全国を目指すなら、まず見た目から。戦略としても理にかなっているでしょう」

 

「全国……」

 

その一言に、コーチを含めたフロアにいる全員の目が丸くなる。

 

「色は緑と白。ボストン・セルティックスを参考にしたい――伝統と勝利を象徴する色です」

 

説得力と覚悟を持った藤真の理路整然とした言葉に圧倒され、フロアに静寂が訪れる。

 

次の瞬間――

 

「……それ、めっちゃ良くね?」

「セルティックスとか最高だろ!」

「いやもうやろうぜそれ!」

 

全会一致だった。

 

こうして、新主将・藤真健司(小学4年)が誕生した。

 

◆◆◆

 

「藤真くんって、休みの日なにしてるの?」

 

授業の合間。藤真のノートには“ミニバス用に落としこんだ戦術”がびっしり書かれていた。

 

・2面サイドラインの距離感

・UCLAカットを小学生向けに単純化

・PnRは判断が追いつかないため使用禁止

・代わりに“0.5秒のバックドア”中心

 

――そんな内容を覗き込んだ女子が声をかける。

 

「え? 普通だよ。午前はミニバスの練習。帰って宿題して、夕方はスイミングか英会話。で、寝る」

 

言ってから、心の中で頭を抱えた。

 

(いやいや! ただのルーティン報告……!もっと……なんかあるだろ俺!)

 

ところが女子は目を輝かせた。

 

「すごい! 英会話やってるんだ? じゃあ英語話せるの?」

 

「まあ、日常会話くらいなら」

 

「なんか言ってよ! 英語で!」

 

「え……じゃあ」

 

藤真は少し照れながら表情を整え――リスニングテストで流れる様な“発音”で語り出す。

 

「Thanks for talking to me《話しかけてくれてありがとう》.I'll see you next time《また今度ね》.」

 

立ち上がり、そのまま教室を出た。

 

(……カッコつけたぁあああぁぁ!!死ぬ!! 恥ずかしくて死ぬ!!)

 

背中が熱い。耳まで真っ赤。

 

女子の方はというと――

 

「…………っ……!」

 

固まった後、頬を押さえて崩れ落ちる。すぐに女子の群れが集まり、

 

「ねぇ何話してたの!?」

「英語で何て言ってたの!? 」

「抜け駆けなんてズルいっ!」

 

悲鳴のような騒ぎになった。

 

藤真健司――

スポーツも勉強もでき、優しくて顔面偏差値も高い。学年一の人気を誇る小学生であった。

 

 

◆◆◆

 

藤真は英会話と水泳を最近始める様になっていた。理由は単純。

 

英語 → NBA選手と直接会話したい。

水泳 → “可動域の拡張”と“肺活量の底上げ”。

 

特に水泳は、ミニバスの選手にしては珍しい“肩のインナー強化”が目的だった。

 

母親に習い事を増やしたい旨を遠慮がちに申し出ると――

 

「あら、いいじゃない。やりたいならやりなさい」

 

拍子抜けするほど即答だった。

 

家は裕福であった。父は眼科医、母は翻訳家。車庫には高級車がズラリと並んでいた。藤真はその環境に感謝していた。

 

NBA選手の中には、“寝る場所や食べ物がない幼少期”を経験しているのを知っているから。

 

――ただ一つだけ、不満がある。

 

「ケンちゃ〜ん!」

 

あの呼び方だ。

 

(……それだけは……それだけはやめて……)

 

◆◆◆

 

藤真の家は埼玉県にあった。

 

―――翔陽に行くとしたら県外進学になるな。原作じゃ触れられてないけど……多分、スポーツ特待で翔陽に受かったんだろうな。

 

原作の藤真は1年で翔陽高校のスタメンとなり、牧に次いで神奈川No.2のプレーヤーと目されていた。

 

藤真は自分の部屋で寝そべりながらボールを天井に放り、フォームの確認をしながら漠然と、“未来の選択”について考えていた。

 

(湘北……いや環境が荒れすぎ。あれは桜木が入ることで奇跡的に変わっただけ)

(陵南……全国経験がないのが不安。田岡監督は魅力だけど、サイドの3P不足で全国では厳しい)

(翔陽……強豪校と呼ばれているけど、3年時に監督不在の理由が謎)

(海南……牧とポジション被るのがな。けど、今のところ神奈川に行くなら最有力候補か)

 

さらに思考は深まり、全国のチームへと思いをはせる。名朋工業。愛和学院。大栄学園。そして――王者・山王工業。

 

(インターハイ優勝はどこだ……? 海南が2位ってことは、反対ブロックの“絶対強者”がいる……?)

 

などと考えていると――

 

「ケンちゃ〜ん。お風呂沸いたわよ〜」

 

「ノック!!! せめてノックして!!」

 

あら失礼と一旦ドアを閉め、ドア越しに“トントン”と声を出して普通に部屋へと入ってくる母。

 

(……呼び方、どうすれば変えてくれるんだろ)

 

湯船につかりながら、高校の進路よりも深刻な“呼び方問題”に頭を悩ませた。

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