藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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6.藤真と練習試合

「よろしくお願いします」

 

「他からも練習試合のお誘いはありましてね……まあ、同じ地区ということで。よろしく頼みます」

 

握手を交わす両チームの指導者。こちらの体育館まで“出稽古”に来てもらったことへの礼を述べる藤真チームのコーチと、どこか“上から”の雰囲気を漂わせる角刈りで大柄な監督。

 

角刈りの監督は、フロアに入ると真っ先に相手チームの4番を観察する。

 

―――4年でキャプテン。普通なら上級生の反発が出る。それを押し切ったということは、腕が立つ証拠だ。

 

視線の先の選手の身長140センチほどで、新調したユニフォームがやや泳いでいた。動きのキレは大きくは見えないが、小学生特有のソワソワ感がない。アップ中の3対2でも、いともたやすくノーマークを見つけ、イージーシュートを演出していく。

 

―――ほぅ?小学生にして“視野が広い”というのは珍しい。ボールを触る前から、相手を“並び”で見ている訳か。

 

それは監督経験が長い者だけが気づける“異質な才能”だった。

 

 

ジャンプボール。タップされたボールが藤真へ。

 

藤真はスピードを上げず、“つき”を一定のリズムで刻む。

 

―――あのリズムは……パスの出しどころを見定めているのではなく、ディフェンスの“並び”を測り、“シュートの感覚”を確かめているのか。なんて落ち着きだ。

 

監督は眉を寄せた。

 

シュートを打つ前の“呼吸”が整っている―――この時点で異常だ。普通、小学生のデビュー戦は緊張で呼吸が浅くなり、シュートが前に飛ばない。だが藤真のフォームは最初から“後ろ足に体重を残す、大人の作り”が出来ていて、軸がブレない。

 

次の瞬間―――

 

藤真は、フロントに入った一歩目で迷いなく放った。“助走なしのロング”。80年代のミニバスでは、ほぼ見ない選択。

 

ボールは鋭い角度で伸び、リングに触れず吸い込まれた。館内に“パシュッ”とネットだけの乾いた音。監督の思考が一瞬止まり、すぐに分析へ切り替わる。

 

―――小学生のロングは通常、アーチが潰れて伸びない。肩のパワーに頼るから、バックスピンが足りず、沈む。だが今のは“手首から先で放つ大人のシュート”。正しいスナップで、ボールが“後ろ回転”のまま伸びてきた。高さではなく技術で決めたシュート。小学生でこれは異例中の異例。だが―――もっと驚いたのはその後。相手ベンチも、チームメイトも驚かない。

 

コートにいる味方の選手達も「ナイス!」と一言だけで、すぐに帰陣しディフェンスにつく。

 

まるで“いつもの2点”とでもいう様な当たり前の光景として受け入れている。

 

―――ここが本当に異常だ。“確率として低すぎる場所”を普段から打っている。しかも“打たせられている”のではなく“打つ判断を任せられている”。ここまでスナップが完成している小学生は、全国でも片手で足りる。

 

「成程。伊達に4番を張ってる訳じゃないってことか……。面白い」

 

◆◆◆

 

相手チームの攻撃。藤真のチームとは別種のスタイルを貫く相手は、高さと体格で構成された正に“80年代ミニバスの王道”と呼べるチームであった。

 

・160cm台を4人並べ

・大黒柱の172cmセンターにボールを集める

・ひたすらゴール下で“取って・入れる”

 

細かなセットプレーは存在しない。当時の指導者の多くが、「ミニバスは背の順の競技」

と本気で信じていた時代の戦術が藤真の目の前で繰り広げられていた。

 

―――背が高い方が勝つ。ゴール下こそ正義。角刈りの監督もその思想の信奉者であった。

 

それゆえ、藤真のロングなど「しょせん遠い2点」と切り捨てるのは、当時としては間違っていない80年代の正しい判断であった。

 

PGは高さで頭上からパスを通し、センターは“背中で押して面を取り”、ローポストのPFにハイローパスを落とす。

 

シュートは外れるが、大黒柱がそのまま“つめ”て押し込む。この“高さ偏重バスケ”は80年代の全国大会ですら多く見られた光景だった。

 

監督は満足げに頷きながら、同時に藤真を見る。

 

―――さて……コレをどう崩す?高さを無効化するには、通常の速攻では高さ持ちの戻りが間に合う。だが、外角は確率が落ちる。ならば、ドライブか?そんな高さではブロックが飛んでくる。

 

“低身長側が高さを攻略する手段”は3つある。

 

・パススピードで高さを動かす(横の揺さぶり)

・合わせ(裏カット)で高さの“死角”に入る

・リバウンドを捨て、1本で決める“早い攻撃”

 

これは現代の概念ではなく、80年代の名将たちが口伝で使っていた考え方そのものであった。

 

―――だが、この4番は……今の一発を見るに、“高さに対抗する策を”すでに理解している眼だ。スピードで勝つか。それとも、また外から打つのか。はたまた―――高さの“逆を突く”のか。

 

相手監督は、ここから先が本番だと身構えていた。

 

◆◆◆

 

体育館の端では、藤真の母が“異常なテンション”で応援していた。法被、手作りうちわ、背中の《I♡健司》。80年代のミニバスにこんな親はまずいない。

 

藤真は母親の方を一切見ようとしない。恥ずかしい存在を視界から外し、試合だけに集中していく。

 

―――高さのバスケをどう崩すか。相手監督は何を見ているか。味方はどこに走るべきか。

 

ボールを運びながら、4年生とは思えない速度で思考を巡らせていた。

 

“高さvs天才”

 

当時の戦術論で言えば、まさに正面衝突。勝敗の鍵は、次の攻撃で決まると藤真は試合の序盤ながら覚悟を決めてオフェンスを選択する。

 

小柄なPGはゆっくりとボールをつきながら、すでに“高さを壊す方法”を一本に絞っていた。

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