藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

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62.藤真と国体準決勝

国体準決勝―――対戦カードは愛知vs神奈川。大会前から“事実上の決勝”と呼ばれていた好カードに、会場は立ち見まで出る満員の観客で熱気がこもっていた。

 

スタンドには、すでに決勝進出を決めている秋田代表の面々も陣取っている。深津と河田は並んで座り、コートを食い入るように見つめていた。

 

「神奈川がどうやって森重を抑えるか…ポイントはそこだな」

 

深津の言葉に、河田が腕を組む。

 

「サイズで当たるのは花形だろう。ただ相手は“純パワー型の2m”。花形は技巧型で重心が高い。正直、相性は悪い」

 

「逆に言えば、外に引きずり出されるとパワー型は対応が遅れるピョン。広いレンジで撃てる花形を嫌がるのは森重の方かもしれんピョン」

 

“剛のセンター vs 柔のセンター”。互いに弱点を突き合う構図。どちらが主導権を握るかは読みづらい。さらに記者席では相田がペンを構えた。

 

「神奈川にとっては正念場。赤木・魚住を欠くインサイドで、あの怪物をどうコントロールするか…。インターハイ覇者の適応力、見せてもらうわよ」

 

両チーム登場で会場は割れんばかりの歓声に包まれる。

 

「牧だ‼」「藤真‼」「神奈川きたぞ‼」「森重‼」「諸星ー‼」「あれが前の試合で50点を記録した怪物か‼」

 

神奈川のスタメンは牧・神・仙道・高砂・花形。牧以外は全員190cm超で、サイズとスキルのバランスが極めて高い布陣である。

 

「牧が最小で187ってどうなってんだ神奈川‼」「高さ勝負か⁉ インターハイ覇者にどう挑む愛知!」

 

対する愛知は、センターに明朋工業の1年生怪物・森重。シューティングガードに愛和学院のエース・諸星。ここまで森重—諸星の1年+3年コンビで勝ち抜いてきた。

 

両軍がセンターサークルに集結。花形と森重、2mビッグマン同士のジャンプボール。

 

「うおぉ‼2mが跳んだ⁉」「どっちも高ぇ‼」

 

結果は森重が完全に制した。諸星がルーズボールへいち早く反応する。河田が呆れたように笑う。

 

「あの巨体であのジャンプ力……。あれでまだ一年とは末恐ろしいな」

 

試合は愛知ボールで開始。森重がローポストに構え、花形がフロント(前)でプレッシャーをかける。しかし、河田はすぐ花形の守備を指摘する。

 

「パワー差がありすぎる。前で切っても、裏を取られた瞬間にロブを合わせられる。幅もあるのに、あれじゃディープポジションを取られて詰むぞ」

 

その言葉通り、森重は一度キャッチすると持ち前のパワーを活かし、ゆっくりしたドリブルで花形を“押し下げ”、リム下へ侵入していく。高砂がヘルプに寄ろうとした瞬間、森重は素早くターンする。

 

バンクショットが炸裂し、―――神奈川が先制を許す。

 

「うわぁあ‼デカいのに早い‼」「花形が押し込まれたー‼」「同じ2mで全然パワーが違うぞ‼」

 

愛知ベンチが沸き立つ。続く神奈川の攻撃。花形がハイポスト—3Pライン付近に“外し”、森重を引っ張り出す。深津が頷いた。

 

「インサイドに森重を置かれると牧がペネトレイトできんピョン。だから、まず奴を引きずり出し、スペースを作る作戦ピョンね」

 

河田も続ける。

 

「森重がスイッチ(ミスマッチ対応)したら、花形が逆にインに潜ればいい。花形の内外自在の強みを最大限に使う形か」

 

その直後、牧がトップからスピードを変えてアタック。森重が外に出ていることで、ヘルプが遅れ、牧があっさりバスケットカウントを奪う。

 

「ほら来たピョン。スペースを与えると牧は止まらんピョン」

 

続く、愛知の攻撃。エース・諸星も負けじと1on1を仕掛け、切れ味の鋭いプルアップジャンパーを沈める。

 

「さすが愛知の星‼」「流石、愛知が誇る点取り屋!」

 

河田が眉を寄せる。

 

「さて…神奈川はどうあの“二枚看板”を抑えるのか。森重に諸星。この二人を同時に止めるのは簡単じゃない」

 

すると諸星が戻りざま、森重にインサイドの守備位置を指示を出す。直後、森重は花形のマークを味方PFに“スイッチ”させ、自身は完全にペイントに残留する“ドロップ型”の守備を開始する。これが当たり、高砂のアタックを森重が叩き落とす。リカバリーした神の3Pも、豪快なクローズアウトから手一本で弾き落とされる。

 

深津の隣に座る松本が思わず唸った。

 

「無理に花形に付かず、あくまで“守るべき場所”を死守するか…。さすが強豪ひしめく愛知代表。修正が早い」

 

ショットクロック残り数秒、仙道がスリットカットでインサイドへ侵入――そこへ森重が会心の三連続ブロックを披露する。

 

「どわぁぁぁ‼」「神奈川の攻撃が通らん‼」「鉄壁だ‼ まさにゴール下の壁‼」

 

会場は完全に森重の支配下に置かれていた。序盤から“怪物センター”の存在感が爆発し、インターハイ王者・神奈川の攻撃をことごとく跳ね返していく。

 

◆◆◆

 

愛知のオフェンスは、当然のようにインサイドへ収束していく。ボールは再び森重の手に渡る。

 

「森重に入った!」「さぁ森重だ、どうする神奈川⁉」

 

背後から高く構えたワンハンドショット。花形と高砂が同時にハンズアップ、リリース角度を削り取るように密度の高いプレッシャーを浴びせる。シュートはわずかに軌道を狂わされ、リングに弾かれた。

 

「海南コンビが守った!」「流石に今のは強引過ぎるっ!」

 

だが―――次の瞬間。

 

「強ぇぇぇぇ‼ 自ら取った‼」「ものともしねぇっ‼」

 

森重が誰よりも早く、誰よりも高く跳んだ。あれほどの質量が“跳ぶ”という現象に、観客席が一瞬ざわめく。空中でボールを強奪し、そのまま身体をねじ込んでいく。

 

次の瞬間、両手がリングを叩きつけた。

 

「うおおおーー‼ ダンク来たぁぁぁ‼」「バックボードが……まだ揺れてるぞ‼」

 

河田が小さく笑う。

 

「圧倒的なフィジカル……まさにパワーセンターの正道だな。多少のミスショットは関係ねぇ。あの手のデカさと握力でリバウンドをもぎ取って、そのまま力でねじ伏せる。単純明快。シンプルだからこそ攻略が難しい」

 

100kg超の巨体があれほどの跳躍を見せる。そのサイズにそぐわぬ俊敏性が、ペイントを完全に支配していた。生まれながらの“ゴール下の覇者”――その実力はすでにインターハイで証明済みであった。

 

神奈川の攻撃。仙道がクロスオーバーでディフェンダーをずらし、スリットのようなラインを切り裂く。森重がヘルプに跳んだ瞬間、仙道は迷いなく股下へタップパス。ゴール下に走り込んだ高砂がノーマークでフィニッシュ。

 

スコアは神奈川5―4愛知。

 

「奴は中2の夏からバスケを始めたらしい」

 

河田が顎をさする。

 

「だからこそ経験値が浅い分、ああいう視界の死角を突くパスはまだ読めねぇのか。弱点と捉えるべきか、伸びしろと見るか。だが―――“アイツ”がそこを突かない訳がねぇ」

 

ベンチの高頭も即座に読み解く。

 

―――ゴールに近い位置でしか得点源になっていない。インターハイ前の湘北の桜木タイプか。そして混成チームゆえにボール供給の洗練度も高くない。ならば、ゴール下へのエントリーパスさえ切ればいい。

 

続く愛知のオフェンス。神奈川のディフェンスが牙を剝いた。パスコースを寸断し、インサイドへの視線そのものを封じる。花形と高砂が前後で圧縮し、森重を“パスが届かない位置”に閉じ込める。

 

「おおおおー、スゲェディフェンスだっ‼」「森重にパスが入らない‼」

 

そして、その瞬間を逃さなかったのが牧だった。

 

「来た」

 

神奈川の大黒柱は相手PGの心理を読み切っていた。パサーの体の向きがわずかに外へ流れた瞬間、牧はラインを跳ぶようにカット。クリーンなスティールから即座に加速、前線へレーザーパスが照射される。

 

「速い速い速い‼」「一瞬で数的優位になった!」

 

牧のカットにいち早く反応し、飛び出した神がそのままレイアップ。神奈川7―4愛知。

 

「流石、牧‼」「気づいたらもう走られてる‼」「海南のお家芸‼」

 

森重の重力を利用し、徐々に封じ込める神奈川の守備。百戦錬磨の強豪らしい“試合の読み”が試合の流れを掴み始めていた。

 

「牧っ!」

 

さらに高頭が顎で森重を指し、腕を叩くジェスチャーを送る。―――もっと踏み込んで潰せ。フィジカルを利用して揺さぶれ。

 

指示の意図を理解した牧は、守備位置を微調整しながら、森重が苦手とする“あるパターン”を見極めていく。

 

巨大な怪物の壁――。だが、壁には“ひび”がある。そして神奈川は、そこを確実に突こうとしていた。

 

◇◇◇

 

森重へのパス供給を封じ、十八番の速攻で主導権を握った神奈川は、そのまま守備のギアを一段上げる。愛知は構わずローポストに森重を据え、徹底して“ゴール下一点突破”を狙う。

 

諸星がトップから鋭くカットイン。ヘルプの位置をずらすため、体をひねって軌道を浮かせるようにソフトパスを投げる。ボールは高く弧を描き、森重の巨大な掌に吸い込まれた。

 

―――この形さえ作れば強い。

 

諸星の狙い通りの展開だった。―――が、シュートモーションに入った瞬間。

 

「っ……!」

 

牧が縦に弾けた。真正面からではなく、森重のシュートハンドの外側へ角度を作って跳び込み、空中で腕を叩き落とす。

 

乾いた音が響く。シュートは無情にリングを弾いた。

 

「ファウル、白4番――イリーガル・ユース・オブ・ハンズ!ツーショット!」

 

審判のコールに観客席がどよめく。諸星が驚いたように牧を振り返る。

 

―――牧め……早くも気づいたか?

 

森重がフリースローレーンに立つ。全身の強張りが、普段の豪胆さとはまるで違う。一投目、ぎりぎりリングに巻き込みゴールする。しかし二投目はリリース直後に軌道が暴れ、リングに嫌われた。

 

スタンドで見ていた河田が、静かに頷く。

 

「やはりな。経験が浅い分、フリースローの精度は低い。それは、プレッシャーが強い場面ほど顕著になる。そこら辺はまだバスケ初めて2年目ってところか」

 

横で聞く野辺も納得の表情。

 

「軌道が低すぎる。それにリリースポイントも毎回ズレてて、フォームが固まってねぇ。自信のなさがモロに出たな。一本目は、まあ……まぐれで入っただけだな」

 

インサイドで無双する“怪物”にも、穴はある。

 

山王の面々が確信したのと同じタイミングで、コート上の牧もひしと理解した。“無料の得点源”であるフリースロー――そこが森重の弱点。

 

スコアは神奈川7―5愛知。数字上は僅差。しかし、流れは確実に神奈川へ傾きつつあった。

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