藤真のバスケ   作:ドラマ・ドラマ

7 / 74
7.藤真と憧れの選手

藤真は躍動していた。

 

初めての対外試合――練習試合の相手が決まってから今日まで、藤真は待ちきれないほど試合を渇望していた。県内屈指の高さを誇る強豪チームを相手に、今の自分の実力を測る絶好の機会。胸の高鳴りが、彼を前に進ませる。

 

試合が始まると、藤真の動きは圧巻だった。前半だけで20点を挙げる活躍を見せ、観客席からは驚嘆の声が漏れる。身長差に依存する80年代型インサイド戦術を、小柄な選手が次々と打ち破る姿に、相手監督ですら思わず拍手しそうになるほどであった。

 

藤真のプレーは、練習してきたロングシュートが次々に決まるだけではない。ユーロステップでディフェンスの重心をずらし、ゴール下にスペースを作る。ギャロップステップでスピードを変化させ、高身長のセンターのタイミングを外す。ドリブルの軌道を微妙に変化させ、相手の目測を狂わせる。さらに、ピックアンドロールのタイミングでパスを出し、味方を効果的に使う。

 

ベンチから監督は冷静に見守っていた。

 

―――あの小さな体で、ターンオーバーを最小化しつつ高さを攻略している。

―――独特なステップ、判断の正確さ。偶然ではない、これは計算されたプレーだ。

 

ハーフタイム前、藤真がベンチに戻ると、コーチから労いの言葉を受ける。しかし最後に一言。

 

「あまり一人でやらないように」

 

その言葉で、藤真はハッとする。自身が天狗になりかけていたことを反省した瞬間だった。

 

―――俺はチームを勝たせるキャプテンになる。

 

頭に浮かぶのはNBA名将ポポビッチの言葉。

 

「チームよりも大きな選手はいない」

 

バスケットは五人で成り立つチームスポーツ。個の得点だけで勝てるものではない。そして、敬愛するラリー・バードのプレイが頭をよぎる。飛べない白人と呼ばれた彼が、跳躍力に頼らず、練習と知性で限界を突破した姿勢。試合でルーズボールに果敢に飛び込み、チームメイトの信頼を勝ち取ったあの誠実さを、藤真は胸に刻む。

 

心を落ち着け、再びコートに戻る。相手指導者はベンチの選手を叱咤し、声を張り上げる。

 

―――よし、周りをもっと見て、仲間を活かすプレイを心がけよう。

 

視野を広く持つことを決め、コートに立つ。観客席にいた母は、2階で手作りの団扇やハチマキを配っていた。藤真の応援グッズを持つファンは確実に増えているが、彼は全て無視し、試合だけに集中する。

 

◆◆◆

 

タイムアウト後、藤真の卓越したプレーと戦術理解が光る。ハーフタイム中、キャプテンとしての覚悟を再確認する為に開いた一冊のノート。

 

藤真となって最初に書いた言葉。

 

【あの日々を忘れるな】

 

過去の挫折を、成長への糧に変える誓いの言葉だった。

 

◆◆◆

 

ブザーが鳴り、後半戦が始まった。藤真は深呼吸をひとつして、コートに足を踏み入れる。目の前には高さ優先の相手チーム。センターの大柄な背中が、まるで壁のように立ちはだかる。

 

―――よし、まずは周囲を見て、仲間を活かす。

 

藤真は左手でドリブルを刻みながら視野を広げる。相手は高さに依存した守備で、ゴール下に4人、外周にはガードが薄く配置されていた。藤真は瞬時に判断する。

 

1分経過――藤真はトップから左サイドへドライブ。ユーロステップでディフェンスを左右に揺さぶる。センターが重心を右に傾けた瞬間、左手で股下を通すように低くパス。

ゴール下で待つ味方がボールを受け、スクープショットでシュート。ボールはネットを揺らし、観客席からどよめきと拍手が上がる。

 

3分経過――相手が速攻を狙おうと前線に飛び出す。藤真は迷わずトップでボールを持ち、左利きのフェイクで相手ガードをかわしつつ、右サイドに走り込む味方を確認。

 

「行け!」

 

股下パスでタイミングを合わせ、味方はフリーでジャンプシュート。シュートが決まると、ベンチからコーチが拳を突き上げ、保護者席からも歓声が湧き上がる。

 

6分経過――タイムアウト明け、藤真は再びボールを持つ。相手センターはゴール下で待ち構えているが、藤真は視線を先読み。ギャロップステップで速度を変え、ディフェンスを揺さぶる。右側にカットインしていた味方に、左手の速いパスを通す。相手は反応が遅れ、味方がダンク。観客席から拍手と歓声が渦巻く。

 

9分経過――相手は高さを生かしたポスト攻撃を試みるが、藤真は素早く横に動きながらパスカット。反転し、ゴール下の味方にアシスト。この瞬間、藤真の左利きパスが「高さを逆手に取る決定打」となり、観客席では母が団扇を振りながら大声で応援している。

 

12分経過――相手が外角からのシュートを選択した瞬間、藤真はディフェンスの位置を瞬時に判断し、カバーに入った高身長センターを逆手に取り、走り込む味方にピンポイントでパス。味方はフリーでシュートし、ゴールネットを揺らす。

 

コーチはベンチで藤真の戦術理解度の高さとそれを実現させる力量に「この子に出来ない事は無いのか」と寒気すら感じる程の才能に思わず両肘を掴んで、身を震わせていた。

 

15分経過――試合終盤、藤真は速攻を利用し、相手のローポスト支配を完全に逆手に取る。左サイドからドライブし、アンクルブレイクで相手ガードを翻弄する。ボールを持ったまま一瞬視線を上げ、味方の位置を確認すると、ゴール下に走り込む味方に低く正確なパスを通す。味方はそのままシュートし、ブザー直前の追加点を決める。

 

ブザーが鳴り響き、試合終了となった。結果は、藤真のチームはダブルスコアで圧勝。藤真は仲間とハイタッチを交わし、保護者席からは歓声と拍手が止まない。コート脇の母は、手作り団扇とハチマキを振り、誇らしげに笑っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。