コート上の選手、出番を待つプレイヤー、コーチ陣、観戦に来た保護者――誰もが予想できないプレーが何度も展開されていた。変幻自在の高いテクニックから生まれる独創的な動きは、観る者すべてを釘付けにする。
ミニバス地区選抜の選考会に招集された藤真は、4年生ながら身長差をカバーする高いスキルと卓越したリーダーシップで、選抜メンバーに名を連ねた。対象は基本的に6年生で、身長の高い選手ばかり。そんな中でひと際小さい藤真の能力は、シュート・ドリブル・パス・視野・判断力・ディフェンス・バスケIQ――すべてが平均以上で、選考は誰もが納得するものだった。
―――彼は県下でもトップ10に入るだろう。
地区選抜の監督は、藤真の才能に魅了されていた。冷静な判断力、仲間を鼓舞する言葉、そして高いポテンシャル。身長が伸びれば県選抜も射程圏内だと確信していた。
―――上のカテゴリーの練習にも参加させてみようか。
最年少ながら、藤真はチームメイトと積極的にコミュニケーションを取り、初めて組む相手のプレイスタイルを把握。味方が攻めやすいように動き、チーム全体を活かす。PGとしての存在感は圧倒的で、彼がいるだけでチームの動きが一変した。
監督が藤真を選んだ最大の理由――それは、心からバスケを楽しむ姿だった。
◆◆◆
「おかえり、ケンちゃん♪ 選考会どうだった?」
「……受かったよ」
母親の高速マシンガントークが始まる。息を吸う隙も与えず、高速で話が展開される。まるでNBAレイカーズのラン&ガン――マジック・ジョンソンのパスにカリーム・アブドゥル=ジャバーの得点が加わるかのように、全速力で空間を支配するショータイムだ。
「……出前のお寿司がいいな」
「お寿司ね、オッケー。じゃあ電話するわね。あ、もしもし藤真です~。息子のお祝いで……」
電話口でも母親のショータイムは止まらない。藤真は風呂場へ向かい、シャワーを浴びる。
―――今日の選考メンバーの特徴とプレーの反省をまとめて…日課の体幹トレもやっておこう。
浴室から出ると、リビングではまだ母親が電話中。どうやら別の相手のようだ。テレビの音を小さくすると、断片的に母の声が耳に届いた。
「来月の会報に掲載してちょうだい……会員限定で一般販売は検討中……月例会の議事録もお願いね……」
藤真は思わず身震いした。背中に冷たい得体の知れない感覚が走る――自身のファンクラブの存在を知るのは、まだ先のことだった。
◆◆◆
―――地区選抜のチームは、高さ重視のバスケだな。
ベッドの中で藤真は戦術を思案する。ディフェンスはゾーンで、リバウンドを取り、インサイドを固める。外角は無視し、侵入されたらブロックで対応。シンプルだが、勝利重視の戦術だ。
デビュー戦で対戦したチームを思い浮かべる。C(センター)はボールを高く保持、ローポストで振り向きシュート。身長を活かしたオーソドックスな攻め方――ミニバスでは基本中の基本だった。
―――オフェンスはゆっくり運び、インサイドに放り込む。制空権を握り、相手の速攻を封じる。シュート後は速く戻り、攻守の切り替えを許さない。即席チームでどこまで浸透するかが課題だ。
寝返りを打ち、来季の自チームの構想を巡らせる。
―――今の6年生が抜けたら、高さ重視は難しい。だが4~5年生は体力・走力に優れる。ラン&ガンに切り替えるのも面白そうだ。
◆◆◆
男子メンバーも徐々に増えていた。兄弟姉妹の影響や友達の誘いなどで加入者は増加。例年より1.6倍の加入率になった。
―――速い展開のバスケも面白い。フェニックス・サンズみたいに。
2000年代初頭、ダントーニ監督は“7秒以内にシュート”を徹底。PGにスティーブ・ナッシュを据え、チームを覚醒させた。変幻自在のパスでオフェンスの歴史を変えたラン&ガンは、藤真にとっても学ぶべきスタイルだった。
様々な選手・チームで戦術を変え、経験を積むことは将来への糧になる。藤真は自身の成長を実感しながら眠りにつく。
◆◆◆
丑三つ時、藤真家の一室はまだ明かりが灯っていた。ファンクラブ向けに手縫いで作られた衣装がクローゼットに収まる。最初は会長が手作りしていたはっぴも、やがて会員同士で作るようになり、この伝統は藤真が高校を卒業するまで続いた。