どんな事でも良いから誇れる物が欲しい、そんな風に考えた事はあるか?
才能や名声、特技に財力だの権力とか、それこそ運で手に入れた物だって良いさ。目に見えて分かる成果が出ないとしても他人より努力したって自負が有ればそれでも構わない。
ああ、でも声高々に自慢したとして、自分と他人の価値観の違いがあったら少し嫌かもな。それがどうしたの? それが何の役に立つの? そんな事を言われてみろ。
外的評価なんか気にしない。俺が俺を誉めてやる! そんな風に受け流せる奴がどれだけ居る事やら。
それにだ、例えば才能があっても活かせる環境が無いと意味が無い。他人より早く動ける足があったとして、ペース配分だの歩方だの、必要な物は他にも多いだろう?
つまりだ、何かを持っているのと、その何かを使いこなせるのは別って事さ。
結論、分不相応を目指さず、自分がやれる範囲で最低限程度は役割を果たせる事を目指そう。無茶して失敗したら手に入るのは誇りじゃなくって負い目だぜ?
「次! ジェイル・レムリス!」
何処かの国の城かと見紛う程に巨大な建物の裏、其処に集まったのは制服を観に纏った生徒達。今は試験の真っ最中で、教師に名を呼ばれた俺が前に出る際に浴びたのは嘲笑だの馬鹿にする囁き、中には警戒の視線も混じっているが大抵は見下せる誰かが居る事で安心する連中の何かだ。
「さてと、精々巻き添えをクラスの半数程度に抑えられたら良いんだけれどな」
「お前達、試験中の私語は慎め」
今更何とも……いや、多少の申し訳無さは覚える反応に軽い冗談を返せば叱責の言葉が俺含む生徒達に投げ掛けられているんだが、その教師を含めてこの場の全員が俺から距離を取り出した。
少し疎外感。だけれども二年生への進級がかかったこの試験に来るまでの間にどれだけ迷惑を被ったのか、それを考えると文句は言えないんだ。
「じゃあ、氷の魔法を使うから対策は頼んだぞ?」
俺が所属するのは将来魔法に関わる人材を育てる『レムリス魔法学園』。
偉大なる祖先が創設した学校で、今は進級試験の最後に行う実技試験。宙に浮かぶ球状の的十個を何発の魔法で破壊し尽くせるかで評価される。
俺の言葉に後ろに大きく下がった皆が風除けの壁や炎を出す中、俺は溜め息と共に体内に存在する魔力だけに意識を向けた。
例えるなら魔力は水であり、それを必要分容器に移す事で発動する。
つまり魔力が多ければより強力な魔法をより多く放つ事が可能で……俺は名門一族に相応しく生まれながらにして常人どころか一族の誰と比べても桁違いの魔力量を持つ。
それこそ常人が浴槽なら俺は湖に例えられる程の量であり……。
「アイスストーム」
両手を突き出し練り上げた魔力を体内で創り上げた構築式によって魔法へと変換する。
手の前に出現した魔法陣が光り輝き、宙を漂う的に向かって吹雪が放たれた。
その瞬間、周囲は息を吸うだけで肺が凍りそうになる程に下がり俺の服には霜が張り付く。
髪は軽く凍り付き、腕には軽い凍傷を負った。
ガタガタと震える歯が鳴る音も背後から聞こえる悲鳴や罵声も寒さで上手く働かない頭では理解出来ないが、大体何を言われているか分かっている。
湖に例えられる程の膨大な魔力、但し今の魔法なら本来は大きなタライに並々と注げば少々過剰な程度の規模に収まる。
間違っても目の前の様に春先にはあり得ない銀世界なんて現れないんだ。
……考えて欲しい。仮に浴槽と満タンに入った水を持ち上げるだけの力があったとして、それを入れ過ぎない様にタライに注ぐのは大変だろう?
じゃあ、湖程の量の場合、その難度は跳ね上がって当然だ。結果、周囲は余波だけで極寒の銀世界へと変わり果て、狙っていた的は巨大な氷の中に閉じ込められている。
「やり過ぎ…た……」
時期は春先、今日の気温は暖かい。そんな中で瞬時に極寒の世界に入れば体は悲鳴を上げて当然だ。
フラついて踏み締めた草が砕ける感触と共に俺はその場に膝を付く。薄れ行く意識の中、聞こえたのは聞き飽きた二つ名。
「何やってるんだよ、『持ち腐れ』!」
偉大なる祖先の名に恥じない程の魔力量、胸を張って誇れる筈のそれもコントロール出来なければこの有り様。
正に宝の持ち腐れ、だから本来は優秀な魔法使いに与えられる称号である二つ名が不名誉な称号として周囲から与えられた。
まあ、散々巻き込んで迷惑掛けて来た訳だし、それは仕方が無い話だ。それはそうとして倒れそうなんだから先に心配して欲しいんだがよ……。
一抹の寂しさを覚えながら俺は前のめりに倒れ込む。意識が途切れる寸前、頭に浮かんだのは後ろの方の被害と進級試験の評価についてだった。
学科は多分平均八十点後半は行っているし、魔法薬の調合はアルバイトで慣れているからそこそこだったし……周囲に被害を出して自分もぶっ倒れているから落第じゃないと助かるよなあ。
駄目だった場合、再試験をお願いしたいが、担当の教師は大変そうだと思った。
俺が目を覚ましたのは保健室のベッドの上、上半身だけ起こして既に手当てはされているのか体の芯まで凍り付いた様な冷たさも感じず、軽く腕を動かしてみても違和感は無い。
どの位寝ていた? 試験は続いてるのか? 確か窓から試験場所が見えた筈だったよな?
「試験どうなったか気になるんだよな……」
「試験なら一応合格だそうだぞ。無駄な被害を出したのは大幅に減点だそうだがな。はっはっはっ! なぁに! 完璧な私に比べれば全員赤点と大差無かろう!」
ベッドから起き上がろうとしながらの呟きに返答する気障ったらしい自己陶酔に溢れた声。同時にベッドを囲むカーテンを勢い良く開けて入って来たのは艶のある金髪を肩甲骨の辺りまで伸ばし、白く輝く歯を見せて笑いながら前髪をかき上げる二十歳前後の男。
後ろに薔薇でも背負ってそうな雰囲気で、世間一般的に美形で通るにしても自己アピールが激しすぎてドン引きされそうなタイプ。
実際されているし、俺もしている。
しかし、何でこの人が此処にいるんだろう?
「どうした、私の顔を見ながら固まって? いや、皆まで言うな。文武両道にして眉目秀麗、そして並ぶ者など世界の始まりから終わりまで決して現れない程の天才魔法使いである私に目が釘付けになって当然だ。あぁ、実の弟さえ魅了する自分が憎い」
「あー、うん。そーだな、そうそう。それで兄貴、何で居るんだ?」
これが芝居だったらスポットライトでも浴びて花びらを散らしてそうなウザい動作の末に自分を抱き締めてナルシスト決めているのはアーサー、こんなのでも口で言うだけの実力と実績はある実の兄だ。
多分家族の中では一番仲が良いんじゃねえのかな?
姉貴だったら俺のところまで態々来ないし、来たとしてもベッドを蹴り飛ばして叩き起こされた後で剣術の稽古だっただろうしさ。
それはそうと今は仕事中だろう? アンタ、城勤めじゃねえか。それも陛下直轄。
「ふっ! 私は公私共にパーフェクトなのだぞ? 無論、兄としても完全無欠。故にこうして弟の見舞いの為にやって来たという訳だ。はっはっはー! 慈悲深さと家族愛まで兼ね揃えるとは自分の完璧さが怖い!」
……いや、兄貴は好きだし頼りにしているんだ。尊敬だって勿論な。でも……これが無ければなあって何時も思う。
その場で膝を着き指を組んで窓の外を見上げる兄貴の姿に精神的な疲れが増した時、保健室の扉が開く音がした。
兄貴のセリフは平滝夜叉丸をイメージしたらスラスラ浮かんだ
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