指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 11

「あの竜巻は絶対ジェイルの魔法。……急がないと」

 

 ジェイルを殿に残し一時退避し事態を軍の屯所に報告したルシアとメルーナの行動は迅速であった。

 フライングボードの修繕を間に合わせで終わらせ,制止されるのも聞かずに急いで先で見えたのは横向き発生した竜巻が山を削り取る様子。

 

「ヒュー! 相変わらず彼の魔法は凄いや。胸がドキワクって奴?」

 

 真剣な眼差しで焦りさえ見せる二人とは違った呑気な声。その余りにも状況に相応しくない声に二人は軽く睨むような視線を送るものの、当の本人であるベアルコは気が付いていないのか気にする様子を見せていない。

 

 姿勢制御や安定した移動の難度が異様に高い事から、扱う者は国の記録に残るであろう飛行魔法を平然と使い熟し、剰え茶菓子とマグカップに注いだココアを乗せたトレイさえも揺らさず飛ばすという更に数段上の高等技術を扱いながら宙で寝転んでいた。

 

「そ,それにしてもベアルコ先生が近くに居て良かったです。魔法薬も即座に怪我が癒える訳じゃ無いし……」

 

「ふふん! それで僕の出番って訳だね。大間抜けこいて暫く会えなくなったマイフレンドの一人と会う事になってね。帰るの面倒だから何処かでお昼寝しようと思っていたのさ」

 

「ベアルコ先生が友達を作れた? ビックリ」

 

「わーお。僕って生徒達に理解されてるや。それよりも速度を上げて行くよ。ジェイルが自分の魔法の余波で大怪我しているだろうしさ」

 

 友達が居ないではなく作れた事自体に驚かれてもベアルコは気にした様子を見せず、寧ろ自分を生徒が理解している事に嬉しそうにしている程だ。

 

 呑気な言動に思う所があったのか向けた嫌味もスルーされて無言になったルシアは言われるまでもないと更にフライングボードの飛行速度を上げるも、横を飛ぶベアルコはココアを飲みながらそれに平然と並んで飛んでいる。

 

「ねぇねぇ、ルシアちゃんってジェイル君を普段は呼び捨てにしているのに、さっきはさん付けで呼んでたよね。もしかしてキャラ付け間違った?」

 

「……違う」

 

「そうですよ、先生。ルシアちゃんは人付き合いが苦手で男の子を呼び捨てなんて本来は無理なんです。でも、ジェイル君は特別だから……」

 

「そこまでじゃない。又従兄弟だし私の実験にも嫌な顔をせずに付き合ってくれるから対等でいたいだけ」

 

 青春だなんだと囃し立てるベアルコの頭の上には普段動き回るパンダの姿は無く、ルシアはその事にも気が付かない程に焦っていたのか強張った顔をし続けていたが、この時になって僅に表情を変えた。

 

 長い付き合いの友人を誇る様な、恋愛感情だと指摘された事が恥ずかしい様なそんな表情だ。

 

「むひょひょひょひょ! メルーナちゃん,今の聞いた? 何て事無いみたいに言っているけれどさ。ザ・青春だよね! 因みに僕はルシアちゃんより友達多いよ。なんと七人もいるんだから!」

 

「……気が散るから黙っていて。魔法が発生した位置からして……居たっ!」

 

 ルシアが身を乗り出した勢いでずり落ちそうになるのも気にせずにジェイルが木にもたれかかっている方向へとフライングボードを加速させ、メルーナは未だ建物の三階に届きそうな高度にも関わらず躊躇せずに飛び降りた。

 

「ジェイル君!」

 

 空中で姿勢を整え膝で落下の衝撃を受け止めた彼女は一切止まる事無くジェイルへと向かって行く。

 彼女の一族は代々騎士の家系、本来一代限りの名誉職が代々引き継がれる迄に戦い続け、強化魔法を体に馴染ませ続けた彼女の身体能力からなる移動速度は常人を凌駕して疾風の勢いでジェイルへと向かっていった。

 

 そして泣きそうな顔のまま……勢いを殺さずに胸へと飛びんだ……いや、突っ込んだ。

 

「……ん? ああ、メルーナか。迎えに来てくれ……げふっ!?」

 

 疲労からの眠りかダメージからの気絶か木に背を預けたまま意識を失っていたジェイルは己を呼ぶ声に目を覚まして相手が誰かを認識し、次の瞬間に胸に凄い衝撃が響いた。

 元々戦いの余波で根元が崩れかけていた木は貫通した衝撃によって倒れ、その上に折り重なる様に二人は倒れ込む。

 

「良かった。生きてた……」

 

 安堵感からかジェイルの胸に抱き付いたままメルーナは涙を流しながらも笑みを浮かべ、胸に強力な一撃を受けたジェイルは再び意識を失ってしまった。

 

「おいおい、メルーナっち。昼間っから男の子を押し倒すとか大胆だね、しかも野外で!」

 

「にゃっ!? ご、誤解です! って言うか気絶してる!? それに酷い怪我だよ,どうしよう!? 取り敢えずお薬を飲ませなきゃ!」

 

 今回の討伐の為に用意した魔法薬の瓶を取り出したメルーナだったが、気絶したままのジェイルを目にして固まった。

 

 

「これ、もしかして口移しで飲ませなきゃ駄目な奴なのかな……。どどど、どうしよう!? 救命行為だし、やるしかないんだろうけれど!? 仮面! 仮面さえあれば後は女も度胸って事で!」

 

「メルーナ,落ち着いて。そしてジェイルの上から退いて。薬は飲まなくても患部に掛ければ良いし、そもそもベアルコ先生いるから」

 

「そうだった……。穴があったら入りたい」

 

「ねぇねぇ、メルーナちゃんがジェイル君を押し倒して、意識が無い彼にキスしようとしたって噂を広めて良い?」

 

「間違っては無いけれど止めて下さいぃいいいいいっ!?」

 

「五月蝿い」

 

 怪我人の上に跨ったまま慌てるメルーナはキスで飲ませなくてはならないのかと真っ赤になって大慌て。

 

 彼女を指差して無表情のまま爆笑するベアルコ、そして何時の間にか頭の上に居たパンダ。ルシアだけは冷静を保ちながらも気絶しているジェイルの手をそっと握ると頭の布を外して水で固まった血を流した後で石で切れた部分に薬を垂らし始める。

 

「……無茶し過ぎだよ? ジェイルには傍に居てもらわないと困る。主に実験の手伝いとかで」

 

 こうして三人のアルルーナ退治は予想外の騒動に発展しながらも無事に解決したのであった。

 

 

「所で君達,事後処理はどうするの? 軍だって動くだろうし色々大変だよ? 調書とか色々とさ」

 

「……どうしよう。新学期までに何日潰れるんだろ?」

 

「ジェイルの治療は先生に頼めば大丈夫だし、足止めしてた上に倒したのもジェイルだから頑張ってもらおう。……先生が頑張ってくれても良い」

 

「頑張るって嫌いな言葉なんだよね。食っちゃ寝しながら遊んで暮らしたい。週休七日でお給料だけ貰いたいけれど、ルシアちゃん雇ってくれない?」

 

「嫌」

 

「じゃあルシアちゃん雇って。お仕事くれなくて良いよ。お金さえくれたら良いからさ」

 

「えぇ……」

 

 彼女達三人の意見は同じ。色々と面倒な事には関わりたくない,だ。

 気弱なメルーナに他人はどうでも良いから研究がしたいルシア,問題外のベアルコ。

 

 結果、皺寄せがジェイルに向かうのは当然の話であった。

 

 

 

 

 

 

「お前等,本当にいい性格してるよ。お陰で結構時間を取られちまった。良くも悪くも【持ち腐れ】の名前が働いてあの程度で済んだとも言えるんだけれどな」

 

 もう新年度を翌々日に控え、準備の為の買い物に来たジェイルとメルーナ。ルシアは必要な物を全て実家から送ってもらい、今はフライングボードの修繕だけでなく新たな魔道具の開発に取り掛かっているからと同行しなかった。

 

 結果、メルーナが買い求めた服や予備の武器で荷物は膨れ上がり、荷物の配送サービスに必要な金額まで使い込んだのでジェイルが持つ羽目になってしまっていた。

 

 これでは終わった話であろうと文句も言いたくなる筈だ。それはメルーナも分かっているのか荷物の袋を気まずそうに見ている。

 

「えっと,荷物持ちまでやらせちゃってごめんね? 今からでも私が持とうか?」

 

「この状況で女に大荷物持たせた場合に俺が浴びる視線を考えて言ってくれ。例え俺よりも腕力凄い奴だろうと見た目は華奢なんだからな、見た目は。どうなってやがるんだよ。大胸筋でむ……いや、何でもない」

 

 胸が膨らんでる訳でもないのに、そう言い掛けた所でジェイルは言葉を止める。これ以上は礼儀的な意味でも、身の危険的な意味でも駄目だと思ったからだ

 

「……それよりもメルーナ,足は大丈夫なのか?」

 

「う、うん。ベアルコ先生の魔法とジェイル君が調合しておいた魔法薬の組み合わせで半日も掛からなかったよ。ほら……ひゃう」

 

 傷跡一つ存在しない足を見せびらかす様にスカートを捲って足を動かし、直ぐに恥ずかしくなったのか足を隠す。

 

「恥ずかしいと思うなら最初から見せんなって。……それよりも急いで馬車の停留所まで行くぞ。そろそろ降りそうだ」

 

「うん。普段は避けてるけれど繁華街の裏手辺りを突っ切れば直ぐだよね」

 

 空を見上げれば曇天、出掛けた時には雲一つ無かったのが嘘の様だと二人揃って困り顔だ。

 残った食事を胃に流し込み、支払いを済ませると急ぎ足で馬車へと急ぐのであった。

 

 そして……。

 

 

 

「まさか直ぐに大雨が降るなんてな……」

 

「雨は止んだけれど馬車が一杯で次まで時間があるし、このままじゃ風邪引いちゃいそう……」

 

 通り雨でずぶ濡れになった二人は雨宿りを兼ねて近くの建物に飛び込んだのだが、連れ込み宿だった。そんな所に二人で居る所を誰かに見られては大変だと慌てて部屋を取り,今こうしている所だ。

 

 大きなベッドが中央にあり,部屋の隅には魔道具であるシャワーが薄いカーテンに囲まれるかたちで設置されていた。幸いなのは服を乾かす魔道具のあるが、何故その様な物があるのかの理由は二人には分からない。

 

 服を着た状態で濡れる事で体に張り付くのはエロい,そんな理由だ。

 

「取り敢えず出る時は別々に出ようぜ」

 

「二人して出たのを見られたら困るものね。へっくし! ……ご、ごめん。シャワー浴びて良いかな?」

 

 絶対にこっちを見ないで欲しいと頼み、ジェイルが背を向けたのを確かめたメルーナは迷いながらもボタンに指先を掛けた。

 

 

 




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