指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 12

 背後から聞こえて来る衣擦れやボタンを外す音,そして緊張からか荒くなった息遣い。

 メルーナが背後で服を脱いでいる、それを意識しない様に努めても意識してしまう物だ。

 

「ぜ、絶対にこっち見ないでねっ!」

 

 メルーナも言わなくても平気だと分かっていつつも言わずにはいられず、上着とスカートを脱ぎ、赤いショーツの次にブラを外すのだが雨が染み込んで透けてしまっている。

 

 着ける意味の有無が微妙な胸囲の彼女だが、張り付いてしまった事で胸の薄さが更に強調されていた。反対に豊満で形の良い尻も透けて張り付いて良さが強調されている。

 

「こんなに濡れちゃった……」

 

 最後にビチョビチョになった靴下を脱ぎ捨てると背後をチラ見しつつシャワーへと急ぐのだが、脱ぐ際に慌てたせいで放り投げた時に音がして、今まさに脱いでいるのだとおしえていた。

 

「……うん」

 

 だから思わずジェイルも返事が普段と変わってしまうのも仕方が無く、健全な年頃であるからして異性に興味が無い訳でもないのだから異性への興味とて持っている。

 

 自室にはそういった本を隠しているし、同室であるスロースと丈の短い衣装の女給が接客する店に行く事だってあった。

 故に今も言われた通りに背中を向けつつも鏡、若しくはガラス細工や磨かれた金属製品の様に鏡の様に背後の光景を映してくれる物を視線だけで探す。

 

 だが,見つからない。それらしい物が置いてあった痕跡こそあるものの一つもない。

 妙だなと思いつつも背後から意識を背けようとすればする程に気になり、荷物の整理でもしながら気を紛らわせようと取り出した短剣の刃が薄いカーテン越しのシルエットと隙間から一瞬見えた大きめの尻の一部を映し出してしまった。

 

「……」

 

 鼻歌とシャワーの音だけが耳に届く中、高鳴る胸の鼓動がそれを塗り潰しそうな程に大きく聞こえたジェイルは思わず短剣を再び鞘から抜こうとして思い止まり、それでも抜こうとしてから袋に投げ入れた所でシャワーの音が止まり、カーテンが開く音がした。

 

「えっと、服の乾燥が終わったから着替えたいし,もう少しだけ後ろを向いていて欲しいな。……今,裸だから絶対に振り向かないで」

 

「……今更なんだけれど警戒心無さ過ぎじゃねえの? いや,ずぶ濡れなんだから仕方無いんだけれどよ」

 

「うっ」

 

 流されるがままの今の状況なのは自分も同じではあるものの、連れ込み宿で同室になりシャワーを浴びるなど、先日校則違反で捕まった夜這いの犯人ならば合意の上だとして行為に発展しようとしただろう。

 

 少し迂闊な行為ではないのかと注意されれば自覚はあったらしい反応が返って来る。

 

「だ,だって一人一部屋は宿の人に迷惑だし、ジェイル君なら平気だから。えっと,これは信頼の証であって,裸を見られても……」

 

 平気って意味じゃない,そんな言い訳は恥ずかしだから途切れてしまう。後は沈黙の中で急いで乾かした服を脱ぎ、脱ぐ前に退かしておいた鏡の代わりになる物を一箇所に集めた。

 

「つ,次はジェイル君がシャワー浴びたら? 服は直ぐに乾くし、濡れたままだと風邪引いちゃうよ? バスタオルは……ちゃんとあるから」

 

「おう……」

 

 互いに変に意識しつつ背中を向けあったまま場所を移動し,今度はジェイルがシャワーを浴び始めたのだが二人問題があった。

 

 一つは自分が映らない様にと移動させた物が手元にあってシャワーの様子を映し出している事で,もう一つはバスタオルは一枚しかなかった事,つまり彼女が体を拭いた物だけしかない事だ。

 

 後者に気が付いて言い出せもしない所で視線を動かしていた時、小さな鏡にジェイルの背中が映し出されたのを見てしまった事でミルーナは限界を迎え思考が停止した。水から引き上げられた魚のように口をパクパク動かして顔は赤らめ、視線は鏡から外れないでいた。

 

「はっ!? 私、何をやって!? 思っていた以上に背中が逞し…じゃなくって、見たお詫びに私も下着を見せた方が良いのかな、は話が飛躍していて、はわわわわわわわっ!?」

 

 導き出した答えはあまりにも酷く、騎士になるべく鍛えた筈の精神力は明後日の方へと吹っ飛んでしまい、言葉を口にし続けながらそれは加速して行くし聞こえる音量だった。今の彼女に声量を気にする余裕等皆無だ。

 

「聞かなかった事にしよう。……このタオル湿ってるよな? あっ……」

 

 メルーナの混乱を優しさからスルーする方向にしたジェイルは今以上の混乱を避ける為にシャワーを短めに切り上げてタオルで体を拭いている途中で使用済みだった事に気が付いて言葉を失った。気にしてしまう年頃なのだ。

 

 この後,別々に宿を出てから合流したが学園に戻るまで二人の間に会話は無かった。

 

 そして数日後、新年度が始まって新入生が入学して来る。国に仕えて魔法を使う役職に就く為か貴族や軍人の家系の出身者が多いものの才能を見出されて入学した者も一定数は存在する。

 

 そんな新入生と在校生の交流の為、二年生と一年生が共に学園を回るレクリエーションが開かれるのだが……。

 

「ジェイルジェイル! 新しい魔道具が完成したから試して欲しいんだけれど」

 

「後でな。一年生の前では我慢しろよ、スロース」

 

「え? こういったのは早い内にしないと。見学しながらで良くない?」

 

「お前,そんなんだから俺みたいに遠巻きにされるんだぞ? 同類のルシアだの仮面で口調が変わりまくるメルーナもそうだが、お前も大概だからな?」

 

 この様な状況でも我を通す友人と自分に案内される新入生にジェイルは少しばかり同情する。特に既に悪評が広がる自分は兎も角、職人一族のミッドナイト家の名声だけで近付いた者が実験に巻き込まれる事が多く、ルシアで慣れていなければ自分も友達になれたか微妙なのが正直ない感想だ。

 

「え? ジェイルのお兄さんよりはマシじゃない? 【無血】の変人っぷりは凄く有名じゃないか」

 

「何も言い返せる気がしねえ。……そろそろ俺達の番だな」

 

 今回のレクリエーションだが、一年時から選択授業もある影響で同じタイミングで同じ場所に向かって混雑しない様にと、新入生の組み合わせも含めて順番はクジで決められる。

 流石に家同士で対立している場合は引き直しになるが、個人の希望は基本的に聞き入れられない。

 

 だから自分と見て回るのが嫌な相手だった場合、家の敵でなければ相手が可哀想だと思いながら待っていると教師に案内されて男女が姿を見せた。

 

 それに続いて護衛を連れた少年も一人やって来る。

 

「……よりにもよって、か」

 

 ジェイルの口から相手に聞こえない大きさの声が漏れ出し、表情に出るのを何とか堪えた相手,それは男子生徒の方だ。

 

 金髪に緑色の瞳をした少年。右耳に雫型のイヤリングで、髪は短めだが前髪だけ少し長く瞳に掛かる長さで、来客者用のプレートを取り付けたケープにはとある国の王族の紋章が刺繍されている。

 

「王子様が見学に来るとは聞いていたが、俺達の班か。スロース、本当に大人しくしてろよ?」

 

 彼の名前はクゥエル・メイク・アストルティア。地方自立国家アストルティアの王太子である彼の登場に驚き、事前に説明しておいて欲しかったと同行した教師であるジャンクーアを見るも目を逸らされた。

 

「確かレムリス家の次男の方ですよね? 何年か前にお会いした覚えがあります。本日は義姉様に会いに……いえ、外交で此方の国に来ましたので前から興味があって寄らせていただきました」

 

「お久しぶりです、殿下。私では役者不足ではありますが、精一杯ご案内させて頂きます」

 

「うん。途中で別の人に案内を変わっていただく予定だけれど、其処までは頼むよ」

 

 王族の見学に同行する事になった一年生二人に同情の念を送る中、ジェイルはその片方、ダークエルフの少女からの視線が少しだけ気になった。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




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