指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 13

「王族の相手お疲れ様。ご褒美にプチトマトあげる」

 

 レクリエーションは特に何事も無く、と言えば語弊があるが見学を申し出たゲストの目当てがとある女子生徒であり、そもそも彼女に会うのが目的なのは分かっていた。

 

「まさか初っ端から公務で来た王子様が目当ての相手に会うってのも外聞が悪いからな。顔を合わせた事のある俺が最初に案内するのは良いとして気になった事があってな。そして嫌いな物を押し付けるな」

 

 この場でテーブルを囲んでいるのは四人。その四人とも本来ならば家の力目当てか元から実家に関係する生徒が取り巻きになって派閥を形成していたであろうが、権力闘争に興味が無く各自に問題を抱えている事もあって遠巻きにされている状態。

 

 そんな四人が固まっているのだから他の生徒は余計に近付けず、事情を知らない新入生は新入生で近付きたくても近付けない。

 四人の姿を遠巻きに眺めて誰かがリスクを犯して話し掛ける事で自分も話し掛けるタイミングを計るか、若しくは他の上級生の所へ行くかだ。

 

 そんな視線など四人は気が付いていて当たり前だが、気にしているのはメルーナだけで残り三人、特にルシアとスロースは一切気にしていない。

 

「いや、お前が嫌いな物を押し付ける気なだけじゃねえか」

 

 昼食に頼んだ貝類のパスタを食べている最中に皿の隅に置かれたミニトマトを持ち主の皿に戻すジェイルは集まる視線、家の力目当ての者や悪評を知って嘲笑する者等々、今さら気にしていても仕方が無いので気にしない。

 目の前の友人にはもう少し気にして欲しいとは思ったが。

 

「その通り。でも農家とコックに悪いから、あ〜ん」

 

 そして他人に基本興味が無いルシアは遠目に自分達の様子を窺う一年生の事など気にする素振りすら見せずに苦手なトマトをフォークに再び刺して、今度は皿の隅ではなく彼の口へと持っていった。

 

 途端、遠くで幾ばくかのざわめきが起こる。辺境伯の娘で既に魔道具を発明している才女であるルシアは卒業後に領地を分譲され独立すると決まっているのが伝わっていたのか、上の兄弟が実家の後を継ぎ自分は婿入り先が決まっていない様な家の子息達からすれば何とか心を射止めたい相手。

 

 その様な者達にとって彼女が今行っている事は大逆転で兄達を見返したかった者達の希望を打ち砕くには十分だ。

 

 もしかしたら興味の無い相手が言い寄ってくるのが面倒だからと誰かからアドバイスを得ての行動なのかも知れないが、そうであっても知らない者の立場からすれば当然止めに入る。

 

「駄目だって、ルシア。人前で食べさせるとか遠くから見ている連中だっているんだし。そんな時は,これ! 刺した物の味が変わる“ランダムフォーク”!」

 

 尚、己の欲求の割合が圧倒的に大きそうではある。

 

 横から伸ばした手で其れを制したスロースが内ポケットから取り出したのはフォークが入った小さなケースで,中から取り出すと端から先へと流れる様に色が変わっている。

 

 とても食器が発して良い色合いでは無いのだが取り出した本人は自信満々でメルーナとジェイルは奇妙奇天烈な品に向ける目をして,手渡す様に差し出されたルシアは冷め切った目。三人揃って既に慣れた反応だった。

 

「そう、欠点は?」

 

「ふふふ、このフォークが凄いのは刺した食べ物の香りと食感を失わずに味だけ変える所なんだ」

 

「欠点は?」

 

「……味の種類と強弱がランダムで決まるから味の保証が出来ない所かな」

 

 なら欠陥品じゃないか、という言葉が三人の口から飛び出しそうになるものの、研究者として魔道具を作り出すルシアよりも職人として作り出すスロースの方が作品を否定された時の反応が厄介だ。

 

 故に今する事は話題の変換、再び皿にミニトマトを乗せようとするルシアのフォークを遮りつつ、下手すれば自分が使ってみせる事になるからと言い出せない。

 

 ルシアと互いに視線で相手に話題を変えろと押し付け合う中、口を開いたのはルシアだった。

 

 

 

「レクリエーションが終わって一年生と別れた後、ジェイルがダークエルフの子に手紙を渡されていた。……ラブレター?」

 

「えぇっ!? 一目惚れ!? それともずっと前から!? わわっ!?」

 

「いや、ハニートラップの線も捨てられないね。ダークエルフって多分僕達と行動した子だろうけれど、予め用意していないと行動が早過ぎる」

 

「……読んだ?」

 

「いや、未だ読んでないが……初対面だぞ、あの子」

 

 話題を変える事には確かに成功したが、自分に三人の好奇の視線が向けられる事になっては堪らない。今は手紙を持っていないと言いつつ話題を更に変えようとするのだが、既に三人はその話題で盛り上がっていた。メルーナは兎も角、基本的に他人に興味が無い二人も相手が友人ならば話は別だ。年頃の男女らしく楽しそうに話している。

 

 

「あ、あの、その子ってダークエルフだったんだよね? じゃ、じゃあ、ジェイル君の魔力で、その……」

 

「ああ、エルフやダークエルフにとって高い魔力は性癖に合致するんだっけ? 成る程、メルーナはその子がジェイルを性的な目で見ているって思うんだね?」

 

「そもそも自分達の縄張りから滅多に出ない種族なのにどうしてエムリス学園に? ハーフとか? ……因みにジェイルは小さい頃、取引成立を祝う宴でエルフ達からギラギラした目を向けられていて慌てて逃がしたってアーサーさんから聞いた事がある」

 

「何らかの理由で他種族の国で暮らし始めた少女。不安な新生活に戸惑う中、ダークエルフからすれば色気過剰な先輩と出会って、か。今考えれば始終モジモジしていた気がする……」

 

「あのなあ、俺は良いけれどネタにされる子について考えろよ。……あの子、ラウラ・エニスって名乗ったんだが、エニスって最近何処かで聞いた家名なんだよな」

 

 自分を放っておいて好き勝手に話すまでは良かったものの、エロい子扱いされている一年生が可哀想だと止めに入るジェイルではあったもののレクリエーション中の態度や食堂に向かう最中に手紙を渡してきた時の態度は確かに気にはなっていた。

 

 目は熱を帯び少し潤み、息も少し乱れているかの様だ。少なくとも冷静な状態ではない。

 

 

「……えっと、ほら、尻……女子寮に忍び込もうとした人と同じ家名だったよ」

 

「【尻丸出し】のヤドゥース。エニス商会の息子」

 

「尻を丸出しにして吊るされていたんだろう? 貴族の娘相手に何股もしていたせいで今大変な事になっているのに、普通に入学しているのなら他人か訳有りか。……ハニートラップの可能性も有るんじゃないの?」

 

 スロースの言葉が終わると共に四人は視界の端にラウラが入り込んでいないか周囲に顔を向けないまま探すも見当たらず、ミニトマトは最終的にメルーナが押し付けられた。

 

「そうそう、見た目の特徴なんだけれど、少なくとも二人より胸が大き、痛っ!? 何で二人して僕の脛を蹴るんだい!? ルシアは兎も角、メルーナは洒落にならないんだけれど!?」

 

 

 

 ジェイルも年頃の男だ、美少女から手紙を渡されれば少し浮かれたくもなる。

 ただ、相手の立場にもよる。それ次第では厄介な目に遭う事もあり、今回はその可能性が濃厚だからだ。

 

「お兄ちゃん遊んで! ボール投げて、ボール!」

 

「はいはい。ちょっと待ってろ」

 

 少しばかりモヤモヤを抱きつつスロースよりも先に部屋に戻ったジェイルをボールを咥えたジークが出迎える。使い古したお気に入りのボールを中央の口で咥え、ジェイルの胸の高さまで跳び跳ねながら尻尾を振り回していた。

 

 ジェイルが手を差し出せば空中で器用に渡され、早く投げてとキラキラ目を輝かせながら自分の周囲を走り回るジークを踏まない様にしながらベッドに腰掛けて鞄を隅に放り出せば手渡された手紙が出て来た。

 

 香水の匂いが僅かにする綺麗な便箋で、ボールを投げつつ片手で封を開けば丁寧な文字が書き綴られた手紙が出て来る。

 

 自然と手渡された時の事が思い起こされた。

 

 

 

 

 

 

「お食事に向かう所申し訳御座いません。エムリス先輩……いえ、様を付けた方が宜しかったですね」

 

 教室を出て一旦鞄を部屋に置いてこようとした時、何度目かの呼び止めにジェイルは足を止める。

 相手はレクリエーションの際に案内した女子生徒。会ったばかりのもあるが、特徴的な種族でもあるので強く印象に残っていた。

 

 案内の途中に向けて来た視線も含めての事だ。

 

「そんな堅苦しくなくて良いさ。少なくても学園にいる間はな。一応学園内では身分差に其処迄拘るなってルールだからな。……いや、無茶言うなって話でもあるのか」

 

 一応ながら学園で生徒間の問題に家を持ち出さないというのは建前で、相手が内心何を考えているか等分かった物ではなく、学則だからと安心出来ない。

 

 上の立場なら兎も角、下の者達からすれば無茶を言うなと思うだろう。

 

「まあ、レクリエーションの縁で俺が望んでるって事で気楽に先輩呼びで良いさ。どうせ俺は家の力なんて殆ど使えないしな。エニスだったよな」

 

「覚えて頂いて光栄です、エムリス先輩。私の事は家名ではなく名であるラウラとお呼び下さい。生憎誇れる身分でも御座いませんので」

 

「ああ,確か商家って言ってたな。じゃあ培われた教育法も受け継いだ力も無いのに受かったのは才能と努力の賜物だな」

 

「お褒め下さり光栄です。それで唐突な話,無礼では御座いますが此方をお受け取り下さいませ」

 

 褒め言葉に表情を僅かに緩ませて一礼したラウラは懐から便箋を取り出してジェイルに差し出す。

 冷静沈着で真面目な性格から来る表情の薄さはダークエルフへの色眼鏡もあってか、見た者に一種の神秘性すら印象付けさせる。

 

「……ひゃ」

 

 但し、会話の節々で熱を帯びた視線を向けていなければの話だが。まるで性的な経験の無い少年が妖艶な娼婦でも目にしているかの様であった。

 

「それでは私は此処で失礼させて頂きますが、良い返事をお待ちしております」

 

 ほんの少しだけ口元で笑みを浮かべたラウラは再び深々と頭を下げると静かに去って行った。

 

 

 

 

「四人目か。こりゃ暫くはお茶会とかの誘いがありそうだな」

 

 学園は魔法を学ぶ場所でもあるが、婿入り先や嫁入り先が決まっていない生徒からすれば出会いの場でもある。

 

 悪評が立っている自分でも家は立派で姉と兄は一族に相応しい実績と実力の持ち主、何らかの関係を結べば必ず役に立つと思っての事であろうと考えながら最初に開いたのはラウラからの手紙だった。

 

「えっと、幼き頃より経営学や政治学を学び、小規模ながら店を任され売り上げは安定して成長中? それと貴族の家で文官としての教えも受けたのか。……うわっ、恥ずかし。ラブレターじゃなくて部下としての売り込みじゃねえか」

 

 受け入れるかどうかは別としてラブレターだと思いワクワクしていた自分が恥ずかしいからと思いながらボールを投げる。床を転がるそれを咥えて持ち帰ったジークから受け取ると直ぐに投げ、戻って来たらまた投げつつ手紙を読み進めた。

 

 座学一位実技三位と入学試験の成績は優秀で、真偽は未だ分からないが相当な教育を受けて文官として既に即戦力の実力であると手紙でアピールされている。

 

「あれか。エムリス家に仕えたって箔付の後に関係する家に嫁入りしようって気か。どうすっかな。優秀な人材なら欲しいが俺の一存じゃ決められねえし、姉様に手紙でお伺い立てを……最後の一文は見なかった事にしてな」

 

 自己アピールとエムリス家の賛美を綴った手紙の最後、オマケの様に小さな字で遠回しに体を捧げる旨が記されていた。

 

 流石にこれは報告出来ない、そんな判断を下すジェイルであった。

 

 

 

 

 

「編入生? そりゃ凄いな。何年振りだ?」

 

 次の日,担任の教師知らせるよりも前にクラス中に広められたのは編入生の存在についてだった。

 

 在野に居て才能の発掘が遅れた事で歳の離れていようとも一年生から始める生徒は居るが、入学試験よりも当然ながら難しい編入試験を突破するのは本当に珍しい。

 

 さて,どの様な人物が入って来るのか。そんな風に極一部を除いてクラス中が興味を示す中、扉が開いてベアルコが一人の少女を連れて入って来た。

 

 

「皆,おはよー。じゃあアタシは二度寝しておくから転校生ちゃんは自己紹介よろー」

 

 言うがいなやベアルコは持ち込んだ枕を教卓に置くなり突っ伏して寝始め、パンダが宙を歩いて黒板に名前を書いて行く。但し汚いので何を書いているかは不明だ。

 

 

 

 

「皆様、初めまして。リリース・メモワールと申します。どうぞお見知りおきを」

 

 ベアルコの奇行を一切気にせず名乗ったのは先日ジェイルをカーラから救った少女。

 丁寧に頭を下げ笑みを浮かべる彼女だが見詰めるのは一点。ジェイルだけを見ていた。

 

 

 

 




5万字超えてようやく参戦したメインヒロイン枠だった子  挽回できるか?
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