指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 16

 リリースの一族は貴族ではないが名門だ。何の名門かと問われれば,貴族の使用人としての名門だと一族の者は胸を張って答えるであろう。

 

 貴族になり立身出世を果たす事には興味が無く、使用人の代表として指示する立場にある執事やメイド長等になるのは目標にしてではなく当然の事。

 

 必然的に家内部の情報を得てしまう立場ではあるが、それでも彼女の一族の者を使用人に加えるのは一種のステータスとされていて、エムリス家にも何人か一族の者が仕えている。

 

 ……その様な一族の落ちこぼれとして生まれたのがリリースだ。クールな性格から愛想の悪さもあるが、根本的に脳筋の彼女は優れた身体能力に任せた方法で仕事を熟し,当然ながら連携が取れず輪を乱す。

 

 品格や培われて受け継がれて来た技術に誇りを持つ者からすれば物覚えの悪さと不器用さばかりが目に付き、いつしか【駄メイド】と呼ばれる様に。

 

 同じく一族の落ちこぼれだったジェイルの周囲に同じ年頃の子供が居ないからと遊び相手を任されていたのも厄介払いの面が強く、根気強い性格をした当時のメイド長以外は彼女に仕事を教えるのを放棄しようとさえしていた。

 

 諦めていたのだ、リリース自身も。

 

「ですが、私と違いジェイル様は諦めず最低限の役割だけでも果たそうとなさっていました。その姿に惹かれ……最強のメイドとなって生涯お仕えすると決めたのです」

 

「最強のメイドね。メイドに戦闘力って必要だっけ……?」

 

「当然です。そしてジェイル様がお望みであれば愛妾も兼任する所存です。勿論,命じていただければ今直ぐにでも」

 

「落ち着け。少し落ち着こう」

 

 うつ伏せになったジェイルの腰に乗って肩甲骨の周辺をマッサージしながらリリースは何度も繰り返した告白を口にする。

 

 決意とは口に出してする物、秘めた想いは存在しないのと同じ,その様な考えを持つからか欲望も曝け出す様子に少し引くジェイルであったが、気恥ずかしさと嬉しさが入り混じった物も感じていた。

 

 此処迄態度に出していたのは幼き日からであり、流石に想いに気が付かない程に鈍感ではない。

 但し今の自分には早いので手を出す気は惜しい気もするが起きないし、気軽に受け入れる気にはなれなかった。

 

「あれだ、リリ。お前には誠実に接したいからだな……」

 

「ええ、承知しています。ジェイル様が己を誇れる様になるまでお待ち致しますのでご安心を」

 

 相手の事を理解しているのは自分も同じだと迷い無く囁く。

 

 そう、腰の上に跨っていた状態から耳元で囁くので当然ながら密着した状態で耳に息が掛かっている。

 軽く抱き付く体勢で体重を掛けているので触れている部分の感触が伝わり、ジェイルの胸が高鳴るのが伝わって、リリースは更に胸が高鳴っている上に息が荒くなっていた。

 

「私の体で緊張して下さっているのですね。うふふふ、光栄です。では、マッサージも終わりましたし、色々と解消すべき物も有りますので一旦失礼させていただきます」

 

 リリースは素早く飛び退くと少しだけスカートの中を気にする様子を見せながら去って行き、ジェイルはそのままジークの腹に顔を押し付けた。

 

「昔もボディタッチが多い奴だったけれど、母様の実家の方でどんな教育受けたんだよ、彼奴」

 

 諸事情により母方の親類とは疎遠になっている。それがリリースが移ってから会えなくなった理由ではあるが、それでも一種の信頼は向けていた。

 

 だが、好意を隠そうともしないのは良いとして欲望も隠さずお粗末なハニートラップ擬きをして来るのは少しばかり悩みの種だ。

 

「赤の他人なら良いんだよ,軽く流せるから。でもリリとは暫く会っていないとはいえ信頼してるからなあ。……兄貴も絡んでいるし」

 

 アーサーがメモで伝えたサプライズこそがリリースとの再会である事は既に本人から伝えられている。

 

 急にやって来て編入試験を受ける様に告げて来た時には驚きそうになったものの、アーサーならやりかねないので結局は驚かなかったとリリースが言っていたが、気になるのは親戚の出方だ。

 

 アーサーが絡んでいるのなら大丈夫だろうとは思うが、リリースが変な事に巻き込まれてはいないかが心配なジェイルだった。

 

 

 

 

 

「今日の歴史は歴史に名を刻む魔法使いレムリス・エムリスについて語ろうか。最後に小テストを作ってくれるように頼んだから届くと思う

よ。ああっ、ジェイル君は九十点以下なら補修ね」

 

 授業中に寝て過ごす、仕事を舐め腐った発言をしたベアルコであったが、授業は生徒の予想と違い行われていた。

 

「グゥグゥ、スヤスヤ、スピー」

 

 今は昼休憩後の座学の授業,腹も膨れて眠くなる時間の教室に響く寝息の音。

 生徒ではなく、ベアルコの物だ。ナイトキャップに大きな枕まで持ち込み枕元にはアロマキャンドル。

 授業などやる気が起きないと全力で主張する彼女の姿に生地達は諦めの境地に至るのだが、響く声は彼女の物だ。

 

 その理由は黒板の近くに置かれたコップ。そのコップが魔法によって操作された空気の振動によって声を再現するという超高等技術、それが怠ける為に使われている。

 

「元々初代国王が荒れ果てた未開の地に来た時に連れていた家名を持たない少年,それが独学で魔法を覚えた末に六体の魔王を封印した功績で建国時に自分の名前が好きだから家名にしたのさ!」

 

 現在進行形で現象を起こすのではなく、制御の手を離れても目的が果たされ続けるというこの魔法だが、あくまで再現可能なのは音声だけ。黒板にチョークで文字を書くのは別の人物だ。

 

「あれが【尻丸出し】を捕まえた変質者……」

 

「ベアルコ先生のパンダの配下の……意味が分からない」

 

 チョークを持つのはハシビロコウ、ただし着ぐるみ。表情筋が機能停止しているベアルコの代わりに感情の起伏を表すパンダが従えているらしいという謎の肩書きを持ち,先日女子寮に忍び込もうとした生徒を捕まえた男……だろうと生徒達は認識する。

 

 喋らず顔も体も見えない、分かるのは縫い付けられた名札に書かれた『キレース』という名前だけ。

 その異様さしか伝わらない存在に生徒の殆どが不気味さしか感じないが、例外も数名いた。

 

「あの足運びはただ物じゃないよね……」

 

「あんな動きにくそうな格好の癖に体幹が少しもブレてねえ」

 

「そして足音を微塵も立てない歩行。相当な腕前の武術家でしょうね」

 

 メルーナ、ジェイル、リリース他数名、剣術や武術などの心得が一定以上の者には別の意味で只者ではないと見抜いていたのだ。

 

 それはそうと意味不明な姿には変わらないのだが。

 

「そして七魔王の脅威から人を救ったレムリスは後に魔法を学ぶ私塾を開設,それがレムリス学園へとなったのは……」

 

 不意にコップからの音声とキレースの動きが止まる。一体何が起きたのかと一同が困惑する中、生徒達に背を向けていたキレースが突如振り向く。勢い良く振り被った手に大量のチョークを持ちながら。

 

 チョークが放たれたとジェイル達が認識した瞬間には腕を伸ばせば届く距離まで迫っていた。

 反応し行動に移れたのは僅か、更にその行動に結果が伴ったのは更に少数だ。

 

「悪いっ!」

 

「ぐぇ!?」

 

 ジェイルは咄嗟にスロースの襟を掴んで引き寄せつつ椅子から転がり落ちる様に伏せる。

 メルーナもルシアを庇う様に前に出るとペンを剣の代わりにしてチョークの軌道を変えて普段からジェイルを小馬鹿にしている生徒へと軌道を変え、リリースも高く掲げた踵を振り落として迫るチョークを叩き落とす。

 

 他にもチラホラと各々の方法でせまるチョークに対応し、急に襟を引っ張られた事で思わぬダメージを受けたスロースを含めて一応は無事、他の生徒は額に命中したチョークが弾け飛ぶと同時に意識を刈り取られた。

 

 そして対処出来た者達の意識がチョークに向いた一瞬でキレースの姿は前方から消え失せ、その事を認識されるよりも先に教室の後ろで第二射を放っていた。

 

 今度は飛んで来たチョークを察知する暇も無く、着弾と同時に意識を刈り取られる。

 生徒の誰一人僅かな反応さえ出来ない中、ベアルコの声が響いた。

 

 

「キレーちゃんが気になる子達がいたから少しだけ力を見せてあげたよ。キレーちゃんお疲れー!」

 

 当然ながら生徒全員が気絶している為にその声を聞いた者は居ない。パンダが一人一人に別々の落書きをするのも止める者はなく、キレースがその顔を見事な画力でスケッチして目の前に置いて行くのも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、相棒。オレに会えて嬉しいだろ?」

 

「いや、別に」

 

 そしてジェイルは再び食べ物だらけの頭の悪そうな空間に居た。

 

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