指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 17

 白濁色で少しばかり粘り気を持つ液体が流れる川をボートが進む。パンで作られたそのボートは乗せている二人が漕がなくとも進み,河岸に生えた棒付きフランクを船から伸びた手が引っこ抜いて川に浸すと躊躇無く犬歯で食い千切った。

 

「相棒って濡れ透けやら脱ぎかけとか全裸じゃねえのに服が無意味な状態が好きって性癖なんだな」

 

「起き抜けに何言い出すんだよ馬鹿!?」

 

 夢の中なので正確な表現なのかは不明だが、起き抜けに叩き込まれた言葉のインパクトにジェイルは勢い良く立ち上がるもパンの船は大きく揺れてバランスを崩してしまう。

 前のめりに倒れ、目の前の少女へと倒れ混むが、伸びた手が顔を受け止めると軽く押し返して再び座らせる。

 

 性癖の暴露という恐るべき行為を行う彼女は心の底から楽しそうに歯を見せて笑い、ジェイルの反応を愉快そうに眺めつつフランクフルトを食べ進めると棒の先をジェイルへと向けた。

 

「別に本当の事だろ? 相棒。本棚にその手の隠してるじゃねえか」

 

 熱によって溶かされている筈のチーズは熱を感じさせず湯気も上がっていないがフランクフルトに浸した部分だけは熱を持ち始める。

 

 パリパリに焼かれた皮の表面を垂れ落ちるチーズを舌先で舐め取る彼女はジェイルにもフランクフルトを差し出すも、首を左右に振って拒否されれば両手に持って食べ始め、その途中で性癖についての話題が始まった。

 

「パンツずらして尻突き出した絵を眺める時間が長かったが尻派か? ケケケケケ、オレがこれ食ってるのを見てどんな妄想した?」

 

「いや、何で知ってるんだよ。てか、お前一体何者だ? この前助けてくれたのお前だろうってのは分かるから礼言っとくわ。ありがとう」

 

「おいおい、質問に別の質問を被せて誤魔化すなよ。ケケケ、正直に言ったらオレがその通りの事をしてやっても良いのによ。……まあ、良いさ。オレの名はルゼベル。あの指輪に封印されていた悪魔さ」

 

 指輪と悪魔、その二つの単語を聞いたジェイルは思わず指輪を嵌めていた指に視線を向けてしまっていた。嵌めても勝手に外れるだけの指輪だと聞いていたのが全くの別物だった。その事実は直ぐに飲み込める程軽い物では無い。

 

 悪魔の存在は確認されている。それに憑依された悪魔憑きもまた冤罪を含めて多く確認されており、その多くが危険人物として幽閉や監視の対象となるのだ。

 

 悪魔に取り憑かれた物は悪魔の力の範囲で望む力を得るが、やがて悪魔に心を乗っ取られるという、それはジェイルの持つ知識だ。

 何せ七体の魔王の内の六体を封印したのが先祖なのだ、世間に流通する物とは違う知識だって持っている。

 

「指輪を嵌めた中指を……いや、念には念を入れて腕の付け根から切り落とすか」

 

 故に真顔で言い切った。悪魔と契約をした物は体の一部に契約の核があり、そこから精神を侵食され乗っ取られる。

 逆に言えば侵食が広がる前に核になった場所を切り落とせば良い,その知識からの決断にルゼベルは余裕を崩して立ち上がった。

 

「おぃいいいいいいっ!? 覚悟決まり過ぎだろ、相棒!? 止めろ止めろ! オレとは魂で繋がってるから腕切り落としても無駄だし、五感共有しているからオレまで痛いんだよ!」

 

「ふーん。文献で読んだのと同じか。……最悪だ。プライベートが欠片もねぇ。風呂も便所も見られてるとか……マジで最悪だ」

 

「他人がケツから糞捻り出すのなんざ感覚共有して堪るかってんだ! 少しキツイけれど切ってんだよ、そん時は! 風呂の時も同じ! オレだって気ぃ使ってやってんの!」

 

 うげぇ、と少しわざとらしく吐き気を催す演技を見せるジェイルに我慢出来なかったのかルゼベルの手が彼の襟首を掴んで激しく揺さぶる。

 プライベートを侵害して性癖をペラペラ喋るのと何が違うのだとジェイルは思うも、ルゼベルからすれば大違いの様子で此方も嫌悪を示していた。

 

 相手は悪魔,実物を見たのは彼女だけではあるが、その言葉はすんなり信用した様子で頷く。

 

 今名前を知ったばかりの相手,それも悪魔。信用する材料など皆無にも関わらず信用したのは言葉を交わす中で覚えた妙な感覚が理由だ。

 

 まるで自分が意識して言っている言葉の様にルゼベルの言葉の真偽が分かっていた。

 

「成る程。悪魔は契約者に嘘は言わないってあったがこういう事か。嘘を言わないんじゃなくって言えねえんだ」

 

 契約を交わした悪魔は相手を嘘で騙さない,それが正確には騙せないという理由で無駄だから嘘で騙そうとしない、それを理解するジェイルは一先ず安心してみせる。

 

 但し、ややこしい言葉への勘違いを放置する、大切な部分を抜かしておく、嘘を使わず相手を騙す方法はこの様に幾らでも思い付く。詐欺師でなくとも貴族ですら必要ならば選ぶ手段だ。

 

「ちっ! 説明の手間は省けるがやり辛ぇ。それとだ,相棒。先に言っておくが雑魚悪魔とオレを一緒にするんじゃねえ。オレの目的は封印の解除、チンケな体にゃ興味無いんだからよ」

 

「封印の解除が目的ね。それに協力させたいからの相棒呼びか?」

 

「話が早くて結構だ。血筋は糞でも悪くねえ。まあ,簡単な話さ。相棒はオレの力を借りて馬鹿魔力を扱い、それが封印の解除に繋がる。まあ、仲良くやろうぜ?」

 

 読んだ文献の内容を思い出しつつルゼベルの思惑を見抜こうと警戒を募らせるジェイルには対して彼女は余裕を取り戻したのか再び笑みを浮かべ、ジェイルの上にもたれ掛かる様にして顔を近づける。

 

 押し返そうとするも力の差は歴然で押し込まれ、息が掛かる程の距離にルゼベルの顔が迫っていた。

 

「テメェの先祖が仕掛けた封印解除の方法は契約者から悪魔に向けられる好意だ。だから精々ピンチになってオレを頼れ。助けてくれる相手には嫌でも抱いちまうもんなあ。ケケケケケ」

 

「ふざけんな。契約者が死ねば悪魔の死ぬんだろうが。お互い様で好意なんざ抱くかよ」

 

「分かってねえな、相棒ぉ? それでも助けられたら嬉しいのが人間って奴だろ? ああ,そうだ。一発ヤらせてやろうか? 抱いた女に情が湧くだろうし……そろそろ限界か」

 

 世界が揺らぎ薄れ始める。夢から醒める時間が来たとの知らせにルゼベルは鬱陶しそうに空を見上げ、ジェイルの耳元でそっと囁いた。

 

「分かってると思うがオレとの契約は黙ってろよ? 命狙う連中は多いからなぁ。それとこれはオマケだ」

 

「なっ!?」

 

 嘲笑う様に警告をしたルゼベルの手がジェイルの手首を掴んで無理矢理に自分の胸に押し当て、頬に一瞬だけ唇を当てた所でジェイルの意識は薄れ消えそうになって行く。

 

 

「テメェに好意なんざ抱くかよ、糞悪魔」

 

「その悪魔に礼を言った良い子ちゃんが何言ってんだ。ケケケッ! またお喋りしようぜ、あ・い・ぼ・う? まあ、次はグッチャグチャのドロドロになるまで交わってやっても良いけれどなぁ? 勿論下着が脱げ掛けの状態出来るよぉ?」

 

 視界が白一色に染まる中、悔し紛れに吐いた悪態も嘲笑で返された所で意識は完全に途切れた。

 

 

「一々俺の性癖を弄るな!」

 

 この憤りをどうしてもやろうかと憤慨しながら目を覚ませばキレースのチョーク投げを後頭部に受けた教室のまま移動しておらず大多数の生徒は気絶したままの中でジェイルは仰向けに倒れていて、リリースが覆い被さる様にして顔を覗き込んでいた。

 

 今から情事を始めると聞けば納得出来そうな体勢で、顔の距離は十センチもない。

 ジェイルは思った。このまま襲われるのかと。

 

「お目覚めになられたのですね。何が起きても咄嗟に庇える体勢で待機させていただきました」

 

「……うん、そうか」

 

 リリースの表情はクールなままで、声にも一切の揺るぎが混ざらない。目はあからさまに泳いでいるが、取り敢えず見なかった事にした。

 

「ベアルコ先生は既に居ないか。……そして全員補修かよ」

 

 黒板を見れば妙に可愛らしい丸文字で予定していた小テストは全員0点である旨が書かれている。そもそもテストを受けられなかったのはベアルコのパンダの配下のキレースなのだが、その様な抗議を受け入れる相手でもないだろう。

 

「まさか反応すら出来ないとは不覚を取りました……」

 

「ありゃ只者じゃねえよな。気にすんな、リリ。お前は十分強いよ」

 

「いえ、アーサー様の計らいで再びジェイル様にお仕え出来る様になったのであれば甘えは許されません。メイドとしてだけでなく護衛としても一流にならねば。ええ、勿論夜のご奉仕の技も」

 

「此処,教室だからな? 既に起きている奴も居るんだからな?」

 

 己を無力だと嘆いたリリースは精進するべきとやる気を見せる。ヤる気も隠そうとしていなかった。

 

 

 

「それとジェイル様。そろそろエニス商会の娘に誘われた茶会の時間ですが、気絶していた事を理由に断りますか? 彼女も……彼女はジェイル様を性的な目で見ていますし。……誘われて刺激された場合は私を頼って下さいね?」

 

「だから自重しろって」

 

 




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