指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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そろそろ独立しよっか


指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 19

 武も文も熟す者は居ない訳ではない。【無欠】の二つ名で呼ばれるアーサーは自己陶酔的な言動さえなければ完璧と評される程に不得手とする分野が無く、ジェイルも訓練さえままならぬ魔法以外の分野で責務を果たそうとしている。

 

 だが、基本的に文武両道の者は数少ないし、貴族の子息子女が表立って戦闘に参加する事は無い。

 箔付の為にモンスターや盗賊退治に参加はしても、基本的に戦うのは専門職の役目だ。

 

「一体何がっ!?」

 

「見るな!」

 

 つまり学園の生徒の多くは戦いとは無縁であり、直接命を奪うなんて虫か魚程度、狩りを趣味にしている者も居るだろうが基本的にグロテスクな者への耐性は無い。

 

 突如起こった惨劇に理解が追いつかず駆け寄るラウラの視界をジェイルが遮る。

 

 それでも何があったのか見ようとする彼女を抱き寄せる形で遮り続ける視線の先では、胸に風穴を開けられた勢いで肉や内臓をぶち撒け、船の内部に溜まった血に浮かぶ死体の姿。

 

 声に従わず見てしまった者は吐瀉物を撒き散らかすか気を失うか、一部のモンスターの相手をして己の手で命を奪う感触を知る者以外は目の前の光景が本当に現実なのか目を疑う有様だ。

 

「……見ない方が良い。目を閉じて反転しろ。良いな?」

 

「うひゃいっ!?」

 

 返事に動揺以外のナニかが混じっているのに気が付いたジェイルだったが、ダークエルフの性癖を思い出して胸の奥に仕舞い込む。

 ラウラは少し名残惜しそうな素振りを見せつつジェイルに背中を向けて離れて行くが、下着を気にする風に見えたのは気のせいだとジェイルは思う事にした。

 

「謝らない方が良いよな? うん……」

 

 自分が性癖を知りながら考え無しの庇い方をしたのが理由だが、それが彼の知る紳士の行いである。

 まさか下着が濡れたのを謝るとか出来ないだろう。

 

「それにしても一体誰が……? 姉様なら取り逃したりしないだろうし……」

 

「ええ、【鏖殺】で名高いルビー様なら此処迄逃すなど有り得ません。ですが、仕留めた者が凄腕なのも確か。そして相手が悪魔崇拝者であるならば恐らくは……」

 

 リリースは表情を歪ませる。読み取れる感情は嫌悪や憎悪の類いではないものの、その相手が苦手なのは見て取れる。

 どの様な相手なのかと問い質す間も無く聞こえて来たのは激しい水音。見えたのは左右に広がる水柱。

 

 剣が投げられた方角から何者かが水面を走って向かって来ていた。

 

「本日の俺の任務はこれで終了! 悪魔崇拝なんざ即ぶっ殺しで正解だよな!」

 

 少し粗野な印象を与える話し方をするのは法衣を身に纏った高身長の少女。口の中の飴玉を噛み砕きながら船へと向かい、次の飴をポケットから取り出して口の中に放り込む。

 褐色のポニーテールに紅の瞳、気の強そうな美貌も目を惹くが何よりも特徴的なのはそのスタイル。

 

 よく見れば長身の彼女ですら一回り大きい物であり、それは慎重に身長に合わせたサイズでは収まりきらない胸と尻。

 身長の半分程の尻回り、胸囲は更に十センチは上で町中ですれ違えば男の視線を独り占めするだろう。

 

 だが、どれだけの美少女であっても、男の獣欲を刺激するスタイルであっても今この場では誰も欲望を垂れ流す視線を送りはしない。

 替わりに向けるのは心臓を中心に巨大な風穴を開けられた凄惨な死体に上機嫌で近付く相手への恐怖や警戒だ。

 

 

「ファナーティクス、相変わらず任務中は周囲が目に入らないのですね」

 

「……ん? ああ、リリースか。レムリス学園に通うって居なくなったけれど、何やってるんだ?」

 

 声を掛けられて初めて彼女は川辺に誰かがいるのに気が付いたのか水面で跳躍して船の舳先へと降り立ち、苦手な相手への表情を崩そうとしていないリリースと違い、彼女の方は顔見知りに向ける親しげな物だ。

 

 その笑顔の直ぐ側で自らの血溜まりに横たわる死体があるのが尚更不気味さを際立たせているのだが。

 

「見て分かりませんか? お茶会に参加していたのですよ。貴女のせいで台無しになってしまいましたが」

 

 呆れ混じりの表情で軽く溜め息を吐き出し目を細めたリリースはジェイルに耳打ちをする様な姿勢で抱き付き、片手で目の前の相手を指差す。

 

「ジェイル様,彼女はファナーティクス。教会に所属する戦士としては優秀でも冗談を間に受ける馬鹿ですので近付かない様に」

 

「全部聞こえてるぞ!? ……リリース、それがテメェの惚れた男かよ。忌々しいレムリス・レムリスの子孫で,一応あの御方の血縁者の【持ち腐れ】」

 

耳元で囁く風な大勢だっただけで、くっついてはいるが別に耳元で囁いていないリリースの声は全部ファナーティクスへと届いており、少し不機嫌そうになった彼女はジェイルの顔を見るなり更に機嫌を悪くした様子で最後には嘲笑う表情だ。

 

「……今,ジェイル様を馬鹿になさいましたか?」

 

 それが逆鱗だったとでもいう様にリリースの表情から感情が消え失せて能面の様になる中、ジェイルは彼女の腕を掴んで引き寄せる。

 

「止めとけ、リリ。あの服装からして教会関係者だろ? 知り合いだろうが面倒になる。……アンタも任務か何か知らねえが血に慣れてない奴も居るんだ。さっさと持って行ってくれ」

 

「……けっ。レムリス家の言う事を聞いてやる義理はねえが、あの御方に免じて引いてやる。だが、覚えておけよ? 俺は教会の信用を失墜させたテメェ達を許さねえ」

 

「教会の信用を失墜?」

 

 ファナーティクスの眼光は鋭く言葉に嘘は見られない。だが、覚えがない。

 家とは疎遠になった今でも家の情報はある程度入ってくるものの、教会の名に泥を塗る様な諍いは起きていない筈だと訝しむ。

 

 まさかルビー率いる騎士団が道化の下僕(クラウン・スレイヴ)の支部を壊滅させたが、それで手柄を取られたと怒っているのか,そんな風に思って疑問を口にしたのだが、リリースが二人の間に割って入った。

 

「お気になさらずに。私が彼女を馬鹿と呼ぶ理由が彼女の怒りの理由ですので」

 

「あぁん? 誰が馬鹿だ、誰が。兄弟弟子に対して酷ぇんじゃねえのか? 修行中、不良共に唆されて俗な知識ばっかり身に付けたテメェに言われたくねえんだよ。どうせ襲えてねえんだろ?」

 

「ご命令さえ頂ければ今日中に襲いますが? 私の今後に口を出される筋合いは有りません。頭に行く栄養が胸と尻に行った馬鹿は黙って下さいませ。そのスイカみたいな尻と胸をブラブラ下げてるから頭が温かいのではないでしょうか?」

 

「人のコンプレックスを弄くんじゃねぇ! こんな邪魔くさい物とか要らねえんだよ。的は大きくなるし動くのに邪魔だしよ! てか、グチグチ言ってる暇があったら襲っちまえ! 一発ヤッちまえば幾らでも命令されるだろうよ!」

 

 

 互いに至近距離で睨み合い火花散らすが、その内容は少しばかり酷い。

 

「大体、訓練がキツかった日は遅くまで彼奴をネタにして盛りやがって。五月蝿いんだよ、バーカ!」

 

「ぅぁ……? 失敬、こいつにだけは馬鹿と呼ばれたくない相手に馬鹿と呼ばれたショックで意識が飛んでいました。そもそも部屋に飾ったぬいぐるみ全てに名前を付けて赤ちゃん言葉で話し掛けるお子様には理解不能でしたね、ファナーティクスさん」

 

「んなっ!? まさか皆にバレて……」

 

「ご安心を。二桁程度にしか話していませんので」

 

 知られていない、そう思っていたのだろう。それが大勢に暴露されている事さえ知らされてファナーティクスは固まり、その顔は一気に羞恥に染まり切る。

 

「馬鹿って言う奴が一番馬鹿なんだよ! バーカ! バーカ! バーカ!」

 

 

 下唇を噛みながら目にはうっすらと涙を滲ませると死体を積んだ小舟まで戻り、そのまま船を持ち上げながら水面を走り去って行った。

 

 

 

 

 

「最近の教会ってどうなってるんだ……?」

 

 思わず出たジェイルの頷く者が数名出る中、リリースは勝ち誇った顔でファナーティクスが消えた方角を向いて笑っていた。

 

 

 

 

「ルシアとメルーナは一緒に新しいカフェに行って、リリースさんは……」

 

「個人的な用事があるんだってさ。つまり今日は久々に……」

 

 次の休みの日、ジェイルとスロースは人目を忍んで街にまでやって来ていた。

 髪の色を変える魔道具を使い、普段とは印象の違う服の襟を立てて帽子を深めに被って顔を隠し、大通りからは離れている通りの店の前までやって来ていた。

 

「いらっしゃいませー! 二名様ご案内でーす!」

 

 二人が入ったのは客席ごとに仕切りがされて他の客の姿が見えない内装のカフェ。

 この店の名前は『月の湖』。二人がこっそりと通うお気に入りの店だ。

 

「……良いな」

 

「うん。良い……」

 

 この店の特徴はウェイトレスの服の丈。あと少し翻れば中身が見えそうなスカートに少し腕を伸ばせば引っ張られてヘソ周りが見えそうな服。

 隣の席に座っての接客や手で触れたり交渉次第で本来以上のサービスを、等はない店ではあるのだが、この二人にはそれで十分だった。

 

 やるべき事ややりたい事に邁進する性格ではあるものの、年頃の男子らしく異性への関心は当然持っている。

 だからと繁華街で露出度の高い衣装の女に接客してもらえる店や道端に立って一夜を買う相手を探す迄は行かない。

 

 少しばかり目の保養になる,それが二人にとって限界であった。

 

 

「おっと、便所行ってくる」

 

「途中で知り合いに会わないと良いね」

 

 スロースの冗談に確かにそうなればキツい物があると笑いながら席を立った時,ちょうど入り口の戸が開いて新たな客がやって来る。

 

 

 

「あら? 坊やじゃない。久し振りね」

 

「……ドチラサマデスカ?」

 

 ニコニコ笑いながら寄って来るカーラの姿にジェイルは己の不運を嘆くのであった。

 




絵はサイトで書いたが今持ってる機械にはダウンロードしてないんです

あと巨乳にはできなかった
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