指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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流石に今回はパンダは出さない

アーサー 
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ジェイル 
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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 2

 保健室の扉を開き、入って来たのは袖が余った白衣姿の小柄な少女、……見た目だけは。

 

 勢い良く扉を開き、スキップの足音と共に底の厚い靴から玩具の様な音が鳴り響く。

 

 その頭に乗っているパンダのヌイグルミもまた、彼女の動きに合わせて自意識でもあるかの様に動いていた。

 

「やほやほー! アーサー君、おっ久ー!」

 

 身長が百五十あるかどうかの低身長、ギリギリ銀髪と主張出来そうな毛量多めの白髪頭を三つ編みにして、間延びした感じは年齢を見た目相応に感じさせる。

 

 但し、それはバタバタ手足を動かす動作と声だけ。瞼と口が動くだけ、表情筋はピクリとも動かない。

 まるで人形劇でも見せられているかの様だ。

 

 人形といえば頭の上のパンダ。持ち主であろう彼女の上で四肢を投げ出し寛ぐその表情は作り物にも関わらず表情の変化が伝わって来ていた。

 

「おや、これはベアルコ先生。相変わらず元気そうで何よりですね。どうです? 私の顔を見られて嬉しいでしょう? この私に日常的に会えなくなるなんて、私の年の卒業式は先生方にとって悪夢だったのでは?」

 

 先生、そう彼女は先生と呼ばれる立場であり、ジェイルとは五歳離れているアーサーの在学中には既に養護教諭として勤務している。

 

 『ベアルコ』、それが彼女の名だ。年齢は不詳だが、勤続年月は二十年を超えていて、頭のパンダも就任の当初から頭に乗っていたらしい。

 

 ベアルコが言うには魔道具、魔法の力を込めた物との事だが何の目的で常に持ち歩いているのか、そしてパンダの用途は何かと訊ねても誤魔化すばかり。

 

 そんな彼女にアーサーは態度を変える事をせず、それでも敬意を示す為か自然な動作で優雅にお辞儀をしてみせ、その視線はパンダから一ミリも外していなかった。

 

「もちろんさ。アタシが健康で無いなら誰が生徒達の健康を守るって話だよね。アーサー君も相変わらず元気そうじゃーん」

 

「当然ですとも。私は自己管理もパーフェクト。【無欠】のアーサーの称号は完璧で完全故に与えられたのです」

 

 

「そーだね。国営農場で起きていた大規模な農害の原因を地下水の汚染だと突き止めて地下水の浄化を行う魔法を作り出したって聞いたよ。ジェイル君も誇らしいんじゃない?」

 

「そりゃ兄貴は天才だし、それでもって研鑽を怠らない人だからな。尊敬してるよ」

 

 ちょっと自己陶酔の癖はどうにかして欲しいとも思ってはいたが、ジェイルは其処で言葉を止める。才能と実績とたゆまぬ努力があるし少し程度ウザイ程度は別に指摘する迄もないのだ。

 

 弟からの素直な称賛を受け、アーサーはますます得意気になり胸に手を当てて大きく胸を張る。張りすぎて頭が上下逆さになっても鼻息は強くなるばかり。

 

「はーっはっはっ! 幾ら兄とはいえ他者の成果を素直に認められ、自分の非を認められるお前も私にとっては自慢の弟だ。だから最も私を誉めて良いぞ。何せ私は完全無欠の天才。才に溺れて油断する間抜けを晒さぬ故に完璧なのだ!」

 

「わーお。相変わらず他人を誉めながらの自賛への方向転換」

 

「……」

 

 胸元から取り出した造花の薔薇を口元に当ててフッと息を吐き出す姿から弟が目を逸らした事にもベアルコの上のパンダが腹を抱えて笑い転げている事にも気が付かずにアーサーは高笑いを続け、急に姿勢を正すと真面目な顔になり声からも自己陶酔の気配が消えた。

 

 

「そして自慢の兄を目標にして頑張れ。私もお前が誇り続けられる兄で居続けるからな。個人によって必要な努力の量と方法は違う。足りないと思うのなら方法の模索も含めて頑張るのだ。では、進級祝いを含む今月の仕送りを渡しておくとして……実家には顔を見せないのか? 年末も挨拶したら直ぐに寮に戻っただろう?」

 

 自賛を忘れ去り弟を心配する兄の顔になったアーサーの目に浮かぶのは心配と気まずさ。この話題を出して良かったのかと相手を気遣いながらも話さねばならない事だと口を動かしている。

 

 

「……あー、自分に完全な責任がある案件だからな。勘当されずに寮費と学費を払ってくれているだけ情を感じるっつーか、そんな訳で実家には戻り辛いんだよな。お祖父様の権限で休み期間も寮に居られるし、そっちの方が良い気がしてな。あっ、だから生活費とか援助してくれる兄貴には本当に感謝してるんだ」

 

「それは兄として当然として……あっ、そろそろ戻らないと会議に遅れてしまう。騎士団と廃坑のモンスター退治について話し合う予定だったんだ。悪いな、ジェイル。今度ゆっくりと話そう!」

 

 自分でも今の行動は良くないのだと分かっている様子を見せながらもジェイルはそれを変える気はなさそうだ。アーサーは更に迷いを募らせ、時計を見て顔を青ざめさせた。

 

 飛びだす気なのか窓を向いて走り出そうと一瞬だけ動きを見せるも直ぐに切り返して扉を使って出て行く。聞こえた足音は急いでいるが走ってはいない速度。

 廊下は走らないというルールを守っての最高速度を出す兄の姿にジェイルは一つ理由を思い浮かべた。

 

 

 

「こりゃ第二部隊との話し合いだな。遅刻するって無礼を働くからだけじゃねえ慌てっぷりだし」

 

「第二部隊って確かルビーちゃんの部隊だっけ? さてと、アーサー君も帰ったし、君も部屋に帰りなよ。今日は大事を取って外出は禁止だからね」

 

「うーっす」

 

 ベアルコの言葉にジェイルは素直に従って保健室を後にする。廊下を進み渡り廊下の先に向かえば食堂や談話室が存在し、更に進んで二手に分かれた右、其処がエムリス学園の男子寮だ。

 

 ジェイルが姿を見せれば談話室が一瞬静まり返り様々な視線が向けられるも慣れた様子で気にせず進み、一部の親交のある相手に軽く手を振った彼が開けたのは日当たりの良い角部屋。

 

 入り口付近の共有スペースを除き、魔道具であるカーテンで分けられた二人部屋の内装は左右で似ている様で違う。

 互いにベッドと勉強机を部屋の隅に追いやって、右は工具が綺麗に整頓された工具机、近くの棚には魔道具らしき物が並べられ、本棚には設計図のファイルや専門書が詰まっていた。

 

 そして左側、ジェイルが向かったのは植木鉢や瓶に植えられた草花の棚や試験管等の実験道具や摺鉢等の調合に使う道具。

 本棚には薬学の専門書が並べられ、壁に設置された予定表にはメモや書き込みで調合や納期がビッシリとだ。

 

「やっぱり外から戻ると臭うな……

 

 部屋の中には油や金属、草や薬品の臭いが充満して部屋の主である彼も僅かに眉間に皺を寄せる程。

 それでも慣れなのかそれ程気にした様子も見せずにベッドへと腰を下ろすとポケットから包みを取り出した。

 先程アーサーから仕送りだと渡された物で、軽く振れば硬貨がぶつかる音が鳴っている。

 

「さてと、進級祝いって言ってたし、新しい実験器具と専門書を買える位有れば助かるんだけれどな」

 

 少し期待した様子で包みの口を開けば入っていたのは金貨が二枚と銀貨と銅貨が幾らか、それに丁寧に折り畳まれたメモ。

 

「金貨一枚か。金には厳しいのに奮発したな、兄貴。これなら少しバイトを増やせば買えそうだ。……それでこっちは何だ? 伝言なんて会った時に言うタイプだろうに」

 

 その内の金貨一枚を摘み上げて軽く口笛を鳴らし、少し不思議そうに開けば書いていたのは一行だけ。

 

「新学期にサプライズ? また変な事でも企んでるのかよ」

 

 怪訝そうにしながら手を伸ばした先は毛布の中、小動物でも丸まっている程度の膨らみの中身に触れて軽く手を動かす。

 

「取り敢えず軽く寝たら飯にして、納期に余裕があるけれど薬を調合し…て……」

 

 そこで糸が切れたみたいにジェイルは後ろへと倒れ込み、直ぐに静かに寝息を立て始めた。

 

 彼が寝始めて少し経った頃、膨らみの中身が動き始めて毛布をジェイルの上へと掛ける。

 そのままベッドの端からジェイルの上に移動すると少し苦しそうなジェイルの寝息に混じって小さな寝息が聞こえて来た。

 

 それから三十分経っても彼が起きる様子を見せない中、扉が音もなく僅かに開いて小さな瞳が中の様子を窺う。

 正体はベアルコのパンダ、それが主人が近くに居ないにも関わらず動き、ジェイルの方を扉の隙間から眺めて……毛布の隙間から覗く三対の瞳と目が合った。

 

『やっば。スタコラサッサー』

 

『むにゃ?』

 

 目の主が動くよりも前にパンダは逃げ出し、小さな子供が寝惚けているみたいな声と共に膨らみの中身は毛布の奥へと引っ込んで、ジェイルが目を覚ましたのはそれから更に一時間後、他の学生が食事を済ませた頃だった。

 

 

 

 

 

 




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