此処は地獄か、はたまた天国か、ジェイルとスロースは判断が付かずに戸惑うばかり。
「うふふふ。固くなって可愛いわね、坊や達。そんなにお姉さんのコレが気になるのなら好きに触って良いのよ? そうしたら今より固くなっちゃうでしょうけれど」
普段連んでいる女子二人には内緒でウェイトレスの際どい衣装目当てで訪れた喫茶店。紅茶を飲みつつ目の保養をする筈が、今は二人揃って更に際どい服装の美女に抱き寄せられて服からはみ出た双丘に顔が今にも触れそうだ。
何故こうなった,その様に悩む二人を左右に置いて座るカーラが身動ぎする度に顔の真横で揺れ動く物体から完全に意識を逸らすのは無理があるのだ。
だってお年頃だから。
だが、それで終わりだ。此処でお言葉に甘えて手を伸ばすのなら既に二人して歓楽街へと足を運んでいる。
翻そうで翻らないスカートや偶に見えるヘソにチラチラ視線を送るので精一杯の二人にはカーラの色気は刺激が強過ぎたのだ。
服よりは布と表現した方が正しそうな蠱惑的な美女の胸が少し頭を傾ければ触れられる場所に存在する。
カーラが少々強引なのもあるだろうが、普段のスロースが見知らぬ相手との相席を頼まれても断るにも関わらず現状の有り様なのは少しばかりそれが理由……なのだが、同時に本人ですら違和感を覚えていた。
確かに年相応の興味があるとはいえ、見知らぬ相手の色香に此処迄惑わされるものなのか?
頭の中を徐々に侵食して行くのはカーラとの情事。その手の本を持たない彼の乏しい知識の範囲でカーラに跨られ一方的にリードされるという光景がエンドレスで流れ続け、幾ら何でもおかしいと思うのは当然だろう。
その疑問をかき消す程に彼女の肢体に視線が行きそうになるものの、既に限界は近かった。
「あ、あの、僕はそろそろ……」
故に選んだのは戦略的撤退。作動不良の魔道具は使用を停止して様子を見るのと同じく,今の自分は普通ではないとして落ち着ける場所へと向かう事にした。
揺れ動いた際に布地がずれて先端付近が僅かに見えそうになった事で勢い良く顔を背けたスロースは耐え切れなくなったのだ。
ジェイルが残されるのは心苦しいが、この品性の代わりに色気を得た様な女に変装を見抜かれたのもジェイルなのだと見捨てる事にした。
「お客様。ご注文の品をお持ち致しました……」
そのタイミングで、あまりにも悪い時に熱に浮かされたかの様に何処か上の空のウェイトレスによって注文した軽食と飲み物が運ばれて闘争の流れを阻害される。
このウェイトレスはカーラが来店した時に何やら囁かれ、その後は今の様にぼんやりしつつカーラを二人の席に通した。
普段は相席など混雑していても申し出ず、客同士の接触を極力避ける方針故の席ごとの仕切りだというのに。
「ほら、お料理が来たから一旦座りなさいな。お姉さんが食べさせてあげようかしら? 勿論口移しで」
「い、いや、別に良い。ジェイル、悪いけれど急用を思い出したから先に帰るね……」
「俺も課題が残っていたから……」
この場に……いや、カーラの側に居れば何か決定的な破綻が訪れる。その様な警告を本能で受けた二人は急いでこの場から立ち去ろうとする。ウェイトレスがカーラだけを見ながら引き留めようとするが足早にその横をすり抜けた時だった。
「ねえ、今から坊や達二人とお姉さんでイイコトしない? 勿論タダで良いわ。お姉さんを貪るのも良いし、2人揃ってお姉さんに食べられちゃうのも良いけれど……どうする?」
その言葉は脳すら溶けそうになる程に甘く聞こえ、近くで聞いたウェイトレスはその場で膝から崩れて蕩け切った顔で放心していた。指は店内であるにも関わらず胸やスカートの中に潜り込んで弄り始める中、振り向きそうになったスロースの手をジェイルが引っ張って止めた。
「あれ……?」
「行くぞ」
彼も少し顔を紅潮させていたが少しばかり荒い足取りでカウンターまで進んで支払いを済ませると店の外に去って行く。
それを静かに見送っていたカーラだが、扉が閉まると放心したままのウェイトレスの首に腕を絡ませて席へと引き込んだ。
「残念ね。あの坊やなら聞こえるかもと思ったけれど残念ね。まあ,その内に食べさせてもらうとして……皆、いらっしゃい。たっぷり楽しみましょう」
声が静かに店内へと響くと客も店員も口を開けた放心状態でフラフラとカーラが座る席へと歩いて行く。
狭い場所にそれなりの人数がひしめき合う中、仕切りの外に服が次々に投げ捨てられる。
店内では暫くの間肉を打ち付ける音や水音、艶めかしい声が響き渡っていた。
「何と言うか凄かったね,あのお姉さん。未だドキドキしちゃってるよ」
カーラから何とか逃げ切った二人であったが短時間の出来事にも関わらず与えた衝撃は大きく、スロースは息を整えながら呟く。
性欲はあっても普段なら研究に関する知識欲や探究心が勝つのだが今この時は今回の経験を何かに活かせないかと考える余裕すら無く、時折すれ違う人の中に胸の大きい女性を見付けては目で追ってしまい胸が高鳴り続けていた。
「あんな人と何処で会ったの?」
「飯食いに行った時に夜の路地裏でな。……飯食いに行った先で喰われそうになるとか色々と危なかった」
「うわぁ……」
絞り出す様な声を出したスロースだが、直ぐに顔を伏せて歩き出す。前方から来たのはそれなりの膨らみを持つお姉さん達。
未だカーラから受けた影響が残っているせいで直視など出来ず、極力見ない様にしているのに視線は意思に反してしまう。
ドキドキと高鳴る胸、何とか通り過ぎたと思ったら別の集団が。何故かこの日に限って平均値が高いので二人は落ち着かず、堪らず路地裏に飛び込んだ。
他に人の気配の無い道は今の二人にはありがたく、通りが見えない場所まで来ると漸く胸を撫で下ろした。
「次は女の人が見えなくなる眼鏡でも作ろうかな……」
「止めとけって。ぶつかって互いに怪我でもしたら洒落にならねえ……誰か来た」
人が二人横並びに通るので精一杯の道の向こうから聞こえて来たのは若い女の声。
二人して咄嗟に体を強張らせる。
「不味いな。この狭さじゃ間近で相手を見る事になるぞ」
「巨乳じゃありません様に……」
普段の彼なら決して口にしない祈りの言葉と共に二人が横に避けた時,曲がり角から相手がやって来た。
「……あっ。偶然」
「お前達も出掛けていたのか」
反対側からやって来たのは、休みだから誰にも許可を取らなくて良いと赤い仮面を着けたメルーナとルシアだった。
手間賃を払って送ってもらったのか買った物を入れている袋は持っておらず、二人に気が付くと近寄って来る。
二人が歩いても揺れる物は無い。
「貧に……二人で良かった」
「ああ、絶ぺ……二人で助かった」
普段から連んでいる相手,それも先程から二人を悩ませる物は持っていないとなれば心配は杞憂だ。
互いに相手の方を向いて安堵の言葉を漏らす。
「.…今,貧乳って言い掛けた? 処す? 処す?」
「少し礼儀を拳で教えてやろう」
「「あっ……」」
次の瞬間,二人は待ち受ける運命を悟り、普通に自分達が悪いので棒立ちで受け入れる事にした。
唸る鉄拳突き刺さる蹴り、男達は口は災いの素の意味を身をもって体験するのであった。
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