「生きている内は欲望に従い暴れ、死ねば死体の処理の手間を取らせる。ゴミとしか言い表せんな」
廃村に築かれていた
全てにごく最近までが付く。村があった痕跡も砦の残骸も悪魔崇拝者達の死骸すら残っていない。
囂々と燃え盛っていた炎は中心部で発生した流砂に飲み込まれ、跡形も無く全てを飲み込み終えた所で流砂は収まって大地には何一つ痕跡すら見られない。
枯れ草の一本すら存在しないその場所で、つい十分前までは生存し、その命が明日以降も続くと疑いもしていなかった者達に嫌悪の欠片も向けずに淡々と呟きながら双剣を鞘に納めたルビーは用は済んだとばかりに背を向けるとガチャガチャと鎧の金具を鳴らしつつ部下の一人が駆け寄って来た。
「五月蝿い。音を立てずに走れないのか、貴様は」
「いや、隊長じゃあるまいし無茶言わんとって下さいや。それよりも捕虜は尋問しときますが、魔道具の方はどうします?」
「教会の連中が己の無能さを棚に上げて領分を侵しただの言って来るからな。分別などの雑用は放り投げれば良い」
ルビーの言葉に部下は乾いた笑いを漏らす。教会,特にお抱えの教会騎士と王国騎士だが仲は良くはない。
必要ならば手を組み情報共有を行いつつも悪魔に関わる者や集団に対処する教会騎士と国の敵全般を受け持つ。
要は面子とバックである国と教会のパワーバランスの問題だ。数十年前迄は教会はあくまで心の拠り所であった。
「……此処十数年で増えましたよね。悪魔関連の事件とか年に数度だったのに。それで教会騎士の連中が大きな顔するしで面倒なこって」
「何かが起きているのだろうさ。何が起きても叩き潰せば良い」
森の方角を眺める部下の呟きにルビーは事も無げに答えて剣を無造作に抜く。
僅かに眉を動かせば地響きと共に森が膨れ上がり、木と土砂が空へと舞い上がった。
大気を震わせる咆哮と共に現れたのはアースドラゴン。ジェイルが倒した無理に操られる朽ちかけた死骸では無い。生きた災害であるドラゴンが己の意思で扱う頑強な肉体。
長き間他のドラゴンとの争いを続け勝ち残った証である多くの古傷、倍を優に越す巨体。
操り人形とは別格の動きで大口を開けて障害物を薙ぎ倒しながらルビー達へと迫る。
「この辺りの地下に巣でもあったか。卵でも有るやも知れん。調査人員を残しておけ。指揮はお前だ」
「うへぇ。俺,最近彼女とのデートをキャンセルしがちなんですけれど。明日は朝からデートの約束が……」
「知るか」
単体で街一つを壊滅させられる災害、それを前にして第二部隊の騎士達に動揺は見られない。
余計な仕事が増えた事で必死の形相でのジャンケン大会が繰り広げられる中、激しい地響きと共にアースドラゴンは進み、脳天から一文字に赤く細い線が走った。
そのまま巨体は突進の勢いを無くさぬまま左右に分かれて飛んで行く。その断面から血肉臓腑が零れ落ちる事は無く、断面が空を向いた瞬間に電撃が迸り空へと向かって雷が立ち昇った。
その威力はアースドラゴンの肉体を炭化させながら打ち砕き,残ったのは地面の焦げ跡と僅かに転がる炭の破片が僅か。
「目視不可能な程の極細極薄の魔力の刃、更に其れを伝わせて魔法を発動っすか。相変わらず化け物な事で」
「私の部下なら貴様等も会得しろ。隊長命令だ」
「無茶言うよ、この鬼上司」
ガクリと肩を落とした部下など気にする必要は無いとばかりにルビーはその場から去って行き、ジャンケンで勝利した帰宅組は腕を空に掲げて歓声を上げていた。
「必要となる日が来んとも限らん。力を磨き続けろと言っているのだ」
「うっす。そういや下の弟さんの方もアースドラゴンを倒したって聞きましたよ。凄いじゃないっすか」
「正確には操られた死骸だ。アレの評価はその程度では覆らん。余波で己も周囲も傷付ける為に訓練もままならないのだからな。制御も効かん爆薬など使えはしない」
「厳しいっすねえ。実の弟でしょうに」
「私にとって姉である事よりもレムリス家の一員である事が優先される。地位ある家に生まれた者の責務とはそういう物だ。家族である事に重きを置くのは愚弟位の物だな」
「ああ、【無欠】のアーサーさんってそんな感じ……」
ジェイルの名が話題に出てもルビーは足を止めず眉一つ動かさない。冷徹な態度を崩さぬまま立ち去った。
「あの馬鹿の名を出すな。何と言うか……好かん」
但しアーサーに関しては普通に嫌そうな顔をしていたのだが。
「今日の授業は事前に連絡していた通りにペアでの野外実習。得意属性によっては不利が生じるかも知れないが乗り越えてね。寝ながら応援しているからさ」
この日、学園近くの森に集まった二年生にベアルコが授業の内容を説明していく。
今回の授業は二人一組による狩り。モンスターや指定の薬草をどれだけ早く集められるかで評価が変わるという物。
「資料にある通り対象ごとにポイントが変わるよ。高ポイントでさっさと終わらせてお昼寝するのも良いし、お喋りしながらギリギリまでポイントを集めても良いからねー」
「ジェイル様,此処は是非私とペアに! 必ずやお役に……」
「おっと、アタシの話は最後まで聞くべきだったね、リリースちゃん! 残念無念、ジャンクーア先生に押し付けて作ったクジで組み合わせは既に作っているのさ! 面倒だから確認していないけれど」
ペアの授業と耳にするなり畏まった表情でソワソワしながら名乗り出るリリースだが、ベアルコの言葉によって固まった。
同じく仲の良い者同士でペアになりたがったりお近付きになりたい相手を誘いたかった者、基本的に他人に興味が無いルシア等から不満そうな声と視線が飛び交うもアイマスクと耳当てをしている彼女には届かない。
「えっと、あの先生は前からああなのですか?」
「兄貴が学生だった頃から既にあんな感じらしいぜ。まあ、組み合わせが決められてるなら従うしかねえだろ。今度薬草の採取でも手伝ってくれよ、リリ」
文句は出ているが編入生のリリース以外にはベアルコの職務放棄等は慣れたもので、今はキレースが張り出した組み合わせ表を確かめる為に集まっていた。
「やっほー! リリースちゃん、宜しくねー! ファナちゃんだよ、一緒に頑張ろうね」
「はい。デー……採取のお手伝いのプランも立てたいですし、一刻も早く終わらせましょう」
「……よろしく。会話は最低限ですませてさっさと終わらせよう」
「ひ、ひひっ……。噂通りの塩対応。まあ、辺境伯家とのコミュニケーションとか無理だから良いけれど……」
「ペアは貴殿か。元冒険者と聞く。頼りにしているぞ」
「いやいや、中年になってから入学した身だし、所詮日雇い労働者のオレよりも騎士の家のそっちの方が頼れそうでしょ」
「ルシアと一緒じゃなかったかぁ。まあ、良いわ。私と一緒に居ない時のあの子の話が聞きたいし」
「あまり面白い話は知らないよ?」
既に普段から一緒にいるメンバーはペアの確認を済ませて言葉を交わしている最中だ。
そしてジェイルも自分の名前を表から探せば学園外で少し関わりの有る相手の名前がペアの欄にあった。
「私のペアは貴方ですのね、ジェイルさん。こうして話すのはパーティの時以来かしら?」
「お互い学園では別のグループに所属しているしな。確かにちゃんと話すのは久し振りだな、クラウディアさん」
ジェイルのペアになったのは金髪縦ロールに強い意志を宿す翠緑の瞳を持つ長身の少女。
優雅で上品、お嬢様という言葉から一般的にイメージされそうな彼女は数年後には美少女から美女へと成長しているであろう。
クラウディア・アルトマリン。領地内の豊富な鉱物資源によって爵位や領地の広さ以上の発言力を持つアルトマリン伯爵家の末子にして長女である。
そんな家柄もあってか是非嫁にとの声も数多にあるが未だに相手は決まっておらず、お近付きになりたいからとペアを望んでいた男子数名はジェイルに視線を突き刺していた。
「ふぅ。不躾で持ち物しか見ていない殿方とペアにならなくて助かりましたわ。では、エスコートをお願い出来まして?」
その視線に気が付いているのか僅かに眉を動かしただけで直ぐに笑顔を浮かべたクラウディアは冗談めかして少し大袈裟な動きで手を差し出す。
そう、まるでダンスの誘いをするかの様に……。
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