指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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ルビー  
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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 22

「一番ポイントが高いのはユニコーン。何なら角だけでも必要なポイントは満たしますが、それで狙うのは無知蒙昧の輩でしょうに」

 

 普段は優雅な服装を心掛けているクラウディアの靴はハイヒールだが、今は足場の悪い森を歩くに相応しい靴に履き替えて進む中、配布されたポイント表を手に馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる。

 

 ユニコーンは穢れなき乙女の膝の上で眠る習性があるものの、自分は穢れなき乙女ですと主張する精神性を穢れなき乙女とは認めない程に好みに五月蝿く、下手な肉食のモンスターより強い上に逃げ足も俊敏だ。

 

「学生が相手出来る訳がねえしな。そもそも年々好みが五月蝿くなるせいで最近じゃ赤ん坊でもないと膝で眠らないんだっけか? 姉様なら角だけ切り落として威圧で追い返すって出来そうだけれどな」

 

 会話をしながらもジェイルはその場でしゃがんで落ち葉に隠れていた小さなキノコを採取する。

 既に幾つかに分けた袋には目標物リストに名前のある物が詰められており、クラウディアはリストと今採取した物のポイントと照らし合わせていた。

 

 表の下には『/500』という点数表。その横には『二百五十点以上は要らないからね! それ以上集めても……』とパンダのイラストの吹き出しに書かれているが少し怪しいとクラウディアは考える。

 

「ゴブリンダケ十本五ポイントと。リストには名前だけしか書かれていませんし、薬草学の成績次第では何も集められないのではなくて? その点、貴方は頼りになりますわね」

 

 鉱物なら兎も角、薬草の方は其れ程詳しくはない、と薬草学の成績が良いジェイルを頼りにする発言の傍ら、背中に向けるのは値踏みする眼差しだ。

 

 数代前までアルトマリン家の領地は僅かにダイヤ鉱山が在る以外は他に特徴も無く爵位相応。同じ家柄の中の中という平均程度の力しかなかった。

 それが変わったのは六代前の当主の急病によって息子が若くして当主に就任した頃、レムリス家の者が訪ねて来たのだ。

 

「この間領地を通らせてもらった時に潤沢に蓄えた鉱脈の反応があった。素晴らしい大鉱脈の場所を教えよう。我等が国の発展の為にな」

 

 言われた場所を採掘すれば実際に発見された大鉱脈。それの取引に関わる諸々までレムリス家の力を借りて今は自立しているが、その理由を問われての答えが国の為だった。

 

 デウス王国においてレムリス家は特殊な立ち位置を持つ。開国時から国父と共に在り、七体の魔王の内六体を封じた大魔法使いの子孫達。

 レムリス家に一定の爵位は無い。貴族ではあるが、爵位という範疇に収まらないレムリス家という枠組みだ。

 

「……必要な時に借りを返せば良い,でしたわね」

 

 爵位以上の発言力を持つアルトマリンに、その切っ掛けを与えた対価は具体性に欠け、一定以上の金額や利子の類いは明言されていない。

 あくまで自分達の裁量次第,それが厄介だった。

 

 受けた恩恵に匹敵する難事の手助けなど機会がそう簡単に回って来ず、領地の発展と共にそれは大きくなり続ける。

 これで何かと細かい請求をされるならばある意味では良かったのかも知れないが、それらが無い現状では悪魔の契約にさえ思えていた。

 

 何せ領地全てを差し出す位で漸く返せる恩義がある以上はレムリス家に強く出られないのだから。

 

「おっと、リストに乗っていたモンスターだ。クラウディアさん、援護は任せたぜ」

 

「……ええ、お任せあれ」

 

 クラウディアはそれが少し気に食わない。家同士の仲は特に交流が多くも少なくもない程度だが、大きな恩を切り崩して返す為にはジェイルを見定める必要があると考え今回観察していた。

 

 その点、今まで選択授業も殆ど被らず派閥内の傘下の家に属する取り巻き達の手前もあって一年時は接触の機会は少なかったが、今回は好機だと内心で微笑む。

 

 先ずは言葉を交わし,そして同じ敵の相手をすべきだと犬程度の体躯を持つトカゲに意識を向けた。

 尻尾の先端には赤い果実に似た膨らみがぶら下がっており、それを揺らしながら威嚇する様に口を大きく開けている。

 

「アップルリザードでしたっけ?」

 

「尻尾の先がリストに載っていた。確か三つで十五ポイント」

 

「ええ、直ぐに済ませましょうか」

 

 アップルリザードの数は三体,その先頭の一体が大口を開けて飛び掛かったと思いきや次の瞬間には口の中から頭蓋までをブルーローズが刺し貫いて先端が頭から飛び出す。

 

 飛び掛かりの勢いが加わり根本まで沈み込んだ刃を引き抜きながら死骸を蹴り飛ばしたジェイルに残りの二体が左右から迫ろうとして,クラウディアの足元から飛来した鋭利な物体に心臓を貫かれ木に貼り付けとなった。

 

 それの正体は木々の隙間から差し込む日光を受けて眩く輝くダイヤモンドの槍。

 本来ならば有り得ない大きさと形状のそれを前にジェイルは少し困った様子だ。

 

「あまり驚いていない所を見るに既知でしたのね」

 

「あー、それ使っても良かったのか? 秘伝だろ?」

 

 クラウディアに対する評価は満遍なく魔法を無難なレベルで使える優等生なのだが、一族秘伝の魔法も存在する。

 ダイヤの加工の研究の際に偶然生まれた物であり、原子という概念を認識せずに炭素を操る。

 

 今のダイヤの槍もその応用なのだが、収入源であるダイヤの価値の暴落に繋がる故に本来人目のある所で使うべきではない魔法だ。

 

 何処でどの様に秘伝の情報が入って来たのかは漏らさぬまま困るジェイルの目の先でダイヤの槍は黒ずんだ灰となって崩れて行く。

 

「これで良くって? それと疑問の答えですが、膨れ上がった恩を刈り取る際に旨みを削る真似をするメリットを考えれば他言する必要は無いでしょう? そもそも知られていたのですし」

 

「実際に知っているかどうか試したって訳か。……腹芸で負けたな。知らない振りしとくべきだったぜ」

 

 これで証拠は隠滅したとばかりにアップルリザードの尻尾から採取対象の果実を剥ぎ取って行くクラウディアだったが、袋に入れようとしてそれを持ったまま首を捻って繁々と眺め始めた。

 

「このリンゴ、叔父様が随分と買い求めていましたけれど、どんな薬効がありまして?」

 

「……うん,そうか。随分と御盛ん……いや、何でもない」

 

 アップルリザードの尻尾のリンゴの薬効、それは避妊だ。行為の後に食べる事で一時的に子種を非活性化させる成分が女性の体内で発生する。

 逆に熱すれば活性化させるとして色々な理由で貴族には人気の品だ。

 クラウディアの叔父は既に子供が居た筈だとして、それを大量に買い求めた理由を何となく察したが流石に女子相手に教えるのは抵抗があって黙っていた。

 

「はぁ……。それはそうと少し気になった事がありまして。家に関わる事なら別に答えなくても宜しいのですが……あの編入生のリリースという子、ジェイルさんとは男女の関係でして?」

 

「いっ!?」

 

 避妊薬の話題になった後で飛び出したリリースとの関係性に対する問い掛け。

 話の流れが流れだっただけに思わず変な声が出るもクラウディアの表情を見ればそうでもないらしい。

 

「いや、好意を持って迫られてはいるが気軽に手を出せる様な身分じゃないのは分かってるだろ? 只の幼馴染だよ」

 

「なら、全体の規律の為にも控えさせて欲しいですわ。あの姿を見て使用人と主人のあるべき姿を見失う者が増えても困るでしょう? 未だ分別も付いていない学生辺りの場合は特に」

 

「そりゃそう」

 

 まさに正論、反論の余地が無いと言うべきか、割れ窓理論の割れ窓がリリースだと指摘されれば庇う余地などありはしない。

 其れどころか一応使用人でもあるのだから咎めない事を咎められているのが現状なのだ。

 

 ジェイルからすれば十年以上会っていなかった友人に会えた喜びがあったが、迷惑被る周囲からすれば知った事かと指摘されれば反省するしかない。

 

 これが終わればどうにか注意するべきだが、落ち込ませない言い方をメルーナにでも相談するかと考える。

 ルシアとスロースにはその手の事を期待していないので却下だ。

 

「兄貴に相談するのが一番か?」

 

「【無欠】のアーサー様ですね!」

 

 そもそもリリースをレムリス家に連れ戻したのはアーサーなのだからと兄に相談する事に決めた瞬間、クラウディアの態度が一変した。

 目を輝かせ身を乗り出してアーサーの話題への興味を示して目を輝かせた彼女だったが、直ぐに我に返って赤面しながら顔を逸らした。

 

「……んんっ! 失礼しました。お会いする機会こそ無かったものの御活躍に関しては耳に入って来ます。特に最近では疫病の要因を発見し事態を収束させたとか」

 

「え? 兄貴のファン? まあ,確かに優しくって頼れて万能な自慢の兄貴だから気持ちは分かるけれど……」

 

「それに実績に相応しい誇り高さを持つ美青年だと……失敬、興奮し過ぎましたわ」

 

 自慢の兄を誉められるのは嬉しいし、クラウディアの語る評価には何一つ間違った所は存在しない。

 だが、実際に会うとアレな人物なのは多分話しても信じてもらえないんだろう、そんな風に微妙な気分になるジェイルであった。

 

 

「どうも運が悪いのか学園に来てもお会いする機会に恵まれませんの」

 

「運がな……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

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