指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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 クラウディア・アルトマリンへの評価ではあるが、多くの教師が優秀な生徒と評するだろうか。

 その後に、どの時代にも数人居る、が付くが、歴史と実績のある学園において、も加えられる。

 

 座学も実技も学年上位、裕福な伯爵家の末子で長女という直接的な戦闘力以外に求められる能力が多い事から実戦経験に乏しいものの実技の授業で優秀な結果を出し続ける程度は訳も無い。

 

 

 そう、授業では優秀でも実戦経験には乏しい。それは平和が続く時代において職業騎士でもない限りは当たり前の事で、この場では致命的であった。

 

「きゃっ!?」

 

 迫り来るユニコーンの突進を回避しようと力を込めた右足の下にあったのは重なった石。

 それが体重を掛けた事で上の石が滑り落ちてクラウディアの体勢を崩した。

 

 思いがけず生じた隙に一瞬体が硬直した彼女へと迫る二本の角。それが自らを貫く光景を幻視してしまった事で迫り上がる恐怖に支配されたクラウディアは目を瞑り両手で体を庇うが、当然ながらその様な真似は無駄だ。

 

 庇ったのではなく差し込んだだけで、腕と一緒に体を刺し貫かれて終わるだけ。

 一秒が何十倍にも引き延ばされる感覚の中、嘶きと蹄で大地を砕きながら駆ける音が近付いて来る。

 

 激突音と共に生暖かい液体が彼女の顔に掛かった。

 

「え……」

 

 来る筈だった痛みも或いは痛みすら感じる暇も無く絶命に追い込むだけの衝撃も来ず、蹄の音も変わる。まるで目の前で激しく足踏みしているだけの様で、クラウディアが恐る恐る目を開けた時、手入れに時間を掛けさせている自慢の金髪の一部が赤く染まっていた。

 

「お…い……。とっとと退いて…くれ。長くは…持たない……」

 

「ジェイルさん!?」

 

 その赤色の正体は親ユニコーン二体を正面から受け止めたジェイルの血だ。

 母ユニコーンの角が左の脇腹を浅く抉り、父ユニコーンの角は右肩に突き刺さる。

 二匹はジェイルを跳ね飛ばし踏み越えようと激しく蹄を踏み鳴らすものの僅かずつしか押し込めていない。

 

「身体強化魔法!? ジェイルさん、貴方がそんなの使ってはっ!?」

 

 ジェイルの体を包む過剰な魔力に彼が何をしているのかを察したクラウディアはその場から転がる様にして退避する。

 

 その際に耳に届いたのはジェイルの腕の筋肉が負荷に耐え切れずに一部が千切れた音。

 これが身体強化魔法を使った際のデメリット。攻撃魔法は余波で自らを含む周囲一体を傷付けるが、身体強化は出力の強さに体が追い付かない。

 

 元より馬、人でも体格体重腎力共に大きな差がある上にユニコーンはモンスター。

 それが怒りによって肉体のリミッターが外れる中、負荷を省みず動く。それも二体。

 

 その突進を受け止めるだけの時点で無茶が過ぎる。それをこれ以上出し続けさせる訳には行かないと正面から退避した彼女の姿を親ユニコーン達が目で追った時、ジェイルは笑みを浮かべていた。

 

「【ファイアボール】」

 

 右足の骨が軋む音と共に苦痛の色を滲ませながらも放ったのは一般的には直径十五センチ程の火球を放ち,彼が普通に使えば直径十メートルの火球となって弾ける際の熱波で彼すらも焼く魔法。

 

 だが今回は魔力を揺らして発生した飛沫程度の魔力を使った物。それは直径三センチ程、されど計四発同時に放たれた其れは親ユニコーン達の片目表面と鼻腔内で弾け飛んだ。

 

 怒り狂えば首だけになっても標的に飛び掛かるとさえ言われる獰猛さのユニコーンだ、片目と鼻を潰されても怯む事は絶対に無い。

 ダメージなど知った事かと動きを止めず、それでも視界の半分と嗅覚を奪われた影響か乱れは出ていた。

 

 それでも母ユニコーンの首を抱えて押さえ込み、父ユニコーンの角がこれ以上深く刺さらない様にするのが精々だ。

 長くは持たない。親ユニコーンが暴れ続ける事で脇腹からは血が溢れ続け。強化による反動ダメージは確実に体を蝕む。

 

「ジーク!」

 

「わかった!」

 

 だから,それは自分一人で何とかする為ではない。戦いの邪魔にならない様にと懐から飛び出し茂みに隠れていたジークがジェイルの肩を貫く角に向かって喰らい付く。

 

 仔犬の未熟な牙と顎ではケロベロスであってもユニコーンの角を噛み砕くには足りはしない。

 

 噛み砕くには,だ。力が足りないのなら別の物を足せば良い。角を三つの顎でしっかりと咥えたジークの喉奥が金色に輝く。

 

「!」

 

 本来怒りに狂えば標的を殺す事以外は考えられなくなる筈のユニコーン。

 それの無事な瞳が角に噛み付いた仔犬の、その口から放たれ様とする光に反応した。

 

 命を捨てても相手を殺そうとする程の戦闘本能を上回る程の危機感知、振り払おうと頭を動かそうとするもジェイルに押さえ込まれて動かない。

 

 そしてジークの口から空へと向かい金色の光が三筋放たれた。

 

 

「きゅう〜ん」

 

 それは属性の込められていない単純な魔力のブレス。しかしして威力は絶大。父ユニコーンの角を貫き崩壊させる。

 代償として過剰な魔力消耗によって言語の使用が不可能になったジークが慌てて去って行く中、戸惑いから狂気へと戻る寸前の父ユニコーンの頭をジェイルの手が掴むと,そこを支点にして飛び上がる。

 

 押し込もうと前進の為に力を注いでいた二匹が下を通り過ぎる中、不恰好に着地……ほぼ落下の状態で降り立ったジェイルはブルーローズを杖にして立ち上がるも状況は悪いままだ。

 

 

「ケケケケケ! 超絶ピンチじゃねえか、あ・い・ぼ・う。力を貸してやろうか?」

 

「……おい」

 

 それはジェイルの腕から響くルゼベルの声、正真正銘悪魔の囁き。クラウディアが側に居るのに平然と喋る悪魔に小さく抗議の声を向けるものの、クラウディアが謎の声に反応する様子は無かった。

 

 聞こえていないのか、そう判断する。何故聞こえないのか,その答えも少々癪ではあるが察しが付いていた。

 

「悪魔に心を許した覚えはないんだがな」

 

「ケケッ! 相手が誰だろうと助ける為に力を貸してくれた相手には好感を持つ。それが人間の善性っつう愚点だぜ?」

 

 悪魔と会ってから力を借りられる様になった。

 力を借りて助けられ、名前を知った。

 

 悪魔は言った。自分への好意が悪魔を復活させるのだと。

 

「あの女,別に庇う相手じゃねえだろうに相棒は善人だなぁ。オレには都合が良いが無茶されたら困るぜ?」

 

 クラウディアはジェイルにとって知り合い以上だが友達未満の存在だ。庇ったのもそうすべきと思ったから。

 

 つまりルゼベルへの好意が高まって(断腸の思いで一部認める)やれる事が増えたのと同じで、クラウディアへの好意が足りない故に彼女には悪魔の声が届かない。

 

 それが今までの会話から判断した内容で、家族や友人には悪魔の声が届く可能性があるという事。

 

「さっさと力を貸せ。今はこの場を切り抜ける」

 

 親ユニコーン達は再び反転、今度こそジェイルを轢き潰そうと迫る。その勢いは先程までの比では無く、ジェイル同様に体が悲鳴を上げて肉や皮が裂ける程。

 口から垂れる血の量も増える中、ジェイルは腰溜めに剣を構えて迎え打つ。

 

「制御はオレが手伝ってやる。相棒は自分の知る中で最強の魔法剣士を思い浮かべな! 思い当たらなけりゃ伝説の存在でも……」

 

 その必要は無いと頭の中で否定する。最強,その言葉が相応しい存在を知っている。魔法剣士を思い浮かべろと言われれば他の存在を忘却させる相手が一人居る。

 

「……こんな模倣とさえ呼べない猿真似擬きに名前は要らねえ。姉様の技が穢れる

 

 目と鼻の先に迫る二体のユニコーン。それに正面から向かって行ったジェイルは擦り抜ける様に交差して……返えす刃を含めて計二回、バツの字にユニコーン達の肉体を切り裂き崩れ落ちさせた。

 

 父ユニコーンは右頭頂部から口の辺りまでに掛けて斜めにと左側から首を切り裂き、母ユニコーンは頭の一部と首を切り落として崩れ落ちる。

 

 

 同時に限界を迎えたジェイルも膝から崩れ落ちて……母ユニコーンは首だけの状態で切り落とされた部分から膿をこぼれ落ちさせながらジェイルへと襲い掛かった。

 

 

 強靭な顎が彼の首へと迫る中、それよりも早くダイヤモンドの槍が頭に突き刺さり勢いのまま遠くへと飛ばす。

 矛先が刺さったまま岩に激突した頭部は砕け散り、今度こそ本当に動く事は無いだろう。

 

「モンスターながら天晴れだと褒めて差し上げましょう。敬意を示し、我が子を奪った愚行を謝罪致しますわ」

 

 文面だけ見れば上から目線の傲慢な言葉だが、その声と表情には確かに敬意が込められている。

 目を閉じ、僅かな黙祷を捧げたクラウディアは慌てた様子でジェイルの元へと向かって行った。

 

 

 

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