指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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「ねぇねぇ! リリースちゃんってジェイル君と恋人なの?」

 

「いえ、私はあくまでも彼の方の使用人。求められたなら身も心も差し出す所存ではありますが……」

 

 リリースにとってファナ・デザートとは評価に困る相手でしかなかった。

 アイドルなるものを自称し級友をファンと呼んで時偶ゲリラ的にライブを行う,らしい。

 リリースが編入してから日が浅くてライブを開催する場面に遭遇していないのと、ジェイル以外で比較的話せるルシアは彼女のライブには興味が無いので話は聞いていない。

 

 ジェイルは誘われた義理で時々参加しているらしいのだが、彼の口から他の女についての話を聞きたくはないからと話を変えた。

 

「えぇ〜!? 好きなら好きって伝えて……はいるっぽいね。じゃあガンガン押して行かないと!」

 

「はぁ……」

 

 そう言われても彼女には彼女の都合と事情があって,ついでに性癖と負い目もある。

 好きだから遠慮せずに自分からガンガン攻めろと言われても困るのだ。

 

「あっ、来たよ! じゃあ、頑張って倒そうか!」

 

 現れたモンスターを前に彼女が片手を空に向けて伸ばしてステップをすればスポットライトの様に彼女を光が包む。

 宙を泳ぐ提灯アンコウに似た使い魔によるもので、ダンスが何の意味をなすのかは不明だが、その動きに合わせる様に大量の砂が動いてモンスター等を倒して行った。

 

 

「完全に囲まれる前にブチ抜くしかありませんか……」

 

 砂に包まれたモンスター達が乾涸びた姿になって転がるのを目にしつつ呟く。

 ジェイルを【持ち腐れ】と馬鹿にした呼び方をしないファナと敵対する予定こそないが、それはそうとして接近戦が主体の自分では迎撃か回避を強制させるファナの魔法を前に慎重に戦う際の計画を練る。

 

 己の夢の為に自信を持って動けるその姿はリリースの目には眩しく見えて、その背中を見ながら少しだけダンスの振り付けを真似して、直ぐに止めた。

 

 

 

 

「止まって……」

 

「ひっ、ひぃっ!? な、何か気に障りましたでしょうか…? ああっ、く、臭かったですか? お、おかしいな…ちゃんと2週間前に体は拭いたんだけどな……」

 

 艶のないボサッとした黒髪をメカクレボブ、制服の上から檜皮色のローブを来た小柄な少女はルシアの言葉に驚いて足を止め、悪臭でもするのかと自分の腕を嗅ぎながらソバカスだらけの顔で卑屈な愛想笑いを浮かべているのだが、どうにも粘度の高い笑みだ。

 

 彼女はハドゥウィグ・ナスヴェッター、所謂根暗と呼ばれるタイプの少女で、ルシアの前でなくとも基本的に態度はこの通り。

 

「足下に新鮮な馬糞がある。多分ユニコーンの」

 

「あわっ……」

 

 忠告が遅かったのか彼女がトロいのかやや水気を含んだ柔らかい物が潰れる音がハドゥウィグの足元から聞こえ、靴の裏にはベットリと馬糞が付着し、少々軟便だったのでズボンの裾にも飛沫が付着していた。

 

 それを見て暫し固まり、我に返ってその辺の岩に擦り付けつけ様としてバランスを崩す。

 馬糞の上に倒れ込みそうになり、咄嗟に跳んで避けようとするも飛距離が足らずに無事だった方の靴で勢い良く踏み付けた。

 

 飛び乗る形だった為に飛沫の範囲も広く、上着にも少しばかり斑点が出来上がる。

 

 

「ひっ、ひへへへへ……。あのぉ、靴の裏を綺麗にする魔道具とかあったりは……」

 

「無い」

 

 一応気を使って言わないでおいたがハドゥウィグの体臭を気にしていたルシアだが、馬糞が加わった事で少し距離を開けた。

 

 それにしても、と少しだけ疑問を思考するが口には出さない。気にはなったが知的好奇心を刺激される程では無い程度。

 

 組み合わせが決まった時も別に質問する程ではなかったものの、家の爵位なら同じ辺境伯、爵位を賜った後の実績や派閥の大きさに領地の豊かさには差はあれど同じ辺境伯。

 

 まさか十三女と随分と上に兄弟が居る事が気になっているのか,それとも又従兄弟の嫌いな方や変人の様に個性なのかと結論付けた時、遠くから嘶きが届いた事でルシアの表情が少し固まった。

 

「今のはユニコーン。離れよう。貴女を守りながらじゃ戦えない」

 

「ひぇ!? そそそ、そうですよね……。ユニコーンと会っちゃったら見捨てられそうだなぁ……」

 

「無駄口は止めてさっさと行こう」

 

 こんな時にフライングボードが使えればと思ったが無理が祟って修理中、今は込めた魔力が安定するまでの安置状態。

 故に森の中を歩き回らなければならず、これでジェイルかメルーナが居れば背負ってもらうも目の前の貧弱そうな相手ではそうはいかない。

 

 ただ,修理中で助かったと思う事は一つある。この状況では流石に乗せない訳にはいかないが、両足で糞を踏んだ彼女を乗せるのは嫌だった。

 

 

「それにしても……」

 

 二年生に混じって一人だけ異物が居た事にルシアは首を傾げる。害のある相手ではなかったので悪戯かとは思うが、ベアルコが指摘しないのは怠惰からにしても他は……、其処迄考えた所で離れた場所から空へと立ち昇る三筋の光に足が止まる。

 

「ユ、ユユ、ユニコーンの鳴き声がした方…かなぁ? ひ、ふひひひ、誰かが戦ってるならこっちには来ない…かも。今の内に離れて……」

 

「そう。なら此処で待ってて」

 

「ふへ? ど,何処に? まさかお手洗……ふへ、ふへへへ,何も言ってないので家に告げ口するのは勘弁して欲しいなぁって」

 

 森の中で一人置き去りにされそうな事態にハドゥウィグは焦りを見せて探りを入れに掛かるが、粘着く笑みを向けながら見たルシアの表情は焦りを浮かべた真剣な物で、既に周囲気は無数の刃物が浮遊している。

 

 ニチャニチャとした笑みを浮かべていたハドゥウィグは自分に殆ど意識を向けていなかった会い手が急に放つ気迫に圧されて数歩後退り、その顔からはスンッと表情が抜け落ちる。

 再び足元から聞こえた嫌な音。そんな彼女に構わずにルシアが前に跳べば幅広の大剣が足下に滑り込んでサーフボードの様に宙を移動していく。

 

 最初バランスを崩しそうになったのは彼女の運動能力の問題ではあるが、木々の隙間を縫うように飛び、邪魔な枝はルシアの周囲を舞う短剣が切り落とした上で弾き飛ばして全速力を保ちながら瞬く間に森の奥へと消えて行った。

 

 

 

「置き去り……」

 

 呆然と後ろ姿を眺め、暫し固まっていたハドゥウィグだったが、声が聞こえない距離にまでルシアが消えたと見るや様子が一変する。

 あからさまに舌打ちをして近くの木を乱暴な動作でペチペチと蹴り始めた。

 

「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって。少し認められただけのコミュ障の癖にコミュ障の癖に。十年後どっちが上に立っているか分かってるのか? お前が下なんだよ! 靴舐めさせるぞ、雑魚! こっちは未だ本気を出していないだけだし、お前なんて成人したら凡人に……ひゃう!?」

 

 相手の姿がある内の卑屈な態度から歪んだプライドの高さを隠そうともしない態度へと一変したハドゥウィグの背後の茂みが動き、彼女は猫背気味の姿勢が伸びる程に驚いて跳び跳ねる。

 

 強気な態度は一瞬で消え失せ、低姿勢で卑屈な笑みが再び浮かんだ。

 

「じょ、冗談ですよ。初代が追い剥ぎ紛いのウチみたいな家が由緒正しい家の天才様に逆らうなんて、うへへへへ……。あれ? もしかしてモンスター? それも小さいっぽいから楽勝?」

 

 茂みを動かす相手が近くに来ているのに姿が見えない事で随分と小さいと判断するなりハドゥウィグの表情は再び大きく変わり、勝ち誇ったモへと変わるなり杖を向ける。

 

「さあ! どんなのだって楽勝で……」

 

 出て来たのは小さな小さな……ユニコーン。ハドゥウィグの顔は一瞬で青ざめ、顔から出る物を全て垂れ流しながら全速力で逃げ出した。

 

 

 

 

 

「おびょげぇええええええええええっ!?」

 

 翌日の筋肉痛が約束された動きで時々枝に顔をぶつけながら走り続ける彼女は気が付かない。小さなユニコーンは小さすぎる事に。

 

 

 そして中からパンダのヌイグルミが出て来るキグルミであった事に。

 

 

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