指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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 人通りの多い街中を歩く一人の女に周囲の視線が注がれる。褐色の肌に豊満な胸とそれを隠す気のない派手な服装。紫がかった癖のある長髪で、目の色はサングラスで隠されてはいるが美女である事は確かだ。

 

「ちぃっと味が薄くね? 香辛料ケチってるなぁ。新規オープンだってのに固定客が付かないんじゃねーの?」

 

 但し街中で巨大な骨付き肉にかぶり付きながら歩く残念な美女ではあるので別の理由からもすれ違う人々の視線を集めるのであったが。

 

 普通であれば家族で切り分けて食べるであろう巨大肉はペースを落とす事無く彼女の胃へと収まって行く。

 味付けには少し不満が有るのか不満を溢すものの豪快に食べ進める中、彼女の頭では長いウサギの耳が動いていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 【獣人】、獣の特徴を持つ人種であり、一括りにされているものの種族は多岐に渡り,基本的には一つの種族ごとに部族を成している。

 

 本来は街から離れた所に定住するか移動を続ける事が多いのだが、偶に変わり者だったり訳有りで部族から離れる等で街に住む者も居るには居るのだが、その扱いは良いとは言えない場合があった。

 

「おいおい、獣がなんで街中にいるんだよ」

 

「獣臭ぇ……それよりも酒臭ぇ!?」

 

 無遠慮に背中へと投げ掛けられる囁き声。小声では有るものの五感に優れた獣人の聴力ならば容易に拾えるものの彼女が気にする様子は無い。

 未だ日も高い時間帯にも関わらず濃厚な酒気を漂わせている事が関わっているかも知れないが……。

 

 その理由の一つに挙げられるのは獣人が差別階級である事。有り体に言うならば奴隷狩りの対象であった事も大きく関わるだろう。

 

 獣の特徴を持っているから……其れが大きな理由ではあるが,それ故に獣として扱うという安直で愚かな理由ではない。

 最大の理由は蔑みではなく、恐れ。レムリスが七体中六体の魔王を封印するまで各地で好き放題に暴れ、民衆を堕落に導いていた悪魔達には翼や角,そして獣の尾や耳を持つ以外は人に近い者も多かった。

 

 魔王封印後、獣人を悪魔の残党や眷属であるという差別意識や攻撃の口実が広がり、身体能力に優れた優秀な労働力として所有し始める者が増え始め、数の暴力によって抑え込まれていた獣人達が起こした抗戦の末に奴隷化の撤廃から既に数代を重ねても遺恨と差別意識は一部に残っている。

 

 既に直接の被害者も直接の加害者もこの世には残っておらずとも受け継がれ続ける物はあるのだ。

 

「うん? あの子はもしかして……」

 

 肉を豪快に喰いちぎりポケットに入れていた度数の高い酒で流し込んだ彼女の足が止まり,耳が上下に軽く動く。

 サングラスの下で向けた視線の先には両手に荷物を持ったジェイルと、その背中に登ろうとするルシアの姿があった。

 

 

 

 

「次はあっち。じゃあ,これ持って」

 

「カバンに入れりゃあ良いだろうが、鞄によぉ」

 

 ユニコーンとの戦いから数日経っての休日。貫かれた肩も切り裂かれた脇腹も傷跡や後遺症の一つも残さず消え失せて、小遣い稼ぎの依頼でも受けようかと思った俺はルシアと共に街まで来ていた。

 

 手には大量の荷物,またしても荷物持ちだ。俺に大量の荷物を持っては来ているものの、実際はその必要は無い。

 

 何せ普段は持ち歩いてる鞄だが、空間を圧縮して容量を増やす優れた魔道具。今回は以前の買い物と違って割れ物だの傷付きやすい物は無いのに使わないのは罰だ。

 

「壁」

 

「ぐっ……」

 

 意識半分失ってルシアの胸に倒れ込んだ時に言ってしまった言葉,それに対する罰が今の現状。

 

 だから文句を言えばドスの効いた声で黙らされる。メルーナや実家に告げ口するとは言わないし、する筈もないが黙るしかないって。

 

 事故だし胸に頭からぶつかったのは気にしないが、固い壁扱いは気に食わないからと今回の荷物持ちをやらされている。

 いや、仕方無いとは思うんだが、意識が朦朧としている時なんだから今日だけで勘弁してくれねえかな?

 

 ……そもそも此奴と一緒に買い物に行ったら俺が荷物持ちさせられるのは大抵なんだがな?

 

 其れを実質的に罰は無いと捉えるのは兄貴なんだろうが、俺はどうも普段から罰を受けている気分にさせられている。

 

「ジェイル、少し疲れた。おんぶして」

 

「俺は両手塞がってるんだが!?」

 

 罰と言えばコレもだ。普段から部屋に籠って研究ばかりやっているせいで外出すると精神的に疲れるからって誰かに運ばせようとする。

 その誰かは大抵俺かメルーナだから。スロースは強く反発するし、興味無い相手に運ばせるのは嫌だからって俺達以外だと数人のみ。

 

「構わない。フライングボードは今晩に修理が終わるから今は使えないし、見られても気にしない」

 

 俺が気にするんだが,と抗議の声を上げる暇も無くルシアは俺の背中に飛び乗った。

 首に手を回して俺に体を預け,バランスを取るのでさえ俺任せと酷い扱い。メルーナには悪いからって此処迄甘えないってのに、昔から乗り物にさせられてた俺はどうなるんだ?

 

「おんぶが嫌なら肩車でも構わない」

 

「尚更無理だろ。歳考えろ。もう餓鬼じゃねえんだから」

 

 寧ろ肩車が良かったのか首の辺りを軽く抓られる。 親戚で長い付き合いがあるとはいえ遠慮とか礼儀とか無いのか? 無いんだろうな。

 

「おい、その年齢でおんぶされる事に抵抗とか恥じらいはねえのか?」

 

「全然」

 

 そうか、全然無いか。

 

 まるで此処が自分の指定席とばかりに降りる気配の無いルシアに俺は抵抗を諦める。

 この変わり者で頑固者の幼馴染は自分の意思は基本的に曲げてくれないし、普段はそれで良いとは思うんだ。

 

 背中に密着しているのが前か後ろか感触では殆ど区別出来ないのは良いのかってのは……おっと、首を絞めに掛かったから思考は止めておくか。

 

「そうだ。リリが再会してから人前でもグイグイ来るだろ? 風紀を乱すって文句言われたし、俺も不味いとは思うんだが、どう言えば良いと思う?」

 

「親しくもない他人に影響されて乱れる規律なら時間の問題。放置すれば良いと思う」

 

「いや,流石にそれで押し通すのはちょっとな」

 

「まあ、最初から愛人作るのが決定している相手は嫌がる子が多いだろうし、ジェイルは結婚が大変そう。頑張って。私は家族が面倒な相手からの申し込みを防いでくれるから安心」

 

「自分は平気だからって。……まあ、俺の場合はなぁ……」

 

 俺も本来なら領地の分譲か婿入りかの方針を決めた上で相手を探すべき立場だが、そのどっちも決まっていない。

 俺がレムリス家に相応しい実力に達するまでは一族の者として扱う気が無いからだ。

 

 追い出されはしないが家族として扱う気は無く、このままでは飼い殺し。

 俺の両親は身内を虐げて喜ぶ人格破綻者って訳でもないし、俺がやらかした事が理由なんだから文句は無く、申し訳無さしか出て来ない。

 

「大丈夫。最悪,私の助手として雇う。待遇は応相談」

 

「……え〜? お前の助手って絶対大変じゃんかよ」

 

 慰めなのか本気なのかは判断出来ない。ルシアの事だから七割の確率で本気っぽいとは思うんだが。

 

 親指だけを立てた右手を俺に見える様に伸ばしたルシアはきっとドヤ顔でいるんだろう。背中の上だから全く見えねえんだけれど、目の前に居るみたいにハッキリと分かる。

 

 本人が分からずに言っていたとして、実際クソ悪魔(ベルゼラ)を宿した時点で前よりも追い出される可能性は高まった訳なんだしさ。

 

「……まあ、実際居場所を完全に失った時は頼む。残業代と有給は確約してくれ.よ……」

 

「ん」

 

 今度も分かっているのかいないのか、ルシアは返事をしながら俺の頭を撫で回す

 

 

 

「おーい。少年。そこの女の子を背負った少年」

 

 その時,背後の頭より高い位置から声を掛けられた俺は立ち止まり、自分以外はありえないと振り返った。

 

 

「うん? 俺に何用…だ!?」

 

 相手がどの様な奴なのかを視認するより前に顔を掴んで引き寄せられて、俺の顔は大きな肉の間に挟まれる。

 見上げれば自分の胸で俺の顔を挟んだ女はこっちを見ながら笑っていた。

 

 

 

「おーす。少年が隊長の弟さんだろ? いやぁ、目は似ているのに目付きは全然似てねえな」

 

 

 

 酒臭え!? それに唇が肉の脂でテカテカじゃねえか!

 

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