宙に浮く半球体の金属。中央に緑に発光する魔法陣を浮かび上がらせた黒光りする重厚そうなボディの右側面には先程不安定な軌道で飛んで来た物と同じ金属の拳が球体関節の先端に取り付けられ、左には拳部分が消失したらしき腕部分。
真下には視認可能な勢いで風が渦巻いで本体を上下に揺らしながら浮かせ、左腕部を正面に向ければ魔力の鎖が伸びて飛ばした鎖を引き戻した。
「ゴーレム? いや、普通のゴーレムじゃない。あの断面は……絡繰?」
魔力を動力源に動く人形『ゴーレム』。魔法が生み出された当初は土を押し固めただけだったが工学の技術の進歩と共に金属製のゴーレムも生まれ、とある大司教に至っては水や炎といった不定形の物体をゴーレムとして操るとされる。
ルシアは当初下した目の前のゴーレムは魔道具を部品に組み込んだ物、その判断を即座に否定する。
腕の断面から姿を覗かせたのは動かし易さを考えて作られるゴーレムのボディには本来施されない複雑な金属部品。
何方かと言えば金属製品はスロースの得意分野ではあるものの全く知識が及ばないという訳でもない。
断面から見えた歯車やシリンダーの一部がどの様な役割を果たすのか、それを初見で見抜いたらしいルシアにミシュリルは関心と自慢を合わせた笑みを浮かべる。
「ははははは! 初見で見抜くとは中々やるな!」
「そう! 我らは元より絡繰職人! ど田舎なせいで客が来ずに貧乏だったけれど! 此奴は絡繰とゴーレムの作成のハイブリット!
「砂糖たっぷりの甘いお菓子とか森を抜け出してから初めて食べた! それとエロ本も初めて読んだ!」
「名付けてロボ・ゴーレム!」
登場時点からジェイルへの性欲を隠そうとせずに視線と表情に出力し続ける三人だが、自分達の技術を断片だけでも理解した相手に自己顕示欲まで刺激されたらしい。
聞いてもいないのにペラペラと余計な情報まで話し出す中、ベアルコは珍しく考え事をしているのか腕を組んで首を捻っていた。
「そして此奴は戦闘用ロボ・ゴーレム一号。その名も……」
「ねえねえ! ちょっと質もーん!」
「……何だ? 技術的な事への質問なら教えられんぞ」
手を上げてピョンピョンと飛び上がりながら言葉を遮ったベアルコにミシュリルは一瞬だけ眉を顰めるものの、技術に感心した子供が凄い凄いとはしゃいでいると思ったのか直ぐに得意そうな笑みへと変わった。
「え? そんなのどーでも良いよ。あのさ……どうして態々言葉を分割して喋ってるの? 面倒だし、さっきグダグダで失敗してたし。そもそも打ち合わせして練習してた?」
見た目十代前半,実年齢不祥の成人女性の(見た目だけは)無邪気な言葉にミシュリル、マルギット、リィズの三人の時が止まり、リィズなどは今にも泣きそうなのを堪えている。
既に登場時に出していた謎の襲撃者の雰囲気はボロボロだった物が台無しで、崩壊一歩手前の様子。
「って言うかキャラ作ってるよね? バレバレで見ていて滑稽だからもう少し続けてくれたら嬉しいな。笑えるもん」
「うぇぇぇぇん! ミシュリルー! マルギットー! あの子が虐めるよぉー!」
止めの一撃に既に瀕死だった威厳のありそうなキャラ(笑)は完全崩壊、人前で大泣きし始めた。
「お、落ち着きなよ!? 【鏖殺】に殺された皆の敵討ちの為に勝てそうな弟を襲うんでしょ!? 主に性的な意味で!」
「三人で押し倒して処女奪わせてやるって決めただろ!?」
「う、うん。あの恋人らしい子じゃ無理な胸で挟む方法で出させた後、確実に孕む量を搾り取るんだもんね!」
仲間二人に慰められて泣き止んだリィズは慌てて涙を拭い、互いに顔を見合わせて頷きあうとロボ・ゴーレムへと飛び乗った。
リィズとミシュリルは上手く着地し、マルギットは足を滑らせて後頭部を強打。
鈍い音を響かせた後で暫く悶絶していたが何事も無かったかの様に立ち上がると三人揃って仮面を装着する。
「姉様に復讐ってのと仮面からして悪魔崇拝者か,テメェら。随分と情けねえ話だな。本人に勝てそうにないから弟を狙うって」
「う、五月蝿い! 声を聞かせるな、股が濡れる! 替えの下着がないんだぞ!」
「貧乏なめるな!」
「胸とか足なら舐めて良いけれど!」
「知るか。黙れ。……いや、本当に頼むから黙ってくれ」
姿を見せた時点から感じ取っていた卑猥な視線。控えめながらもラウラも向けて来ていたし、リリースからも好意と同時に堂々と伝えられてはいた。
「魔力が乱れてるよ、エッロ」
「どうするんだ!? 此処で始めるか!? 初めてだけれど!」
「で、でも我慢は無理だし……」
だが、目の前の三人は違う。向けられるのは敵意と純粋な性欲。全くもって意味が分からないし、気持ち悪いよりも怖いが勝っていたので絞り出す様な声で頼んでしまうも相手はそれを見て更に悶えている。
人の話を聞かずにスケベ心を向けるのは聞いた事があっても,聞いた上で昂らせるのは初めてで、思わずルシアの手を握ろうと視線を向ければ……修羅が居た。
「誰の胸じゃ挟めないって? 誰の胸が平らだって? 誰の胸が鉄壁だって?」
元から薄い表情は完全に消え失せているが、何を考えているか分からないといった普段の様子は消え失せる。
目から放たれる圧力と共に屋根の上の三人を睨め付ける眼光は怒りに満ちた物。
そっと伸ばされる手が鞄の口を開ければ次々と宙に浮く短剣が飛び出して行く。
十、二十、三十、その数は次々に膨れ上がり、放つ魔力の大小はあれど計五十を超えるであろうそれらが一斉に切先を向ける姿にリィズは顔をまっ青にしていた。
「だ,誰!? あの子にナイチチ絶壁って言ったの!?」
「其処迄言ってねえし、あの貧乳に男のブツを挟める程に大きくないっつったのお前だからな、リィズ!?」
「幾ら剣豪に切り落とされたみたいな大平原だからって挑発したのは私じゃないからね!?」
虎の尾を踏んだ仲間を売ろうとして逆鱗にジャブとストレートを打ち込む二人はリィズの背中を押して盾にしようとするものの既に殺意の対象だ。
「……」
パチンと響く乾いた音。主人が指を鳴らすと同時に角度を調整して正面から向かって行った。
「タ、タロス一号!」
気圧されながらもマルギットが叫ぶとロボ・ゴーレムの魔法陣が強く輝き両手を交差する様にして三人を守る。
金属がぶつかり合う音が響き,何本かは刃先を幾らか入り込ますも多くは表面に僅かな傷を付けて弾かれるのみ。
幾らかは弾かれても再び戻って行くが通じず、正面から雨霰と飛来する短剣がルシアの元へと戻って行くと腕の防御が解かれて得意そうな笑い声が響き渡る。
まるでお前とは違うと言いたげに胸を張った上で揺らし、鼻で笑いながら向ける視線の先はルシアの胸だ。
「あっはっはっ! これが私達の傑作、タロス一号! 未熟な魔法使いなんかに負ける訳がないだろうが!」
「制作費用で凄い借金しちゃったけれど……」
「大丈夫! 世の中には身代金ってあるし、子種だけじゃなくってお金も搾り取っちゃおう! やっちゃえ、タロス一号!」
タロス一号の指先が開いて現れた穴から小さな筒状の物体が吐き出される。先端には火の付いた導火線。
「爆弾!?」
「うん、大丈夫」
広範囲にばら撒かれ降って来る爆弾に向けて短剣が飛び、爆弾とすれ違う様にして再びタロス一号の腕を防御に回させ,爆弾は地面に落ちる。
それに少し遅れて風に舞い落ちた導火線。
爆弾は一つも爆発しなかった。
「教えてあげる。大切なのは
得意気に放った爆弾を全て無効化されて固まる三人を嘲笑うかの様にルシアは肩を竦めてみせた。
「それってオッパイの話? 魔道具の話?」
「せんせは少し黙ってような?」