指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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 ……やるしかないか?

 

 竜巻を推進力に迫り来るタロス一号の魔力が高まるのを感じ取り、激突の瞬間に爆発を起こしかねないと悟ったジェイルは覚悟を決めた。

 

 指輪の悪魔であるベルゼラは言った。一定以上の好意を向けている相手に自分の声が届くと。

 

 何度も世話になっているものの振り回されて迷惑を被る事も多いベアルコは微妙な所であるが、ルシアには確実に自分に宿った悪魔の声が聞こえるであろうとの確信があった。

 

「……おい、力貸せ」

 

 故に声を聞かれ,今の関係性が,自分の立ち位置が壊れてしまったとしても選択肢は他に無い。

 庇う様に手で押し退けながら前に出て、小さく呟けば笑い声は聞こえずとも悪魔が笑っているのが伝わって来る。

 

 右手をタロス一号へと向かって突き出し,衝突まで三秒足らず。魔法を放つには十分な時間。

 

 

「ほいや!」

 

 その魔法が放たれる寸前、割って入ったナナシの姿にジェイルは咄嗟に魔法の発動を取り止める。

 彼女を巻き込むからではなく、先程の僅かなやり取りで実力を推し量ったからでもない。

 

 最強であるルビーが副隊長に据えた人物が飛び込んで来た。それならば何もする必要も無いと分かったからだ。

 

 事実、出会い頭の攻防でジェイルはナナシの力の片鱗すら測れてはいない。

 ナナシが間に飛び込みタロス一号が迫った瞬間、その姿が視界から消えるのを目で追う事が出来なかったからだ。

 

 何処に行ったのかと目で探すよりも先に耳に届いた轟音。出所である頭上に目を向ければ長くしなやかな足を頭より高く振り上げながら跳躍したナナシと、蹴り上げられた衝撃で生じた陥没がボディを完全に貫通して真っ二つに割れながら真上へと向かい続けるタロス一号の姿。

 

 乗っていた三人もそのまま高く高く舞い上げられ、タロス一号の断面からは部品の欠片と共に魔力の光が溢れ出す。

 元より自爆寸前にまで高められた魔力が完全に制御を失い、街の遥か上空にて大爆発を起こした。

 

 地上にまで届く爆音と衝撃に真下付近の建物の窓ガラスが割れて洗濯物は吹き飛ばされる。

 これが地上で爆発していれば被害は如何程なのかとジェイルが戦慄する中、空中の爆煙の中から飛び出す何かの姿があった。

 

 

「金貨五十枚がぁあああっ!?」

 

「やーらーれーたー!」

 

「おーぼーえーてーろー!!」

 

 爆発で服が吹き飛んだのか全裸で丸見えになった胸や股を腕や手で隠しながら遥か彼方へと飛んで行くエルフ達。

 体も真っ黒で金髪はチリチリのアフロになる中、捨て台詞を吐きながら直ぐに見えなくなった。

 

 

「案外余裕あるな、あの三人。それで大丈夫かい? 少年」

 

 三人の姿を何処か呆れた様子で見上げながら降り立ったナナシはジェイル達の方へと振り返る。

 声を掛けられ我に返ったジェイルは慌てて返事をしようとするが、先程押し除けるのに使った手をルシアによって何故か掴まれた。

 

「わーお。思った以上に大丈夫っぽいな。余裕あるじゃないの、少年達。まあ、こんな街中でおっ始めるのはどうかと思うぜ?」

 

 ナナシがケラケラ笑いながら指差すのは掴まれた手の先。何処を押し除けたのか見ていなかったが、胸を押し除けていた。

 

「悪い。気が付かなかった」

 

「胸なのに? どうして胸を触って全く気が付かないの? ねぇ。どうして?」

 

 感触が感触なので気が付かなかったが、先程から触りっぱなし。ルシアの向ける鋭い眼差しはそれを見抜いての物なのだろう。

 徐々に腕を掴む力が強まる中、周囲が騒がしくなり始めた。

 

「あっ、やべ。騒ぎに巻き込まれたら休みが台無しだ。自分だけ逃げる……のも無理かぁ」

 

 煙草を咥えながら逃走を図るナナシだが、近くにいる事件の当事者はおっかない上司の身内だ。

 このまま事情聴取で里帰りの時間が潰されるのは嫌だが、逃げても後でルビーにはジェイルの口から伝わるだろうと考えて、迷わず選んだのはこの場からの逃走。

 

 それも単独ではなく、何も言わずに両手を二人の胴体に回してだ。

 

「悪いね,少年少女。お詫びはするから付き合ってくれよ。これで二人は共犯だ」

 

 偶然か、恐らくは故意にか二人の顔はナナシの豊満な胸に横から押し付けられる体勢で、煙草と酒と汗の混じった何とも言えない悪臭が至近距離で叩き付けられる。

 

「……」

 

 一瞬胸越しにルシアの顔を見たジェイルは視線を逸らす。視線だけで人を呪い殺せそうな形相の幼馴染に彼が出来るのは知らん振り。

 実家の自室でエッチな本を読んでいる最中にメイドが掃除にやって来て、咄嗟に本を隠したベッドに近寄った時以上の気不味さと恐怖には現実逃避しか選べやしない。

 

 そのまま速く、それでも負担を感じない軽やかな動きで騒ぎの中心から遠ざかって行くジェイル達だが、一人残されている事に気が付いた。

 

「えっと、ベアルコ先生を置き去りにしたら意味ないんじゃ?」

 

「知らなかった? あの人、二十五年前から事件に関わってようが余計に事態がややこしくなるからスルーしろって命令が出てるのさ。国直轄の辞書でトラブルメーカーって引けば名前が出るんだ」

 

「あー,うん」

 

 聞きたくなかった事実だが、それでも納得するしかない。そもそも何歳なのかと疑問が浮かんだが今更だろうとも思うジェイルとルシア。

 

 そんな二人を抱えて屋根から屋根へフワリフワリと軽やかな動きで跳び回るナナシが着地したのは少し汚い路地裏で、通りに出れば見知った建物が目の前にあった。

 

「この前……んんっ!」

 

 この前来た所だ、との言葉をギリギリで飲み込む。 そう、目の前の建物は連れ込み宿、メルーナと一緒に入ったばかりの場所だ。

 

 無論、雨宿りで入っただけだと説明すればルシアは信じるのだろうがナナシの存在が問題だ。

 実力は別として,性格は信用には値しないと評価しており、まさか学生が立ち寄ったとは知られたくはない。

 

「騒ぎが治るまでは此処で時間を潰すとしようや。暫く風呂も入ってなかったし」

 

「ああ、臭かったもんな」

 

「だから臭かったんだ」

 

「自分,年上で恩人! 目上目上!」

 

 そう言われても臭いものは臭いし、ゴタゴタに巻き込まれたくないと二人を拉致同然に攫って此処まで連れて来た相手だから敬意を払いたくない。それが二人の意見だった。

 

「どうせ臭いですよー。山奥で悪魔崇拝者共の拠点を潰して拷問する奴以外は皆殺しにした上でアースドラゴンの巣を探して駆けずり回ってたからねー」

 

 だから臭くても仕方が無いとばかりに二人を更に強く抱き寄せたナナシは宿へと入り、足の指でポケットから財布を取り出すと受付に投げ渡す。

 

「誰か来ても適当に誤魔化といてくれよ」

 

「……あいよ」

 

 慣れた様子で投げ渡された鍵を胸の谷間でキャッチして部屋へと向かえば最上階の広々とした部屋。

 ジェイルとメルーナが雨宿りに使った部屋の倍の広さはあり、風呂は数人が入っても余裕がありそうな大きさなのが曇りガラス越しでも分かる。

 

「此処ってスイッチ押せばガラスが透明になるって知ってた? はーい、到着っと」

 

 二人をそのまま巨大なベッドに放り投げたナナシはズボンのベルトに手を伸ばし、そのまま外すなり下着と一緒に脱ぎ下ろした。

 

「ばっ!? 人前で急に脱ぐなよ!?」

 

 放り投げられた姿勢のせいで彼女を見ていたままのジェイルの目にはナナシの大きいが引き締まったお尻が丸見えだ。慌ててうつ伏せになって抗議するも何故か近寄って来る足音が聞こえて来た。

 

「別に見られても減るもんじゃないし? それよりも少年少女、一緒に入る気ない? 前も後ろも洗ってやろうじゃないか」

 

「断る」

 

「嫌」

 

「ちぇー。学生に手を出せる機会なんて滅多にないから狙ってたんだけれどな」

 

 少し不満タラタラの様子でシャワー室に向かう音がして,続いて少し調子外れの鼻歌と共に聞こえて来るのはシャワーの音だ。

 少し興味はあっても見たら負けな気がしてうつ伏せのまま背を向けていたが、急に鼻歌が止むなり浴室からナナシが飛び出して来た。

 

「ごめん! 三股してる子の内の一人と今日会う予定だったから先に出る! 二人は避妊を忘れずに時間を潰しておいてくれ!」

 

 扉を使う時間も惜しいと慌てて服を着るなり窓からナナシが出て行って、直ぐに窓を閉めに行ったルシアとジェイルだけがシャワーの音が響く部屋に残された。

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