「外、未だ騒ぎになってるみたい。……困った」
連れ去られた形とはいえ騒ぎの当事者が現場から居なくなった。それが今更顔を出しても面倒になるだけと表情を殆ど変えずに辟易しながらベッドに座ったルシアだったが、急に立ち上がると徐に上着に手を掛けた。
「シャワー浴びたい。背中向けてて」
「へいへい。って、服をこっちに投げるなよ」
タロス一号との戦いのせいで細かい砂粒が服の中にまで入り込んだのが嫌だったのだろう。脱衣所まで向かう事すら煩わしいとばかりに服を放り捨てながら向かうが、その服は全てジェイルも寝転がっているベッドの方へと飛んで行く。
頭に被さったスカートを払い除け、背中に乗った小さな布地を身動ぎして落としながら文句を言うも返事は無い。
一応異性相手なのだから警戒は兎も角として恥じらいは無いのかとは思うものの、ジェイルが知るルシアには無いのだろうと即座に結論が出た。
「全然違うな。当然だけれど……」
以前雨宿りでメルーナと一緒に利用した際は多少なりとも互いに意識したものだが、それは学園に入ってからの付き合いと幼い頃からの付き合いの差、スタイル云々関係無く下着や素肌を見たいと欲求が騒ぎ立てる事も無い。
先程胸を触ってしまった際も貧乳だから気が付かなかった事を怒りはされたが、助ける為に咄嗟にやった事だからか触った事への文句は無かった。
だから本来は年頃の男女で入る目的が如何わしい場所であっても平然と過ごす事が出来ていた。
騒ぎの方も元より着ぐるみ集団の異様さに人が離れていた為か殆ど人は居らず、店員も直ぐに逃げた為か時間経過でやり過ごせそうではある。
予定が潰れたのは残念ではあるものの、部屋でゆっくりするのも悪くないとリラックスする内にジェイルは何時しか眠り初めていた。
「本当に失礼。少し大きいからって馬鹿にして。私も寄せて…寄せ……胸を使う理由が分からない」
横から無理に肉を集めようとしたものの、出来なかったので直ぐに止めたルシアは体を洗う事に専念する。
姉はそれなりに持っているが、どうも父母の血に偏りがあるのだろうから遺伝上仕方が無いというのが彼女の意見だ。
シャワーを浴びれば水滴を溜める場所もないので静かに下へと落ちて行く。
姉が羨ましくはないが指摘されたら腹が立つ程度にしか真っ平らな胸を気にしておらず、寧ろ動くのに邪魔にならず汗も溜まれないのだから平らな方が都合が良いのだと大きいのが好きな相手を論破する自信もある。
型崩れの心配も無いので下着だって上だけで良いのだから,と。
「服,どうしよう……」
体は洗っているが服は砂やら何やらで汚れており、折角風呂に入っても再び着てしまっては元の木阿弥。洗濯用の魔道具も持っていないので髪を洗いながら考え、その途中で閃いた。
砂を洗い流すだけで別に良い、と。
ルシアは辺境伯の令嬢だ。彼女には洗濯が分からない。寮の部屋の掃除は勝手に弄られたくないからとメルーナに教わってギリギリこなしたり駄目だったりしているが洗濯に関しては他人任せだ。
その洗濯でさえ面倒臭がって溜めてはメルーナに言われて出しているのだが。
結果、お湯にでも入れて魔法でグルグル回せば良いとしか思っていない。
「タオル巻いて行こうかな? 流石にその位は。……面倒だから良いか。ジェイル寝ているし」
決してタオルを上手く巻けないからではない。普段の入浴後に体にタオルを巻いたりはしないのだ、
数度の失敗の後でタオルは体を拭くだけ、バスローブは小柄な彼女向けのサイズが無かったので却下。
一糸纏わぬ姿だがシャワーを浴びて体がポカポカ温かい今のルシアには何の問題は無いのだと、同世代の異性が居る部屋で全裸になるという問題は忘れ去って脱ぎ捨てた服と下着を回収する。
そのままお湯を貯めた浴槽に服を突っ込み風の魔法でグルグル回す。流れ出した砂やらでお湯が濁り始めた所で取り出して表裏共に軽く流して絞れば完成だ。
「火が早いけれど流石に室内じゃ駄目……かも? 火事を起こしたら流石にお小遣い減らされそうだし」
それは研究開発に費やすお金が減る事になる。オヤツや服はお小遣いとは別に食費や衣料費として支給されているが、それを回すのは嫌だったらしい。
「仕方無い。風で乾かそう」
鞄から取り出したのは魔力を込めれば風を発生させる魔道具。温風も冷風も出すので大量生産に成功すれば売り出そうと思っている名称未定の試作品。
吊るす紐は無いので机の上に下着と服を広げて並べ、その中央に魔道具を置いて風で乾かし始める。
後は乾かすだけだが時間は少し掛かるだろう。幸いな事に暫く時間を潰す必要があって、正直退屈だった。
「呑気に寝てるし多分大丈夫だと思う……」
近くで動いても起きる気配のないジェイルに近寄って軽く揺さぶるも反応は無い。
起きたら全裸を見られる事になるのだが、それを意識していないのか続いて頬を指で突っついた後は思い切って引っくり返す。
うつ伏せから仰向けにされても起きる様子を見せない彼の頬を左右に引っ張ったり鼻を摘んだりと暫く遊ぶも、飽きたのかベッド端に座って足をブラブラと動かして天井を見上げる。
暫くはそうして時間を潰していたルシアだが、ジェイルの方を向くとベッドの上を這って移動して投げ出された彼の手を握る。
伝わったのは剣を握り続けた事によってゴツゴツと硬い感触になった手は幼い頃から握り続けた物とは違う。
関係性は変わらないけれど、ジェイル自身は随分と変わってしまったのを感じ,少しばかり寂しさを覚えた。
普段から一緒に居る事の多い三人に加えて再会したリリース,そして別に居る友達二人。
人付き合いよりも研究と開発に時間を使いたいルシアからすれば十分過ぎる人数だが、その分というべきか執着に近い物も向けていた。
友達の人間関係に口を出したくはないが、それによって自分から離れて行くのは気に食わない。
あの三馬鹿エルフが一方的とはいえジェイルを連れ去って自分達のものにしようとしていたのは本音を言えば腹が立っていて、だから柄にもなく挑発までしたのだ。
「私も寝ようっか……」
だが、この行動は別に対抗して色仕掛けをしようという訳では無い。実際に眠いだけ。
ジェイル相手にその様な発想など浮かぶ筈が無いのだ。
先にジェイルが起きた場合に襲われるといった心配はしておらず、裸を見られる可能性に恥じらいも感じない。
わざわざ見せる物でもないので成長してから見られた事も見せた事もないのだが、ルシアにとってジェイルとはその様な存在だ。
流石に全く隠さないのは親兄弟に知られた場合に少し五月蝿そうだと、実際は立場からして騒ぎが大きくなるのも考えずに毛布を被れば問題無いだろうと目を閉じて、直ぐに睡魔に身を委ねた彼女は少し寝ぼけながら手を伸ばして眠る。
「……この馬鹿娘。少しは恥じらいってもんをだな」
ベッドに並んで眠っていた二人、先に目を覚ましたジェイルは何処か慣れの入った諦めの言葉を呟く。
並んで寝ているには今は良いだろう。外で昼寝中に並んで寝ているのとは違い人の目が無い。
「すぅ……」
「裸で抱きついて寝るなよ。相変わらずだな……」
思えば幼き日よりルシアは眠る際に何かに抱き付く癖があったと思い出すジェイル。
普段は抱き枕を使っているが、うっかり落とした際は毛布を丸めて抱き付くせいで起きた時に体が冷えてしまっている事もあると聞いた事もある。
両手両足でしっかりと体をホールドされて,時折頬を擦り寄せて心地良さそうにしていた。
脱いで乾燥中の服を見れば何があったのかは分かるものの、どうすれば目の前の幼馴染に恥じらいを教えられるのか。
それは身内の仕事だが、こんな状況になった事を親戚だろうと伝えられない事を嘆きつつホールドから何とか抜け出す。
「冷たいシャワーでも浴びるか……」
火照った体を冷やしたい。そう呟きながらシャワーを浴びに行くジェイルの背中には疲れが見えた。