指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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「おかえり! おにいちゃん、おかえり!」

 

 何事もなかったかの様に蘇生したイリスにルシアを預けて自室に戻ったジェイルをジークが出迎えた。

 仔犬程度の知能から魔力の影響を受けて子供程度の知能を得たジークはベッドの上で飛び跳ねながら尻尾を激しく振るう。

 

「おう、天井に届きそうだから気を付けろよ?」

 

「うん!」

 

 返事をしながらベッドの上で数度跳ねたジークは勢いそのままにジェイルの胸へと飛び付き、衝撃に一瞬だけ吹き飛ばされそうになるも足の裏に力を入れて堪える。

 

 もし力に負けて吹き飛ばされればジークが気にするからと、躾を考えれば自分限定でも此処までの激しいスキンシップは控えさせるべきなのだろうが溺愛しているので無駄な話だ。

 

「あそんで!」

 

「はいよっと。もう遅いし室内で軽くな」

 

「うん!」

 

 ベッド横の引き出しから取り出したのは使い込まれた跡のあるボール。幾つも歯形や爪痕が刻まれてボロボロなのだが、それを見るなりジークは激しく回り始めて金色の輪っかにしか見えなくなるまで速度を上げて、目が回ったのか少しフラフラしながらもベッドに座るジェイルの手元を三対の瞳で期待の眼差しを向けている。

 

「スロースの方には行くなよ? ほれ」

 

「まてまてー!」

 

 貴重な割れ物も有り、それでジークが怪我をしない様に床を軽く跳ねながら転がされたボールに直ぐに追い付いたジークは並走して壁際で急停止するも勢い余って鼻先をコツンと壁にぶつける。

 

 ボールがそれに少し遅れて壁にぶつかって止まると、鼻先をぶつけた事など忘れたとばかりに三つの頭を近付けて、少し固まった後で振り向いた時には少し困った様子だ。

 

「おにいちゃん、どうしよ! どのくちでもとうかな?」

 

「好きにすれば良いさ。困ったなら順番で持てば良いぜ?」

 

「そだね! じゅんばんに……えっと、えーっと……」

 

 耳をペタンと垂れさせてジークは目を泳がせている。どの口で咥えれば良いのかは順番で咥える事にしたものの、どの順番で咥えるかで迷い真剣な眼差しでボールをジッと見詰める。

 

「じゃあ、右側から咥えたらどうだ?」

 

「みぎ! どっち?」

 

「何時もお手する方な」

 

「わかった!」

 

 慌ててボールを咥えたジークは尻尾を音がする程に激しく振り回し、一足飛びにジェイルの膝まで飛び移る。伝わった衝撃でベッドが軋む勢いにジェイルも膝が痛んだが注意しない。

 

「なげて! もっとボール!」

 

「ほいよ。今度は壁にぶつかるなよ?」

 

「うん!」

 

 ダダ甘い飼い主っぷりを見せるジェイルが再びボールを投げ、待ってましたと飛び出したジークは再び壁に当たりそうになるも身を翻して後ろに一回転して着地する。

 

 そのままボールを左と真ん中のどの頭で咥えるべきか迷っていた時、スロースが二人のスペースを遮るカーテンを捲って顔を覗かせた。

 

「悪い。五月蝿かったか?」

 

「大丈夫だよ。カーテンが遮音と遮光をしてくれているから。それより街の方で騒ぎがあったらしいけれど大丈夫だった?」

 

「……大丈夫。初対面で欲情した視線を向けて来た変態三人娘と遭遇しただけだから」

 

「それを大丈夫って言う辺り、トラブル慣れしてない? 立場からして巻き込まれるのは仕方無いにしても、解決してくれる人が居るんじゃない?」

 

 トラブルに慣れてしまっている。それを指摘されたら反論の余地も無い。

 痴女に襲われた,普通は大騒ぎする案件であるのだが、ナナシのせいもあって騒ぎとは無関係にしたい上にルシアと連れ込み宿で一緒に居ただなんて友人が相手でも言えやしない。

 

 これにはスロースも心配を通り越して呆れてしまうが、口にも顔にも出しはしない。友達が少ない分、リソースの方は多く分配されるのだ。

 それはそうと変態に絡まれた事を小事と語るのを呆れている事はジェイルにも伝わり、慌てて話題を変えようとするも話題が浮かばない。

 

 さて、どうするべきかと考える中で捲られたカーテンの向こうに見えたのは加工中の魔道具。

 熱で溶かした金属を裏出ししつつ凹みを埋める為に棒入れをしていた痕跡が残っている。

 

「エルフって絡繰技術が進んでるだろ? それに関連しているらしい言葉でロボって知ってるか? 前に何処かで聞いた覚えはあるんだが忘れちまってさ」

 

「ロボ……ああ、エルフの造る絡繰人形の総称だね。確か労働者って意味を持つ言葉の一部を使っていた,だっけ? 僕もそんなに詳しく無いけれど……詳しそうな子なら知ってるよ」

 

「おっ、誰だ? 今後も関わるかも知れねえし、詳しく知っておきたいんだ」

 

 教えてくれと語る友人の姿にスロースは一瞬教えるべきかと迷うものの、早くボール投げの続きがしたいジークが舌を出しながら見上げているので話を終わらせる事にした。

 

「エルフじゃなくってダークエルフの里の絡繰ならエニス商会が取り扱っている筈だよ。ほら、【尻丸出し】の異母妹が君に近付いているだろう? 彼女に聞けば良いんじゃないかい?」

 

 尚、件の彼女ことラウラ・エニスも初対面でジェイルを性的な目で見ていた事は耳に入れていない事にしたいスロースだったが、彼は少しばかり大切な事を伝え忘れていた。

 

 それが分かるのは少し後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「おにいちゃん。へんたいってなーに?」

 

「変な行動する人の事だぞ」

 

「じゃあ、おにいちゃんのおにいちゃんむたいなのー?」

 

「兄貴は変態じゃなくって変人。ちょっと違うが……ボール投げの続きしようか」

 

「する!」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、一年生の教室をジェイルが覗けば少しだけ騒めきが起きる。

 劣等生の噂は既に一年生の耳にも届いているだろうが、それでも建国時から王臣であった大魔法使いの一族。身嗜みを気にし出す者や話し掛けるタイミングを伺う者が出る中、ラウラが迷わず進み出た。

 

「お話は既に伺っています、ジェイル先輩。エニス商会で取り扱っている商品に興味がおありだとか」

 

「おう、急に連絡して悪かったな。注目浴びているけれど大丈夫か?」

 

「いえ、お気になさらず。兄の愚行の影響で遠巻きにされていますので今更です。それに……」

 

 ラウラは視線を僅かに後ろに向けると一歩前に踏み出してジェイルと至近距離まで接近した。

 互いの息が掛かる程の至近距離に騒めきが広がる中、ラウラは咳払いと共に一歩下がって一礼を見せる。

 

「失礼致しました。ジェイル先輩。お会い出来た喜びで舞い上がっていた様です。では、お約束通りに参りましょうか」

 

 再び頭を下げたラウラはジェイルと共に教室から去って行き、騒めきから沈黙へと変わった教室の空気は二人の姿が遠くへ離れた頃合いで再び騒めきへと変じた。

 

 跡継ぎのやらかしで斜陽にある商会の娘と大貴族の次男との話し合い、それもジェイルの方から事前に連絡を取っての事だ。憶測が飛び交うも後を付けるという発想に至る者は居ない。

 

「どうする? 内容は凄く気になるけれど……」

 

「実家が情報を欲しがるだろうけれど、下手に盗み聞きがバレた場合のリスクを考えたらな」

 

 当然だ。何故ならこの場に居る生徒達に隠形の心得がある者は居らず、寧ろ心得のある者が影から護衛を行うか、もしくは友好的でない者が心得のある者を寄越すなどした経験者が多い。

 

 手の者を向かわせるにしても呼び出すまでの時間を考えれば無駄足に終わる他、呼び出した事を悟られた際に無関係の者からも疑心暗鬼を抱かれれば、それが今回は見送る理由だった。

 

 せめてラウラの口から断片だけでも聞き出すか、レムリス家とエニス商会の動きを見ている様に家に手紙を書くか。

 生徒達はその様に思考する。そう誘導されていた。

 

 

 

「おう。悪いな。予定空けてもらってよ」

 

 予め準備していた個室でジェイルはラウラと向かい合って座っていた。横ではリリースがお茶の用意をするのだが、今回の話し合いにおいてジェイルが先ず行ったのは事前に知らせを向かわせる事。

 

 何か用があったとしても急に来た自分を優先させなければならないケースが多いのは理解している故の選択だ。

 勿論アポを取る前に予定が決まっていても同じ事だが、時間を開ければ対応が可能な場合も多いとの理由で、自分が会いに行くかラウラに来てもらうかも事前に聞いていたのだが……。

 

「態々お呼び出しするとする無礼をお許しいただき有難う御座います。感謝の言葉をどれだけ述べても足りる事は無いでしょう」

 

「いや、良いさ。思惑は成功したみたいだしな」

 

「ええ、これで煩わしい真似をする者も減るでしょう。兄の件がある前は親しげに寄って来た者達ですら弱ったと見るや攻撃を仕掛けて来ましたので困っていた所ですので」

 

 此方としても大いに助かりました。と述べてラウラは頭を下げるのだが、教室では閉じていた筈の胸元は移動中に開かれており、頭を下げて体を傾ければ谷間や下着が僅かに見えそうになっている。

 

「ああ、それで少しエニス商会が扱っているダークエルフ製の絡繰に興味があってな。話が聞きたいって思って来てもらったんだ」

 

「お役に立てるなら本望です、ジェイル先輩。既に用意していますので幾つかお見せしましょう」

 

 そう言いながらラウラが取り出したのは幾つかの道具。机に並べられる程度で殆どがポケットに隠し持てる程度の大きさだ。

 

 

 

 

 

 それを一つ手にとったラウラはスイッチの部分をジェイルへと手渡し、本体部分を服の上から自らに押し当てる。

 

「これは全て大人向けの玩具ですが……実際に使ってみますか?」

 

 スロースは大切な事を伝え忘れていた。エニス商会が扱うダークエルフ製の絡繰の多くがアダルトグッズだという事を。

 

 

 

 

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