事前に使者を出してまで聞き出そうとした情報,それがアダルトな玩具だったと知らされた瞬間、ジェイルの思考はフリーズした。
相手は没落を始めた商会の娘、それも実家に見切りをつけて自分の家で雇って欲しいと願って来た相手。
更に付け加えるなら種族特性としてジェイルをエロい目で見ている。
結論、普通に考えてエッチな展開を望んでの接触にしか見えない。
頼りのリリース、こういった場面で頼りになるのかどうかは別として助けを求めるべき相手はクラウディアから受けた忠告によってジェイルへのセクハラ発言を控える様に言われているのでウズウズしながらも部屋の隅で黙り込んでいる。
注意してなければ自分に使うべきだと主張していただろうから事態がややこしくならなくて助かったのかも知れないが、ある意味。
「そ,それではコレの使い方をご説明致しましょう。本来ならば娼婦や客の愛人で実践するのですが、此処は私が……」
問題なのは今後の身の振り方的にも個人的な欲求的にもラウラにとってジェイルからの申し出(誤解)は渡りに船だった事。
育ちの良いお嬢様であったものの嫁入り先で相手を籠絡する為に受けた教育で知識はあるのか照れながらも座ったままスカートを託し上げて端を咥えると見えたのはレース付きの純白の下着。
「待ったっ!?」
その中に指先を差し込んでズラそうとして,思考を取り戻したジェイルによって手が掴まれて動きが止められる。
スカートを咥えたまま上目遣いにその姿を見ていたラウラであったが、暫しの思考の後にスカートから口を離すと深々と頭を下げた。
「……脱がす方がお好みでしたか?」
「待て,誤解だ。俺は商品の詳細については知らなかった」
脱がしやすい様にと立ち上がり,今度は両手でスカートを捲った所でジェイルは冷静に説明を始める。
ちゃんと調べてなかった不手際やら使者に出した者への説明や、絡繰を扱っている事を教えてくれたのは良いが詳細が抜けていたスロースへの怒りやら、考える事は沢山あっても今はラウラからの誤解を解くのが最重要。
説明を受けてラウラは納得したのかスカートから手を離して一礼すると席へと戻って取り出した商品を片付ける。
少しばかり動揺したのは手が震えているので伝わって来るが、それでも散り落す事もなく丁寧な手付きだ。
「これは失礼致しました。少しばかり早とちりしたらしくお恥ずかしい限りです」
ですが学園では売れ筋ですし、どうですか? と冗談めかして微笑みながらラウラが取り出したのは先端が左右に広がった小さな筒の様な物だ。
「クリーナー。机の上のゴミを吸い取る道具で、ゴミが溜まったなら後ろを捻れば蓋が開きます。この様にダークエルフ製の絡繰は小さくて取り回しが良いのが特徴ですね」
普通の物もあったのか、その様な言葉が喉の奥から出そうになるも、誤解の理由となった学園での売れ筋商品の話題にまで話が向かいかねないので止めておく。
同じ学園生徒の性事情とか知りたくない。
「成る程な。 それでエルフの方の絡繰は違うのか?」
「ダークエルフが汎用性や使い易さに拘るのならエルフは趣味に走ると言うべきか、巨大で力も大きい,その様な感じですね。其処まで詳しくはありませんが基本的な事ならばお答え可能ですが」
「ああ、頼む。……何か悪いな。色々な意味で。今度礼をするよ」
「ええ、楽しみにしています。では、基本的な特徴から……」
最初の誤解には戸惑わされたものの、ラウラが持つ知識は豊富で三馬鹿エルフが無関係でも楽しめる内容だった。ボディとパワーが大きいエルフ製の絡繰に関しては戦っている最中はそれどころではなかったものの、落ち着いた今では心を動かされ、ロケットパンチは何故だか分からないものの格好良いと感じている。
商人の娘だからかラウラも話が上手く、情報を仕入れる為の会話の筈が面白いと思ってしまったのは策略の一環とは気が付いたものの、それでも構わないかとジェイルは思い、同時に少しばかり申し訳ないと感じていた。
「もう一度確かめるけれど、ラウラは将来的にうちで文官として働きたいんだよな?」
「ええ、願わくばジェイル先輩の秘書として働きたいとは思うのですが、レムリス家となれば能力も信用も私ごときよりも上の方は多いでしょう。ですが、それでも文官として働くだけの能力は持っていると自負しています」
お買い得ですよ? と冗談めかして語るラウラの真意は伝わっているし、それは向こうも同じであると理解している。
ダークエルフの性癖だけがジェイルへとすり寄る理由ではない。ルビーやアーサーでは無理でも、レムリス家内でのジェイルの立場ならば余所者の自分が入り込む隙間があると判断しての事だ。
名を汚さぬ様にある程度の者が派遣されるとして、左遷や監視に近い人員に大勢の優秀な者は回せないと。
「お前も色々と難儀な人生だな」
「いえ、寧ろ家の力が落ちていなければ今ほど自由に動けず,才能も努力も無視されて嫁という名の貢ぎ物にされていたでしょうから。……一応使用人達に関しては心配していますよ?」
使用人達は心配している。つまり家族はどの様な扱いなのかというと、恐らくは予想通りなのだろうとジェイルはそれ以上話題を進めるのを止める。
ラウラが有能なのは一枚噛んだ商売の結果や入学試験の成績、実力を示す為に提出された資料の類から分かっている。
後はレムリス家の考え次第。家の中で発言権に乏しいジェイルでは口添えすら不可能だとまでは思っていないのか積極的にアピールされているものの、どう伝えれば良いのか彼には分からなかった。
(次の給料が入ったら早速買い求めましょう)
その様な中、リリースのは意識は最初に出したアダルトグッズへと向けられていた。
「あら? 珍しい人が来ているわね。お仕事の方は忙しいでしょう? 政敵を追い落とした後始末が終わってないって聞いたわよ、アタシ」
世界の何処かに存在する部屋の中、円卓を囲む六つの席と一つの寝台。空席が目立つ中、カーラが座るのは肌を曝け出した美童を中に取り込んだ氷の椅子。
澄んだ氷の中,時が止まった様に動かない少年の頬に氷越しの口付けをした彼女は氷の冷たさが堪えた容姿も無く微笑みながら横の席に視線を向けた。
豪華絢爛にして装飾過多。金と銀を編み、ルビーにサファイヤにダイヤ、細かい装飾の飾り付けに多くの宝石が散りばめられ必要以上に飾り立てられた椅子……その真横の席。
無駄な装飾は一切無く、特徴といえば他の席よりも一回り以上大きい事。
余計な装飾は不要だと言わんばかりのその席は隣の豪奢な空席とは真逆で、座る人物はカーラの言葉に静かに微笑み頷いた。
「ええ、不始末を付ける手間は省けたとはいえ、問題を起こした子達の後ろ盾……ケツ持ちとも言いましたっけ? その人物と、序でに周囲の親しくしていた人達にも消えてもらったまでは良いのですが……」
「人手不足で手が回らないって事ね?」
「貴女の仰る通り。まあ、何れ全ては私の物になるべきですので人材の育成はして来ましたし、次に邪魔者に消えてもらっても困る事は無いかと」
穏やかに淡々と語る年齢不詳の彼女は静かに頷き、傲慢さを言葉の内容以外からは感じさせない。
あくまでも分かりきった事、一般的な常識を語るかの様な口調にカーラは口元に指を当てながらクスリと笑う。
「本当に世界って終わってるわね。悪魔憑きの方が千倍マシな貴女の立場を考えたら」
「駄目ですよ、その様な事を口にしたら。世界は素晴らしい物です。どれだけの悲劇があったとしても世界は輝きを失いはしないのです。だって私の為に存在するのですから」
「そーいう事を平気で口にするからよ? それで【怠惰】が呼び出しておいて居ないのは何時もの事だけれど、【強欲】まで居ないのね」
六つの席の内、二つの席は石を積んで席に見える形にしただけでレリーフには何も描かれていない。
「ああ、【強欲】なら欲しい物の場所を【怠惰】の部下から聞き出したとやらで捜索に向かいましたよ。確か……レムリス学園の大図書館に地下室が隠されていたのを【怠惰】が見付けて放置していたとか……」