指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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 人里から遥かに離れた山の中、発見はされたものの転移魔法陣を設置したとしても対費用を考慮して放置されていた鉱山。

 全くの手付かずで放置されていたその場所に横穴は開けられツルハシの音が響いていた。

 

「あー、此処の鉱石ボロばっかじゃねーか! ちゃんと使えるの一割もねぇぞ」

 

「うぅ。お風呂入りたい。雑草や虫以外の物食べたいなぁ」

 

「昨日は蛇食べたでしょ、蛇。水は貴重なんだから我儘言わないでよ」

 

 音の主は三馬鹿エルフ。タロス一号の残骸で作り上げた粗末で急拵えの道具で岩壁を掘り進め土砂を外に捨てに行く。

 

 汗と土に全身塗れて目からは生気が抜けている。虚な目で鉱石を掘り集め、使えそうな物をボロ鉱石の山の中から僅かに混じる使い物になる鉱石をより分ける。

 

「肉ー! お菓子ー!」

 

「お風呂ー! ベッドー!」

 

「男ー! お酒ー!」

 

 ヘトヘトでドロドロの身体に鞭を打って三人はツルハシを振るい続け、欲望を吐き出し続けるのであった。

 

 

 

 

 

「あっ、崩れる。お前達、逃げ……もう逃げてる!?」

 

 

 

 天の国まで伸び地の獄まで続く巨大建築物。建築時期は数百年前まで遡り、未だに国家予算の一部を投じて職人と魔法の会わせ技による増築改築が続けられているその場所は図書館だ。

 

 学園創設者であるレムリスが盟友であったデウス王国初代国王相手に三日三晩駄々を捏ねて半永久的に本を集め続ける事を魔法を用いた契約によって約束させたという。

 此れが無ければレムリス家の力は王を遥かに越えていたとさえ言われている学園大図書館の蔵書は多岐に及び、絵本や小説にレシピ集、専門書……そして本の魔道具である魔本。

 

 幼子でも安心して読める物から翻訳しながらでないと読めない古代文字で書かれた物、そして資格が無ければ死ぬまで読み続けてしまう禁書等々、本来なら危険度や政治宗教的問題から発禁となり執筆者と共に焼き払われて然るべき本さえ収蔵され続けているとされてはいるが真偽の程は明らかにされていない。

 

 真実を求め万全の準備を整えて挑み続ける人生が無駄に終わった者も居れば、持ち出せはしなかったがフラッと入ってブラブラ歩いている内に見付けhたという者も居る。

 

 この様な学園大図書館について真しやかに囁かれ、利用機会の多い者程信じる噂、怪談話に使い物が一つ……。

 

 

 

 

 

 

「この図書館は生きていて利用者を見定める、だったか? 信じる気持ちも分かる気がするぜ……」

 

 キョロキョロと周囲を見回して、グルグル歩き続ける間部屋の中央からは巨大な時計の針がチクタク動き続ける。

 外観よりも遥かに広い建物の中で時間を見失わない様にとどの場所からでも見える様に八角柱の前面に設置された時計の秒針は本来であれば聞こえない。

 

 歩き続けて辿り着いたのは袋小路。少し前なら全く聞こえなかった針の音が合わさって響き続け、帰ろうと思えばこの場所まで掛かった時間の三分の一も要さずに出口まで辿り着く。

 

 入った者によって構造も設備も大きく変わり、気に入らない者は拒むくせに出て行く時は妙に協力的だ。

 拒まれるのは図書館や本への態度や扱いが悪い者、内心も見透かすので他所でボロい建物と言いつつ内部で歴史的建築物とお世辞を言っても迷わされるし、集団で入った場合はグループ内で評価の低い者を基準にされる。

 

 普段ならものの数分で必要な本まで辿り着く利用者も同じ場所まで半日以上掛かって辿り着く。

 授業に必要だからと懇願すれば嫌われているらしい生徒でも目的の本まで辿り着くが、行き帰りに時間を掛けられ時間ギリギリまで追い込まれるらしい。

 

「何か嫌われる様な事でもしたのではないか? 読書中にくしゃみでもしたとか、本棚を意図せず蹴ってしまったとか」

 

「もしかしてオジさんが原因かねぇ? 普段から本読まないしさ」

 

「いや,此処最近ずっと図書館で迷っている」

 

 一応地図はある。此方も魔道具の類で簡単ながらジャンル分けされた本の場所と別エリアの行き方が更新されるのだ。

 一瞬目を離しただけで目を戻せば大きく変わっている現状に目を瞑れば役に立つのだが,と三人揃って肩を落とした。

 

 この三人、ジェイルとメルーナ,そしてもう一人。

 

 碧眼、黒髪、短髪のオールバック。全身傷だらけの三十代男性。教員ではなく不審者でもなく生徒。

 周囲には自分の半分程度、立場や家によっては親子でも不思議ではない年齢差の同級生に混じって授業を受ける彼の名はハボック。ハボック・ピクシーウッド。

 

 色々と訳有りで遅れて入学、手慣れぬ授業内容や付け焼き刃が見え見えの礼儀作法に何かしらの事情を勘ぐる生徒は多いものの初対面で下手な変装の不審者扱いは別として他家の事情に首を突っ込んでまで話を聞き出そうとする無礼な真似は家から怒られるので誰もしない。

 

 お前の家の子供がやってたぞ、そんな風に言われて探りを入れる免罪符にされる程度には家の看板を背負っているのが学園に通う貴族の子息子女なのだから。

 

 ……それはそうとして裏から一応事情を調べる程度はしている者が複数居たが。

 

「其れにしてもバイトとしちゃ楽なもんだ。読書用の椅子は所々に設置されてるし、怪しい奴とも戦わなくて良いんだからさ」

 

「まあ、場所が場所だけに徒手空拳の腕前が必要だったがな。……それで実際に来ると思うか?」

 

「怪盗・月下美人だったか? わざわざ予告して来るとか悪戯か愉快犯か……貴族に恥を掻かせたい奴か。何方にせよ盗人だ。ロクな奴じゃねえよ」

 

 三人がこの建物で彷徨い歩く理由,それは学生課で受けたアルバイト。大図書館宛てに送られた怪盗・月下美人なる物からの犯行予告。

 

 

 

『三日後の夜、満月の明かりが大地を照らす時刻に最も価値の高い本を頂きます』

 

 この様な犯行予告が封書で送られて来たのだが、学園も悪戯の可能性も考慮しつつ教師が順番に下の階層に陣取って希少価値の高い本を守る事になったのだが、流石に四六時中とはいかない。

 

 食事に風呂に便所に睡眠、そして授業の準備。必要な事は多く、有りふれた本しか置いていない一階部分の見張りに生徒がバイトで駆り出された。

 

 剣や魔法主体の生徒だと蔵書に被害が出るからと条件は徒手格闘の心得が一定以上の生徒で報酬は一日辺り銀貨一枚、但し深夜労働は無し。

 

「日雇い労ど、冒険者やってた時もあったけれど、重要じゃない所に人員も費用も割けないからねぇ。盗人が本当に来るとして、本命の仮眠時間は稼ぎたいからね」

 

「あ、矢っ張り冒険者からしても日雇い労働者って認識なんだ」

 

「俺の母親みたいに自由を愛してる誇り高き職業って自称するのもいたけれど、基本はギルドって中間業者から仕事を紹介してもらう住所不定ので労働者さ。……ところで少し休まない? この前の実習から腰が痛くってさ」

 

 ハボックの前職である冒険者は物語の題材にしやすい職業だ。宮仕え特有のしがらみを気にせず己の信念のままに動き活躍する。作家からすれば動かしやすいが現実は堅気の定職に就かずに日銭を稼ぎ、組織の後ろ盾も無いので大体が自己責任。

 

 偶にもてはやされても実情はスポンサーの子飼いの場合も。だって日々の装備の手入れにも費用が掛かるし、割りの良い仕事が頻繁に転がっても来ない。

 

 何故なら王国騎士団も教会騎士も優秀だから組織に属さない者に重要な案件は回さない。 優秀な人員は囲いにかかるし、国に反感持ってるなら信用はされないものだ。

 

 公的機関の無力とタイミング良く事件に居合わせるご都合主義は物語の中だけなのが大抵だから。

 

「それでジェイルとハボックさんは怪盗とやらが来ると思うのか?」

 

「予告状が悪戯じゃなければな」

 

「予告状の通りなら……いや、既に予告状の通りには行かないんだけれどさ」

 

 金に輝く予告状、勿体付けた文面。この時点で差出人が頭を働かせ思い描く怪盗らしい演出の一環として出した物なのだろう。

 

 

 

 

 

 

「今日は朝から大雨だし夜になっても止みそうにないよな」

 

「遥か先まで分厚い暗雲が浮かんでいるしね」

 

 自然は人の都合なんて考えて動いてくれない。怪盗が予告した日,翌朝まで激しい雨が降り注ぐ事になっていた。

 

 

 

 

 

 





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