指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い   作:ケツアゴ

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指輪の悪魔と持ち腐れの魔法使い 4

 魔法は便利だが、魔法だけが全てじゃない。馬車での移動が便利だからと他の移動手段を誰も選ばなくならない様に。

 

 そもそも才能の差が出る物よりも普遍的に結果が出せる方法の方が組織が選ぶ手段には向いていて、魔法では出来ない事も魔法を組み合わせて力を発揮する事も存在する。

 

 例えば剣術。盾を構えた味方を壁にして魔法を使っていれば勝てる程に戦いは甘くない。

 同様に魔法使いが突撃しながら魔法を放つのも愚策、だから魔法と剣術の両方を習得するのが騎士に求められる。

 

「やっちまえー! 【持ち腐れ】をぶっ倒せー!」

 

「メティスさん頑張ってー!」

 

「二人共大怪我しない様にねー!」

 

 そんな理由で魔法使いを養成する学校であっても座学や薬品関係の加えて選択科目で剣術等の近接戦闘を習う者も居た。

 

 新年度が始まるまでの僅かな期間、出身地が遠方な事など幾らかの理由があって学園に残った者達の内の幾人かが見守るのはそんな授業を一年時から選択していた二人の試合。

 

 ジェイルが握るのは唾を中心に薔薇の装飾が施され、片刄の刀身が青白く輝く特殊金属ミスリル製のレイピア『ブルーローズ』。

 

 彼がアーサーから入学祝いに贈られた品であり、嘗ては不可能とされていたのが研究の末に実現された青薔薇の花言葉から夢が叶う様にとの願いが込められている。

 

「相変わらず嫌われているな。決闘に挑む戦士に対する態度とは思えん」

 

 少し苛立ちをギャラリーに向けながらロングソードを構えるのは赤い竜の仮面を被った銀髪の少女。

 胸はやや貧しいが、其の分の肉が行ったのか臀部の肉付きは良く、体のラインが分かりやすいピッチリとした服装は年頃の男子の視線を集めてしまうだろう。

 

 赤と青のオッドアイを少しばかり偏っている声援を送る者達へと向ける。

 

 彼女はメルーナ・メティス。由緒有る騎士の家系に三女として生まれ、特別な理由から座学などの場合を除いて授業中の仮面の着用を許可されていた。

 

「それは仕方ないだろ。俺がどれだけ魔法の余波で迷惑を掛けたかって考えると文句は出ねえよ。家が家でなきゃ退学だったと思う奴も居るだろうしな」

 

 メルーナの騎士としての矜持から生まれた怒りに当の本人はどこ吹く風、寧ろ申し訳なさすら感じた様子だが、それにメルーナは怒りを募らせたのか眼光は強まるばかり。

 

 試合だからと互いに刃を鞘に納めたまま構え、試合時間の経過を図る巨大な砂時計が反転して始まる時を待っていたのだが、感情を昂らせる

 

「今この時、貴様を叩きのめせと騒ぐ連中の動機は嫉妬だ。使い熟せない程の膨大な魔力生成と器を天然で持っている事へのな。精進により微量でも増やそうともせずにだ」

 

「別に騒ぐ程でも無いだろ? 俺が才能を無駄にしてなけりゃ良かっただけだ。もしくはそれ以外の成果で黙らせるとかな。……ほら、さっさとやろうぜ、メルーナ」

 

「……貴様は何故そうなのだ。良いだろう。ならば今この場で見せてやれ!」

 

 激昂しての叫びからの踏み込み、互いに十歩程の距離を開けていたにも関わらずメルーナの剣は瞬く間にジェイルへと振り下ろされ、それを弾いて威力を弱めたジェイルはバックステップで數歩の距離を開く。

 

「荒々しい癖に剣筋は狂わねえんだからマジで厄介だぜ。お陰で授業合わせて俺は負け越しだからな」

 

「その態度だから侮られると何度言えば……愚か者が!」

 

 再びの神速の踏み込みでの切り上げを放つメルーナにジェイルもまた真正面からの刺突で向かい打つ。互いの刃が届く寸前にブルーローズの軌道は突きから振り下ろしへと切り替わり、鞘がぶつかり合う音と共に二人の足下には深く轍が刻み込まれ、そのまま押し込もうとするジェイルのメルーナもまた軌道を切り上げから横へ流すようにしてジェイルの力を斜め下へと受け流す。

 

 彼が受け流された勢いによって地に左手が着くと同時に彼の背後に向かって踏み込み、そのまま背中に剣を振り下ろした。

 

 無防備な背中に一撃が入る寸前、左手で体を支えたジェイルはブルーローズを持った右手を背中に回してメルーナの一撃を寸前で受け止めると左手を軸にしての蹴り上げと同時に武器を真上へと投げ、蹴りを避ける為に咄嗟に後ろに跳んだメルーナへと向かい落ちて来たブルーローズを蹴り跳ばした。

 

「この程度……」

 

 彼女が選んだのは回避ではなく迎撃。真正面に踏み込んでの振り下ろしで飛来するブルーローズを叩き落とし、振り上げようとした剣を掴む腕をジェイルの腕が掴んでそれを阻止すると見るやメルーナは躊躇せずに剣を手放しながら後ろへと倒れ込み、ジェイルが離すより前に掴まれた腕を軸にして両足で胴を挟んで締め上げ、そのまま腰を捻って相手のバランスも崩させて馬乗りになる体勢で倒れ込もうとした彼女の頭をジェイルの腕が挟み込んで引き寄せると同時の頭突き。

 

「ぐっ! 相変わらず固いデコだな」

 

 これにはメルーナも思わず足の拘束が緩み、そのまま鳩尾の辺りを突き飛ばされるも起き上がったジェイルの方が頭突きの反動によるダメージが大きそうだ。

 

 赤くなった額を擦り、仮面の固さをメルーナの額が固いという冗談に言われた本人は少々呆れた様子を見せる。

 

「仮面だ馬鹿者。そのネタは何度目だ」

 

「十回程度か?」

 

「二十五回だ!」

 

 互いに再び武器を握り、メルーナもジェイルも踏み込みからの突きを放った。正面から切っ先と切っ先がぶつかり合い拮抗し合うも硬直したのは三秒未満。

 メルーナの剣はブルーローズの軌道をずらしてジェイルの胸元を軽く突いた。これで試合は決着、ジェイルはブルーローズを手放して空いた手を差し出した。

 

「これで九十九戦七十勝二十敗九分け。負け越しを取り戻す日は遠いな」

 

「はっ! これから俺が怒涛の五十一連勝をすれば勝ち越しだ。……それはそうとして終わったんだから外そうな」

 

 互いに剣を下ろし握手と言葉を交わしていた時に伸びたジェイルの手がメルーナの仮面を剥ぎ取る。咄嗟の事に慌てた彼女が押さえようとするも間に合わず、仮面が完全に外れると先程までの戦いが嘘のように気弱そうな顔が軽く羞恥心による涙まで滲ませていた。

 

 

「ひう……仮面取らないでくださいぃ……」

 

「今年度から仮面は実技の授業と今みたいな練習試合の時だって言われてるだろ? なのにあの仮面の時は意地でも外さない頑固者になるんだから不意打ちしかねえだろうよ」

 

「だ、だって恥ずかしいんだもの……」

 

 先程までとは別人の顔を見せるメルーナにジェイルは慣れた様子で接しているが、ギャラリーの中には先程までとの差に戸惑う者達も幾人か居る。

 選択授業で近接戦を学ぼうとはせず、他の授業でもメルーナとは関わりが薄い者達だ。

 

 反対にある程度事情を知っている者からすれば分かっていたのか平然としており、相変わらずだと苦笑するまである。

 

 

「おい、スロース。何か知ってるのか?」

 

 声を掛けられたのは少し小柄で黒髪のボブであり暗い紫色の瞳を持つ青年。ジェイルとメルーナの二人を応援していた一人であり、ジェイルを叩きのめせと言っていた相手に話し掛けられて少し不愉快そうに眉間に皺を寄せていた。

 

「ミッドナイトって呼んで。ジェイルと違って名前喚びされる程に仲良く無いし。……彼女のアレは模倣刻印(イングリーヴィング)。魔法を模倣して刻み込んだ仮面を被る事で力を引き出すだけで、あの口調は仮面で恥ずかしさを誤魔化しながら模倣元に成りきってるだけ」

 

 話が終わったなら去れと手で相手を追い払う中、メルーナの顔は更に恥ずかしさで真っ赤に成りつつなっている。少しスロースが視線を外していた間にメルーナは胸を抱き締めていて、何があったのかとスロースを戸惑わせる。

 

 

「あっ、何処か行った。……別に良いか。同室だから後で聞けば良いし、他にやる事あるから……」

 

 試合が終わり去って行く二人の姿を軽く見ただけでスロースは直ぐに趣味である魔道具の作成で頭の中を埋め尽くす。

 

 スロース・ミッドナイトは変わり者と称される貴族の家柄の出身だ。代々魔道具の職人の家系であり、大昔の戦乱の時代に作り出した魔道具によって手柄を挙げた褒美で貴族の地位を手に入れた。

 

 国からすればそれは褒美であったのだが、職人としての生き方しか知らないミッドナイト家からすれば領地に関わる事全般は余計な業務でしかなく、初代から今まで婿や嫁に内政も外政も丸投げして職人としての在り方を一切変えようとしない。

 

 それが同じ特権階級に生まれた、若しくはそれに憧れる者からすれば奇異に映るのだろう。

 そして職人として魔法を理解したいと学園の門を叩いたスロースの扱いも変わらない。

 

 ジェイル同様に遠巻きにされるか陰口を叩かれるか。ジェイルが自己の責任も大きいと受け流し、スロースは元より其の様な連中に興味を向けない。

 

 今も都合が良い時だけ話し掛けてきた同級生の名前も思い出しておらず、あと数分後に何人か並べた中から話し掛けた相手が誰か問われれば間違う可能性も高い、それ程に重要なのは魔道具についての事。

 

 今も作成中の物が高熱を発しているので自然冷却を待つ間の気分転換に外出し、試合を見ながら次の構想をしていただけだ。

 

 ジェイルは友人かどうか問われれば頷くが、一応? と首を傾げながら言いかねない関係だった。

 

 

 

 

 

 

「いや、確かに悪かったけれど、涙目で責められてもな……」

 

 メルーナとの練習試合後、俺は試合中の事故について物申したいと言われて人目に付かない場所まで二人で来ていた。

 

 問題となったのは鳩尾への一撃の際、拳打ではなく掌打で後ろに弾き飛ばす事を優先した事が要因で、其の結果が胸を抱いてプルプル震えているメルーナに繋がる。

 

「確かに指が胸に触れてはいたけれどよ……。試合中にそんなの気にしてても仕方ねえだろ? 格闘戦の授業で女子相手に絞め技や寝技ばかり使いたがってた馬鹿じゃねえんだし」

 

「だってだって、胸を揉まれるなんて思わなかったんだもん」

 

「も……あー、仕方ねえな。次の課題がそろそろだろ? また手伝ってやるからそれでチャラにしてくれ」

 

 揉む程無いだろ、喉から飛び出し掛かった言葉を堪えて出した言葉の内、課題と聞いて露骨に面倒そうな顔をして手伝うと聞いて明るくなったメルーナは相変わらず現金な奴だ。

 

「うん。実は既に伯父様から依頼を出されていて……」

 

「ジャンクーア先生の事だし、どうせ討伐系の依頼だろ?」

 

 本来なら貧しい生徒の支援の為に教師が名指しで依頼するアルバイトだが、メルーナみたいな騎士の家系の出身の生徒には実家から関係の有る教師を通して依頼という名の修行が課される事がある。

 

 メルーナも例に漏れず騎士の家柄として、剣術指南役であり叔父でもあるジャンクーア先生から定期的に課題として騎士見習いの任務相当の仕事を任される。

 大昔は悪魔や国同士の争いが絶えずにいたそうだが、今は悪魔の被害も滅多に報告されず国同士の争いも起きていない。

 

 戦乱の世の中なら俺は兵器扱いだったろうが今の世の中じゃ無用の長物、あまり魔法使いとして躍進するのは周辺国を刺激するだけなのが悩みの種だ。だからといって鍛えないのは論外、暴走の可能性も有るし、手にした力を扱えずにいて有事に使えないのは有ってはならない事だ。

 

 其はそうとしてモンスターの被害は各地で起きているから緊急性は低い案件なんだろうが……。

 

 

「アルルーナが出たって言われてて……」

 

 緊急性は低いが危険性は低くない相手の場合も有る。

 

 モンスターは大まかに二種類に分類され、大昔に悪魔が召喚した生まれながらの怪物と、大地に流れる魔力が何かしらの要因で流れが留まって淀んだ影響を受けたタイプで、アルルーナは後者。

 

 花が変化したモンスターであり、花弁から緑色の肌をした女が生えている。周辺の植物を操って獲物の血を吸うが、根っ子の問題で動けないから近寄らなければ良い。

 

 但し魔法を使う個体も確認されているから強さはピンキリ、そして弱過ぎる相手を課題に選ぶ訳が無いだろうというのは俺達二人の認識だ。

 

「もう一人は欲しいな。取り敢えず手伝ってくれそうな奴に声を掛けてくれ。明日にでも必要な物を買いに行くとして、打ち合わせもその時で良いよな?」

 

「う、うん。何時も有り難う。私の課題なのに手伝ってもらってばかりで……」

 

「気にするな。修行になるし、友達助けるのは役目だの以前の話だ。俺にも利益があって、やる意志があるからやる。お前が気になるんなら何らかの形で返してくれれば良いさ」

 

 取り敢えずこれで胸触ったのはチャラで良いだろう、俺はそんな風に安堵した。

 




好きな顔メーカーで メルーナ


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