魔法科高校の落第生   作:超高校級の切望

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入学式

 魔法。

 

 嘗てはお伽噺であったそれは、何時しか現実のものとなった。1999年、人類滅亡の予言を現実のものにしようとしたカルト集団を特殊な能力を持った警察官が阻止したのが、現在確認できる公的な記録。

 

 当初、その異能は『超能力』と呼ばれていた。純粋に先天的な突然変異。共有も普及も不可能とされていた。

 

 しかし各国の研究は進み超能力は「魔法」という技術に組み込まれ、才能こそ必要だが超能力から技能になった。

 

 超能力者から魔法技能師。核兵器すらねじ伏せる魔法技能師は、国家の兵器そのもの。世界はより強力な魔法技能師を常に求めている。

 

 そして、技能体系に組み込まれない力を「BS魔法」と名付けた。

 

 その超能力者(サイキック)達も、再現不可能の異能を持つかCADと呼ばれる魔法師の魔法の助けとなる機械を必要とせず高出力で行える物を指す。しかし、それらは一応理屈は説明できてしまうもの。

 

 では技術化され、理屈を決められた「魔法」の枠組みから逸脱する力を持つ超能力者(サイキック)は、果たしているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いきません……」

 

 毎年国立魔法大学に多くの卒業生を送り込んでいる、国立魔法大学附属第一高校。

 入学した時点で魔法技能師(縮めて魔法師)であることを証明される、優等生と劣等生が最初から決まった高校で、美しい女が不満を顕にする。

 

「まだ言っているのか?」

 

 対して、目の前の男は全く覇気を感じさせない態度だ。

 

 二人が着ている服は第一高校の生徒であることを示す物。しかし、男と女のデザインであることを抜きにしても二人の服は明確な違いが刻まれている。

 

 それは八枚の花弁をモチーフにした第一高校の校章(エンブレム)の有無である。男子生徒にはそれがない。

 

「どうしてお兄様が補欠なのですか? 入試の成績はトップだったじゃありませんか! 本来ならばわたくしではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきです!」

「お前が何処から入試結果を手に入れたのかはこの際横においておくとして…………魔法科学校なんだから、ペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。俺の実技能力は深雪も知っているだろう? 俺は、二科生になれただけでも良くやれたほうだと驚いているけどね」

 

 話の内容からして2人は兄妹で、妹は兄が二科生………補欠として扱われているのに納得がいっていないらしい。

 

「技能を見ているかも疑問です。技能を評価していると言うなら、どうしてマダラさんが──」

「呼んだ?」

 

 ヒョコリと木の上から逆さまに現れる男子生徒。

 ギョッと固まる女子生徒。

 

「マダラさん!? 何時からそこに!?」

「日が沈む頃、眠くなって寝てた」

「昨日から!?」

 

 クルリと空中で姿勢をひっくり返し着地するマダラと呼ばれた男子生徒。兄妹達に改めて向き直る。

 

「入学おめでとう深雪、達也。先輩として、()()()()()()これからよろしくな」

 

 男の名は篠村マダラ。名前の由来は両親が昔見たオオカバマダラから。

 

 その名に相応しく、捉えどころがない男だ。そして達也と深雪……司波兄妹の親友でもある。ただし、年上の。

 

 1年先に入学して、しかし今年から同級生。

 

「そうです! どうしてマダラさんが、()()なんて!」

 

 つまり留年。進級逃した落第生である。

 

「まあ俺が劣等生だからだろうな」

 

 と、エンブレムの刻まれていない胸を指さすマダラ。

 

「そう卑下するな。優秀な魔法師を求める魔法科高校が、退学ではなく留年させている時点で将来を加味しているはずだ」

「あ〜、真由美に逆らえなかっただけだろ」

「何故そこで七草家のご令嬢の名前が出るのですか?」

「あ、やべ」

 

 これ秘密だった、と口を押さえるマダラ。帰ったら()に聞いてみようと、深雪は決意した。

 

「それは、お前の力を七草が欲しがっているということか?」

「さあな。そこまでは知らねえよ。俺としては、真由美とは友達でいたいけど。まあ、口添えがなかったら退学だったと思うぜ? 俺、()()()あまり使えないし」

 

 そもそもマダラは入学を辞退した生徒が出て、滑り込みで入学出来たのであって、実際には合格したとすら言えない。

 

 ()()()()()()()ギリギリそう呼べる程度と言ってもいいだろう。

 

「だとしてもマダラさんは、本当はお兄様にも負けないぐらい…………」

「買いかぶりだ。俺が達也よりなんて」

「むしろ、俺こそ買いかぶりされているんじゃないか?」

「何いってんだ。俺はペーパーテスト苦手だぞ」

「ああ、それなら確かに俺が上だな」

 

 と、堂々と言い放つ達也にマダラは首に腕を回す。

 

「てめぇこの野郎、はっきり言うな」

「事実だろ。髪を掻き乱すな、そもそもお前が言ったんだ」

 

 グシャグシャと力任せに撫でられた髪を整える達也。仲の良い様子に深雪は毒気を抜かれる。

 

「そういや深雪、首席で答辞だっけ? おめでとう」

「…………本当ならお兄様こそふさわしいのに」

「俺も達也も実技はなぁ………魔工師とかなら、引く手数多なんだろうが。ここが求めてるのは魔法師だからな。辞退しても、達也は答辞にならねえよ」

「そうだ、深雪。この土壇場で辞退しても、お前の評価が下がるだけ。そんな事になるより、俺はお前の晴れ姿がみたい」

「お、いいね。壇上に立つ深雪は、きっと全校生徒の目を引くぞ」

「……………マダラさんも、見に来るんですか?」

「去年やったし、サボろうと思ってたけど…………まあ、深雪がやるなら」

 

 その言葉に深雪は少しだけ恥ずかしそうに微笑む。

 

「わかりました。見ていてくださいね、お兄様、マダラさん」

「ああ、行っておいで。本番を楽しみにしているから」

「頑張れよ〜」

 

 はい、では、と会釈する深雪は講堂へと消えていった。達也はやれやれ、と肩を竦める。

 

「大変だねぇ、お兄ちゃん」

「からかうな」

 

 睨みを向けるも、ケラケラと笑って流された。

 

「さて、時間があるな、どうするか」

 

 総代を渋る妹を宥めるためにリハーサルよりも早く第一高校に来た達也。時間は有り余っている。

 

「寝れば? 俺はもう十分寝たけど」

「生憎、学校で夜を過ごすようなお前と違いそこまで図太くない」

「まあ人目も鬱陶しいからなぁ、俺のサボ………秘密の場所を教えてやるよ」

 

 

 

 宣言通り人目のない、木々に囲まれたベンチ。

 存在そのものを忘れられたのかペンキも剥がれかけている。

 

 朝は光を遮られるが、昼などは木漏れ日が差し込み美しい景色を生み出すことだろう。達也はベンチに座るとお気に入りの書籍サイトを開き、マダラは紙媒体の本を開く。

 

「相変わらずだな」

「いいだろ。俺はこれが好きなんだ」

 

 わざわざ嵩張る紙の本を持つ人間などそうはいない。マダラは間違いなく変わり者に分類されるだろう。

 

「しかし深雪と離れててよかったなあ。道中の彼奴等の反応、氷像が量産されててもおかしくないぜ」

 

 ここに来る途中すれ違った在校生達は、達也のエンブレムの刻まれていない胸を見て「雑草(ウィード)が張り切って」と、嘲笑を浮かべていた。

 

 この学校には毎年百名の魔法科大学、魔法技能専門高等訓練機関への合格者を出すことをノルマとされているが、魔法の実験には事故はつきもの。

 

 失敗が死にも繋がりかねない危険な歴史の隣り合わせ。幸い、ノウハウも積み重なり今でこそ死亡事故や後遺症が残る事故は減ったが、心理的要因も魔法に密接にかかわる。

 

 それを理由に魔法が使えなくなった者の代わりに穴埋めするのが二科生というわけだ。

 

 魔法の個別指導以外の全てを受けられる『生徒』。魔法を教えられる者が少ない現状、才能あるものを優先する制度は、目に見える形に現れた結果優越感と劣等感を生む。

 

「お前は恐れられていたが」

「ああ、俺去年喧嘩売ってきた一科生返り討ちにして報復に来たそいつの友達病院送りにしたからな」

「何をしているんだ何を」

「そいつら、すっかり自信なくして退学したんだよなあ」

「何で喧嘩なんて売られたんだ?」

「俺が飯食ってたらどけとか言ってきたのを無視してたら」

 

 ウィードのくせに生意気だ! とわざわざ学校に申請までして決闘の場を用意したから、開始と同時に文字通り鼻っ面をへし折ってやった。

 

「ついでにリーダーは()()()使()()()()()()()()()

「お前……」

 

 達也があきれる。と、その時…………

 

「篠村く〜ん…………あら?」

 

 女子生徒がやってきた。わざわざここに現れ、達也の姿を見て首を傾げたということはマダラが人目を忍ぶ為にここにいることを知っていると言うこと。

 

 マダラが驚いていないということは、ひょっとしたら二人っきりで過ごしていた事もあるのかもしれない。これは深雪には言えない。

 

「おお、真由美」

 

 マダラが彼女の名を呼ぶ。真由美………つまり、七草のご令嬢。この学園の生徒会長。なので、生徒会や風紀委員などの特例に則り彼女はCADを付けている。

 

 年上で、十師族のご令嬢で、CADをつけている相手を名前で呼び捨て。本当に此奴は怖いものがない。

 ………それもそうか。

 

「ええと、篠村君のお友達?」

「達也だ。幼馴染」

「はじめまして、司波達也です」

「司波達也? そう、貴方があの………」

 

 目を丸くして驚きを表現した。何やら意味ありげに頷く。どうせ新入生総代の兄でありながら落ちこぼれの、という意味で「あの」だろう。

 

「先生方の間では、貴方の噂で持ちきりよ。入学試験、七教科平均、百点満点中の96点。特に圧巻だったのが魔法理論と魔法工学。合格者の平均は70点にも満たないのに、両教科とも小論文合わせて文句無しの百点。満点は篠村君以来ね」

「達也は俺の師匠だからな。凄いだろ」

「何でお前が自慢げなんだ。それに、ただのペーパーテストの結果だろう。ただの情報システムの中の話だ」

 

 評価されるべきは魔法実技であると、達也は己を認めない。

 

「謙遜もそこまでくると嫌味だぞ? 少なくとも、点数結果が発表されれば劣等感に苛まれる一科生はいる。そしてそんなわけないって言い訳をするだろうよ」

 

 俺の時もそうだったし、と1年経験しているマダラは笑う。

 

「さて、そろそろ行こうぜ。深雪の晴れ姿を見ねえと怒られる」

「あ、司波君と幼馴染なら、司波さんとも幼馴染なのよね」

「ああ、そうなるね」

「………やっぱり、仲いいの?」

「さあ? 俺彼奴の友達知らないし、特別仲いいのかは」

「俺が知る限り、お前が一番深雪と仲が良いぞ」

「そうなのか」

 

 じゃあ特等席で見てやらないとな、と講堂に向かうマダラ。真由美はむぅ、と可愛らしくむくれていた。

 

 

 

 

 第一高校は入学式の後にIDカードが配布されクラスが解る。なので、入学式時点でクラス分けはなく何処に座るのも自由なのだが、見事に前と後ろで一科、二科に分かれている。

 

 達也はあえて逆らうつもりもないので後ろに座る。

 

「あれ、良いのか?」

 

 普通に前に行こうとしていたマダラはまあ良いかと達也の横に座った。

 

 入学式が始まるのを待っている間、隣に4人の少女が座った。眼鏡をかけた柴田美月、サバサバとした千葉エリカ…………しばた、しば、ちばと面白い揃い方だというエリカに残りの2人も笑う。

 

 因みに、4人は同じ中学というわけでなく、今日知り合ったらしい。

 

「篠村君と司波君は、同じ中学なの?」

「いや、中学は別。沖縄で知り合った後、色々あって家ぐるみの付き合いが出来てな……一応幼馴染って奴だ」

 

 中学が果たして幼いかは兎も角、まあ付き合いはそこそこ。

 

「へ〜。じゃあそろって合格できてよかったね」

「いや、俺は去年合格した。成績不良と、ちょっとした事件で留年したんだ」

「え、そうなんだ。なんか、ごめんね」

「いや? 俺としては達也や深雪と同じ学年になれてよかったけどな」

 

 

 

 

 深雪の答辞が始まった。

 「皆等しく」「一丸となって」はまだしも「魔法以外にも」「総合的に」など、魔法科高校の入学式としてはふさわしいとは言えない単語を建前で包み、初々しさを演出しその美貌も相まって男女問わず魅了している。

 

「……………」

 

 目が合った。軽く手を振っておく。

 

 

 

 入学式も終わり、IDカードを受け取る。個人認証を行ってその場で学内用カードにデータを書き込むのでどの窓口でもいいのにここでも綺麗に分かれている。

 

 当然、留年生のマダラは持っているので一足先に人混みから離れ、新入生総代として同じく一足先にIDカードを受け取っている深雪に合流すると達也に伝えその場から離れた。

 

「お、おいあれ…………」

「チッ。留年生が、よくも恥ずかしげもなく」

「馬鹿、聞こえたらどうする!」

 

 3年、2年は恐れるように道を開ける。1年はそんな先輩達に困惑している。

 

「お、いたいた」

 

 深雪を見つけた。

 「貴方のような素晴らしい方と同学年になれる栄誉」とか「ブルームに相応しい咲き誇る花のように」などとナンパされてる。

 

「お〜い、深雪」

 

 深雪も乗り気なら傍観していたが、迷惑そうだったので声を掛ける。取り繕っていても、そこそこの付き合いだから解るのだ。

 

 一科一年生達は唐突に現れた男になんだなんだと視線を向ける。そして、二科と気付くと途端に見下す。

 

「なんだ、ウィード。後にしろ。いいや、司波さんがお前なんかと関わる──」

「マダラさん!」

 

 と、深雪がマダラへ駆け寄る。

 

「見てくださいましたか?」

「お〜。格好良かったぞ」

 

 褒められ微笑む深雪。一部の生徒は耳と、ブンブン振られる尻尾を幻視した。

 

「達也も来るだろうし、行こうぜ」

「はい」

「まて篠村! 今は会長と司波さんが話しているだろ!」

「? 先に喚いていた奴等は叱らないのか? ああ、一科だもんな。服部は相変わらず差別が好きだな。俺より弱いのに」

「っ! 一度や二度勝ったぐらいで…………!」

5()()()。誤魔化すな」

 

 服部刑部。魔法科高校2年。

 恐れられ距離を置かれるマダラに、親しくないまま関わり続ける稀有な生徒。なのでマダラは彼を誂うのが好きだ。

 

「ハンゾー君、そこまで。こちらが勝手に立てた予定よ? 司波さん、篠村君、お兄さんと合流するまでなら、お時間いただけるかしら?」

「俺は別にいいよ」

「はい。構いません」

「では、歩きながら話しましょう」

 

 流石に生徒会長との話に二度も割り込んでは来ないが、それでもゾロゾロついてくる。砂糖に群がるアリみたいだ。

 

 

 

 達也と合流すると、ヒソヒソと小馬鹿にする声が聞こえてきた。後なんか「何で二科生なのよ!」と叫んでいる変な女がいた。

 

 誰だ? 達也に向ける目は、失望?

 知り合い? だったら知っているか。大方試験で達也に一目惚れか何かして、勝手に期待して勝手に裏切られたと思ってるのだろう。

 

 真由美は予定していなかったことだからと後日改めて話し合いの場を設けようとしたが、服部は納得していないとばかりに達也とマダラを睨み舌打ちしてから去っていった。

 

 

 

 

「ただいま姉貴、卵買ってきた」

「お〜、冷蔵庫に入れといて」

 

 マダラは家に戻る。言われた通り卵を冷蔵庫に入れ、部屋に戻ろうとしたら蹴りが頭蓋を揺らす。

 

「昨日何処に行ってたこの馬鹿!」

 

 そう叫ぶのは、マダラの姉である篠村夜月。

 

「いや、学校で寝てた」

「何で学校に………」

 

 二科生が入学式前に何をするというのか、と疑いの目を向ける夜月。

 

「達也と深雪が来るから、()()()の目がこないか監視。まあ、引っかかったのは『白の一味』ぐらいだが…………トランスの探知は苦手なんだよなあ」

 

 一晩警戒していたらしい。ふぁ、と欠伸をするあたり徹夜していたのだろう。

 

「そういうことなら、せめてちゃんと連絡しなさい」

「悪い、姉貴。気をつける」

「よろしい。夕食まで時間があるし、父さんに連絡しておきなさい」

「今仕事じゃなかったか? あそこの本邸の方の」

 

 だとすると連絡には仲介が必要となる。夜月は、あの家の当主の女が苦手なのだ。隙あれば母親になろうとする…………父を狙う女など年頃の娘にはキツイのだろう。

 

「………父さんから連絡来るまで待ちなさい」

「了解」

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