全員出席が建前とは言え、懇親会に欠席する者も少なくない。とは言え情報収集、他家との繋がりなどもあるので三百人から四百人はいる。
ホテルの専従スタッフや基地からの応援ではとても足りず、この時期にはアルバイトも募集するのだが………。
「お前達も居たのか」
「キッチンには美月とレオも居るわよ」
千葉エリカ。マダラと達也のクラスメイトである。
エリカは『千葉』のコネを使い参加したらしい。
「似合ってるな」
「でしょ?」
制服に身を包み、大人びたメイクをしているエリカは、元々顔立ちも整っているだけあり成人済みのコンパニオン達にも引けを取らない。
「マダラさんは、こういう服が好きなのですか?」
エリカが身を包むヴィクトリア調ドレス風味の制服を見ながら尋ねる深雪。
「服装なんて似合ってるものを着りゃいいだろ」
「私にも似合うと思いますか?」
「深雪に似合わない服なんてあるのか?」
「マダラさんったら………」
「そうだな。深雪なら、どんな服でも着こなすだろう」
「お兄様まで」
赤く染まる頬を両手で押さえる深雪。そんな彼女を微笑ましげに見つめる2人の男。少女漫画の世界にでも迷い込んだかと辟易するエリカ。
「まあこういう場所でなけりゃコスプレみたいになるが」
「ミキはこの場所でもコスプレ扱いするけどね」
「ミキ?」
「そうか、深雪は知らないんだっけ」
と、エリカはジュースを零すことなく走っていった。大したバランス感覚である。
幹比古を呼びに行ったのだろう。
「深雪、ここにいたんだね」
「達也さんとマダラさんもご一緒なんですね」
エリカと入れ替わるように雫とほのかがやってきた。この2人は何時も一緒だ。まあ別に離れる必要もないだろう。
「他の皆は?」
深雪はあまり気乗りしない声で尋ねる。
「あっち」
雫の指差す方向を見ると1年男子達が此方を伺って、しかし近づいて来ない。
「お前達を恐れているんだろ」
「服部」
「達、ですか? マダラはともかく、俺はただ距離を取られているだけでは」
「剣術部員を返り討ちにしたろ? その上篠村と仲がいいんだ。『死ノ村の再来』とか、死の波と書いて『死波』とか呼ばれてたぞ」
「「なにそれ知らん」」
マダラの強さから実は
「四之村って…………」
「…………………」
それなら達也達は四波?
全く勝手なことを言ってくれる。と達也は思った。雫はジッと深雪を見つめた。
「達也は兎も角、俺は魔法師の才能はねえぞ」
「マダラは兎も角、俺に魔法師としての素質なんてありませんよ」
「「…………ん?」」
この2人仲いいな。ほのかは羨ましそうに、雫は良くわからない顔で、深雪は笑顔で、服部は呆れながらそう思った。
「深雪、皆の所へ行っておいで。チームワークは大切だからね」
「ですが、お兄様」
「後で部屋においで。俺のルームメイトはマダラだから、気にする必要はない」
「しろよ………って言いたいところだけど、まあそうだな。深雪ならいいか。器材で少し狭いが」
「ほのか、雫も。よければ後で」
深雪はまだ不服そうではあったが、大人しく兄達に従うことにした。マダラはふと、見覚えのある小さな人影に気付く。
「じゃ、俺は後で。せっかくの立食パーティー、話してばかりじゃ楽しめねえ」
「凛」
「ひゃい!?」
声をかけられ、恐る恐る振り返る凛。デザートが置かれている場所でタッパーに一口サイズのケーキを回収している。
他の生徒達は何故子供がと困惑しつつ、声をかけられないでいた。
「カムイとエンリにか?」
「あぅあぅあぅ………」
「…………まあ、良いさ。彼奴等も反省しただろ」
ごめんなさい、と頭を下げる凛の頭を撫でてやる。凛はビクッと震えるも、すぐに嬉しそうに目を細める。
何か深雪みたいだな、とマダラは思った。
「持っていってやれ。ただし、他の誰にも
結局甘やかしてもらえると思うと躾けにならないだろう。朝のパンに塗る胡麻クリームとピーナツバター禁止は守らせる。
「はい!」
ペコリと頭を下げ、凛はその場から消えた。
空気が揺れることも光が揺らぐこともなく、唐突にその場から消えた。
「バーストなんだけどなあ…………」
PSIを認知した場所に発現させることはできたのだが、空間を歪めるとなるとまるでイメージが湧かない。
「篠村マダラさんですね?」
「ん?」
ローストビーフを皿に載せていると誰かに話しかけられる。振り返ると第三高校の生徒がいた。背は低いが、それを抜きにしても1年だろう。去年は見てない顔だ。
「はじめまして。吉祥寺真紅郎と言います」
「『カーディナル・ジョージ』?」
カーディナル・ジョージとは、「基本コード」と呼ばれる仮説だった存在の一つを発見した若き天才だ。
改変後の事象を定義し様々な作用を起こす魔法と異なり、作用そのものを発生させる。
確か「加重系統プラスコード」で、それを用いた圧力を直接発生させる魔法を使うのだったか。この場合、情報強化による魔法師の従来の魔法対策では防げない。
「そんな天才が、俺に何のようだ?」
「去年のあなたは有名ですよ、先輩」
「先輩は良い。俺、留年してるから」
「………え!?」
十七夜といい、余程意外に思われているらしい。
「あ、いえ。失礼………そ、それはともかく。勝つのは三高です。貴方にも、貴方が調整したCADを使う選手にも負けるつもりはありません」
宣戦布告。流行ってんのか?
「どうかな。今回の1年の中には、俺の魔工の師匠もいるぞ」
「貴方の!? 貴方が師匠ではなく!?」
「誰かは教えねえ。見てりゃ解る………」
「それほどですか」
「それほどだよ、彼奴は」
「…………それでも勝つのは僕達です」
「そうか。楽しみにしてる…………」
しかし一条家からの接触はないのだろうか?
十師族ならマダラについて
「一条様!?」
「ど、どうしたんですか?」
その声に振り向くと、吉祥寺の向かう先に一条と思われる男子生徒が一点を見つめ放心していた。
視線を追うと深雪を見つける。マダラの視線に気付いた深雪はぱぁと輝くような笑みを浮かべた。
深雪の美貌にそれなりに馴れ始めた一高の生徒ですら動揺し、当然馴れていない他校の生徒は魂でも奪われたように放心する。
「どうかしましたか?」
マダラの下まで歩き、可愛らしく首を傾げる深雪。
「ああ、改めて………深雪ってやっぱり可愛いんだなと思ってな」
「!? そ、それはどういう………何故、いきなりそんな………」
「周りが皆見とれてたからな」
「周り…………では、マダラさんは?」
「かわいいと思うぞ」
さっきこちらの視線に気づいて寄ってきたところなど、子犬みたいで。
「今、子犬みたいだと思いました?」
深雪はジト目で睨んでくる。
「少し」
「マダラさんは、私に意地悪です。他の方には優しいのに」
「そうか…………?」
気に入らない連中を決闘などで心を折って自主退学させた男は深雪の言葉に首を傾げた。
「そうです」
と、その時。近付いてくる3人の影。
「一色?」
「先程ぶりです、篠村さん」
「……………先程?」
何時知り合ったのですか、子供達と遊んでいたのでは? まさか、他校の女子生徒と密会でもしていたのですか? と言いたげな視線を向けられるマダラ。
「そちらの方は………」
「深雪か?」
「はい。競い合う仲とは言え、交流を持つのは悪いことではありませんでしょう?」
宣戦布告か?
深雪にだけ……容姿の美しさから十師族に連なると判断したから…………いや、ちゃんと本能的に畏怖を感じている。
「私は第三高校1年、一色愛梨。同じく1年、十七夜栞と、四十九院沓子よ」
「自分で自己紹介しないの」
「まあワシ等愛梨の部下みたいなもんじゃからのお」
沓子と話すマダラをジッと見て、しかしすぐに切り替え自己紹介を返す深雪。
「第一高校1年、司波深雪と申します」
「司波…………?」
そんな名前の家あっただろうか、という顔だ。
「あらぁ、
それだけ言うと去っていった。ほのかがワナワナ震えている。
「なんだったのでしょう?」
「宣戦布告したかったけど、血統主義でお前を見下したとか?」
「ところでマダラさん。あのようなお綺麗な方と、何処でお知り合いに? 私は、子供達と遊んでいたとしか聞かされていませんが」
来賓の挨拶が始まり多くの生徒達は食事の手を止める。
マダラはベーコンを食いながら聞いていた。恐れを知らないというか…………まあ、恐らく今回の来賓で最も地位の高い相手をクソジジイと思っているからだろう。
『それでは、九島烈閣下よりお言葉を頂戴します』
世慣れしていない学生達が必要以上に真面目に静寂を保っていたが、動揺の声が聞こえてきた。
烈の言葉なんて無視する気だったマダラも不思議に思い視線を向けると女の後ろにニヤけた烈がいた。
いい年して発情しているのかと思ったが、よくよく『視ると』精神干渉が行われている。
サイキッカーの脳には精神干渉系魔法が効かないからそのまま見えていたが、どうやら対象を目立たせ意識を逸らす程度の簡単なものようだ。
烈が女に小声で伝えると女はスッと脇へ反れる。ライトは烈を照らし、どよめきが大きくなる。
「まずは悪ふざけに突き合わせたことを謝罪する。今のはちょっとした余興だ」
悪ふざけ。
会場の殆どを騙したアレも、彼にとっては悪ふざけなのだろう。実際規模こそ会場全体だが、金髪の美しい女に視線を集めるように誘導するのは、魔法とも言えない改変未満の現象。
「だが、手品の種に気付いた者は、私の見たところ『10人』だけだった。つまり」
烈が何を言い出すのか、何を言いたいのか興味津々の学生達。大勢が耳を傾ける。
「もし私が君達の鏖殺を目論むテロリストで、来賓に紛れて毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動できたのは10人だけという事になる」
声を荒げたわけではない。魔法を使ってもいない。それでも、その声は広がり静寂を生み出す。
まあ実際は毒ガスや爆弾を運び込むこと自体が難しいのだが、烈はそこを敢えて言及せず魔法とは手段でしかなく、弱い魔法も使い方次第。明後日からの九校戦は魔法の使い方を競う場だと、選手達の『工夫』を楽しみにしていると続けた。
「篠村さん」
懇親会も終わり、各々部屋に戻ろうとする中、不意に呼び止められる。
振り返ると一人の女子生徒。八高のようだ。これまた中々可愛らしい。
「あの、私のこと覚えていますか?」
「………………ああ」
去年出会ったのだろうか?
不安げな顔から一転。とても嬉しそうな満面の笑み。
「そ、そこまでお時間は取らせません。お時間をいただいても?」
「解った。達也、先に戻っててくれ」
「ああ」
深雪は去っていくマダラの背を不安そうに見つめる。
「それで?
「ああ、貴方達がつけた名前ですか? そんなに警戒しなくても、これは自己増殖も出来ない、体の負担もない安心設計の働き蜂です」
ニコリと初対面の女は笑う。
「何人仕込んだ」
「あの場で起動させたのはこの子を含めて4人です。普段は記憶を記録するだけだけど、知りたい情報がある時は口を借りなきゃならないので」
つまり九島烈の言う十人の内4人は此奴か。
「改めて、お時間いただけますか、篠村マダラさん」