宣言通り、栞も雫も準々決勝を勝ち抜き準々決勝。
もう一つの準々決勝も一高のエイミィと滝川。この局面を越えれば、一高の新人戦スピード・シューティングは優勝決定。
「思いがけず天敵になったな」
「誰が相手でも同じ」
「それもそうだな」
対戦用の雫の魔法は空間に対する自分のクレーの密度を高め、逆に相手選手のクレーの密度を下げる。
必然、相手選手のクレーは本来の軌道を外れ、相手選手は魔法発動の際その座標変数も意識しなくてはならない。
「自分で言ってて妙な話だけどな。広い空間に、集めたら他が減るって」
隙間だらけの空間に、特定の物体の密度の変化が起きたところで空気が流れるだけだろう。だが魔法においては辻褄合わせを起こそうと世界がそう変わる。
そういうものだ、と認識している魔法師と、今現在念力で氷を浮かせて不思議がるサイキッカーたるマダラ。その感覚の違いがマダラの魔法師としての才能を下げる要因である。
さて、ではどうしてその収束魔法が天敵かといえば、厳密にはCADが天敵なのだ。
照準補助装置付きの、一見特化型に見えるCADの正体は
特化型と考えた相手選手は『収束後に振動で破壊する魔法』の出力規模を変えた9つのパターンと予測するだろう。というか準々決勝でそう予測するように仕向けた。
9つのパターンなら対応可能でも凡そ11倍の99パターンには対応出来ない。計算はそれだけ狂う。何より、事前の精神的備えを崩されたのも大きく関わる。
「……………?」
あと1点まで追い付かれるも、連鎖を外さなければ確実な勝ちを狙えた。そうでなくとも最初にクレーを破壊する振動魔法で破壊する手もあった。
が、最後連鎖を外した瞬間パフォーマンスが明らかに落ちた。折れやすい? 何か、失敗に対する精神的なトラウマでも抱えているのだろうか?
「勝った」
「おう」
決勝はエイミィと雫。どちらが勝っても一高の優勝。どちらもマダラがエンジニアを担当。片方のエンジニアが達也なら最後の最後まで調整したが、それも必要ないだろう。
「じゃ、俺は観客席に戻る」
「…………決勝、応援してくれないの?」
「どっちも応援してるよ」
どっちが勝っても褒めるし慰める。
「今は一先ず、決勝進出おめでとう」
「うん………」
エイミィの方も褒めにいかねえと、とマダラは控え室から去った。その後は、悪いけど優勝を褒める前に自分の試合準備。
「……………? なんか、騒がしい? いや、静かだな」
バトル・ボード男子の部予選会場に向かう途中、一瞬の喧騒が、しかしすぐに消えたのをレオが気付く。
「はやくはやく! ほら、良い席取られちまう!」
「あれは………」
九島烈の連れていたサイキッカーの子供達。『工藤』の姓を名乗る小学生ほどの集団。
「マダラさんの!」
「あ、第一高校の!」
エイミィが笑顔で叫ぶと子供の一人も反応する。確か、最初にマダラに飛びついた子供だ。
「あんたらもマダラの試合見に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」
「いいね〜」
エイミィは乗り気だ。達也達も特に断る理由もない。と………
「ほら、
「ああ…」
子供が振り返り誰かを呼ぶ。必然視線はそちらに向き。時が止まる。
後ろから現れたのは色白で線の細い少年。優しく繊細な顔立ちだが、女子と見間違うことは無いだろう。
この様な表現が可能であるなら、彼は「典型的な美少年」であった。
目を疑うような美少年。彼が一瞬の喧騒の原因であり、静寂の原因。誰もが声を漏らし、時を止める。
「マダラの同級生ですか?」
「あ、ひゃい! あ、明智英美です!」
英美がハッと顔を赤くしたまま叫ぶ。思いがけず出た己の声量に恥ずかしそうに俯く。周りも思い出したかのように自己紹介していく。
「まるで深雪の男の子版だね……こんなに整った顔立ちの子が深雪以外にもいたなんて信じられない」
自己紹介の後、エリカが思わずといったように呟く。それだけ人間離れした美貌を、その少年は持っていた。
「司波達也だ」
「司波深雪です」
そして司波兄妹の自己紹介。その名に
「君達が………」
「? 俺達をご存知で?」
「ああ。まあ、マダラから聞いてます。中学からの友人だと…………改めまして、僕は九島
気のせいでなければマダラの〜、の後をヤケに強調していたような。そんな事を思いながらも差し出された手を取る達也。
「九島………マダラさんって、十師族と繋がりがあったのね」
「まあ、彼奴の父は高名な医者で、研究者でもあるからな」
篠村旭……軍医にして魔法医療の研究をしている研究者。おまけに考古学や天文学にも精通している。と言うより元々考古学者で世界を飛び回り、伝承と天体の関係を調べるために天文学を学び、何を思ったのかある日突然医術を学んだのだ。
その上でサイキッカー。十師族からもお呼びがかかる程の重要人物となっている。
「ええ、篠村さんの付き添いで来ていたマダラは、部屋から窓の外を眺めるだけだった僕の世界を広げてくれて…………」
その記憶を誇るように微笑む
そんな美貌の
「あら、
「お久しぶりです、真由美さん」
先に来ていた真由美は
「来てたのね。見かけなかったから、来ないとばかり。体の調子は大丈夫なの?」
「はい。最近は……来てはいたのですが、ほら、マダラが出るのは新人戦からだし」
つまり本戦にはまるで興味がなく、何なら新人戦もマダラが出るもの以外興味はないと言っているようなものだ。真由美は苦笑した。
生まれつき身体が弱くまともに生活出来なかったとは聞いていた。マダラはそんな自分を連れ出し走らせてくれたとも言っていた。
「お、出てきた」
バトル・ボードの選手達が入場し、その中にマダラもいた。
「そうだ、深雪さん、達也君。これ、マダラ君から」
「マフラー?」
夏なのに、何故?
その疑問はすぐに解けた。
そして試合会場は凍りついた。
スタートが切られると同時に、マダラのボードが僅かに跳ねる。上への移動。他の選手が水を切り進む中、マダラのボードが
その氷がひび割れるほどの踏み込みで加速。マダラが乗るボードが迫る水面が次々凍りついていく。
魔法による事象改変ではなく、冷気の形で顕現した
真夏とは思えぬ冷気が温度差により発生した風に乗る。
「だからマフラーを…………」
「すごく寒いってほどではないけど、肌寒くはあるわね」
真由美経由で渡されたマフラーを巻く深雪。真由美も既に巻いている。
「ありなのか、これ?」
「水面に魔法を行使するのは禁止されていないからな。それに、なかなか良い作戦だ」
水の抵抗のない氷面の加速は水上と比べ物にならず、何なら追い抜いた時点で他選手はボードが凍りついている。
もとより水面移動を前提とした移動魔法は、まあ応用出来るだろうが用意していた妨害は使えない。波も起きなければ渦も発生しない氷結した水路をマダラが独走していく。
「海の七高といえども、まさか凍りついた水上でのレースなんて予想してないだろうからな」
「あれが、サイキッカーか………」
十師族、一条家。一条将輝はその試合を前に表情を引き締める。
篠村マダラは参加選手の中で唯一運営から……より厳密には魔法協会から参加する競技を決められた。それを知るのは十師族の中でも第一高校の十文字や七草…………他校では一条だけ。
その理由は近々『特異なBS魔法師』として公表される、PSYを扱うサイキッカー達への対応の一つ。
念じるだけで物理法則も魔法理論も超えた現象を引き起こす超能力者達。その存在を、魔法師より下と知らしめるためのデモンストレーション。
モノリス・コードではなく、アイス・ピラーズ・ブレイクなのは、一条が最も有利となる競技だから。そこに不満はある。だが、こうして見た篠村マダラの力は破格も破格。
「相手にとって、不足はないな」
だが負ける気は毛頭なかった。
余談だが、後にマダラがある女子生徒と親しいと知った将輝は更にやる気を出すとか。
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