友人が増えた。
西城レオンハルトことレオという大柄な男だ。ハーフとクォーターの息子で日本風の見た目に洋風の名前。
硬化魔法が得意らしい。警察志望。
エリカとは気が合わないようだが、相性はむしろいいほうだろう。
各学年1クラスを担当する男女総合カウンセラーの女性職員という小野遥がその場に、柳沢という男性職員が通信越しに1-Eの生徒達に挨拶し、カリキュラムと施設に関するガイダンスを始めた。
その後は選択科目の履修登録を行いオリエンテーションは終了だ。履修登録が終わっていれば退室していいらしい。
2回目なので先にやっておいたマダラと1人の男子生徒が教室から出ていった。
「これで6度。惜しかったなぁ、服部」
「……………くっ」
「じゃ、今日の昼飯お前の奢りな」
闘技場。
生徒会役員である、優秀であることが証明されている服部刑部と二科生にして落第生篠村マダラの決闘は、今回もマダラの勝利で終わる。
2年、3年はやはりかと落胆しながらも納得していて、1年は驚愕に固まる。深雪と仲の良い生意気な二科生がボロボロにされる姿でも期待したのだろう。
「しっかし、忙しいのに決闘とはなぁ。珍しいな、服部にしては」
「お前の実力を知らしめておかないと、実力不足のまま九校戦に出場する生徒が増えるだろ」
要するに、一科生の1年がマダラに不用意に喧嘩を売って負け、自信喪失、全治数ヶ月、自主退学などで成績上位者ではなく繰り上がりが魔法科高校の対抗戦である九校戦に参加することにならないように、という建前らしい。
半分ぐらいは今度こそ本気で勝ちたかったのだろう。勝つことを諦めている多くの生徒と異なり、服部だけは何時だって今度こそ勝ってやるとマダラに挑むのだ。
「サイキックに魔法師が勝つのは至難だぞ?」
「だとしてもだ。後2年…………必ず」
そう言えば、服部は先に卒業してしまうのか。そうなると遊び相手はその年の1年だけか。
「面白い提案をしよう。お前も落第生にならないか?」
「ならない」
「どうせ2年じゃ俺に勝てねえんだしさあ」
さらに1年あっても負ける気などサラサラないが。
「ま、いいさ。また遊ぼうぜ。達也も交えて」
「誰だ?」
「俺の(勉強の)師匠」
「お前の(戦闘の)師匠だと!?」
「そこまで驚くことか?」
マダラにだって、物を教えてくれる者は居る。何も学ばずに何かを行えるものなど居ないのだから。
「だが、年下だろ?」
「年齢は関係ないだろ」
「それは、そうだが………まさかお前と同じ?」
「いや、達也は間違いなく魔法師だな。
本質は
「そうか…………」
さて、昼になり早速約束を果たしてもらうマダラ。一科生………それも生徒会の服部が二科生と歩いている姿に何の事情も知らない一年生達は困惑の目を向ける。
「お、達也」
「マダラか………」
「達也………この1年が?」
服部の睨むような、探るような視線に達也は首を傾げた。
達也の他にはエリカ、美月、レオの4人。席も四人分だが、詰めれば後2人、小柄な女子を端に置けば、3人ぐらいは何とか座れるだろう。
「マダラ、そいつ誰?」
「…………礼儀のなってない1年だな」
良く言えば距離を感じさせない、悪く言えば遠慮のないレオの態度に眉を顰める服部。エリカも言われてるわね、と笑う。
「服部刑部………不服ながら、篠村の友人だ。座って良いか?」
「俺は構いません」
「わ、私も………」
「あたしも別に」
「おう、ちょっと詰めるな」
と、椅子を少し奥へ引く。服部とマダラは席に座った。と、そこへ………
「お兄様、マダラさん」
深雪だ。後ろにはクラスメイトであろう数人の男女。内女子2名は詰めてもあと一人の机を見て、大人しく引き下がろうとした。が、それは一科生としては珍しい反応だ。
「司波さん、邪魔しちゃ悪いよ」
一番近くの達也の胸を見て、ふん、と見下してから言い放つ。まだ取り繕えたほうだろう。
「ですが、私はお兄様とマダラさんと………」
深雪はクラスメイトとの交流を拒む気はないが、優先順位は達也とマダラが上だ。それを察した男子生徒はムッと顔を歪める。
「司波さん、例え身内でも、この実力主義の学校で、落ちこぼれなんかと付き合っていたら君の品性まで疑われてしまうよ」
「あん?」
レオが睨みつけ、エリカも視線を鋭くする。そしてとうとう
「そこの君、もう食べ終わっているようだから早くどいてくれ」
と、レオに命じる。頼んだのではない、命じた。
「二科は一科のただの『補欠』。授業でも食堂でも一科生が使いたいと言えば席を譲るのは当然だろう?」
難色を示すのは、先の女子二名のみ。他は当然だと言わんばかりの態度。
「実力行使してもいいんだが、学内でCADの使用は禁じられているからな」
「五月蝿え、うぜえ、失せろ」
と、マダラは5枚目のステーキ定食を切り分けながら視線すら向けずに言う。
「なんだと!?」
「聞こえなかったのか? 聞くに耐えねえ、深雪に迷惑かけるな失せろと言ってんだ」
「っ! ウィードの分際で、偉そうに!」
「そうよ! 誰に向かって命令しているの!」
「落ちこぼれが!」
「………………」
服部ははぁ、とため息を吐くと立ち上がる。お前もかと睨みつける一科生達は、しかし背を向けていた彼が生徒会である事に気付き動揺する。
「篠村の言葉遣いが多少過激なのは認めるが、それ以前にお前達、今直ぐやめろ。そもそも
「え、お前が言うのか」
去年散々言ってきたくせに。まあ最後の方はマダラに喧嘩売る時だけだったが。
「は、服部先輩! けれど、彼等は二科生で………!」
「二科生を差別していいという校則は存在しない。彼等はあくまで、個別指導が受けられないだけだ。施設の利用に際して一科生と二科生に優先順位は存在しない」
「おお、去年がなかったらなぁ…………いや、ここは成長したことを喜ぶべきか?」
「頼む、黙れ篠村」
はぁ、と頭を押さえる服部はそのまま1年を見つめる。言葉がなくとも、これ以上文句があるのかと言いたいのは目で分かる。
弱者と認識した相手には強く出れても、相手が自分より立場が上なら何も言えない典型的な差別主義者達はくっ、と忌々しげに達也達を睨み背を向けた。
「あ、あの…………ごめんなさい」
「ごめんなさい」
謝ったのは女子2人。深雪は彼女達に謝罪をしてから、改めて達也達と食事を摂るべく席に座る。
「服部、ステーキ定食3つ追加」
「この野郎! 少しは容赦してもいいだろう。今のやりとり見てなかったのか?」
文句を言いながらも食券を買いに行く服部。深雪は意外そうな視線を彼の背中に送る。
「…………マダラさん、お兄様や私以外にも友人がいたのですね」
綺麗な顔でとても鋭い一言。マダラは別に気にしてないが、相手が相手なら傷ついていたことだろう。
「服部はなあ、俺に喧嘩を売れる数少ない男だ」
「…………喧嘩、出来るのですね」
それはつまり、マダラは服部を壊したり殺したりする対象として見ていないということだ。
マダラの父からの言葉を思い返せば、マダラに友が増えることは良いことなのだろう。だけど自分や兄も知らないマダラの時間を想像すると、深雪は少し胸が苦しくなる。
さて、放課後。
面倒事は続くようで、性懲りも無く昼間の一科生が関わってきた。
「いい加減にしてください! 深雪さんはお兄さんとマダラさんと帰るとおっしゃっているんです。他人が口出すことじゃないでしょう」
達也達と帰ろうとする深雪を見て、最初に達也に難癖をつけたのは1-Aの女子だった。しかし言い合いになれば二科生なんかの正論は受け入れられないと、男子も参加。
「別に深雪さんは、貴方達を邪魔者扱いしていないでしょう? 一緒に帰りたいならついてくればいいじゃないですか。何の権利があって、深雪さんをお兄さんとマダラさんから引き裂こうとするんですか!」
「仲を引き裂くって聞くとあれだな、なんかドラマの婚約を認めてもらえない男女みてえ」
「こ、婚約だなんて、そんな……」
「深雪………」
「顔が赤いぞ、熱か?」
「マダラ……」
達也は名前を呼ぶだけで呆れを表現する。完全に周りを無視しているが、ならば当然周りはそんな三人を置いてヒートアップしていく。
深雪に相談することがある、時間を貸してもらうだけなどと一方的に正論と思い込む言葉を言えば、レオとエリカは自活(自治活動)という予定された時間にやれ、そもそも本人の同意を取れ、高校生になる前に知る当たり前のルールだと正論を言われる。
「うるさい! 他のクラス、ましてやウィード如きが僕達ブルームに口出しするな!」
服部がいないからとても強気だ。服部がいて、引き下がり溜まった鬱憤を晴らそうとしているのだろう。
その暴言に真っ先に反応するのは、やはり美月。
「同じ新入生じゃないですか。貴方達ブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか?」
叫んだ訳ではない。大きな声だった訳でもない。だけど不思議と校庭に響く。達也があらら、と不味いことになったのを感じ取る。
「………どれだけ優れているのか、知りたいなら教えてやるぞ」
「はっ、おもしれえ! 是非とも教えてもらおうじゃねえか!」
最終通牒のつもりかもしれない威嚇に挑戦的に応じるレオ。売り言葉に買い言葉。
道理は美月にあれど、優れた存在である保証に胡座をかく者達は感情的に反発する。ここで明確なルール違反が起きようと、美月達側でないのなら多くの者が見て見ぬふりをするだろう。
「だったら教えてやる!」
抜き放たれるCAD。同時に実行に移される魔法。
それよりも早くレオは動き、更に早く動いていたエリカに気付きレオは慌てて拳を引き………
「なんだ、つまらないな」
それに反応も出来ない男子生徒を見て、刹那の間に確かに呟かれた言葉。マダラはエリカの振るう伸縮警棒を押さえ、何かを投げた。
ほんの一瞬。それでもエリカは確かに見た。
汎ゆる物理法則を無視してスルリと額の皮膚も頭蓋もすり抜け男子生徒の脳内へと沈むクナイを。
「…………あれ?」
発動しかけていた魔法は霧散する。カチカチと何度やっても、今度は魔法の予兆すら起きない。困惑する一科生に気付かず男子生徒の顔はみるみる真っ青に染まる。
「あ、ああ…………ああああああああ!?」
「わ! ど、どうしたのよいきなり!」
「魔法が、そんな……なんで!? 見えない、感じない………
その絶望を理解するのは本人のみ。周りは何が起きているのかさっぱり理解出来ない。ただ、何かしたのだけはエリカは気付いている。
「………何したの?」
「
簡潔に、事実を述べる。
「あー………あれだ。精神干渉系魔法で、演算領域内での演算結果を受け取れないようにした。後
「つまり?」
「? さっきも言ったろ。此奴を魔法師たらしめる機能を奪った。でもサイオン保有量は変わらねえし、脳も遺伝的には魔法師のそれだから種に価値はあるかもな」
ははは、と何でもないことのように笑う。周りの一科生達は、理解出来ない。したくないのだろう。
「……………BS魔法?」
系統外の魔法をCADも用いずにあっさり使うマダラに畏怖の視線が集まり、気にしていないマダラはしかし達也と深雪と目が合う。
「あー……………ごめん、嘘」
「「「は?」」」
項垂れる男子生徒の頭に手を置き、そっと何かを抜き取った。
「ただの領域干渉だよ。干渉力は高いんだ俺。びっくりするだけにしとけ、自信喪失は本当に魔法を失うぞ?」
もう感覚戻ったろ? と、尋ねるマダラに男子生徒はハッと顔を上げCADを向ける。大した戦意にマダラはおお、と感心しながらCADを蹴り飛ばした。
「っ! この、なめやがって!」
「どうせ二科生! 長く続かないでしょ!」
「調子に乗らないで!」
二科生に揶揄われたと判断したのか怒りを顕に叫びだす一科生。そんな連中よりも、後から発動した冷静な女子生徒の方が魔法の構築が早い。
が、術式にサイオンの塊が打ち込まれ事象改変前に術式は霧散した。
「そこまでよ! 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
現れたのは生徒会長の真由美。それから、風紀委員長の渡辺摩利という3年生。
直ぐにでも取り押さえられるよう、起動式の展開は終わっている。
「達也、任せた」
お前な、と呆れながらも達也は一歩前に出て、見事な言い訳をした。
森崎一門のクイックドロウを後学のために見せてもらい、真に迫っていたから反射的に手を出してしまったと。
「お前が?」
「そういうこともある」
他の生徒なら兎も角、マダラとなれば話は別。勘違いなど、この男がするのかと疑いの目を向けるも、証拠はない。
ならばそちらの女子生徒が魔法を使おうとしていたことは、と聞かれれば驚いたからだろうと言い切る。条件反射で起動プロセスを実行できる者も、居なくはない。
魔法も失明しない程度の閃光魔法だった、と言えば驚いていた。それはつまり、起動式と言う膨大なデータを一瞬で解析するということなのだから。
「その程度、マダラにも出来ますよ」
「ん? おお、出来るね。
素面では出来ない。
「時に篠村、余計なことはしてないだろうな?」
「そこの1年が魔法師じゃなくなるとしたら、それは俺のせいじゃなくてそいつの心が弱いからだよ」
結局不問となった。
森崎一門……森崎家本家に連なる森崎駿はお前達を認めないと去っていった。あの様子なら魔法は使えるだろう。
そのまま何故か深雪のクラスメートの光井ほのかと北山雫を交え駅まで歩くことに。
「でもさぁ、干渉力だけで周囲の魔法を使えなくするなんて凄いんだね」
「サイキックだからな」
「ああ、だから試験は苦手なのか」
エリカは納得したように言う。
「それを加味しても、凄いことだと思う」
「そう、そうなんです!」
雫の言葉を深雪が嬉しそうに肯定する。
「マダラさんは、凄いんですよ! 沖縄で出会った時から思ってましたが…………」
「いや、沖縄で出会ったばかりは、お前俺のことどっちかって言うと嫌ってたろ」
「マ、マダラさん!」
思い出させないでください、と頬を赤くする深雪。同性から見てもときめくほど可愛いのに、マダラはケラケラ笑っている。
「…………ぶっちゃけマダラは深雪のことどう思ってんの?」
「エ、エリカ!?」
「柴犬」
慌てる深雪。即答するマダラ。
「しば」
「いぬ?」
なんで?
「え、いや、なんで?」
「会った頃はキャンキャンしてたけど、今は撫でると喜ぶから」
と、深雪の頭に手を置くマダラ。深雪は驚いていたが、直ぐにうっとりと目を細める。深雪がこういう反応をするのは達也とマダラぐらいだ。
他の誰かが見る機会など早々ない深雪の顔は、しかしマダラは微塵も興味ないのか「な?」とだけしか言わない。なんだこいつ。
「人の妹を犬扱いするな」
「達也はドーベルマンって感じだよな」
「人を犬扱いするな」
苦手なのはあくまで探知なので。3つと使えないと『あれ』には至れないからね。