九校戦5日目。新人戦二日目。
アイス・ピラーズ・ブレイクの会場では巨大なロボットアームが1M×1M×2Mの氷柱を並べていく。ああいう光景を見ていると、前世紀のロボットアニメの実現もそう遠くない気がしてくる。
「………効率を無視すれば、だけどね」
「お兄様? 何のことでしょう?」
我ながら子供っぽい空想を否定する言葉が、つい口から出てしまったらしい。
「なあ達也、あれ発展させりゃ巨大人型ロボット作れると思わねえ」
「……………非効率だろ」
「わかってねぇなあ。こういうのは浪漫だ浪漫。それに重量制御、コクピット内の慣性制御に、エネルギー………そういった実現するための魔法を考えるのも楽しいだろ」
「…………否定はしない。装甲は軽量化のために硬化魔法の刻印式に」
「ロケットパンチはあれだ………『小通連』が使えねえ?」
達也が考案し、牛山という技術者が作った武装一体型のCAD。硬化魔法の本質は相対位置の固定。分子に近いレベルで細かく行えば折れず曲がらず硬くなり、パーツごとにやれば一つの物体に固定する。
この相対位置の固定は、繋がっている必要がなく、例えばAとBの物体の距離を離したまま断面相対位置を固定することで『飛ばす』ように『伸ばせる』のだ。アニメの殴ってこれなら戻るロケットパンチを再現可能。
「ロケットじゃないがな」
「それに、手首関節の強度が下がってしまうのでは?」
「浪漫だよ浪漫。実用性なんて二の次だ。安全性を確保してんなら遊びは必要だ」
「安全性の確定には余計な遊びは持たせず機能に注ぎ込むべきだ」
造形美と機能美。話し合えば両者納得どころか互いに互いを褒めるような折衷案で解決するのに、こうして最初は意見の食い違いを起こし言い合う姿を深雪は心の底から可愛いと想い微笑む。
「おはようございます!」
割と早めに来た達也達だったが、アイス・ピラーズ・ブレイク控え室には既にエイミィが来ていた。
「エイミィ、丁度いい。お前も巨大ロボにはロケットパンチがあるといいよな?」
「人型であることが非効率なのはこの際おいて、やはり安全性のために無駄な機能は付けないほうがいいだろ?」
「え? えっと、何の話?」
突然振られた話に困惑するエイミィは助けを求めるように深雪を見る。
「気にしないで。それよりマダラさん、マダラさんも試合があるのだから、済ませられることは済ませてください」
「俺CAD調整しないから時間にゃ余裕あるけど、ま、そうだな」
テキパキと全長50センチの無骨なショットガン型の特化型CADを取り出し外回りをチェックしエイミィに渡す。
実弾銃と違い反動を考慮しなくて良い分軽量化されているとはいえ無骨な見た目に反さない重量のそれをエイミィはウェスタンムービーさながらクルクルと振り回し窓の外に向けピタリと構えた。
そのポーズのままCADに
「どうだ?」
「雫の気持ちが解る」
雫がマダラをお抱えにしようとしているのは1年女子チームでは公然の事実。
「問題は?」
「ない。ばっちり♪」
「……………寝不足か」
笑顔で返したエイミィを暫く見つめ呟くマダラ。達也も気付いていたのか特に反応しない。逆にエイミィはギクリと肩を揺らし気まずげに視線を泳がせる。
「調整する」
「はい………」
渡されたヘッドセット付けたエイミィは「うちの親より鋭いかも」と呟きながらセンサーパッドに両手を置いた。
ディスプレイに映る計測数値を見ながらお、と反応するマダラ。覗いていた達也もふむ、とエイミィを見た。
「もしかしてエイミィも
「もっ、て、司波君も?」
「俺もだよ。だってのに此奴、昨日の夜俺に無理矢理使わせやがった。あれ、気持ち悪いんだよな」
「ワァォ、お仲間。妙なウェーブ出るよね」
意見が合い嬉しそうなエイミィ。達也も同じ意見ではあるが、選手をサポートする裏方として言うべきことは言う。
「気持ち悪いのは俺も同感だ。だが、眠れない時は別の話だ。特に次の日に試合が控えているなら」
「は〜い」
「わーってる」
親に叱られる子供のように小さくなるエイミィ。親に叱られ拗ねる子供のようにそっぽを剥くマダラ。達也は苦笑した。
「とりあえずフィードバックは強めにいくぞ。刺激が強く感じるが我慢しな。寝不足で負けたなんて言われたくないだろ?」
「我慢するからお願い! そんな事になったら、皆のおもちゃにされちゃうよ」
台詞だけなら大した意味はないが、頬を赤らめキュロットの上から微妙な辺りを手で押さえる姿を見て達也は一秒間固まる。
「疑うようなことは言いたくないが、深雪………お前達は部屋で何をしてるんだ?」
「い、いやですね、お兄様。深雪はやましいことなど何もしておりませんよ!」
「まあ歳頃だしな。いんじゃね、同性ならうっかり拵えちまうことも無いだろうし」
「マダラさん! 生々しい話はやめてください! エイミィ、お二人の前で変なこと言わないで!」
「変な事と同性言えば、達也さんとマダラさんも噂になってるよ」
「「……………は?」」
「お兄様と、マダラさんが!? そ、そんなことありえません! 確かに仲が良く………いや、でももしそんな………」
何を想像したのか顔を真っ赤にする深雪。達也とマダラは酷く疲れた顔をする。
「どうするよ達也。暫く深雪を間に挟むか?」
「深雪を噂避けに使うんじゃない」
「お、お二人の間に?」
達也が深雪を背後から優しく抱き締め、そんな深雪の顎を掴み自分以外見れないようにするマダラを想像し先程以上に赤くなる深雪。
「深雪はダメか? つってもなぁ、他に頼めそうなの………リンちゃんは今彼氏いるんだったか。長続きしねえけど」
「そのリンちゃんとはどなたでしょう? 交際関係も把握しているとは、ずいぶん仲がよろしいのですね」
「? 何言ってんだ。お前も知ってんだろ?」
「え?」
「……………市原先輩か?」
達也の言葉に、初対面時に真由美が
「私、噂消すの立候補しよーか?」
「エイミィ!?」
「何時か好きな奴出来た時に困るだろ」
「市原先輩も同じなのでは?」
「リンちゃんは好きな相手出来たら普通に相手に『偽装交際です。私が好きなのは貴方ですから』って真顔で言えるだろうし」
司波兄妹は想像してみる。直ぐに音声付きで再生出来た。
「というか何故市原先輩をリンちゃんと………」
「? 真由美がそう紹介して、本人も特に断らなかったし」
「そういえばマダラ、私が頼んだら直ぐにエイミィって呼んでくれたね」
エイミィも納得。
「……深雪。マダラはお前のことも直ぐに名前で呼んでくれただろう?」
同じ苗字の自分がいたからだけど。とは付けたさない。
「中条先輩は?」
「? あずさ」
言うまでもなく元同級生。クラスこそ違うがマダラが先輩エンジニア達の自尊心をバッキバキに折ったせいで五十里啓と並んで去年の九校戦エンジニアとして一年で活躍した一人だ。その際仲良くなった。
「ま、それはそれとして試合終わったら仮眠取りな。『カプセル』の手配してやるよ」
「私が手配しておきますね」
完全防音・防振・遮光の感覚遮断カプセルを借りるべく深雪が控え室から出ていく。マダラはCADの微調整を始めた。
アイス・ピラーズ・ブレイクは高さ4メートルの櫓の上から十二メートル四方の自陣、敵陣に並んだ氷柱を砕くか守るかして、制限時間後の残りの氷柱の数で勝つか、時間前に相手の氷柱を破壊するかで勝敗を決める。
そのため服装は動きに影響しないので、公序良俗に反さない限りは自由がゆるされている。
その結果必然的なのか、女子のピラーズ・ブレイクは何時しかファッション・ショーの様相を呈していた。因みに男子も自由だが大体高校の制服。
エイミィは白のハイネックシャツに赤のライディングジャケット、白い細身のキュロットに黒のブーツと乗馬服スタイルだ。
「気合入る格好って事だが………ま、確かに活動的なエイミィらしい」
マダラの持論では魔法に一番必要なのは『確信』なので、『この服装なら気合が入る』という服を着るのは「あり」だ。
「けどマダラ君昨日、勝つ気がない奴は勝てないって言ってなかった?」
「負けても次こそ勝つって諦めねえなら何時かはな。流石に猫のまま獅子に勝てなんて言わねえよ」
だが勝つ気があるのなら、そいつは何時か絶対に獅子の喉元に喰らいつける猛獣に成長する。
「ところで乗馬服とかわかるけどあの明らかなコスプレ用ナース服はなんだ?」
「気合が入るんだろ」
「あんな見るからにやっすい生地使ってる、鈍器ホーディで売ってそうなナース服で出るやる気ってなんだよ」
試合そっちのけでファッション・ショーしたいだけじゃないの? 明らかに入場の歓声に対してドヤ顔だし。
「因みに明智さんにはどんな作戦を提案したの?」
「やられる前にやれ」
「『やられる前にやれ?』」
どういう意味かと尋ねようとすると、試合開始のブザーが鳴る。
「Yippie-ki-yay!!」
エイミィがCADを起動させ魔法を発動する。
倒れる
「つまり自陣の氷柱使った砲撃魔法だ」
「わぉ、大胆」
事前に情報強化してから攻撃に移ろうとしていた相手選手が狼狽える。
情報強化はあくまで
ならばとエイミィの氷柱を破壊にかかる相手選手。一本破壊され、続いて二本目に魔法を発動した瞬間再びエイミィの氷柱が転がり氷柱を砕く。
「お、硬化魔法に切り替えたみたいだぜ」
得意魔法なだけあり相手選手が氷を硬化したことに気付くレオ。
「物理的な強度を上げようってか。発想は悪くないな。実力が伴えば」
魔法師の事象改変は改変内容が大きい程に負荷がかかる。あの質量同士のぶつかり合い。その衝撃による変形、破損を耐えようとすれば、相応の負荷となる。
二発目で明らかな疲労が見え、三発目で砕かれた。その後は目に見えて魔法行使の質が下がる。それでもエイミィの氷柱を破壊しようと抵抗するも、先に壊され過ぎた。差を埋められず、開いていく。
最終的にエイミィが自陣に3本残して相手の氷柱全てを破壊した。
さて、男子アイス・ピラーズ・ブレイクだが、マダラはふと時計を見る。そろそろ深雪の試合も始まるか。あまり時間をかけると拗ねるな。
「おお!!」
まずは情報強化。
「プログラム入力。5秒後自壊」
たったそれだけを入力された
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